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307話 お屋敷での朝でございます!

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「ふぁぁ……」


 私は起きた。両脇を見ると、いつも通り双子がまだ眠っていた。ただこのベッドは三人用じゃないからかなりぎゅうぎゅうに密着してる。かわいい。すごく得した気分。


「ん……ふぁ……せまい……」
「……もう朝?」
「ええ、朝ですよ」
「はっ! アイリスちゃん生きてる!?」
「大丈夫!? 死んでない?」


 そう言ってロモンちゃんとリンネちゃんが二人一緒に私の胸に耳を当てた。多分心臓の音を聞こうとしてるのだと思う。……私の心臓って石なのよね、多分。あまり考えたことなかったけどなんで脈打ったりしてるのかしら。……まあいいか。


「ふぅ、よかった」
「アイリスちゃん、おねえちゃん、おはよ!」
「アイリスちゃん、ロモン、おはよ!」
「おはようございます」


 私たちは私のベッドから降りた。そして双子は着替えをしに自分の部屋まで戻っていった。その間に私に自殺をしないよう、再三注意して。もちろん私も着替える。この時間、いつも朝の下着姿の二人を見てむふふな気持ちになってたから部屋を別れて少し、いや、かなり残念。
 ……そういえば朝ごはんはどうなっているのかしら。もうできてるのかな? ああ、そういえばお母さんが呼んでくれるって言ってたっけ。……自宅で身内以外が作ったものを食べるのは初めてだからなんだか緊張するわ。
 しばらくして着替えを終えた二人が私の部屋に再び戻ってきた。今日から着るものの相談とかできないはずなのに服のテーマが同じだ。さすがは双子。


「……ふー、よかった」
「ここまできたらもうぼく達が密着してなくても大丈夫そうだね?」
「そ、そうですか? もう少し密着してても良いのですよ?」
「それもいいけど、このままだといつかガーベラさん嫉妬するかもしれないし」
「そだね!」


 ガーベラさん、私がロモンちゃんとリンネちゃんとイチャイチャしてて嫉妬することなんてあるのかしら。それは流石にないと思うけど。いや、でもガーベラさんが私のことに関して誰かに嫉妬したことないからわからないな。ちょっと見て見たい気もするな。やっぱりこのまま二人にずっと密着してもらわないと。ふふふ。


「……本当は嫌だけど、これも返してあげる」
「良いのですか?」
「もう死なないっていうの、信じてるからね」
「ありがとうございます」


 リンネちゃんから私の得物を返してもらった。昨日、取り上げられた時の小さな刀のままになっている。私はもう死にたくないし昨日のことも反省してるから、さっさと別の姿に変えてしまった。それからスペーカウの袋に投げ込んだ。
 そして思い出した。私がこの小刀を自分の胸に差し込もうとしたその直後のことを。あの時、ロモンちゃんは人間である私の中に魔人融体で入り込み、リンネちゃんは私でも全く気がつけないほどのスピードでこれを取り上げていった。あれはなんだったのかしら。ちょっと聞いてみようかな。


「あの、ロモンちゃん、リンネちゃん」
「なーに?」
「どしたの?」
「昨日、あの時、ロモンちゃんとリンネちゃん、二人揃ってなにか凄いことしてませんでした?」
「え、ぼくはしてないよ! 普通にアイリスちゃんの武器を取り上げただけ! でもロモンはたしかに人のままなアイリスちゃんに入り込むっていう、おじいちゃんみたいなことしてて凄かったよね!」
「え、私はしてないよ! 普通にいつも通りアイリスちゃんに魔人融体して動きを止めただけ! でもお姉ちゃんはたしかに動いた様子もないのに一瞬で手元にアイリスちゃんのを武器を持ってて凄いかったよね!」
「……ん?」
「……ふぇ?」


 どうやら二人とも一方がしたことは気がついてるけど、自分がしたことには全く気がついてないみたいね。あの一瞬ですでに推定でSランクの実力はある二人の、さらにすごい一面を見れたけど、自覚がないっていうのは……秘められてるものがまだまだあるということよね。素敵。


