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321話 ガーベラさんvs.巨盾使いでございます!

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「おいおい、アリアさんよ、ヒック……そりゃ無理って話だ」


 お酒を飲んでいた一人の冒険者が立ち上がってそう言った。千鳥足でアリアという名前のSランク冒険者の側までやってくる。


「私は勇者とギルドマスターに話をしている。関係が無い者は口を謹んでもらいたい」
「まあきけや。ヒック。いいか? ガーベラのヤローがお前さんと戦ったところで良いことなんてひとっつもねーわけよ。むしろ勇者の体力を無駄に使わせることになるってわけだ。天下のSランク様がそんなこともわからないわけないだろ?」


 たしかに彼の言う通りだわ。このアリアさんと戦ったところでガーベラさんに得になることはない。せいぜい、今の実力を試すことができるぐらいでしょうけど、腕試しなら騎士団長や私達の誰かが付き合ってあげているし。


「そーだそーだ!」
「まあ、ギルドマスターであるオレも同意見だがな……決めるのはオレ達じゃなくてガーベラ自身だ」
「……勇者ガーベラ、改めて、私と一試合してくれないか?」


 アリアさんは真剣な表情でガーベラさんのことを見つめる。その目線だけで相当熱い思いがこもっているのがわかるわ。
 ガーベラさんはゆっくりと立ち上がり、彼のもとまで近づいた。


「わかりました、お受けします」
「おいおい、いいのかガーベラ!」
「大丈夫、もし深傷を負ってもアイリスが治してくれるし。それに見知った人以外と手合わせするいい機会だ」
「さすがは勇者だ、そうこなくては! 今すぐやれるか?」
「今すぐ!? ……まあ、いいでしょう」


 せっかちなアリアさんの提案にガーベラさんは驚きつつも了承した。会議で疲れてるはずなのに、ギルドに来たがったり、こうして戦うのを快諾したり……体を動かしたかったのかしらね。座って難しい話をしてばかりだと、そのあと運動したくなるのもわかるわ。


「二人とも正気かよ。ガーベラ、彼女の前だからってカッコつけてんじゃねーのか?」
「……い、いやぁ」
「図星だな」
「これは図星だ」
「男の子だねぇ」


 なんだ、そういうことだったの。カッコつけなくたってかっこいいのに。無理される方が困るわ。とは言っても、もう承諾してしまったものは仕方ないわよね。


「では始めよう。ここのギルドマスターよ、酒場を兼ねているとはいえ、ここもちゃんと闘技室はあるよな? 貸してくれ」
「仕方ねぇなぁ……まあ、Sランクの冒険者と勇者の戦いだなんて一生に一度も見れないだろうし構わねーけどよ」


 ギルドにはだいたい、自動修復機能がついたあの部屋があるらしい。割と一般的に普及しているものだったのね。お城かお屋敷ぐらいにしかないものだと思ってたわ。
 私達は全員で、ギルドマスターに従って、このギルドにある闘技室へ移動した。今まで入った同じ用途の部屋よりはちょっと狭いけど十分戦えそうなスペースがある。


「じゃ、審判はオレがやっからよ。好きなように戦えや」
「勇者ガーベラ、酒場のギルドマスター、感謝する」
「よろしくお願いします」


 ガーベラさんとアイアさんはお互いに自分の武器を構えた。ガーベラさんはいつもの槍と盾、アイアさんは扉のような巨大な盾二枚。彼のことを知ってる人曰く、あの巨大な盾を振り回して攻撃するのが戦闘スタイルらしい。よく見ればガーベラさんのアーティファクトの籠手と全く同じものを装備している。だからあんな大きなものも振り回せるってわけね。


「……私は勇者に憧れていた。子供の頃から。憧れだった。勇者になれないと知っていながら、伝承の勇者に近づくために強さを追い求めた。そして今、本物の勇者が目の前におり、私と手合わせしてくれるという。……こんな素晴らしいことがあるか」
「じゃあ、俺はがっかりさせないように頑張りますよ」
「よろしく頼む」
「じゃ、始めだ」


 ギルドマスターの声と共に、二人は臨戦態勢に入った。そしてすぐにガーベラさんの方からアイアさんに仕掛ける。


「レイ!」
「効かぬ!」


 ガーベラさんの槍から放たれた光線を、アイアさんは簡単に防いでしまった。まるで効いていない。
 それからガーベラさんは同じ攻撃をその場から動かずに何発も何発も放った。アイアさんはその全てを盾で捌ききってしまう。


