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312話 これからの特訓計画でございますか?

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「あ、あれ? 見えてた、よね?」


 頭の上に疑問符がたくさん浮かんでいるのが見える。そんなリンネちゃんの態度にナイトさんは確認するようにそう言った。実際はどうだったか、本人が話してくれなきゃわからないわよね。


「リンネ、どうだったんだ? パパとナイトさんの戦い、見てくれてたんだろ?」
「う、うん。見てた」
「どんな感じだった?」
「えっと、同じくらいの速さなのにお父さんがすごく戦いにくそうにしてたのが印象的だったかな。本来の実力を出しきれてないというか……」
「そこまで見えてるなら、『逆加速』っていう特技、あるよね? そうじゃなかったら僕の動きは見えないはず」
「……うーん、ぼくの特技一覧にはそんなのないですよ?」
「あれぇ?」


 今度はナイトさんが首を傾げた。じゃあどうしてリンネちゃんにはナイトさんの動きがお父さんと同レベルに見えたのかしら。
 そんな剣士達の会話に、ロモンちゃんが入ってきた。何か気がついたことがあるみたい。


「お姉ちゃん、あの昨日のアイリスちゃんから武器を取り上げた時の動き!」
「あれがどうかしたの?」
「お父さんにも見えなかったんだよね? お姉ちゃん」
「ああ、見えなかった。思えば今回のナイトさんに近かったな」
「ズバリ、お姉ちゃんはそのナイトさんの特技を覚えかけてる最中なんだよ! まだ特技に載せられない段階ってこと」
「そういうことか!」


 なるほど、それなら全部の辻褄があうわね。今までそんな兆候もなかったから、おそらく私のあの緊急事態のせいで発動したのでしょう。なんだかちょっと複雑な気分。
 ナイトさんはリンネちゃんに対して感心したように頷くと、彼女に目線を合わせてしゃがみ、説得するように話しかけた。


「リンネちゃん、僕に『逆加速』の習得、手伝わせてくれないかな」
「いいんですか?」
「もちろん。……複雑な事情があるんだけど、『逆加速』は今まで僕だけの特技だったんだ。それを君は何も教えてないのに自力で掴みかけている。とんでもないことなんだよ。賢者の石であるアイリスちゃんと毎日一緒に居たのはかなり大きいのだろうけれど、こんな才能見過ごせない」
「……ぼくがすごいってこと?」
「そういうことだぞ、リンネ」
「何より、逆加速の中でグライドくん並みの速さで動くとどうなるのか見てみたい」


 た、確かにそれはみてみたいかも。側から見た速さは同じに見える手段の二つを掛け合わせたらどうなるのか。間違いなく生物最速の速さを手に入れるんじゃないかしら。リンネちゃんはまだ夢見心地なのか、よくわかってないみたいだけどね。
 ……突然、お父さんが何かを思い出したかのように王様の元へいった。そしてすぐにリンネちゃんのところに戻ってきた。何かの確認を取ってきたようだけど。


「リンネ、言うの忘れてたんだが、明日からしばらくパパと毎日特訓できるようになったぞ」
「……えっ! いいの? 騎士さん達は?」
「副騎士団長に任せるよ。個人で強力な力をもつ人物を増やしたいっていう王様の方針なんだ。だからそこに、ナイトさんを混ぜてほしい」
「うん、わかった! ……あっ、でもアイリスちゃん達とも特訓続けたいな。魔法や体術も疎かにしないほうがいい気がするんだ」
「じゃあそこらへんしっかりと話し合って決めよう。いいですか、ナイトさん」
「もちろん」
「わーい!」


 リンネちゃんは嬉しそうにお父さんに抱きついた。好きな時にお父さんと特訓ができる、きっとリンネちゃんにとって何より嬉しいことでしょう。ナイトさんとの特訓っていう、よりステップアップできるメニューも含まれている。これ以上のことはないでしょう。
 そんなお父さんの発言を聞いて、お母さんとおじいさんが思い出したようにロモンちゃんに声をかけた。この流れからして……。


