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291話 この国の王様でございます!

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「じゃあ彼氏君はここでお留守番する?」
【ガーベラはオイラより先に魔王軍幹部の存在を察知してアイリスを助けたんだゾ。そう考えると関係なくはないし、付いてくるだけ付いてきた方がいいんじゃないかゾ? ここに居たって意味ないだろうし】
「それもそうね。それじゃ、付いてきてくれる?」
「わかりました」
「では行きましょう」


 私達は兵士さんの後をついていく。正直、階段を登るだけでしんどい。兵士さん二人はもっと辛そうで、腰の弱い老人みたいな歩き方になっている。ガーベラさんに一言断って彼を実験台に、回復魔法で楽になるかどうかを今試してみたところ、あんまり効果はなかったみたいだった。残念。
 やがて私達が城内で来たことのない場所までやってくる。豪華絢爛な扉の前に、直立したまま苦悶の表情を浮かべている兵士さんが複数人いる。ここが玉座の間ね。厳重なのはいいことだけどこういう時ってやっぱり兵士ってお仕事は大変そう。


「はぁ……はぁ……と、とりあえず声が……かかっているのは……」
「ああ、皆まで言わなくても大丈夫ですよ。俺はここで声がかかるかアイリス達が戻ってくるまで待ってます」
「……! お、お願いします……」


 というわけでガーベラさんは扉の前で待機、私達は中へ入った。国王様ってどんな方かしら。顔が整った四十代後半の綺麗な赤髪をしてる方だとは本か何かで読んだ記憶はあるけど。イケてるおじ様って感じかしらね? 少し期待。
 中にはすでにお父さんとおじいさんが居た。ターコイズ家全員集合。私やケル君のような本来ならペットである存在も含めて家族全員がこの国で一番偉い呼ばれるって凄いことよね。


「パパ、お父さん、国王様と預言者様は? 大臣様も見当たらないけれど……」
「この空気だ、皆んなと同じように容態を悪くなされて三人揃って休憩中だよ。もうしばらくしたら来られると思うけど。リンネとロモンとアイリスとケルは……大丈夫そうだな。流石は私の愛娘達」
「えへへ……」
「やわな鍛え方はしてないからね!」
「まったく、まだ子供であるうちの娘達よりへばってるなんて、ウチの部下達の鍛え方を見直さなきゃダメか……?」


 どうだろう、割とこの空気の影響は魔力の量とかでも変わってきそうだからそのせいだとは思うけど。肉体的にも魔力的にも強くなきゃ耐えられない……感じかしら?
 それはそうと、お父さんさんが私がオシャレにしてることに気がついたみたい。


「アイリス、なんで今日はオシャレを……あっ、ロモンの勘で今日は偉い人に会うってわかってたとか?」
「あら残念ねパパ。この子、事件が判明するまで彼氏君とデートの最中だったのよ」
「……………そっかぁ」
「はっはっは! グライド、それ、それじゃよ。ノアとお主が付き合い始めた頃のワシの心境は!」


 お父さんが弱り、おじいさんは笑っている。なんにせよ本当の娘のように思ってくれるのはやっぱり嬉しい。今、ガーベラさん本人が扉の前で待機してるって知ったらお父さんはなんて反応をするのかしら。
 程なくして玉座付近にある扉が開いた。中からすごく可愛らしくて美少女で、宝石みたいな鮮やかな赤い髪をしたショートカットの女の子が調子悪そうに出てくる。きっと見た目の年齢的に考えてお姫様ね。ロモンちゃん達と同い年くらい。


「あー、きついよぅ……」


 そう言いながら彼女は玉座含めお妃様用、お姫様用にある三つの椅子のうちど真ん中の玉座に座った。さらに腰に下げてる高級感あふれる装飾がされたスペーカウの袋から王冠を取り出し、それを被る。この光景に驚いてるのは私とケル君くらいで、大人達は当たり前のように振舞っている。ロモンちゃんとリンネちゃんもソワソワしてるけど驚きはしていない。


