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143話 私、ピンチです。 2

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【ヤッタンダゾ! ミタ?】


 ケルは尾を振り、嬉しそうに双子の姉妹の方を振り向きながら報告をした。ロモンとリンネは本当に驚いた表情で、ケルの頭を撫でる。


【すごいよケル! ゴロゴの魔法を使えるようになってたんだね!】
【いつの間に覚えたの? ぼく達が王都に行く時はまだ使えてなかったよね?】


 そう聞かれたケルは自慢気な顔をして二人に答える。


【ミンナ ノ マホウ ノ トックン ヲ オイラハズットミタンダゾ! ソウシタラ デンキダケ ダスコトガデキタンダゾ! フタリガイナクナッテカラダケド!】
【えらーい!】
【エッヘンナンダゾ! ズット、キモチヨクネテタワケジャナインダゾ!】


 撫でてくれていた手をケルは舐めた。
 舐められた手を、くすぐったいと言ってリンネは微笑みながら引っ込める。


【オイラハ…オイラハ…ツヨク ナラナキャ イケナインダゾ! アノトキ、アノトキ、ロモン ヲ マモレナカッタ。ソウナラナイヨウ二】


 かわいいがとても真剣な表情でケルはロマンを見据えた。ロモンはそれが嬉しくて、思わずニッコリしてしまう。


【うん…ありがとう!】
【ロモン ノ トコロニキタラ、コノムレデ オス ナノハ 、オイラダケ二 ナルンダゾ! オンナノコ ヲ マモルノハ、オトコダッテキマッテルンダゾ!】


 アイリスまで守るつもりでいるケルは、覚悟を決めたようにそう言った。


【ケルー…!】
【ゾ!】


 ケルはロモンによって抱き上げられた。
 抱かれるのが好きなケルは全く抵抗しない。
 ロモンがケルの身体をその細い腕で包み込み、きちんと抱く体制ができたところで。

 グゥ~
 と、誰かのお腹の音が鳴った。


【ゾ…! ゴメンナサイ、オイラナンダゾ!】
【そういえばお昼ご飯まだだね!】
【アイリスちゃんにお弁当作って貰えば良かったね】


 いい天気なのに、と少し残念そうにリンネはいう。
 

【まあいいや! 仲魔も入れるお店探してそこで食べよう!】
【それがいいね。そういえばいつのまにか王都の南口まで来てたんだ。どこかいいお店あったかな?】
【オイラ、オソトガ ウレシクテ ハシリスギタンダゾ!】


 低級の魔物を追いかけ回し、走りに走った2人と1匹は普段出入りしている入り口とは別の方向に来てしまっていた。そんなことは別に大きなことではないので、そのまま王都内に入り良い店を探した。


◆◆◆


【オニク オイシカッタンダゾ! ソレニシテモ フタリトモ アイカワラズ イイタベップリナンダゾ!】
【今日はそれなりに控えめだよ】
【うんうん、チキンステーキ3皿とパン半斤食べただけだからね】

 
 そんな大食いで店内を賑わせた二人は、まだまだ胃袋に余裕がある。


【オイラハ オナカ ポンポン ナンダゾ! ……ゾ?】


 何かに気がついたようにケルは建物が密集している地帯を見つめる。


【……コレハナンノ ニオイナンダゾ?】
【どうしたの?】
【ナンカ、オカシナ ニオイガ スルンダゾ】


 鼻をすんすんと動かし、ケルはその謎の匂いを可能とし続ける。しばらく嗅いだと思ったら、また首をかしげた。


【……サカナ ノ ニオイ?】
【え? ここは海じゃないよ?】
【ウミ…? カハ、ワカラナイケレド、トニカク、サカナクサインダゾ】
【私たちにはわからないよね?】
【うん】


 これが犬の魔物の嗅覚かと二人は感心した。
 しかしそれよりも気になるのが、ケルが不思議がっているにおいだ。


【ケル、お魚屋さんのにおいじゃない?】
【チガウ、チガウンダゾ。オサカナヤサン ノ オサカハ シンデルンダゾ。コレハ…シンセン? ッテ コトバ ガ タダシイ ノカゾ?】
 