「ロモン、実は私達もロモンと一緒に特訓するよう、王様に言われたの」
「そうなの?」
「ああ、ワシと同じ力の片鱗が見えておるからの。ここでワシが全力で特訓に付き合えば、ロモンはいつかワシを……!」
「とても嬉しいけど、お母さんはお父さんみたいに副騎士団長さんに任せればいいとして、おじいちゃんは……総騎士団長だよね? 大丈夫なの?」
「問題ない、孫優先じゃ!」


 ほ、本当にそれでいいのかしら。でもまあ、とりあえずこれで今後、ロモンちゃん(とケルくん)はお母さんとおじいさん、リンネちゃんはお父さんとナイトさんで、それぞれ二人ずつの師匠を得たことになるわけね。
 そして私との三人での特訓も欠かさないと言っていた。つまり私こと賢者の石の効果も継続的に得られることになる。どうなっちゃうのかしらね……二人とも。
 ところでガーベラさんはランスロットさんと話し込んでる。どうやらランスロットさんもガーベラさんの師匠として訓練に付き合うことになったみたい。まあ、妥当よね。
 ……でも、これで結果的に私があぶれてしまった。私だけ師匠ポジションの人がいない状態じゃないのこれ。どうしましょう。ロモンちゃんとリンネちゃん、ケルくん、ガーベラさん、それぞれが空いてない時は私は一人ぼっちなのかしら……?
 そう思っていたら、私に近づく足音が。


「……アイリス、オレと弓………」
「アイリスちゃ~~ん! ちょっといいかしら~~!」
「ペリドットさん?」
「実はね~~、私、アイリスちゃんにお付き合いしてほしいことがあるの~~」
「………」


 ペリドットさんが私に手を振りながら駆けてきた。……タイガーアイさんは何か私に用事があったのかしら。よくわかんないけど、ペリドットさんが私に近づいたら黙って引っ込んでしまった。そんな重要なことじゃなかったのかな。
 とりあえずペリドットさんのお話を聞こう。きっと、私が役に立てることかもしれない。


「はい、なんでしょう!」
「私、実は光魔法と闇魔法を一般に普及できるよう研究してるんだけどなかなか難しくって~~。でも聞けばアイリスちゃんだけじゃなく、一緒にいた双子ちゃん達までそれらの習得ができてるっていうじゃないの~~。つまり、賢者の石の効果にあやかって、二属性の研究を進めちゃいたいわけよ~~!」
「なるほど……!」
「ノアちゃん達みたいに、特訓をつけてあげられるってわけじゃないんだけど~……双子ちゃんも彼氏くんも取られちゃったでしょ?」
「ま、まあ……」
「だから付き合って! 魔法の未来のためよ~~! アイリスちゃん、魔法を極めちゃってるみたいだし、うってつけなのよ~」


 私も、ロモンちゃんもリンネちゃんもケルくんもすんなり覚えてしまったため忘れがちだけど、本来、光魔法と闇魔法はまともに覚えられるものじゃない。それこそ人間は賢者の石か類まれな才能がないと不可能。うちの双子はその両方を持っていたから可能だった。
 確かに光魔法と闇魔法を一般に普及させられるようにしたいのなら、私が協力するのが一番でしょう。ペリドットさんのお話、乗っちゃおうかしらね。


「わかりました、私が協力できることは協力します!」
「わ~~! ありがとね~~! きっと五百年分は魔法の研究が進むわ~~! ……流石に大袈裟かしら~~?」
「でも、その心意気で頑張りますよ」
「もちろん、私の魔法の技術もアイリスちゃんに教えてあげる。タダで研究お手伝いさせるっていうのも悪いからね~~」
「ありがとうございます!」


 さっき特訓をつけてあげられるわけじゃないって言ってなかったっけ。教えるのと特訓に付き合うのは別ってことかしら。……この国で一番と言われるほどの魔法使いの技術。とても気になる。
 とりあえず、私はこれからしばらく、ペリドットさんと頑張ろう。きっと大幅に強くなるであろうロモンちゃん、リンネちゃんに引けを取らないくらいになれるといいな。



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次の投稿は11/18です!
追記:申し訳ない!! 今の今まで投稿するのを忘れていました!
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