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104話 夜にお話するのでございます…! 2
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「はぁ…ごめんなさい。落ち着きました」
ハンカチで自分の目から溢れ出てた涙をぬぐい、ジエダちゃんは無理があるような笑みを浮かべ始めた。
「いいんですよ。辛かったり…感情が高ぶった時に泣いても。特に女性はね」
「ふふ…そうですね」
ピンク色のハンカチをしまいながら、ジエダちゃんはそう言う。
「あの…。どうやって私の両親が亡くなったか…話を聞いてくれませんか? アイリスさんに知ってほしいんです」
「いいですよ」
そう答えると、ジエダちゃんは嬉しそうに笑ったけれどそれはどこか寂しそうだった。
「あれは3年前の今頃でした。私は冒険者デビューをして…お母さんとお父さんにレベル上げの手伝いをして貰っていたんです。簡単な仕事の合間に」
ジエダちゃんのご両親は二人とも冒険者で二人でAランクのパーティを組んでいた、かなり…いえ、相当な実力者。
私はジエダちゃんの始めた話に、耳をよく傾けた。
「…それで。ここから少し遠く離れた場所でそうしていたら…。ヤツは現れたんです」
ギリ…とジエダちゃんが悔しそうに歯ぎしりをする音が聞こえた。
「サナトスファビドだなんて最近まで名前もわかんなかったけど…。とにかく大きな蛇が私めがけて襲ってきた。回避することもできない未熟だった私を庇って、お父さんとお母さんは代わりに噛まれて……そのまま。……あ、そうだ!」
何かを思い出したかのように、ジエダちゃんは声を張り上げる。他のお客さんの迷惑にならない程度で。
「その時お父さんが槍で、お母さんが斬撃魔法でその蛇に反撃したんですけど……。サナトスファビド、もとい、ギフトは体のどこかにそう言った傷は付いてましたか!?」
母親と父親が一矢報得ていたかどうかを知りたいのだろう。
だってそうだとしたら、魔王の部下の幹部なんていう者に一撃加えられたことになるんだから。
ジエダちゃんは私に向かって身を乗り出した。
私は首を横に振ってから答えてあげる。
ちょっと冷酷かも知れないけれど。
「残念ながらヤツは脱皮したら外傷含め、HPやMPまで完全回復してしまうらしいのです。ですからおそらく…」
「そ…そうですか…」
ショボンとした表情でジエダちゃんは椅子に座りなおした。
「そ、それで…それから私は、反撃されたせいかそのサナトスファビドが逃げたために助かったんです。あの時…私が回避できていたらお父さんもお母さんも死ななかったんじゃないかな…なんて」
……残念ながらあいつの不意打ちは、私や、素早さに特化したリンネちゃんですら回避不可能だ。
よもや、とっさに庇えたお父さんとお母さんはすごい。
……Aランクなんていう高位の冒険者だったからか…それとも家族愛からか_____
ジエダちゃんには正直に言ってしまおう。
「それは不可能です。いえ…逆にジエダさんのお母様とお父様がスゴいというべきでしょうか…」
「えっ!?」
「いえ、あいつは大探知でも見抜けないほどのハイレベルな隠密の特技を所持しています。それには私や、貴女も知っている通り素早さがズバ抜けているリンネちゃんですら回避することは不可能でした。ですから、とっさにジエダちゃんを守ったご両親は……本当にスゴいです」
「そ…そうです…かね!」
パアッとジエダちゃんの顔は少しだけ明るくなった。
「はい」
「そっか…そうなんだ…!」
「はい。えっと…それでは、ジエダさんがまたサナトスファビドと会ってしまった時の話もして頂けませんか?」
「あ……はい」
ジエダちゃんは顔を真剣な表情に戻し、私の目をまっすぐと見た。
