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343話 魔王との対面でございます……!

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【あれが……魔王……】


 私の中にいるロモンちゃんがポツリと呟いた。
 噂通り魔王はドラゴン。しかしその身体は桁違いに大きく、ドラゴンというより怪獣と言った方が正しいほど。50メートルくらいはあるんじゃないかしら。

 それに従ってこの場も広い。私が飛べるタイプのゴーレムじゃなかったら、掘った穴から床へ落下してしまっていたことでしょう。そもそも普通のゴーレムは飛べないし、この高さくらいなら落下してもおそらく無傷だけど。

 あ、でも他のみんなはどうやって来るのかしら。飛行能力があるのって私以外だとケルくんかクロさんぐらいよね。……みんな強者だしなんとかなるかしら。


【大きいですよね、何食べたらあんな風になるんでしょうか】
【食べ過ぎだから巨体になった訳じゃないと思うよ? そんなこと言ったら今頃私やお姉ちゃんなんて今の身長の十倍はあることになるもん】


 私とロモンちゃんは、お互いに普段通りの会話ができている。なぜか緊張や魔王に対しての恐怖心がそこにはない。
 たしかに目の前にいる敵はこの世界で最も強大な存在と言っていいはずなのだけれど、私達なら大丈夫、そんな気しかしない。

 魔王の首がゆっくりと動いた。それと同時に閉じていた目蓋を開き、その眼が私に向けられる。
 相手はドラゴンだけど、その目線の意味がなんとなくわかった。おそらく私も部屋に蚊や小蝿が入り込んできたら同じような表情をすることでしょう。

 そしてその場合に取る行動は一つ。


【……くる!】
【そうですね】


 一つの魔法陣が無造作に出現した。明らかに私たちより数回りは大きく作られている。そしてその魔法はどうやら、闇魔法と炎魔法……いや、それだけじゃない。おそらく風魔法も掛け合わせている。

 光魔法や闇魔法を基準として他の種類の魔法と組み合わせるのは私やケルくんでも魔法を本格的に覚え始めてから、私の賢者の石としての効果が手伝って半年もかからず習得できた技術。
 しかし3つも重ねるのは前代未聞。さすがは魔王と言ったところかしら。あの技術、無事に帰れたらぜひ真似したいわ。


【アイリスちゃん、回避して!】
【はい!】


 私はそのまま空中を移動し、魔法陣から放たれた闇風炎魔法を回避しようとする。
 しかしそれはうまくいかなかった。
 
 普通は風にあおられた炎は消えるかその激しさが増す。今回の場合はわざわざ魔法にして来るだけあって、闇炎を闇風で威力と範囲が増幅されていた。
 
 魔法陣以上の幅に、消費された魔力以上の破壊力。私の下半身は荒れ狂う三種重ねの魔法に飲み込まれ消し飛ばされてしまった。
 今日何回めかわからないけど、私がゴーレムで本当に良かったと改めて思う。かなりの大怪我だけどなんの痛みも感じない。


【さすがは魔王ですね。おそらく防護系のアーティファクトでも今のを防ぎ切るのは難しいでしょう】
【明らかに大ダーメジ受けてるのに涼しい態度してるの、さすがはアイリスちゃんだね!】


 増幅された闇炎の横火柱が晴れる頃には、私の下半身はすっかり元に戻っていた。
 その上、今こうしてロモンちゃんという強力な主人と融合してるから、解けかかっているフェルオールを5回フルでもう一度かけなおせば恐らく次からは回復する必要もなく五体満足で耐えられる。


【貴様】
【私ですか?】
【他に誰が居る、ゴーレムの小娘。貴様一体何者だ? まさか魔物が勇者ではあるまい】


 邪悪なほど野太い声。いや、もしかしたら先入観でそう感じるだけかもしれないけど。とにかく意外にも魔王の方から話しかけてきた。勝手に無口なまま戦って来るってイメージしてからびっくりした。


【ええ、私はただの飛ぶゴーレムですよ】
【何がタダの、だ。……なるほどこれは珍しい。極至種か。しかもこの言葉遣い。人間に成れるな】


 誤魔化したつもりなのにそこまでバレてしまうとは。もしかしておじいさんやロモンちゃんと同じ、無理やりステータスを除けるような能力を持ってるのかしら。


【魔物を強制的に強くできる能力を持つだけあってステータス見れるのかも。気をつけてアイリスちゃん】
【ああ、その能力の応用ですか。たしかにできそうですね】


 そうだった。今目の前にいるドラゴンの魔王はその見た目に反して味方の魔物を強くする魔物使いみたいな能力を持っているんだった。
 もう敵は魔王以外一掃したから大丈夫だと思ってたけど、応用が効くなら油断は絶対にできない。


