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130話 梨と手紙でございますか?

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「荷物重過ぎて持ち上げられなかったから、こっちにおいてありますよ。来てください」
「承知しました」


 言われた通りに女将さんについて行ゆくと、この宿屋のロビーに一つの木箱が。


「アイリスさん持てますか?」
「えーっと、おそらく大丈夫です。元ゴーレムですので」


 ちょっとそれを持ち上げて見る。
 重い…私みたいな女の子には無理ね。
 というわけで私はゴーレムに戻り、その木箱を持ち上げた。そういえばスペーカウの袋に入れてけば良かったんじゃないかと少し後悔してみるけど、遅いわよね。

 女将さんに再度軽くお礼を述べてから、私はそれを私たちの部屋へと運んだの。


「なんだった? …木箱?」


 ロモンちゃんとリンネちゃんがこちらに寄ってきた。入り口近くに木箱を置く。そしてすぐ人間の姿に戻るの。


「開けますか」
「そだね」


 木箱にしてある封を外し、蓋を取る。
 …中見は梨。梨、とにかく梨。
 さらにはお手紙もいくつか入ってるみたいだ。


「わぁ…これおじいちゃん…ううん、村のみんなからだよ!」

 
 まずお手紙を手に取ったロモンちゃんがそう言う。
 ははぁーん、村の皆さんからの贈り物でしたか。


「沢山梨が入ってるー!」


 おそらくこの二人が大食いであることを知っており、それを見越しての量なんだろう。
 はっきり言って女の子3人に送る量ではない。


「1個食べていいかな?」
「私も食べる!」
「では私も一つ。…お剥きしますか?」
「「そのままでいいよ」」


 二人は梨をそれはもう美味しそうにかぶりつくの。
 あの村にいたころはよく食べていたであろう梨も、今じゃあ数ヶ月ぶりなのよね。


「やっぱり美味しいねー!」
「うちの村の梨はサイコーだよねー!」


 一瞬で食べ終わった二人は口の周りについた果汁を拭き取りながら笑いあってる。
 私もそんな光景を見ながらかぶりつくの。
 ……ん、甘い。
 味だけだったらゴーレムの時にもなぜか感じることができたけど、今回は私自身人間だから食感まで感じ取ることができる。
 みずみずしくて、甘ったるいくらいに甘くて、とっても美味しい。


「おじいちゃんからのお手紙だ」


 先に食べ終わってる二人は手紙を読み始めた。
 互いに頬をくっつけあって、体を寄せて読んでいる。


「村に変わったことはない…たまには遊びに来て…だって」
「ゴブリンが来てから何もないんだね、よかった! それにしても遊びにこい、ねぇ」
 

 あの村を出てから一度も村に帰ってない。
 数ヶ月くらい経っちゃってるんだよね。


「どうする? 一旦帰ってみよっか?」
「そんな暇…はあるね。旅費も十分ある」


 暇も旅費ももう心配ないくらいあるもんね。
 手紙を掴みながら、ロモンちゃんは私に声をかけてきた。
 

「アイリスちゃんどうする?」
「私ですか? 私は帰ってみてもいいと思ってます」


 この姿をあの元魔物使いだか、魔物研究家だか実はあまりよく個人的にわかってないおじいさんに、この姿を見てもらいたいからね。
 お母さん曰く、ゴーレムの半魔半人は研究価値が高いらしいけどね。なにせ私しかいないから。


「……だよね! よし帰っちゃおう!」
「こういうのなんて言うんだっけ?」
「帰郷ですね」
 

 そう言うわけで、私たちは村に帰ることに________


「あ、待って。帰るのはいいけど転移魔法陣置いてかない? いつでも行き来できるようにさ」


 リンネちゃんがそんな提案をし始めた。


「そうだね。私たち三人いるから、誰か一人があの村に魔法陣をおけばいつでも帰ってこれるね!」


 確かにそうだ。
 おそらくお父さんとお母さんもそうしてるだろう。
 転移魔法陣は本当に便利だね、問題なのは冒険者や都会の商人くらいにしか出回ってないことだけど。
 ……あ、そういえば。


