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346話 魔王の隠された力でございます!
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「……とにかく、貴様らの手の中に賢者の石があることは確かだ」
急に魔王が落ち着き払った様子となった。ロモンちゃんとリンネちゃんが勇者と同じ力を有していると判明したにも関わらず。
先程までの魔王は事あるごとに慌てふためいていたはずだけれど……なにか策があるのかしら。さらに不利な状況だと判明したから開き直ってるようにも見えない。
「この中の何人かが、我についてよく知っているようだがそれは全てではない。なぜなら我はそこにいるアンデットとの戦いにて、力を余すことなく使ったわけではないからだ。まだ人間共には見せていない力がある」
「なんだって……?」
初めてナイトさんが私達の前で眉をしかめた。
たしかに魔王が遥か昔から隠し続けている力があるのだとすれば、私達に知る術はない。残ってる文献もすべてナイトさんの体験談などから書かれているもの。
追い詰められているとはいえ、魔王は魔王。その未知の力の程度によっては十分にここから巻き返される可能性がある。しかも賢者の石の話が出てから自身の力について供述し始めたということは、おそらく私のソレが関係する力なのでしょう。
【アイリスちゃん、なにかやってくる!?】
【なっ……】
ロモンちゃんが私の中でそう叫んだのと同時に、私の足元から黒い煙が登ってきていた。そして私にまとわりつこうとしている。他の皆には見向きもしていない。
魔法陣も予備動作もない謎の現象。となると魔王が今言っていた力の一旦であることはたしか。
大きく後ろに飛んで回避を試みる。しかし無意味に終わった。地面から出ているのではなく、本当に私自身から発せられている代物のようだ。
「回避など意味をなさない! その力は何かを傷つけるための力ではないからだ! 故にガッ」
魔王は喋っている最中にお父さんによって地面に顔面から叩きつけられた。魔法だったら今ので発動を抑えられている。ただやはりというべきか、私にまとわりつく黒い煙は消えようとしない。
「だめか。私の娘からあのよくわからんものをさっさと取り除け」
「ふん、魔物を娘とのたまうとは変わった人間も居たものだ。あの力はゴーレムの小娘に向かって放たれたものではない。賢者の石に直接、たたき込んだものだ!」
「賢者の石に直接……!?」
それも、つまるところ私自身なのだけれど……。さすがの推理力を見せた魔王も私が賢者の石ってことにはまだ気がついていないみたい。
私の本体に取り憑く技なら、私の思考とかに何かしら影響があっていいものだけど、まだ黒い煙以外の何かが現れている様子はない。
魔王は全身に黒い稲妻のようなものを纏うと、それを放電しながらお父さんの下から加速しつつ離れ、その先で満足げに笑みを浮かべた。
「貴様ら、我の力……魔物を支配下に置き、強化する力。この力が魔物のみを対象にしている訳ではないということを知らないだろう……?」
【はっ……! もしかして、物も対象にできるのかゾ!? 魔王軍幹部に各々の特性とあったアーティファクトが都合よく支給されていたように、道具を自由自在に強化し、支配下に置くことができる……!】
「あ、ああ! その通りだ。……全部、喋られたな」
どうやらケルくんの言った通りらしい。アイテムを自由自在にアーティファクトにできるなんて、なんて恐ろしい力。もしかしたらこのダンジョン自体もその力で改造したのかもしれない。
となると、私の、というか私自身もあの魔王によって改造されてしまうのかしら。この黒い煙で……!
「そ、それじゃあ……! アイリスちゃんっ……!」
リンネちゃんが私の元に瞬時に移動してきて、黒い煙を払おうとした。煙は多少なびきはするけれど、ほとんどリンネちゃんによる影響を受けていないように見える。
「そんな、どうしよう……! ロモン、内側からなんとかできない?」
【できないよ……。でもなんだか大丈夫な気がするの、お姉ちゃん】
「ふぇ?」
【なにより、私よりはっきりと未来を見れるガーベラさんが動き出してないし】
たしかにロモンちゃんの言う通り。私の意識は未だにしっかりしてるし、ロモンちゃんに影響は出てないし、ガーベラさんは私のことを心配そうな目で見てはいるけれど依然と魔王との対峙を優先させたまま。
「おかしいな、そろそろ効果が出始めてもいい頃だ。賢者の石は魔王と勇者の所有物として生み出されしもの。故に勇者自身が所有していない以上、我が力は及ぶはずだが……?」
どうやら魔王にとっても想定していない自体の様子。
しばらくしてから、何かわかったのかケルくんが念話を送ってきた。その対象は魔王以外の全員。
【わかったゾ! 推測に過ぎないけど聞いて欲しいゾ。魔王の道具を支配下におく能力と、魔物を支配下に置く能力とやらは人の所有物にまでは手が出せないんだゾ。現にオイラたちを魔王は支配下に置こうとしていないゾ。そして今、賢者の石はガーベラでも魔王のものでもなくアイリスのもの。いや、モノというよりアイリス自身。だから魔王の技の影響を受けないんだゾ】
「ふむ、それが一番しっくりくるのぉ」
なるほど、たしかに私は私。賢者の石は私の所有物ってことになる。前の戦いでこの力を披露していないのは、単純に前の賢者の石は魔王と対峙する前に既にナイトさんが所持していたのでしょう。
あれ、でも私はガーベラさんの彼女だから本当の賢者の石の所有者は……? いや、それとこれとは別ね。ええ別ですとも。
「我が力が発現だけはしている以上、賢者の石をゴーレムが持っていることは確実……! なぜだ、なぜ何の反応もない! かくなる上は力ずくで……!」