【小娘よ、話がある】


 巨大すぎるドラゴンが改まった様子で私に身体を向けた。
 仲間ありきの魔王が、自分で言うのもなんだけど私のような優秀な魔物を目の前にした時に吐くセリフなんて一つしかない。


【まさかとは思いますが、勧誘ですか?】
【話が早い。その通りだ】
【なるほど】


 もしかしたら不意打ちができるかもしれない。
 私は中にいるロモンちゃんと相談して演技をしつつ奇襲を仕掛けることにした。


【では、まず私の能力の一端をお見せしましょう】
【ほほう……】


 空中浮遊するのに使ってる羽根の邪魔にならないよう背中から大量に魔力の塊の手を生やした。そして腕のユニットも全て分離させる。ここまで掘り進めたのと全く同じな、現在の私の完全体ともいえる姿。これを魔王の前に惜しげもなく披露した。


【やはり魔王種の一歩手前、極至種は凄まじい。膨大な魔力を感じる……】
【ありがとうございます。では、私のできることを実際にその目で確かめていただきたく】
【よかろう。見せてみろ】
【ああ、目じゃなくてその体で体感してください、の間違いでした。72連リスシャイゴロゴラム!】


 魔王種そのものの力として、勇者以外の攻撃によるダメージを激減させることができる。だから、私とロモンちゃんでどれだけやれるかわからないけれど……みんなが来るまでまだまだ時間がかかりそうだもの、やるしかない。

 72つの発射口から放たれる光雷魔法は、全て魔王の右目に照準が合わせられた。ドラゴン特有の急所を狙うことも考えたけど、先に感覚の一つを奪って仕舞えばガーベラさんがグッと戦いやすくなるはず。そもそも少しでも効けばの話だけど。


【ぬぅ!】
【はあああああああああああああ!】


 巨大な竜の目元から白い閃光がほとばしる。連続して発現している魔法陣が何重にも重なり合い、光が私達の目にも眩しいくらいに点滅し続ける。私達の全力。魔王相手に使わずして誰に使うというのか。


【小娘が……】
【ああああああああああ!!】
【図に載るな】
【……っ!?】


 魔王は痛むはずの目をおさえもせず、怯むこともなく、左腕の爪を立てながらそれを素早く私に向かって振り下ろしてきた。鋭い爪の衝撃波が襲いかかってくる。
 
 光雷魔法で連続攻撃している合間にフェルオールをかけ直しておいてよかった。あと、武術やリンネちゃんとの特訓で動体視力を鍛えておいたことも。
 おかげで片腕と片翼のみの犠牲で済んだ。無論、破壊されてしまった部分は数多の腕による回復魔法で即座に完治。実質、全く効果がなかったと言っても過言ではない。


【極至種のSランクがその程度じゃ死なないか】
【当然です】
【どうやら小娘だけでもしばらくは楽しめ……ぐおおお!?】


 突然、後方から青い光線が飛んできて、私が先ほどまで執拗に狙っていた魔王の右目を打ち抜いた。そしてその眼に、ガーベラさんが王様から受け取った槍が深々と突き刺さっているのが見える。
 魔王の右目はどうやら完全に光を失ったようだった。白く濁ってしまっている。

 槍は一人でに動き出しその場から消えた。そして再び後方から、カランカランと金属が落ちてきたかのような音が聞こえる。
 振り向くと、地面に先ほどの槍が突き刺さっていた。さらにその槍の柄のそばにガーベラさんが瞬間移動してくる。

 恐らくは、槍の大技を放ってから槍の能力で槍そのもの回収し、それを再び落とすことで安全にこの場へ移動してきたのでしょう。


「ごめん、思ったより深くて。時間稼ぎさせちゃったね、アイリス」
【いえいえ、構いませんよ】
【……どうやらみんなも続々と来ているようだね!】
「その通り。さ、ここからが本番だ」








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名前だけ序盤の方から出てくるのに本人はこんな最後の最後でやっと出てくるラスボスって珍しかったりするのではないでしょうか。
思えばドラゴンクエスト5の魔王がまさにこんな感じだったかと。

次の投稿は6/29です!


6/29追記

とても書けるような状況でなくなったので、今週はお休みします。
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