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324話 魔王の居場所を割り出すのでございます!
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「こんな感じでいかがですかな、勇者殿」
「あはは、雰囲気あるなぁ……」
ガーベラさんは国内、あるいは近隣の国のSランクの冒険者が一人でも所属しているギルドに向けて送付される予定でデザインされた依頼書の文章を読んで苦笑いした。
『伝説の勇者、試合求ム!』なんて大きく書かれちゃっている。依頼人はルビィ国王と勇者ガーベラの二人ってことになってるわ。内容はSランク以上の冒険者限定で、この国のこの町まで赴きガーベラさんと手合わせすること。渡航費や交通費はこちら持ち、報酬300万ストン。さらにガーベラさんに勝てたらプラス700万。相手のやる気を煽りにいってるわね。
「ガーベラさんが負けたら王様が総額1000万を払うのですよね。私もSランクの冒険者ですし、挑戦してみましょうかね?」
「それは困るな……」
「冗談ですよ。どっちもただで済みそうにありませんしね」
とはいえ、未だに私とガーベラさんは魔法と特技ありで戦ったことがない。告白してもらったときの組み手だけ。そろそろ本格的に戦ってみる必要がありそうね。
「失礼します! ガーベラ殿、アイリス殿、ここにいらっしゃるとお聞きしたのですが」
急に執事さんの一人がこの職人さんの作業部屋にやってきた。私とガーベラさんに用事ね……なにかしら。そんなに慌てた様子じゃないみたいだけれど。
つい昨日、ケルくんが記憶玉の使用者として名乗りを上げて、実際にタペペドンの記憶を見た。そして今日からその記憶を探りつつ距離などを算出して正確な魔王の居場所を導き出すってことをしている。それになにか進展があったのかしらね?
「はい、いますよ。ご用件はなんでしょう?」
「ケル殿がお呼びです。『よく考えたら学者達と一緒に計算するより、オイラに勉強を教えてくれたアイリスとやった方が早いゾ。そんでもって同じ所出身のガーベラもついでに来てくれたらたぶんもっと早く済むゾ』とおっしゃっておりました」
「なるほど、たしかに」
さっそく私達はケルくんが今頑張って計算しているであろう作戦室まで向かった。執事さんのケルくんの真似がちょっと面白かったのは内緒。執事さん本人は至って真面目……だったはず。
作戦室の扉を開けると、黒いローブのようなものをまとい、頭に学者さん達と同じ帽子をつけ、若い女性の学者さんに抱っこされてるケルくんが、項垂れている年配の男の学者さんの頭を肉球で軽くペシペシ叩いているのが見えた。
ケルくんは私達に近づくと若い女性の学者さんから降り、こちらにやってくる。女性の学者さんはとても残念そうな顔をした。
【来てくれたんだゾ、助かるんだゾ】
「学者の皆さんじゃダメだったの?」
【それが聞いてほしいんだゾ。アイリスに教えてもらった内容はたしかに通じるゾ。通じるけど学者達は色々遠回りで物事を考えてるんだゾ!】
「……というと?」
【例えば分数同士の掛け算をするとするゾ。アイリスは簡単に式で表してくれたゾ。でも学者達は、一つの物体を分割したうちの何個、それを一で掛けた場合の何分割で……なんてぶつぶつ言い出して、さらにいちいち図で表そうとするんだゾ。全部こんな感じゾ! たまったもんじゃないゾ! オイラが教えながら進まなきゃいけないんだゾ! 今思い返したらたしかに本を読んで勉強してる時からやけに遠回しだと思ってたんだゾ! 今はのんびりしてる暇ないのに!】
珍しくケルくんが憤慨してる……。そうとう苛々するようなやりとりがあったのでしょうね。なるほど、この世界で難しい計算は深く考えられすぎちゃうのかもしれない。
「わ、わかりました。では私と一緒に計算しましょうか、ケルくん」
【だゾ!】
「あ、あの、私達もそれ、見せていただいても……」
「それなら俺がわかるところ解説して行きますよ」
「勇者殿が直々に!? 申し訳ありません、お役に立てないどころかお忙しいお二人と時間まで奪ってしまって……」
「そんなに落ち込む必要はないですよ、文化が違っただけですから」
そういうわけで私とケルくんの二人で算出を、ガーベラさんと学者さん達は補助に回った。この調子だと後で王様から「この戦いが終わったら学者も並行してよ!」とか言われそうな気がする。
……正直、ケルくんに直接勉強を教えたことはあまりなく、いつもこの子は私がロモンちゃんとリンネちゃんに教えてることを側で聞いているだけだった。なのにかなり覚えてる。