「こんなものか勇者ァ!」
「スロウ・レイ!」


 自分から槍を手放したガーベラさん。しかし、今までの攻撃より何周りも強力な一撃。そう誰が見てもわかるのに、アイアさんは盾を構え、回避しようとしない。


「壁立ち二式!」


 そう、アイアさんは盾とその技だけで防ぎきってしまった。投擲された槍は盾に弾かれ、力なく地面に転げ落ちる。


「岩石飛空盾!」


 アイアさんはガーベラさんに向かってブーメランのように盾を投げつけた。おそらく土属性も混じっている。しかし、ガーベラさんはその攻撃こそ狙っていたかのように、先程地面に落ちた得物の下まで、その槍の効果で瞬間移動した。
 

「なんだと!?」
「レーザーメイク・ランス!」


 これは最近ガーベラさんが開発した技。私の魔流創気と同じ要領で『レイ』を槍状に形作り、そのまま武器として扱える。アーティファクトの槍の方を拾わずに、ガーベラさんはその作った光の槍でアイアさんの顔面目掛けて攻撃を仕掛けた。もちろん、アイアさんはその片手に残った盾で顔を防ごうとする。
 

「か、カウンター・インパクト!」
「………」


 突如赤く光るアイアさんの盾。名前からしてカウンター技。しかしガーベラさんはの攻撃が来ることをわかっていたかのように、盾に光の槍が衝突するまえにわざとそれを手放し、そしてガラ空きになったアイアさんの股下から地面に落ちているアーティファクトの槍を蹴飛ばして滑り込ませた。
 そして、自分から槍の柄へ瞬間移動。すなわち、一瞬でアイアさんの真後ろをとってしまった。そこから手慣れた様子でガーベラさんはアイアさんの首と手首を抑え、制圧する。
 最初からガーベラさんはこれを狙っていたのでしょう。身動きが取れなくなったアイアさんの体は、彼の手元に戻ってきている先ほど投げられた巨盾にクリーンヒットした。


「ごふっ」
「キック・レイ」


 アイアさんを解放し、ガーベラさんは光を帯びた脚で彼を蹴り飛ばす。よろけるように数メートル吹き飛ばされたアイアさんの体に、瞬時に手元へ引き寄せたアーティファクトの槍をスロウ・レイで投げた。
 アイアさんは素早くその攻撃を防ごうと、重い一撃を受けてもなお手放さなかった盾を構えた。しかしガーベラさんの槍は途中でカーブを描き、わざとアイアさんの体を回避。彼の真後ろの地面に突き刺さった。
 誰でも見たらわかる、さっきと同じ展開。アイアさんも慌てて盾ごと後ろを振り向いた。でもガーベラさんは移動してこない。
 一方で当のガーベラさんは……光で槍を再び作り出し、それを手にして飛び上がり、アイアさんに向かって投げつけようとしていた。
 はめられたことに気がついたアイアさんは慌ててガーベラさんがいる方を振り向く。しかし時はすでに遅く、ガーベラさんはその槍を投擲……しなかった。飛び上がっただけで攻撃をやめてしまった。
 それが意味することは、冒険者のように戦いに身を置いている人なら理解できる。


「……参った。完敗だ」
「お、おう、終わりだ終わり!」
「何もいうことはない……これでこそ勇者だ。理想通りでよかった」


 アイアさんは満足した表情で自分の盾二つをスペーカウの袋にしまった。……ガーベラさんは勇者に任命されてから、ランスロットさんと基礎と槍技を、私達や他の騎士団長達とそれ以外を一生懸命鍛錬し続けている。私達はガーベラさんの戦法を理解しているから実感湧かなかったけど……なるほど、初見の人相手だとここまでの強さを発揮するのね。


「しかし、まさか私相手に無傷とは」
「いや……俺も何回か危ない場面がありましたよ。それにアイアさんも結構攻撃を加えたのに大したダメージを負っていない。すごい頑丈さだ」
「おうおう、よく言うぜ。楽勝だったじゃねーか。アイリスの前であんなモジモジしてたチェリーボーイがここまで強くなるなんてなぁ」
「そ、それを言わないでください……」


 私の隣にいたジエダちゃんが、彼がカッコ良かったかどうかを聞いてきた。そりゃあ、もちろんかっこよかった。私に対してカッコつけるためにこの戦いを受けただけはあると思う。
 素直にカッコ良かったと答えると、周りの人達が囃し立てるように私の言葉をガーベラさんに大声で声真似しながら投げかけた。
 ガーベラさんはひどく赤面をした。もちろん私も。



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