「あ、たしかにぼく以外の人、みんなすっごくゆっくり動いてたなぁ。アイリスちゃんも止まってるように見えたし」
「あ、たしかに普通は人間のアイリスちゃんに魔人融体なんてできないよね。魔人融体の魔は魔物の魔で、人は人間の人なんだから。これじゃあ人人融体だもんね?」
「ロモンのはおじいちゃんみたいだよ。もしかしたらロモン、そのうちお母さんより凄くなるんじゃ……!?」
「お姉ちゃんの、その周りがゆっくりに見えたっていうのはお父さんもできるのかな? 後で聞いてみようよ」


 とりあえず二人の言い分では、とにかく私を助けたかったので無意識で行ったことらしい。嬉しかったので二人を抱きしめさせてもらった。その抱きしめた状態のまま五分ほど過ごしていたら、ついに朝ごはんに呼ばれた。私たち三人は一階のリビングまで降りる。
 お母さんとお父さん、そして見慣れない中年の女性がいた。あの人がお手伝いさんなんだろう。おじいさんは見当たらなかった。


「「おはよう、お父さん、お母さん!」」
「おはようございます」
「私の娘達よ! 可愛いなぁ今日も」
「「えへへ」」
「あの、ところでおじいさんは?」
「お父さん? お父さんなら先にお城へ行ったわ。ちょっと王様に交渉することがあるんですって」
「そうなんだー」

 
 あの人は復職してから本当に忙しそう。オーニキスさんによって力を無理やり封印されて働けなかった七年間だけど、あの人にとっては孫とゆっくり休める期間でもあったんじゃないかと思えちゃうわ。…….それを口車にみんな騙されたって可能性はあるわね。


「そうだ、お父さん。少し聞きたいことがあるんだ」
「んー、なんだいリンネ。なんでも聞いちゃいなさい!」
「周りが止まって見えることってある? もう、ぴったりと」
「ああ、多少はあるよ」
「やっぱりそうなんだね! 実は昨日、アイリスちゃんを止める時にみんながゆーっくりに見えたから」
「そうか……なあ、リンネ」
「ん?」
「あれ、フェルオールとか使ってないよな」
「あの時は使ったないよ。使う余裕なかったもん」
「……正直に言おう。リンネがアイリスちゃんの武器を取り上げたのはわかってた。しかし、どうやって取り上げたのか……パパにも見えなかったんだ」
「え?」
「正確には、私やリンネの動きを普通の人たちが見るような感覚で、昨日のあの瞬間、私はリンネを見ていたんだ」
「……?」


 リンネちゃんは首を傾げた。しかし今お父さんはかなりとんでもないことを言った。……お父さんはおそらく、この国、いや、この世界で最速の人間。そんなお父さんがリンネちゃんを目で捉えきれなかった。それって相当なことだと思うわ。お父さんもだんだん目を輝かせてきている。


「リンネは……もうパパを超えたんじゃないか?」
「えっ、それはないよ! ぼくはまだまだだよ」
「じゃあ潜在能力か……! なぁ、ママ!!」
「あら、それならロモンだってそうよ! 人の状態のアイリスちゃんに魔人融体したじゃない、お父さんみたいに」
「やっぱりあれ、私たちの勘違いではなくて、実際に二人とも起こしてたんだな! あの行動を!」
「……ええ、パパ! 本当にこの子達は一瞬でも私達を超えたのよ!」
「今日はお祝いだなぁ……!」


 なるほど、お母さんとお父さんはしっかりロモンちゃんとリンネちゃんの行動を見てたけどあまりの出来事に勘違いか見間違いだと思ってたのね。でも今こうして現実に起きたことだとわかった。
 まだ十四歳の娘に、将来確実に自分たちより大物になるという先見ができたためか、朝食の席にもつかず二人ともはしゃぎまわっている。……お手伝いさんも微笑ましい表情で見てくれてるわ。きっとこの人にも娘自慢しまくってるのでしょうね。


「ぼくたち、そこまでのことした感じしないよね?」
「うん、しないね。きっとアイリスちゃんが賢者の石として本領発揮したんじゃない?」
「きっとそうだよ」
「……別に私の『教授の叡智』の表記に変更はありませんよ。つまり本当に二人の潜在能力なのですよ、あれは」
「……喜んでいいのかな?」
「やっぱり実感わかないなぁ」


 今日はこのテンションのままお城に行くことになりそうね。ええ、きっと両親の娘を自慢して回る姿を拝見できることでしょう。


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