「あの、この前、冒険者の店店内の道具屋で転移魔法陣の高価なものが売られてたんです」


 私は思い出したことを語った。


「…普通の転移魔法陣は2箇所にしか貼り付けられませんが、それはなんと4箇所に貼り付けられるという代物だったんですよ。……かなり高価ですがどうします?」


 なにしろこれは商人にとっては必需品なのだそうだ。
 でも今の私達になら全然手が届くものだろう。


「ああ、聞いたことある! とっても高いんだよね」
「でも今のぼく達なら買えるよね……買っちゃおっか」


◆◆◆


「確かに高かったね……」


 とてもじゃないけど億万長者になる前は高すぎて買えなかった高級転移魔法陣、『転移二式』。
 これが今私達の手の中にある。


「でもこれでいつでも村に戻れるようになるね!」
「誰が持ってることにする?」


 転移魔法陣を使えるのは一人2枚セット組だけだものね普通は。それ以上になると魔法陣の中の魔力が暴走するとかなんとか。
 でも今回買ったものは4箇所置ける……つまり一番よく移動しそうな人がいい。


「一番年上ですし、このパーティのリーダでもあるリンネちゃんが4枚持っちゃってください」


 そう、リンネちゃんだ。
 素早さが高いから、何か緊急事態にみんなを引き連れて戻れるようなその移動力がある。
 そもそも私達は離れ離れで動くことなんてないから、正直言ってしまうと誰でもいいんだけどね。


「えっ、ぼく!?」
「それがいいよお姉ちゃん!」
「わ、わかったそれじゃあ」


 買ってきたばかりの転移魔法陣を、リンネちゃんは自分が所持していることにした。
 

「それで馬車の予約は取ったの?」
「ええ、ついさっきとりました。明日の午前11時ごろに出発です!」

 
 あの村からここまで約1~2日かかる。
 その馬車をなんとかとることができた。
 魔法陣なんかできてしまったこのご時世、馬車はすこし衰退してるみたいだから便数がすくないの。


「じゃあ明日、里帰りしよ!」
「おー!」
「オーです!」

 
 私達は明日のために準備を始めた。
 といってもスペーカウの袋さえあればもう準備なんて終わったも同然だから、主にお弁当を用意するの。
 そうしてこの日は終わった。


◆◆◆


「いい天気だねっ」
「ねーっ」


 可愛い双子が馬車乗り場にて同時に背伸びをする。
 二人の言う通り本当にいい天気で、旅行日和って感じ!
 こういう旅行みたいなのも、お金がある今はちょくちょくしてもいいかもしれない。


「あの馬車だね!」
「アイリスちゃん、乗ろっ!」
「はい」


 私達3人は規定された馬車に乗り込む。
 三人用の馬車だから、中はそこまで広くないけれどなかなか快適そう。


「それでは出発しますよー」


 乗り込んでから10分後、御手さんがそう声をかけてくれる。そうして、帰るための馬車が発車し始めたの。
 

「さ、さ、アイリスちゃん、ちっちゃくなってよ」
「ぎゅーってするの!」


 ワクワクしながらそういう二人のために、私は一番幼い姿になった。この姿になるなり二人は撫でてくれたり頬ずりしてきたり、抱きしめたりしてくれる。
 旅の移動時間をこうやって潰して行くつもりなのね。

 それにしても私の姿をまたみんなはなんて言うかしら。
 前々から連絡の手紙で半魔半人化したこたは伝えてあるけどね。ドッキリも好きだしその反応が楽しみでもあるわ。
 
 私は顕著に感じる二人の柔らかさと温もりに包まれながら、内心ワクワクしてそのまま過ごしている。
 

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