上 下
347 / 378

340話 因縁の戦い

しおりを挟む
「ぐおおおおおおお! き、貴様、まさかぁあああああ!」


 イフリートサラマンドラの半魔半人、ジンは魔物に姿を戻すまでもなくナイトの剣によって一瞬で両断された。
 これにてジーゼフ、クロ、ナイトの目の前に残っている魔王軍幹部はオーニキスだけとなった。


「ジン!? 総騎士団長にやられるならまだしも……あの男はいったい何者なんだ!」
「あれ? 僕のこと覚えてないの。……いや、僕の方もアンタに見覚えなかったよ。本当に魔王軍幹部なの?」


 ナイトの発言にオーニキスは首を傾げた。その様子を見ていたジーゼフも眉をしかめる。


「やはり、あやつは前の魔王出現時にはおらんかったのか」
「気がついてたらこの戦いが始まる前に倒しちゃってるよ」
「それもそうじゃな」


 この国最強の男と肩を並べる謎の人物。オーニキスは恐怖のあまり思わず後退りをした。しかし、その背後から紫色の水晶が現れ、動きを止められてしまった。


「くっ!」
「あ、そういえば思い出した。僕が幹部を倒して回っていた時、事前にあった魔王軍幹部の目撃情報と照らし合わせても、なんかいつも一匹足りなかったんだった。計算間違いかと思ってたけど、なるほど、こいつだったか」
「……魔王軍幹部を倒して、まわった?」


 ナイトの発言にオーニキスは違和感を覚えた。
 彼は長らく宰相として王国に潜り込み、様々な政策を行なってきた者。その違和感の本質に気がつくには全く時間が掛からなかった。


「勇者だというのかッ……先代の! まさかそんな!」
【それがそのまさかなんだよな】
「ふっふっふ、僕は有名人だな」


 ナイトが、魔王を沈めた先代勇者。ジンを一瞬で倒した力量や溢れ出ている魔力量からしてもそれはほぼ確定的だった。
 しかしオーニキスは納得がいかなかった。なぜなら勇者はすでに何百年も前に死んでいるからだ。


「ありえん、ありえんぞ!? なぜ生きている!」
「どうせ魔王も見てるんでしょ? だから教えてやるよ。今の僕は勇者じゃなくてSSランク極至種、ボーンナイトブレイブ。アンデッドだ。勇者の遺体がアンデッド化して、記憶を引き継いだ……ただそれだけのことさ」
「魔物学的に言えば魔物化する前の記憶が残っているのは別に変わったことではないぞ」
「そんな……そんな……!」


 魔王軍幹部にとってはこれ以上ない史上最悪の事実。オーニキスは全身から汗を噴き出していた。
 そんな彼にお構いなしに、ナイトとジーゼフとクロはゆっくりと近づいてくる。


「く、くるな!」
「来るなと言われてものぉ、お主を倒す前にワシの力で記憶をのぞいて、裏切り者が何を企んで何年も行動していたか国王様に報告せにゃならん」
「でもあいつ宰相なんでしょ? 頭が切れる人。だったらジーゼフの対策はまだ残ってるんじゃない。迂闊に近いて大丈夫?」
「そのためのお主じゃ」
「たしかに」
「くるなあああああああ! り、リスシャドラム!」


 オーニキスは闇魔法を唱えた。一気に魔法陣が五つ出現する。
 しかしそれらは迫りくる三人のSSランク相当の化け物をわざわざ避けるように発現し、当たることはなかった。
 彼は慌てながらもしっかり狙っていた。ジーゼフが何かしたのは明らかだった。


「な、何をした!?」
「昔はワシの部下だったんじゃ、よく知っておるじゃろ? 一瞬だけ意識を乗っ取って魔法をまばらに配置させてやっただけじゃよ」
【そんなことできるのはコイツだけだ】
「おっとクロよ。ロモンも既に同じことできるんじゃよ?」
「君とあの子は天才だけど、その次元が違うからね」
「さて、と。辿り着いたな」
「……!


 オーニキスはこの距離まで近づいてきたジーゼフに恐怖だけでなく、別の感情を覚えた。それは「懐かしい」。
 まだ彼が部下だった時代に労ってもらった記憶。仕事のことを相談した記憶。ヘマをして優しく怒られた記憶。それら全てが混ざり合う。
 目の前にいる人間の怪物は、昔オーニキスに向けたどの表情もしていない。ただ、裏切り者であり魔王軍幹部を抹殺しにきたこの国最強の魔物使いのそれ。


「ジ、ジーゼフ殿……!」
「なんじゃ」
「わ、私、私は……!」
「おっと、ワシはお主に恨みを多く抱えているのを忘れるなよ。思い出話をするのなら、それを踏まえてしてくれんか」
「っ……! う、おおおおお!」


