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332話 いざ突入でございます!

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 私達勇者軍は開かれた魔王の住処の中へ入った。
 実際のところリンネちゃんがサナトスファビドを瞬殺してからその開いた入り口が再び閉じようとしていたのだけど、ナイトさんが一瞬のうちにその蓋ごと破壊して入れるようにしてくれた。

 中は見た目や作りからダンジョンそっくりの構造になっているようだった。魔王自身かその配下の誰かがダンジョンをモデルにして作り上げたのか、それとも元々あったダンジョンをどうにかして乗っ取って使っているのか。居心地ってどうなんだろう。


「……先ほどの大群と比べれば、中の方が数が……少ないな」
「だからってさっきより攻略が簡単ってわけじゃないわね~」
「ええ……まさかSランクの魔物の反応しかないなんて」


 お母さんら騎士団長達が話しているように、このダンジョン型基地の中に入ってからの魔物の反応が異常だった。本当にSランクの魔物しかいないのだから。それも魔王軍幹部と思わしきものを含めないで50体以上。
 さっきの捨て駒として特攻させられた魔物達と一緒に収集したもの中から選りすぐっているのでしょう。元々Aランクの中位から上位だった魔物が魔王の力によってSランクまで引き上げられている個体も少なからず居ると思われるけれど……それでもSランクに上がってる時点で手強いことには変わりはない。


「どうする? ぼくが一走りして近場にいる10体くらい倒してこよっか!」
「リンネ、先ほどの活躍は立派だったが調子に乗りすぎるのはよくないぞ。私達に対抗できる速さを持つ魔物が居ないとも限らないからな」
「むー、たしかに」


 リンネちゃんの活躍を見ればあのスピードと破壊力が相まって無敵に見えるけれど、一瞬で雑に強い広範囲高火力の攻撃ができる私のような魔物がいたら足止めを食らってしまう。お父さんの言う通り、慎重になるべきね。


「つってもよー、グライド。お前の娘の言う通りな面もあるぜ? 俺たち……えっと、なんつったっけ、勇者軍幹部か? その俺たちを除いた雇われ組、一般兵組で相手できるのは十人くらい混じってるS級冒険者を頼りにしたとしても、せいぜい二十匹。残り三十匹と魔王軍幹部はオレらでなんとかしなきゃいけねーんだ。オレらは一人十匹とは言わずとも、2、3匹は相手にしなきゃいけないよな」
「幹部が混ざらないSランク2、3匹程度なら同時でもこのメンツなら全員相手できるだろう。ただ十匹となるとだな……」
「お、おとうさん! ぼくは例えで言っただけだよぅ!」
「お姉ちゃんの言う通り、そんな深く考察しないでいいと思うよ! 倒せるだけ倒そうよ!」


 真面目に考えたら一人でSランクの魔物を三匹倒すってだけでも相当なことなのだけれどね。たしかに私たちに限っては現実的な数値に思えてしまう。とはいえ、勇者軍幹部全員が実際に三匹以上相手をすることは無さそう。だってこちらにはナイトさんとおじいさんがいるから。……その二人が動き出しそう。


「ほっほっほ、話すより動いた方が早いじゃろうて」
「お、お義父様、まさか……」
「それぞれ何匹倒すとかは考える必要ないんじゃよ。ワシが半数潰せば、あとは楽じゃろう? オーニキスに八年も力を封印させられた仕返し、ここでやってやろうかの」
「あら、お父さんもう暴れるのね!」
「ああ、オーニキスがワシ対策にどんな手を使っているか調べるのも兼ねてな。孫があれだけのことをしたんじゃ。ならば今度はワシが頑張らねばのぅ」


 おじいさんはリンネちゃんの頭を軽く撫でたあと、自分の近くにクロさん、ナイトさん、そしてなんとタイガーアイさんを呼び寄せた。クロさん以外二人はおじいさんの魔物じゃないし、そもそもタイガーアイさんは純粋な人間なのだけれどどうするつもりなのかしら。


