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339話 ターコイズ家vs.兄弟幹部 2

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【兄者……我、アイツら嫌い……】
【そうだな弟よ……】


 明らかに落ち込んだ様子でギガントビートルシュバルツとギガントスタッグヴァイスは念話をしている。その隙を逃さず、リンネとグライドは動き出した。


【なん……いったああぁ!?】
【大丈夫か弟よ!? ぐはあああ!】
「むぅ、硬い……」
「やはり甲虫系の魔物は容易くは斬れないか」


 二人はそう言うが、カブトロとクワガトロの羽根の部分には大きな傷がついた。二匹は慌てて各々の能力でその場から離れて散らばる。


【兄者、こうなったら本気の本気であの家族を叩き潰すぞ!】
【そうだな弟よ!!】


 二匹の姿が、ロモンとノア、二人の魔物使いの前に現れる。ゼロ距離といっても過言ではないほどの近さ。そしてそれぞれの口内には魔法陣が備えられており、明らかになんらかの攻撃をしようとしていた。


【【爆ぜるが良い!】】


 二匹の口内から魔法が発せられる。直線状に展開される光線のような黒と白の光。地面を轟かせ、轟音を響かせ、自分達より前方にあるものを破壊し尽くせる威力。
 しかし、ロモンとノアには当たらなかった。


「ありがとうお姉ちゃん!」
「あら、パパったらお姫様抱っこなんて……」
「まっ、ぼくとお父さんが居る限りそんな攻撃通用しないよね!」
「しかしさっきから目の前に移動してきては一度攻撃して退避、それを繰り返すだけ。まるで芸がないな」
【ぐっ……!】
【ぬっ……!】


 グライドの言う通りだった。この二匹の能力は制限こそあるものの非常に強力。
 目の前に移動して高火力の一撃を与える。それが二匹分。それだけで十分だった。それだけで今まで勇者以外の敵は全て倒せてきた。
 しかしこの家族を倒すのにはそれではまるで不十分だと、この二匹はやっと悟った。


【仕方ない……こいつらを片付けたら別の幹部の援護に行くために魔力を温存しておくつもりだったが……兄者、もう本気を超えた本気の本気を見せるしかないようだ! 魔力を使い果たすぞ!】
【そうだな弟よ!】
「みんな、注意して_____」


 グライドがそう言ったその瞬間だった。ロモンがいた場所に光と闇の螺旋が舞い上がる。
 そこにいた二つの螺旋が晴れる頃、そこにはロモンの姿はなかった。


【……はぁ、はぁ……やったぞ兄者! まずは一人だ………!】
【そうだな弟よ! 今頃あの少女は壁の中だ!】


 二人がやったことは、時間停止と瞬間移動の応用。
 カブトロの時間停止の能力の欠点は時間を止めている間、自分は攻撃も魔法を撃つこともできず、移動しかできないこと。
 クワガトロの瞬間移動の欠点は自分以外を移動させる場合、多くの魔力と時間がかかることであった。

 しかしカブトロの時間停止は兄弟の契りを結んだクワガトロを魔力を膨大に払うことで引き込むことができ、また、クワガトロの瞬間移動は移動用の特技であって魔法でも攻撃でもないので、止まった時間の中で使用することができる。

 結果、両者共にかなりの魔力をかけて止まった時間の中でロモンを壁の中に生き埋めにしたのであった。


「そ、そんな……ロ、ロモン……!」
【いいではないかターコイズ家よ、貴様らにはもう一人瓜二つの娘がいる】
【そうだな弟よ! 元々代わりがいる存在が一人になっただけだ!】
「ロ、ロモンはぼくの代わりなんかじゃない! ぼく、ぼくの大事な妹……ロモン……うっ……ひぅ……ぐすっ……」
【泣き出したぞ兄者】
【そうだな弟よ。強大な力を持っていたとしても、所詮はまだ少女なのだ!】


 あまりの絶望のためか、リンネ以外は下を俯きなにも言葉を発しない。ただ呆然と突っ立っていた。
 その様子を見て甲虫兄弟は高笑いをする。


【なに、こんな簡単なことだったとは! さっさと一人を潰しておけば良かったのだ! 脆い、脆いぞ人間!】
【そうだな弟よ! 先ほどまでの苦戦が嘘のようだ】
【では、そろそろグラブアあたりの加勢にでも行くか。この家族は我ら火力自慢の兄弟の中でも、最高火力の一撃で葬るとしよう】
【そうだな弟よ!】


 カブトロの黒いツノが白く光り、クワガトロの白いハサミが黒く光った。それぞれSランク超越種の魔物の魔力が集約されている。
 エンチャント系の技ではあるが、その一撃が振るわれれば爆発的な破壊が生まれるのは一目瞭然であった。
 