まだ人間の言葉をしっかりと理解する以前の内容が多いのに何故覚えてるのかと尋ねると、寝てる間にあの頃の記憶を反復し、音としか認識していなかった私たちの勉強の内容を、ちゃんとしたものへ再理解していたのだという。睡眠時間が多かった理由の一つがこれらしい。
今、このタイミングでふと思い出したのだけれど、私達の世界にはIQと呼ばれる頭の良さを数値化したものがあったはず。ケルくんは一体どんな数値を叩き出すのかしらね。
【こうこう……こうで、こんな感じなんだゾ。で、ここをこう算出したいのだけれど、ただここからここの距離が……】
「ふむふむ、なるほど」
「これは一体どういう計算なのですかな?」
「これはですね……」
ケルくんはすでに昨日の夜からタペペドンの記憶を何度も繰り返して見ているるしく、タペペドンが魔王の隠れ場所からこの城へたどり着くまでかかっている時間はおおよそ計測してしまっていた。
魔王に従順であるようあのタペペドンは洗脳されていたらしく、目的地まで寄り道など一切せずにまっすぐ飛び続けていたとのこと。でも途中で休憩は一回挟んでいるみたい。その休憩時間はすでに計測時間から省いてあるらしい。
今この子がしたいのは、タペペドンが途中で見た記憶のある村から街までの距離を判明させ、その距離から時速を算出。時速を出したらあとはたどり着くまでの時間を当てはめる、ということ。
途中で見かけた村の名前まではすでにわかっている。ただ、その村から城までのおおよその距離が分からなくて困っているらしい。
それさえわかれば、あとはタペペドンの時速を出し、その時速を城へたどり着く時間と合わせることで魔王の居場所の距離がわかる。方角ももうわかっているので、そこまでできたら完璧。
【要するに、村との距離を記憶からどう計算したらいいかがわからないんだゾ。影とその角度、あるいは太陽から……?】
「あの、村からこの城下町への距離ってどこかに記録が残されていないのですか?」
【いないゾ。早い話、一般的に距離という概念がないんだゾ。何々の魔物で何時間かかるとか、歩いて何日とか、距離に関してはそんな感じの表し方なんだゾ】
「なるほど……ではこの件についてそちらの記録は残されてませんでしたか?」
【グレートホース……一般的な馬車馬で半日と一時間らしいゾ】
「ではグレートホースの速さを求めて、そこから計算した方が早いですね」
【……やっぱりゾ? 記憶の内容だけで計算するのは難しいゾ?】
「ええ、たぶん」
【そうかゾ】
ケルくんは少ししょんぼりとした。どうやら、私から教わった内容とタペペドンの記憶からだけで全て済むと思い込んでしまっていた自分を責めているらしい。一人でここまでできたのだから、そんな責めることはないと思うのだけどね。
それから私達はすぐになんとかして一般的な馬車馬の時速を求め、村から城下町への距離を計算。その距離からタペペドンの時速、タペペドンの時速と全体的にかかった時間によって魔王の居場所から城下町への距離を算出してみせた。
そんな難しい内容ではなかったけれど、あれね、ちゃんと勉強してるって大切なのね。いつ役に立つかわかったものではないわ。ありがとう、前世の私……。
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次の投稿は2/10です!
よければ『題名のない魔王』もご覧いただけたら嬉しいです!
「あはは、雰囲気あるなぁ……」
ガーベラさんは国内、あるいは近隣の国のSランクの冒険者が一人でも所属しているギルドに向けて送付される予定でデザインされた依頼書の文章を読んで苦笑いした。
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「ガーベラさんが負けたら王様が総額1000万を払うのですよね。私もSランクの冒険者ですし、挑戦してみましょうかね?」
「それは困るな……」
「冗談ですよ。どっちもただで済みそうにありませんしね」
とはいえ、未だに私とガーベラさんは魔法と特技ありで戦ったことがない。告白してもらったときの組み手だけ。そろそろ本格的に戦ってみる必要がありそうね。
「失礼します! ガーベラ殿、アイリス殿、ここにいらっしゃるとお聞きしたのですが」
急に執事さんの一人がこの職人さんの作業部屋にやってきた。私とガーベラさんに用事ね……なにかしら。そんなに慌てた様子じゃないみたいだけれど。
つい昨日、ケルくんが記憶玉の使用者として名乗りを上げて、実際にタペペドンの記憶を見た。そして今日からその記憶を探りつつ距離などを算出して正確な魔王の居場所を導き出すってことをしている。それになにか進展があったのかしらね?