「俺達全員を相手にしながらアイリスから力尽くで石を奪う。そんなことが可能な未来は俺には見えていない。見えているのは、俺達の勝利のみ」
「ほざけっ……」
魔王がどこからともなく大量の武器を取り出した。おそらくはすべて自作のアーティファクト。一本一本、強大な力を感じる。
それらは全て一人でに宙に浮き魔王の後ろに着いた。魔王が右手に元々握っていた剣を振ると、それらのアーティファクトは全て同じ動きをとる。
「賢者の石が入手不可となれば、出し惜しみしている余裕などない。もう遊びは終わりだ」
魔王は手に握っている剣に力を込めた。そして、上に大きく掲げる。振り下ろせば確実に斬撃が飛んでくることは明白。無論、後ろにある全てのアーティファクトの数だけ。
「滅ぶが良……」
「残念だけど、そうはいかないよ!」
いつのまにか私の近くからリンネちゃんが消えていた。次に現れたのは、魔王の手元。自身の剣をぶつけ、振り下ろしを未然に防いでいた。本体のきちんとした動作が為されなかったため、無論後方の武器による一斉攻撃も不発。
「また貴様か! 小癪な!」
「おっと」
魔王が左手でリンネちゃんに殴りかかろうとする。しかし並程度の速さの攻撃が彼女に当たるはずもなく、簡単に回避されてしまった。
かなりの威力を込めた一撃だったのか、魔王が軽く体勢を崩す。その瞬間に光の線が3本ずつ、魔王の鳩尾、胸部、左手腕を打ち抜いた。
「ぐっお……」
「心臓を狙った物だけ防がれたか」
「ちぃ、まさかこの我が勇者から気を逸らされるとは……。やはりまずは貴様からだ!」
魔王が再び動こうとする。
「ぬっ……今度は誰だ!」
しかしその初動は、今度はタイガーアイさんの矢によって弾かれた。
それ以降、魔王が動こうとするたびにその出頭を誰かが抑え、十分な動きができないようにした。
「こ、小癪な……小癪なッ……!」
「魔王、君が復活するまでの間にただ力任せに攻撃するだけの時代は終わったんだ。わかりやすい話、時代遅れなんだよ君の戦闘スタイルは。長く眠りすぎた」
「貴様のせいだろうが先代勇者ァ!!」
さて、私もそろそろいいかしら。魔王が賢者の石を諦めてから私とロモンちゃんで以心伝心な相談をして、みんなが奮闘している間にとびっきりの一撃を用意した。
これが決まれば……勝てる。
#####
次の投稿は8/31の予定です。
今週も何とか投稿できました!
先週より1時間、執筆を早めることができましたよ。
急に魔王が落ち着き払った様子となった。ロモンちゃんとリンネちゃんが勇者と同じ力を有していると判明したにも関わらず。
先程までの魔王は事あるごとに慌てふためいていたはずだけれど……なにか策があるのかしら。さらに不利な状況だと判明したから開き直ってるようにも見えない。
「この中の何人かが、我についてよく知っているようだがそれは全てではない。なぜなら我はそこにいるアンデットとの戦いにて、力を余すことなく使ったわけではないからだ。まだ人間共には見せていない力がある」
「なんだって……?」
初めてナイトさんが私達の前で眉をしかめた。
たしかに魔王が遥か昔から隠し続けている力があるのだとすれば、私達に知る術はない。残ってる文献もすべてナイトさんの体験談などから書かれているもの。
追い詰められているとはいえ、魔王は魔王。その未知の力の程度によっては十分にここから巻き返される可能性がある。しかも賢者の石の話が出てから自身の力について供述し始めたということは、おそらく私のソレが関係する力なのでしょう。
【アイリスちゃん、なにかやってくる!?】
【なっ……】
ロモンちゃんが私の中でそう叫んだのと同時に、私の足元から黒い煙が登ってきていた。そして私にまとわりつこうとしている。他の皆には見向きもしていない。
魔法陣も予備動作もない謎の現象。となると魔王が今言っていた力の一旦であることはたしか。
大きく後ろに飛んで回避を試みる。しかし無意味に終わった。地面から出ているのではなく、本当に私自身から発せられている代物のようだ。
「回避など意味をなさない! その力は何かを傷つけるための力ではないからだ! 故にガッ」
魔王は喋っている最中にお父さんによって地面に顔面から叩きつけられた。魔法だったら今ので発動を抑えられている。ただやはりというべきか、私にまとわりつく黒い煙は消えようとしない。
「だめか。私の娘からあのよくわからんものをさっさと取り除け」
「ふん、魔物を娘とのたまうとは変わった人間も居たものだ。あの力はゴーレムの小娘に向かって放たれたものではない。賢者の石に直接、たたき込んだものだ!」
「賢者の石に直接……!?」
それも、つまるところ私自身なのだけれど……。さすがの推理力を見せた魔王も私が賢者の石ってことにはまだ気がついていないみたい。
私の本体に取り憑く技なら、私の思考とかに何かしら影響があっていいものだけど、まだ黒い煙以外の何かが現れている様子はない。
魔王は全身に黒い稲妻のようなものを纏うと、それを放電しながらお父さんの下から加速しつつ離れ、その先で満足げに笑みを浮かべた。
「貴様ら、我の力……魔物を支配下に置き、強化する力。この力が魔物のみを対象にしている訳ではないということを知らないだろう……?」
【はっ……! もしかして、物も対象にできるのかゾ!? 魔王軍幹部に各々の特性とあったアーティファクトが都合よく支給されていたように、道具を自由自在に強化し、支配下に置くことができる……!】
「あ、ああ! その通りだ。……全部、喋られたな」
どうやらケルくんの言った通りらしい。アイテムを自由自在にアーティファクトにできるなんて、なんて恐ろしい力。もしかしたらこのダンジョン自体もその力で改造したのかもしれない。
となると、私の、というか私自身もあの魔王によって改造されてしまうのかしら。この黒い煙で……!
