上 下
319 / 378

313話 アーティファクトを貰うのでございます!

しおりを挟む
「ねー、みんな、ちょっといい?」


 それぞれ一緒に特訓する相手が決まって和気藹々としていた頃、王様がそう、みんなに声をかけた。そういえばまだ今日はお開きとか言ってなかったわね。


「今日はもう特訓せずに帰ってもらおうと思うんだけど、双子ちゃんとアイリスちゃん達には残って欲しいんだ。あ、念のためにケル君とガーベラ君も」
「お父様! 私、リンネちゃんとロモンちゃんを愛で……一緒に遊びたかったのに、まだ何かご用事があるんですの?」
「うん、アーティファクト渡さなきゃ」


 そうだった、アーティファクトね。たしか植木鉢で二つ、ユーカン草の種で一つ、計三つのアーティファクトをこのお城の倉庫から選ばせてくれるっていう話だったかしら。現金と交換でもいいらしいけどね。


「てなわけだから、五人とも僕のもとに集まって」


 私達はそれぞれの師匠となる人のもとを離れ、王様のところに集まった。ケル君はロモンちゃんの仲魔だから当然として、ガーベラさんはなんで呼ばれたのかしら。


「集まってくれたね。あ、あとの人は解散でいいからね! ……じゃあまず、アーティファクトにするかお金にするか聞こうかな」
「あ、あの、俺は……」
「ガーベラくんには勇者として僕からアーティファクトをいくつかプレゼントしようと思ってね。魔王と戦ってもらうっていうんだから、勇者の装備面も強化しなきゃダメじゃない」
「なるほど」
「じゃ、アイリスちゃん達はどっちか選んで」


 実はもう私達の中で話はつけてある。私達はお仕事したり、ダンジョンのお宝を売ったり、大会で起こる賭けで数億ものお金を稼いでしまったりしている。だから貰うのは全部アーティファクトってね。


「全てアーティファクトでお願いします」
「了解だよ! じゃあさっそくレッツゴー!」


 王様を先頭に、私達四人と一匹は後をついていく。なんだか、私とガーベラさんが保護者として子供達の面倒を見ている気分。いや、王様の方が二倍以上年上なんだけども。
 お城の中を練り歩くうちに宝物庫にたどり着いた。いくつかの扉に分かれており、それぞれの部屋で内容物が違う。王様は番兵さんに声をかけてから自分の持っている鍵で『アーティファクト用』と記された部屋の戸を開けた。


「じゃあ中に入ってね」


 私達全員がその倉庫の中に入ると、王様は最後に入って戸の鍵を閉めた。目の前にはずらりと丁寧に飾られたアーティファクトがたっくさん。パッと見だけでも五十個くらいはある。
 私達でもすでに五個はアーティファクトを所持しているわけだけど、さすがにお城だものね。これだけあって当然なのかも。


「今見えてるアーティファクトはみんな、あげちゃっても大丈夫なやつなんだ。でもあの先にある黒い扉見えるよね? あの中にあるものは僕たちにとってきちんとした用途があったり、貴重だったりするものばかりが納められてるの。この間アイリスちゃんからもらった植木鉢みたいにね。だから、この部屋にあるものから選んでね」


 私達のものだったあの植木鉢がそんな場所にきちんと仕舞われるとは、やっぱりかなり有用なアイテムだったのね。王様なら今後も有効活用してくれることでしょう。
 ちなみに、ケルくんの鎧も元々はこの手前側の部屋にあったものらしい。あんな強い装備品で手前側ってことは、あげても大丈夫なアイテム群とはいえ強力なものが沢山ありそうね。


「あ、これ!」


 まず最初にリンネちゃんが、剣が置いてあるコーナーで早速立ち止まった。十本くらい置いてあるうちの一本をマジマジと眺めている。その目線の先には、リンネちゃんの持っている光属性の剣のアーティファクト、『聖剣クルセイド』によく似た剣が飾ってあった。ただ、クルセイドは鞘も含めて白色が目立つ剣だけど、リンネちゃんが今見てる剣はその白色の部分が全て黒色になっている。
 王様がリンネちゃんの元まで近づいてきた。


「それかー。見た目はかっこいいけど、あんまり使える片手剣じゃないんだよねー」
「そうなんですか?」
「うん。どうせ選ぶならリンネちゃん、別の片手剣のほうがいいよ。ほら、この隣のとか好きなだけ刃を伸ばせるって効果持ってるんだよ」
「えっと、ちなみにこの黒い剣はどういう効果なんですか?」
「それはねー」