「それは今年です。それも数ヶ月前で、そんなに前じゃないです。両親が残した貯金はあったのですが、私は強くなるために日頃から働いてました。なんの依頼だったかな…ホブゴブリン3匹くらいの討伐だったと思います。私はパーティを組んでないので、安全にこなすために遠くから、得意の風魔法や斬撃魔法を放ってボブゴブリンを討伐してたんです。その時に…」
ちなみに斬撃魔法は風魔法の応用だったりする。
爆発魔法といい、風魔法は応用がききやすい。
いや、そんなことは今はいいか。
「その時に、後ろから噛まれたんです。倒れる最中見た、後ろ姿を絶対に忘れもしない…! 3年前にサナトスファビドの姿を見たから忘れなかった! あれは同じ個体であると確信し……去っていく後ろから魔法を放ったりしたんです。でも痛みで気絶してしまって……。思えば、あの痛みはまだ全然軽くて、今だったら余裕で耐えられるんですけど」
と、ジエダちゃんは苦笑する。
痛みは本当にどのくらいだったんだろう。
勇者の仲間のレポートによれば、痛みで死んでしまった人も居たらしい。
ジエダちゃんやリンネちゃんみたいな…こんな可愛い子ばっかり痛い目に合わせて……本当に……無力化できてよかった。
「……そうですか」
「はい。でも私には到底敵うはずもない相手だったんですよね? あの時、殺されなくて良かったですよ」
話が終わったのか、ジエダちゃんは紅茶をゆっくりと飲みはじめた。
……話してないことはまだたくさんあるだろう。
例えば両親の貯金が残ってて、さらにジエダちゃんは両親が死んでから働いてたのに、ネフラ君も働く羽目になっていたのか。
これは簡単に予想できる。
まあ、正直言えば…この世界の病気にかかる代金は膨大なんだよと、だけ。
そんな辛いことも沢山あっただろうに、この子は強いね。
じゃあ…そろそろ渡してあげようか。
「ジエダさん、そんなジエダさんに、私は渡すものがあります」
「んっ? なんですか?」
私はスペーカウの袋から大きくて口が広い、サナトスファビドの牙入りのガラス瓶をとりだし、机の上に置いた。
「……これは?」
「サナトスファビド…魔王軍幹部ギフトの牙です。…ジエダさんが持つべきですからこれを、どうぞ」
ジエダちゃんは紅茶をそっとテーブルに置き戻し、その大きなガラス瓶をのぞいた。
そんなジエダちゃんに私は牙の説明を付け加える。
「それは私の手によってすでに毒を抜いております。素材として使用してください。……Sランク超越種、そして魔王からの加護を得ている一品ですから……杖の一部に使うだけで超一級品が出来上がるはずです。武器職人に依頼して使用する際は、出どころを訊かれると思いますので、『知り合いにもらった』とでも答えればよいかと」
ジエダちゃんは私のその言葉を聞いてから、目線を牙の方に戻す。
「こんな…受け取れません」
「なぜですか? 私はジエダさんに受け取って欲しいのですが」
「え…や…でも…」
遠慮しているみたいだけど私は受け取って欲しいから。ちょっと強引にでも渡したい。
「本当に受け取って貰えないのですが……?」
「……いえその…私なんかに勿体無いなって…」
「でもこれは貴女の仇の身体の一部。いわばジエダさんとネフラ君にとって脅威が消えた証なのです。是非とも受け取っていただきたい」
私はジエダちゃんの目を、また、ジッと見つめた。
私の意思を訴えかけるように。
そうして二人でしばらく見つめあったあと、ジエダちゃんがクスリと笑う。
「ふふ…わかりました。受け取りますよ。アイリスさん、…それと案外お茶目なんですね?」
「えっ……?」
ジエダちゃんは自分の頭を2回ほど指差す。
私は小石視点で自分の頭を見てみた。天使の輪っかがでしゃばっている__________
「えへ…とにかくありがとうございます。私のために…。やっぱり受け取ります。せっかくとってきて下さったんですから」
「は…はぃ」
微笑が大きなって行く少女の前で、私は必死にこの緊張して出て来た輪っかを引っ込めるのに努めた。