「はい、いますよ。ご用件はなんでしょう?」
「ケル殿がお呼びです。『よく考えたら学者達と一緒に計算するより、オイラに勉強を教えてくれたアイリスとやった方が早いゾ。そんでもって同じ所出身のガーベラもついでに来てくれたらたぶんもっと早く済むゾ』とおっしゃっておりました」
「なるほど、たしかに」
さっそく私達はケルくんが今頑張って計算しているであろう作戦室まで向かった。執事さんのケルくんの真似がちょっと面白かったのは内緒。執事さん本人は至って真面目……だったはず。
作戦室の扉を開けると、黒いローブのようなものをまとい、頭に学者さん達と同じ帽子をつけ、若い女性の学者さんに抱っこされてるケルくんが、項垂れている年配の男の学者さんの頭を肉球で軽くペシペシ叩いているのが見えた。
ケルくんは私達に近づくと若い女性の学者さんから降り、こちらにやってくる。女性の学者さんはとても残念そうな顔をした。
【来てくれたんだゾ、助かるんだゾ】
「学者の皆さんじゃダメだったの?」
【それが聞いてほしいんだゾ。アイリスに教えてもらった内容はたしかに通じるゾ。通じるけど学者達は色々遠回りで物事を考えてるんだゾ!】
「……というと?」
【例えば分数同士の掛け算をするとするゾ。アイリスは簡単に式で表してくれたゾ。でも学者達は、一つの物体を分割したうちの何個、それを一で掛けた場合の何分割で……なんてぶつぶつ言い出して、さらにいちいち図で表そうとするんだゾ。全部こんな感じゾ! たまったもんじゃないゾ! オイラが教えながら進まなきゃいけないんだゾ! 今思い返したらたしかに本を読んで勉強してる時からやけに遠回しだと思ってたんだゾ! 今はのんびりしてる暇ないのに!】
珍しくケルくんが憤慨してる……。そうとう苛々するようなやりとりがあったのでしょうね。なるほど、この世界で難しい計算は深く考えられすぎちゃうのかもしれない。
「わ、わかりました。では私と一緒に計算しましょうか、ケルくん」
【だゾ!】
「あ、あの、私達もそれ、見せていただいても……」
「それなら俺がわかるところ解説して行きますよ」
「勇者殿が直々に!? 申し訳ありません、お役に立てないどころかお忙しいお二人と時間まで奪ってしまって……」
「そんなに落ち込む必要はないですよ、文化が違っただけですから」
そういうわけで私とケルくんの二人で算出を、ガーベラさんと学者さん達は補助に回った。この調子だと後で王様から「この戦いが終わったら学者も並行してよ!」とか言われそうな気がする。
……正直、ケルくんに直接勉強を教えたことはあまりなく、いつもこの子は私がロモンちゃんとリンネちゃんに教えてることを側で聞いているだけだった。なのにかなり覚えてる。
まだ人間の言葉をしっかりと理解する以前の内容が多いのに何故覚えてるのかと尋ねると、寝てる間にあの頃の記憶を反復し、音としか認識していなかった私たちの勉強の内容を、ちゃんとしたものへ再理解していたのだという。睡眠時間が多かった理由の一つがこれらしい。
今、このタイミングでふと思い出したのだけれど、私達の世界にはIQと呼ばれる頭の良さを数値化したものがあったはず。ケルくんは一体どんな数値を叩き出すのかしらね。
【こうこう……こうで、こんな感じなんだゾ。で、ここをこう算出したいのだけれど、ただここからここの距離が……】
「ふむふむ、なるほど」
「これは一体どういう計算なのですかな?」
「これはですね……」
ケルくんはすでに昨日の夜からタペペドンの記憶を何度も繰り返して見ているるしく、タペペドンが魔王の隠れ場所からこの城へたどり着くまでかかっている時間はおおよそ計測してしまっていた。
魔王に従順であるようあのタペペドンは洗脳されていたらしく、目的地まで寄り道など一切せずにまっすぐ飛び続けていたとのこと。でも途中で休憩は一回挟んでいるみたい。その休憩時間はすでに計測時間から省いてあるらしい。
今この子がしたいのは、タペペドンが途中で見た記憶のある村から街までの距離を判明させ、その距離から時速を算出。時速を出したらあとはたどり着くまでの時間を当てはめる、ということ。
途中で見かけた村の名前まではすでにわかっている。ただ、その村から城までのおおよその距離が分からなくて困っているらしい。
それさえわかれば、あとはタペペドンの時速を出し、その時速を城へたどり着く時間と合わせることで魔王の居場所の距離がわかる。方角ももうわかっているので、そこまでできたら完璧。
【要するに、村との距離を記憶からどう計算したらいいかがわからないんだゾ。影とその角度、あるいは太陽から……?】
「あの、村からこの城下町への距離ってどこかに記録が残されていないのですか?」
【いないゾ。早い話、一般的に距離という概念がないんだゾ。何々の魔物で何時間かかるとか、歩いて何日とか、距離に関してはそんな感じの表し方なんだゾ】
「なるほど……ではこの件についてそちらの記録は残されてませんでしたか?」
【グレートホース……一般的な馬車馬で半日と一時間らしいゾ】
「ではグレートホースの速さを求めて、そこから計算した方が早いですね」
【……やっぱりゾ? 記憶の内容だけで計算するのは難しいゾ?】
「ええ、たぶん」
【そうかゾ】
ケルくんは少ししょんぼりとした。どうやら、私から教わった内容とタペペドンの記憶からだけで全て済むと思い込んでしまっていた自分を責めているらしい。一人でここまでできたのだから、そんな責めることはないと思うのだけどね。
それから私達はすぐになんとかして一般的な馬車馬の時速を求め、村から城下町への距離を計算。その距離からタペペドンの時速、タペペドンの時速と全体的にかかった時間によって魔王の居場所から城下町への距離を算出してみせた。
そんな難しい内容ではなかったけれど、あれね、ちゃんと勉強してるって大切なのね。いつ役に立つかわかったものではないわ。ありがとう、前世の私……。
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