「あー、待たせてごめんね。あと大臣と姫と妻は完全に寝込んじゃった。姫と妻はともかく大臣も頭だけであの地位まで来たから脆弱でさ……。僕も長時間は持たないかも」
「陛下、ご無理なさらぬよう。なんなら明日でも」
「いや、なるべく先延ばしにしたくない案件なんだ」


 おじいさんが彼女……いや、彼のことを陛下と呼んだ。つまりほんとうにこの女の子みたいな方がこの国の国王様なのね。一体どうやったらこんな見た目の男性が出来上がるのかしら。私より身長低いんじゃないかな。


「預言者もへばってるけど無理やりでも来るって。……あ、君達二人、リンネちゃんとロモンちゃんでしょ! 十年ぶりだなぁ」
「「お久しぶりでございます」」
「二人とも大きくなったよ、うんうん。相変わらず髪型以外そっくり。……この空気耐えられるってことは両親目指して相当鍛えてるんだね。それでもう一人の子が噂に聞くアイリスちゃんって子だよね? あと君はケル君かな?」
「は、はい! お、お初にお目にかかります。アイリスと申します」
【同じくケルですゾ】


 声も思い切り年頃の女の子だ。ただ姫がいるから四十代後半っていうのは本当らしい。なるほど、顔立ちが整ってて髪が赤くて四十代後半……嘘は言ってないのね、嘘は。


「四人とも活躍はたくさん耳に入ってるよ。主にそこの親バカ孫バカの三人から。耳にタコができるほど自慢するんだよ」
「陛下も常日頃から姫様の自慢するではありませんか」
「自分の娘を自慢するのは当たり前だよね」
「当然ですな」
「最もです」


 どうやら王様とおじいさん達はかなり良好な関係みたい。娘の自慢をしあうなんて。はじめにきついって呟いていたのにお話を始めた途端元気になったように見える。王様は私の方を振り向いた。


「それはそうとアイリスちゃんもケル君も目を丸くしてるね、どうせ僕の見た目に驚いてるんだろうね? 別に変装の魔法使ったりしてないんだよ、こういう体質なの」
「申し訳ありません、姫様かと……」
「構わないさ。仕方ないよ、みんな絶対言うもん。そこの双子なんて僕と初対面の時、驚きすぎて顎外したんだからね。二人とも」
「懐かしいですな」


 やっぱりそうよね、誰でも突っ込むと思うわ。流石に体質で説明できるものとは思わないけど。ロモンちゃんとリンネちゃんはかなり昔の記憶を掘り起こされて、同じ顔で恥ずかしがっている。


「あ、僕の自己紹介がまだだったね。初対面の相手には挨拶しないと。えっと、僕がこのジュエル王国の国王、ルビィ・ジュエルだよ! お見知り置きをね。そういえば今回はターコイズ家全員揃ってるんだね。そろそろ本題に移ろっか」
「それでは陛下、ご用件とは一体なんでしょうか? 預言者様は何を見たんです?」
「そう……それね」


 お母さんがそう問うと、王様とおじいさんの顔が一気に険しくなった。事態が飲み込めてないのでよくわかんないけど、さっきまで穏やかだった二人がこうなるんだからきっととてつもない内容なのでしょう。


「まずは預言者呼ばなきゃ。……グライド、向こうの扉で倒れてるはずだから肩貸してあげて」
「承知しました」


 私達からみて右のほうにある扉にお父さんは向かっていく。中に入り、一人の今にも死にそうな表情をしている老人を抱えててすぐ出てきた。


「あっ……あれは流石にやばいな。確かアイリスちゃんはこの国で一番と言っていいほどの回復魔法のエキスパートだったよね。彼を看てあげられる?」
「は、はいっ」


 私は預言者さんのもとに駆ける。この空気に対して私の魔法が効果がないことはわかってるけど、死にそうなほどなのは流石に別の病気があるかもしれない。とりあえず最上級の回復魔法をありったけの魔力を込めて放った。……やっぱり、原因は空気だけじゃなかったのか顔色がみるみる良くなっていく。



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