 リンネちゃんが見ていた黒い剣の名前は、『魔剣ヴィランド』。説明を聞く限りではなんと、リンネちゃんの『聖剣クルセイド』の闇属性バージョンの剣だった。その剣で闇属性の攻撃をするほど、相手は闇属性に弱くなるっていう効果ね。
 王様曰く、三年くらい前、ある冒険者からこの剣が献上されたものの、闇属性を扱える剣士なんて人間には滅多におらず、人型の魔物であったとしても闇属性の剣技をきちんと扱えるようになるまで育てるのは難易度が高すぎるため、全く使えない代物として扱っていたとのこと。売ろうにもアーティファクトとしては格安でしか売れないため手放せず、困っているらしい。


「そうなんですか……じゃあこれ、ぼくもらいますよ」
「あれ、そういえばリンネちゃんって闇属性の剣技使えるんだっけ?」
「はい! というかぼく、すでに似たようなこれを……」
「なぁに? どれどれ」


 リンネちゃんはクルセイドを取りだして王様に見せた。王様は一瞥しただけでその剣がどのようなものか効果と名前までわかったらしい。どうやら王様、かなり熟練した鑑定特技を持ってるみたい。


「なるほど、クルセイドかぁ。すでにリンネちゃんはヴィランドの光属性版を持ってたんだね! 光と闇の剣技を扱える人間の剣士なんて、リンネちゃんぐらいしか居ないんじゃないかな。グライドくんも基本の六属性までだし。いいよ、ヴィランド、リンネちゃんにプレゼントしちゃう!」
「プレゼント……?」
「うん、物々交換とは別件であげちゃうってことだよ」
「い、いいんですか!?」
「その剣扱えるのって実質リンネちゃんしかいないし。いいんだよ、タダで持ってってもらって。その剣もずっと、リンネちゃんが現れるのを待ってたのかもね」
「わぁ! ありがとうございます!」


 本当にタダで貰っちゃったのね。いくらリンネちゃん以外に使えないからって良かったのかしら。あ、でも王様って強い人を見るのが好きなんだっけ。リンネちゃんに期待を込めてるっていうのもあるのね、きっと。あと倉庫の整理。
 リンネちゃんは王様の手から『魔剣ヴィランド』を受け取った。これで私の体を使った双剣も役目を終えたことになるのかな。


【ロモンはなにか欲しいのないのかゾ?】
「んー、私は思いつかないなぁ。ケルはどう?」
【オイラは鎧で十分なんだゾ。ロモンは杖とかどうかゾ?】
「杖かぁ」


 一方でロモンちゃんはどんな種類のアイテムをもらうのかすら決まってなかったみたいね。そしてケルくんはいらない、と。
 私も私自身がアーティファクトみたいなものだし、欲しいものないなぁ。戦闘面じゃなくて、あの植木鉢みたいに生活で実用的なものを探してみようかしら。
 そう考えて歩き回ってると、ちょうど良さそうなものが目に入った。鍋だ。アーティファクトの鍋。これはどういう効果なのかしら。三つ同じものが並んでるし。


「おや、アイリスちゃん。その鍋が欲しいの?」
「王様! ちょっと、どのような効果か気になりまして」
「『無限の鍋』っていうんだよ、それ」


 曰く、この鍋は調理を終えるまで普通の鍋と変わらないのだけど、調理したあとに効果を発揮する。料理を取り分けたあと、もし少しでも鍋の中にその料理が残っていたら、付属の蓋を閉め十秒待つことで取り分ける前に戻る。植木鉢みたいに使用制限もない。なるほど、無限の鍋とはよく言ったものだわ……是非、うちの家には欲しいものじゃない。なんせどれだけ食べても満たされない子が二人もいるんだもの。


「この鍋ね、本当なら使える貴重品として向こうの部屋で管理するところなんだけど、このお城の食堂に一つ、向こうの部屋に予備として一つ、そしてこの部屋に三つ、計五つあるからね……」
「なんでそんなにあるんですか!?」
「僕が騎士たちに頼んでクリアしてもらった一つのダンジョンから四つ、違うダンジョンでもう一つ見つかったの……」


 そ、そんなことってあるのね……。ダンジョンから同じアーティファクトが二つまでなら聞いたことあるんだけど。


「とりあえず私はこれをいただきますね」
「うん、いいよ!」

 
 個人的にとってもいいものをもらったわ。今日はガーベラさんのお家に行くつもりだから、明日の夕飯にでも早速使おうかしら。



#####

次の投稿は11/25です!
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

処理中です...