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ハンカチで自分の目から溢れ出てた涙をぬぐい、ジエダちゃんは無理があるような笑みを浮かべ始めた。
「いいんですよ。辛かったり…感情が高ぶった時に泣いても。特に女性はね」
「ふふ…そうですね」
ピンク色のハンカチをしまいながら、ジエダちゃんはそう言う。
「あの…。どうやって私の両親が亡くなったか…話を聞いてくれませんか? アイリスさんに知ってほしいんです」
「いいですよ」
そう答えると、ジエダちゃんは嬉しそうに笑ったけれどそれはどこか寂しそうだった。
「あれは3年前の今頃でした。私は冒険者デビューをして…お母さんとお父さんにレベル上げの手伝いをして貰っていたんです。簡単な仕事の合間に」
ジエダちゃんのご両親は二人とも冒険者で二人でAランクのパーティを組んでいた、かなり…いえ、相当な実力者。
私はジエダちゃんの始めた話に、耳をよく傾けた。
「…それで。ここから少し遠く離れた場所でそうしていたら…。ヤツは現れたんです」
ギリ…とジエダちゃんが悔しそうに歯ぎしりをする音が聞こえた。
「サナトスファビドだなんて最近まで名前もわかんなかったけど…。とにかく大きな蛇が私めがけて襲ってきた。回避することもできない未熟だった私を庇って、お父さんとお母さんは代わりに噛まれて……そのまま。……あ、そうだ!」
何かを思い出したかのように、ジエダちゃんは声を張り上げる。他のお客さんの迷惑にならない程度で。
「その時お父さんが槍で、お母さんが斬撃魔法でその蛇に反撃したんですけど……。サナトスファビド、もとい、ギフトは体のどこかにそう言った傷は付いてましたか!?」
母親と父親が一矢報得ていたかどうかを知りたいのだろう。
だってそうだとしたら、魔王の部下の幹部なんていう者に一撃加えられたことになるんだから。
ジエダちゃんは私に向かって身を乗り出した。
私は首を横に振ってから答えてあげる。
ちょっと冷酷かも知れないけれど。
「残念ながらヤツは脱皮したら外傷含め、HPやMPまで完全回復してしまうらしいのです。ですからおそらく…」
「そ…そうですか…」
ショボンとした表情でジエダちゃんは椅子に座りなおした。
「そ、それで…それから私は、反撃されたせいかそのサナトスファビドが逃げたために助かったんです。あの時…私が回避できていたらお父さんもお母さんも死ななかったんじゃないかな…なんて」
……残念ながらあいつの不意打ちは、私や、素早さに特化したリンネちゃんですら回避不可能だ。
よもや、とっさに庇えたお父さんとお母さんはすごい。
……Aランクなんていう高位の冒険者だったからか…それとも家族愛からか_____
ジエダちゃんには正直に言ってしまおう。
「それは不可能です。いえ…逆にジエダさんのお母様とお父様がスゴいというべきでしょうか…」
「えっ!?」
「いえ、あいつは大探知でも見抜けないほどのハイレベルな隠密の特技を所持しています。それには私や、貴女も知っている通り素早さがズバ抜けているリンネちゃんですら回避することは不可能でした。ですから、とっさにジエダちゃんを守ったご両親は……本当にスゴいです」
「そ…そうです…かね!」
パアッとジエダちゃんの顔は少しだけ明るくなった。
「はい」
「そっか…そうなんだ…!」
「はい。えっと…それでは、ジエダさんがまたサナトスファビドと会ってしまった時の話もして頂けませんか?」
「あ……はい」
ジエダちゃんは顔を真剣な表情に戻し、私の目をまっすぐと見た。
「それは今年です。それも数ヶ月前で、そんなに前じゃないです。両親が残した貯金はあったのですが、私は強くなるために日頃から働いてました。なんの依頼だったかな…ホブゴブリン3匹くらいの討伐だったと思います。私はパーティを組んでないので、安全にこなすために遠くから、得意の風魔法や斬撃魔法を放ってボブゴブリンを討伐してたんです。その時に…」