「そ、それじゃあ……! アイリスちゃんっ……!」
リンネちゃんが私の元に瞬時に移動してきて、黒い煙を払おうとした。煙は多少なびきはするけれど、ほとんどリンネちゃんによる影響を受けていないように見える。
「そんな、どうしよう……! ロモン、内側からなんとかできない?」
【できないよ……。でもなんだか大丈夫な気がするの、お姉ちゃん】
「ふぇ?」
【なにより、私よりはっきりと未来を見れるガーベラさんが動き出してないし】
たしかにロモンちゃんの言う通り。私の意識は未だにしっかりしてるし、ロモンちゃんに影響は出てないし、ガーベラさんは私のことを心配そうな目で見てはいるけれど依然と魔王との対峙を優先させたまま。
「おかしいな、そろそろ効果が出始めてもいい頃だ。賢者の石は魔王と勇者の所有物として生み出されしもの。故に勇者自身が所有していない以上、我が力は及ぶはずだが……?」
どうやら魔王にとっても想定していない自体の様子。
しばらくしてから、何かわかったのかケルくんが念話を送ってきた。その対象は魔王以外の全員。
【わかったゾ! 推測に過ぎないけど聞いて欲しいゾ。魔王の道具を支配下におく能力と、魔物を支配下に置く能力とやらは人の所有物にまでは手が出せないんだゾ。現にオイラたちを魔王は支配下に置こうとしていないゾ。そして今、賢者の石はガーベラでも魔王のものでもなくアイリスのもの。いや、モノというよりアイリス自身。だから魔王の技の影響を受けないんだゾ】
「ふむ、それが一番しっくりくるのぉ」
なるほど、たしかに私は私。賢者の石は私の所有物ってことになる。前の戦いでこの力を披露していないのは、単純に前の賢者の石は魔王と対峙する前に既にナイトさんが所持していたのでしょう。
あれ、でも私はガーベラさんの彼女だから本当の賢者の石の所有者は……? いや、それとこれとは別ね。ええ別ですとも。
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「滅ぶが良……」
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いつのまにか私の近くからリンネちゃんが消えていた。次に現れたのは、魔王の手元。自身の剣をぶつけ、振り下ろしを未然に防いでいた。本体のきちんとした動作が為されなかったため、無論後方の武器による一斉攻撃も不発。
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「おっと」
魔王が左手でリンネちゃんに殴りかかろうとする。しかし並程度の速さの攻撃が彼女に当たるはずもなく、簡単に回避されてしまった。
かなりの威力を込めた一撃だったのか、魔王が軽く体勢を崩す。その瞬間に光の線が3本ずつ、魔王の鳩尾、胸部、左手腕を打ち抜いた。
「ぐっお……」
「心臓を狙った物だけ防がれたか」
「ちぃ、まさかこの我が勇者から気を逸らされるとは……。やはりまずは貴様からだ!」
魔王が再び動こうとする。
「ぬっ……今度は誰だ!」
しかしその初動は、今度はタイガーアイさんの矢によって弾かれた。
それ以降、魔王が動こうとするたびにその出頭を誰かが抑え、十分な動きができないようにした。
「こ、小癪な……小癪なッ……!」
「魔王、君が復活するまでの間にただ力任せに攻撃するだけの時代は終わったんだ。わかりやすい話、時代遅れなんだよ君の戦闘スタイルは。長く眠りすぎた」
「貴様のせいだろうが先代勇者ァ!!」
さて、私もそろそろいいかしら。魔王が賢者の石を諦めてから私とロモンちゃんで以心伝心な相談をして、みんなが奮闘している間にとびっきりの一撃を用意した。
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先週より1時間、執筆を早めることができましたよ。
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