 その一言で目が覚めたオーニキスは全身に力を貯める。彼は今、追い詰められているだけで拘束されてはいない。故に身体の自由は効く。

 オーニキスの全身は光に包まれ、肥大化していく。その様子をジーゼフは楽しそうに眺めていた。やがてそこに現れたのは、巨大な体と漆黒の甲羅を持つ亀の魔物。宰相オーニキスの本当の姿。


「ほほ! ブレンタートルに近いがこれは初めてみるのぉ! 新種じゃな!」
「いや、でもコイツ何百年も前の魔物だから新種と言えるかどうか」
「いいんじゃよ、どれだけ生きてるかは関係ない。新発見した瞬間に新種になるんじゃ。種族名は……ほほう、ネガマインドタートルの超越種というのか! 超越種としての特殊な特技はマインドコントロールかね。なるほど、これでワシらを……!」
【オオオオオオオオォォォオオオ!】
「ほほう、得意な魔法の一つに重力魔法が。たしかにオーニキスはそれが得意じゃっ……おほー!」


 一人と二匹の体がネガマインドタートルより反対側の壁に吸い込まれる。身体が強く壁に叩きつけられた。だが無傷である。


「なるほどの、魔法メインで戦うのかオーニキス、いや、ネガマインドタートルは。しかしケルの鼻は優秀じゃの。一番最初にオーニキスを怪しいと見抜いたのはあの子じゃった。そして言っていた通りオーニキスは亀の魔物じゃった」
【壁に押しつけられてるのに呑気にそんなこと言っている場合か、ジーゼフ】
「でもこのくらい僕たちにとっては涼しい程度だよね」
【くっ……はぁはぁ……この化け物どもめ!!】


 ネガマインドタートルの方が先に疲れ、三人は重力魔法から解放される。そしてその次の瞬間には遠ざけたはずなのに三人ともが彼の目の前に立っていた。


【なんっ……!?】
「僕の能力は流石に把握してるでしょ。アンデッドになっても勇者としての力が残ってるんだよ。この特殊な高速移動がね」
「要するにオーニキス、お主は今、わざわざワシらに生かされている状態なのじゃ。本来ならいつでも細切れにしてやれるんじゃがな」
【とりあえず早く記憶を覗くんだ】
「分かっておるわい」
【や、やめ、ぐぎゃあああああ!】


 ネガマインドタートルの四本の腕を、上から降ってきた杭の形をした水晶が地面に打ち付けた。その間にジーゼフは至近距離まで近づき、目をつぶって魔力を流し込む。
 数分して彼は目を開くと、拳に光魔法を込め、思い切りオーニキスの頬を殴った。


【ぐふぅ!?】
「こんな奴を後輩に持ったのはワシの人生最大の汚点じゃわい!」
「何があったの?」
「はぁ……まあ、色々とな。ワシの愛孫達を死地に送ろうとしていた理由とかを理解してしまったまでじゃよ」


 ジーゼフは悲しそうに首を竦めた。
 

「あ、もしかして孫達を幹部に殺させてジーゼフとグライドくんとノアちゃんから絶望を集めようとしていたとか」
「そう、まさにそれじゃ」
【それはあの子達の強さを舐めすぎたな】
「飯を奢ってやった金とか全部返してくれんかのぉ」


 そう言いながらジーゼフは徐に懐から一冊の本を取り出した。殴られて一瞬だけ意識が飛んでいたオーニキスはそれを見て、嫌な予感を感じる。


【ま、まて、何をする気だ!】
「いやぁ、ワシとて元後輩を殺すのは忍びないからな。今後の研究材料にするために、捕獲をと……。ちなみにこれは魔物を封印するための封書じゃよ」
「ジーゼフオリジナル開発シリーズの封書の一つだね」
【や、やめ……】
「それではさらばじゃ、オーニキス。我が国の裏切り者よ」
【ぐわあああああああ!】



 ネガマインドタートルの額に本が押し当てられた。彼自身の抵抗は虚しく、一気に本の中に体が吸い込まれてゆき、あとに残ったのは攻撃に使用したクリスタルのみ。


「……虚しいの。まあいいわい。どうやら愛孫達も勇者も全員無事なようじゃし」
「隣で相当すごい魔力を感じたけど、あの二人で倒せてしまったみたいだね」
【となると、残りは……】
「ああ、魔王だけじゃな。アイリスとグライドはへばっているようじゃし、二人を回収して広場に戻るとするかの」



#####

次の投稿は6/1です!

つい最近、私の最新作である「神速の大魔導師」が終わりましたが、今週の土曜日にまた別の新しい作品を投稿できそうです。
その場合は報告しますので、どうか、閲覧等よろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...