ちなみに斬撃魔法は風魔法の応用だったりする。
爆発魔法といい、風魔法は応用がききやすい。
いや、そんなことは今はいいか。
「その時に、後ろから噛まれたんです。倒れる最中見た、後ろ姿を絶対に忘れもしない…! 3年前にサナトスファビドの姿を見たから忘れなかった! あれは同じ個体であると確信し……去っていく後ろから魔法を放ったりしたんです。でも痛みで気絶してしまって……。思えば、あの痛みはまだ全然軽くて、今だったら余裕で耐えられるんですけど」
と、ジエダちゃんは苦笑する。
痛みは本当にどのくらいだったんだろう。
勇者の仲間のレポートによれば、痛みで死んでしまった人も居たらしい。
ジエダちゃんやリンネちゃんみたいな…こんな可愛い子ばっかり痛い目に合わせて……本当に……無力化できてよかった。
「……そうですか」
「はい。でも私には到底敵うはずもない相手だったんですよね? あの時、殺されなくて良かったですよ」
話が終わったのか、ジエダちゃんは紅茶をゆっくりと飲みはじめた。
……話してないことはまだたくさんあるだろう。
例えば両親の貯金が残ってて、さらにジエダちゃんは両親が死んでから働いてたのに、ネフラ君も働く羽目になっていたのか。
これは簡単に予想できる。
まあ、正直言えば…この世界の病気にかかる代金は膨大なんだよと、だけ。
そんな辛いことも沢山あっただろうに、この子は強いね。
じゃあ…そろそろ渡してあげようか。
「ジエダさん、そんなジエダさんに、私は渡すものがあります」
「んっ? なんですか?」
私はスペーカウの袋から大きくて口が広い、サナトスファビドの牙入りのガラス瓶をとりだし、机の上に置いた。
「……これは?」
「サナトスファビド…魔王軍幹部ギフトの牙です。…ジエダさんが持つべきですからこれを、どうぞ」
ジエダちゃんは紅茶をそっとテーブルに置き戻し、その大きなガラス瓶をのぞいた。
そんなジエダちゃんに私は牙の説明を付け加える。
「それは私の手によってすでに毒を抜いております。素材として使用してください。……Sランク超越種、そして魔王からの加護を得ている一品ですから……杖の一部に使うだけで超一級品が出来上がるはずです。武器職人に依頼して使用する際は、出どころを訊かれると思いますので、『知り合いにもらった』とでも答えればよいかと」
ジエダちゃんは私のその言葉を聞いてから、目線を牙の方に戻す。
「こんな…受け取れません」
「なぜですか? 私はジエダさんに受け取って欲しいのですが」
「え…や…でも…」
遠慮しているみたいだけど私は受け取って欲しいから。ちょっと強引にでも渡したい。
「本当に受け取って貰えないのですが……?」
「……いえその…私なんかに勿体無いなって…」
「でもこれは貴女の仇の身体の一部。いわばジエダさんとネフラ君にとって脅威が消えた証なのです。是非とも受け取っていただきたい」
私はジエダちゃんの目を、また、ジッと見つめた。
私の意思を訴えかけるように。
そうして二人でしばらく見つめあったあと、ジエダちゃんがクスリと笑う。
「ふふ…わかりました。受け取りますよ。アイリスさん、…それと案外お茶目なんですね?」
「えっ……?」
ジエダちゃんは自分の頭を2回ほど指差す。
私は小石視点で自分の頭を見てみた。天使の輪っかがでしゃばっている__________
「えへ…とにかくありがとうございます。私のために…。やっぱり受け取ります。せっかくとってきて下さったんですから」
「は…はぃ」
微笑が大きなって行く少女の前で、私は必死にこの緊張して出て来た輪っかを引っ込めるのに努めた。
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