「タイガーアイくん、昔、一度考案したあれをやるんじゃよ」
「……ぶ、ぶっつけ本番……ですが……?」
「お主とワシならできるじゃろ」
「ねぇ、ジーゼフ。僕は君の友人であって、君の魔物ってわけじゃ……」
「じゃがワシとなら可能じゃろ?」
「そうだけどさ……。ま、いいよ。つべこべ言わす協力してあげる」
「ではタイガーアイくん、目を借りるぞ」
「……はい……」


 おじいさんがタイガーアイさんの両肩に自分の両手を置いた。その瞬間、おじいさんの魔力がタイガーアイさんに移る。
 どうやらおじいさんはタイガーアイさんに魔人融体……いや、人人融体したみたいだった。この間私がロモンちゃんにやられたアレと同じ状態ってわけね。
 ……ああ、なるほど。こうすることでおじいさんはタイガーアイさんの索敵能力を使えるんだ。おじいさんの索敵能力も私含め他の勇者軍幹部とは比較にならないほどのものだけど、わざわざこうするってことはタイガーアイさんのはそれ以上なのかしら。王様お墨付きだしね。

 やがておじいさんの身体が普通の魔人融体した魔物使いのように膝から崩れ落ちる。
 おじいさんが意識を失うのは初めて見たけれど、そうなってしまうのも仕方がない。なぜならおじいさんの魔力がクロさんとナイトさんにも移ったのだから。Sランクの実力者一人とSSランクの魔物2体に同時魔人融体。さすがに化物染みてる。


「相変わらず、お父さんには嫉妬しちゃうわ」
【もはや魔物関係ないゾ……】
「ロモンもおじいちゃんと同じ才能持ってるんでしょ?」
「ほ、本当かなぁ……」


 中におじいさんが入ってるタイガーアイさんがクロさんとナイトさんの背中に手を当てると、二人とも夢から覚めたかのように眼を勢いよく開いた。


「こ、これがタイガーアイくんの見ている世界か……凄まじいな」
【世界中で一、二を争うトップレベルの感知能力使いって言う話は本当だったんだ】
【これならここからでも魔法で攻撃できるじゃろう?】
【十分だ】
「ああ、いけるよ」
【それじゃあ、始めるとするかの?】
【クリスタル・リスドゴドラム!】
【エクスプロージョン】


 ナイトさんとクロさんがそれぞれ得意な魔法をこの場から動かずに放った。目に見えない場所から感じる膨大な魔力。次の瞬間、激しい地震かと思えてしまうほどの地鳴りが起こり、私達はしゃがまざるおえなくなった。
 そして、探知から数十体の魔物の反応が消えた。
 ナイトさん、クロさん、タイガーアイさんからおじいさんの反応が消える。


「うあ……」
「おっと、大丈夫かタイガーアイ? 無理しすぎだぜ総騎士団長様よ。まさかタイガーアイの特技を三人同時に使わせるなんて」


 取り憑かれていたタイガーアイさんが倒れ、かわりにおじいさんが立ち上がる。倒れたタイガーアイさんはランスロットさんが介抱した。
 どうやらタイガーアイさんの世界トップレベルの感知能力は制限があるみたい。膨大な魔力を使うのか、あるいは身体に負担がかかるのか。たしかに常時使えたのなら魔王軍が城に侵入した際に真っ先に気がつけただろうし……。


「い……いいんだ、ランスロット。承知の……上だ。それに……これは身体的疲労……アイリス嬢に回復して貰えばすぐ復帰できる……。というわけで頼む……」
「は、はいっ」
「すまんのタイガーアイくん」
「やっとみんなの前で活躍……できたから。全然構わない。それより、さすが総騎士団……。まさか今ので……三十三体も倒すとは……」
「ほっほっほ、アイリスの補助魔法がそれぞれ残ってたおかげで八体は余計に倒せたわい」
「き、恐縮です……」
「とはいえ、さすがに幹部は打ち損じたがの。やはり、さすがにワシの対策はされていたようじゃ」


 それでも十分な気がする。というか、対策をして半数以上吹き飛ばされるってどんな攻撃をしたのかしら? 爆発魔法と土属性の最大級を補助という補助を重ね掛けした上で一気に放出しただけよね? 現場に行ったらわかるかしら。




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