 ケルはそのにおいがするであろう報告に地面を嗅ぎながら向かって行く。ロモンとリンネもその正体が気になるため、行為を止めずにただ後ろをついていった。


【………ゾ!?】


 驚いたように突然足を止めるケル。


【どうしたの?】
【シンセン ナ ニオイノナカ 二 アイリス ノ ニンゲン ノ トキノ ニオイガ スルンダゾ!】
【えっ!?】


 ケルはさらににおいを嗅ぎつづけるかのように見えたが、それを中断し、唐突に走り出した。


【ど、どうしたのケル!?】


 スピードで追いつくリンネが、ケルの進行を妨げてから問う。


【アブナインダゾ! アイリス ガ オボレソウナンダゾ!  タスケナキャナンダゾ!】
「溺れそう? アイリスちゃん…が? わかった、とりあえず行こう」
「はぁ…はぁ…うん、行こう!」


 2人はケルが慌てて向かう方向に、後ろからついていった。


◆◆◆


「そういえばキスがまだじゃないか」


 私の胸を弄っていた途中でそんなこと言い出す。


「うんうん、まずはキスだね」


 私はただ黙った。今、痛みだけなら回復して来てるのに、変なこと言って腹を殴られ、チャンスを無駄にしてしまっては意味がない。耐えるんだ、私。
 あと数秒…!


「……アイリスちゃん、ファーストキスは済ませたかい?」
「ま……だ……」

 
 とりあえず、まだ喋りにくという演技だけはしておく。
 …もしかしたらファーストキスを奪われるのに間に合わないかもしれない。好きな人とキスしたかった…こんな無駄に強い強姦魔じゃなくて。
 こいつがこんな人だなんて知ってたら、無視を決め込んだのに。
 ……ん? 
 そういえば私、ロモンちゃんとリンネちゃんとキスしてたか。それがファーストキスだったってことにしておいて……はぁ…。


「じゃあ…いただくよ」


 私の顎を乱暴に持ち上げ、顔を近づけてくる。
 少なくともイケメンであるとは思っていたこの顔が、今はただただにくい。そして怖い。怖くてたまらない。
 

「ハァ…ハァ……」

 
 数センチ。
 あと数センチで奪われる。
 荒すぎる獣の息遣いが不快。
 …でも、なんとか間に合ったわね。脱出する準備が完成したわ。
 ひとまず私はこの獣の足に、私の足を軽く引っ掛けた。
 顔を途中で止めて、ニヤリと笑ってくる。


「その気になったのかい? 俺としては嫌がって泣き叫んでくれた方が万々歳なんだけど。ああ、いいこと教えてあげよう。君がこの先、どうなるかだけど__________」


 ボン_____。
 なにか変態的なこと言おうとしたのでしょう。
 そんな油断した瞬間に、私は自分の手首の周りを爆発させた。


「おわっ!?」


 思わず相手は拘束していた手を離す。
 さらに驚いてよろけてくれるから、私はとっさに腕を掴み、絡ませておいた足で払い、転ばせた。
 さすがの防御力でも体制を崩せたら転ばせられる。
 その間に私は急いでうしろに下がり、とりあえず回復魔法をかける。……危なかったわね。
 よかった、キスを奪われなくて。


「くくく…やるねぇ。うまいうまい。俺が硬いからこう…重さを利用して転ばせるみたいな技をかけたんでしょ? さすがはアイリスちゃんだ」


 相手が起き上がっている最中に、私はできる限りの補助魔法をかけておく。
 これでいつでも逃げられるわ。
 逃げたらまずお城にかけこんで__________


「まあでも良くやったよ」
「え?」


 相手は即座に立ち上がり、飛び蹴りをしてくる。
 だけど私なら回避できなくはない。とりあえず横にいなして_____。


「はい捕まえた」
「!?」


 そう、いなせるはずだった。
 でも気がついたら私はよくわからない赤い甲類みたいなものに下着を引っ掛け、掴まれていた。


「さてと」

 
 …ボディブロー。
 私の骨が折れる音がした。


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