【まずは一人っ子になった娘の方からだ】
【そうだな弟よ。まあ、この一撃で家族全員巻き添えを喰らうと思うが】


 二匹が一瞬でリンネを囲む。


【くらえ、全身全霊のシュバルツホワイト!】
【くらえ、全身全霊のヴァイスブラック!】


 虫が二匹、ツノを振り下ろそうとしたその瞬間。
 別の二匹の魔物が何重複もされた魔法陣を展開し、発射した。


【十重リスシャイラム!】
【十重リスファイラム!】

 
 圧縮された光の魔法と炎の魔法が世界屈指の剣士二人の攻撃を受け止めた二匹の甲虫の甲をいとも容易く貫く。


【ぬおおおおおおおお!?】
【な、なんだああああ!?】


 カブトロとクワガトロは瞬時に退避したつもりだったが再び間に合わず、今度は腕なんかでは済まずに体の一部とツノを完全に焼かれてしまった。それでも命までは届かなかったが、絶大なダメージ。
 しかし彼らが驚いたのは、自分たち自慢の身体に致命傷を与えられたことではなく、魔物使いを失ったはずのオルトロスの方が魔物使いの魔力を纏って攻撃してきたことだった。


【なにが、一体なにが……!】
「……そろそろいいかな? それ!」


 先ほどまで泣きじゃくっていたはずのリンネの目には涙はなく、涙が流れた後すらなかった。つまり嘘泣きだったのだ。
 リンネは壁の一部に向かって剣をふるい、その部分を飛ぶ斬撃でえぐり取る。中から出てきたのは死んだはずのロモン。ロモンがてんとう虫の背中のような盾を構え、バリアを発していた。


「ロモン、ぼくの演技何点くらい?」
「アイリスちゃんと比べるとまだまだだよ。60点かなぁ」
「むぅ、残念」
【ど、どういうことだ……!?】


 ロモンは盾を構えながら壁の中から這い出てくる。服に着いた少しの土埃を払いながらにこやかな表情を浮かべた。


「私、貴方達のステータスを少し見た時点でなにしてくるか大体わかってたの。特技として登録されるくらい勘がいいから」
「我が娘ながら恐ろしい。事前に相手の情報を掴み、勘で予測。魔物を使役する者として必要な、状況把握と作戦を立てるセンスを用いて私たちに隙を作るための演技をするように指示……まるで御義父様を見ているようだ」
「どっちかっていうと、私の得意分野とお父さんの能力を足したような感じね!」


 両親からベタ褒めされたのでロモンはさらに微笑んだ。対して、カブトロとクワガトロは体を震わせ、驚愕の二文字をその身をもって体現していた。


【なんだと……じ、じゃあ我々は……!?】
【一目見られ時からあの少女の掌の上……!?】
【ま、そういうことだゾ】
「今までアイリスちゃんが全部やってくれてたからここまでやる機会なかったけどね! いい練習になったよ!」
【Sランク ノ マモノ デ、レンシュウ……?】
「さて、そろそろトドメだな」


 グライドとリンネは剣を構え、ノアはベスに、ロモンはケルに攻撃指示を出す。


「しかし、兄弟というだけあってなかなか良い連携ではあった。こちらも家族の連携を見せてやろう」
【く、くそがあああああ!】
【お、弟よ! 冷静に……!】


 全員の視界からロモンとグライドの姿が消えた。
 その後、数秒して二匹の後ろに現れる。カブトロとクワガトロの周りでは剣による反射光の残像だけが、二匹の動きを止めるように飛び交っていた。


【い、痛い! 動けん!】
【斬るための斬撃ではなく、牽制の斬撃か!?】
「そうだ。元々、私とママのコンビは私が早さで牽制し、ママが高火力の一撃を叩き込むという先鋒がメインだった」
「ぼくとロモンも同じことできるよ!」
「つまりこれがターコイズ家本来の戦い方だ!」
【十重リスシャイラム!】
【十重リスファイラム!】
【【ぐわあああああああああああああああ!】】


 カブトロとクワガトロの真正面から重複した魔法が叩きつけられる。魔法は二匹の全身を貫通し、破壊。爆発死散した。


「これが、ターコイズ家のパワー! 名付けて家族キャノンだ!」
「パパ、それいいわね!」
【いや、ダサいゾ……】
【ケル、シーッ ダヨ、シーッ!】

 
 ベスが慌ててケルの二つの口を塞ぐ中、どさくさに紛れてロモンを抱きしめ始めたリンネが口を開いた。


「それよりさ、まだ魔力もそんな減ってないし、大してダメージも負ってないから誰かの援護しに行こうよ」
「む、そうだな」
「いえ、その必要はなさそうよ。ほとんどみんな勝って終わってる」
「うん、本隊がいる入り口付近に再集合だね!」


 四人と二匹は軽い足取りでこの魔王の住処の入り口まで揃って戻っていった。



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