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276話 私の新しい武器でございます!

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「帰ったら絶対アイリスちゃんイジメてやる」
「私たち怒ったもんね!」
「ねー!」


 ロモンちゃんとリンネちゃんがニコニコしながらそう言った。お仕置きされるのは嬉しいしご褒美なんだけど、正直私自身も食べたものを出しそうになるほど二人の膨らんだお腹をつついたのは反省している。特に膨らんだことによって露出してしまったおへそを中心にイジりまくったから、さぞかし気分が悪かったことでしょう。


「ふへへ……何をされちゃうのでしょうか」
「とりあえずおへそをグリグリしたり、お腹摘んだりして……二人掛かりで色々やるよ!」
「覚悟しててね!」
「はい、楽しみにしています」
【なんで喜んでるんだゾ……?】


 こうして戯れてるあいだにいつも通っているギルドの横のお店に着いた。アイテムの鑑定をしてもらうためにここを訪れるのも久しぶりね。消耗品を買ったりはよくしてるけど。さっそく鑑定してくれるおじさんに話しかけましょう。


「鑑定お願いします!」
「ん、なんだ嬢ちゃん達がこの受付に来るのも久しぶりだな……またアーティファクト見つけたのか?」
「そんなところです」
「そうかい、じゃあこっち来な」


 カウンター裏へ通されて地下室へ。特に巨大なものでもないのにわざわざお店から別の部屋へ移動するのは、冒険者の中には自分の所有するアーティファクトの効果が他者にバレるのが嫌な人もいるため。さっそく私は例の変化する武器を取り出した。ケル君の首輪につけてる指輪も外して手渡す。


「ふむ、この指輪の方は比較的多く出てるやつだな。有名なやつだ」
「やっぱりそうでしたか。ではこっちの武器は?」
「どれどれ……ふーむ……」


 これは鑑定にそこそこ時間がかかった。でもおじさんはきっちりと効果のほどを教えてくれる。私の新しい得物となるアーティファクトの名前はメタモルアーム。
 アンデットのタスキード着たボスが見せてくれた通り、自分の好きなように武器あるいは防具に姿を変えられる代物。少しだけこのアーティファクトに魔力を送り、その時に好きな武器か防具思い浮かべることで変化する。ただ武器か防具でなきゃダメみたい。例えば包丁にはできるけど鍋にはできないってことね。変化する仕組みは多分、魔法を発現する方法と一緒かもしれない。
 ただ武器や防具なら何でもかんでも変化できるということではなく、一定の限界はあるらしい。だいたい所有者本体の体積の2、3倍ぐらいまでと聞かされた。だから人間状態の私じゃ何百キロもある鈍器を作るのは無理。……痩せ型だから尚更ね。
 そしてもう一つ、弓や投石機のように何かを放つような武器の場合、本体には変化できるけれど矢や石には同時に変化しない。また小手やグリーブのように別個に分かれて1セットと数えられるようなものはどちらかしか変化することはできないという条件があるみたい。
 アーティファクトの武器には個体差はあれど最低限の道具としての強さは保証される。人の手で作られた道具は素の力で同じ系列のアーティファクトには破壊力や頑丈さで勝てないようになっている。あとは付与された効果次第ね。
 それで私のメタモルアームは、武器自体の強さとしてはアーティファクトらしく最強レベルだしアーティファクトについてる基本的な効果は全部ちゃんと付与されてるみたいなんだけど、それらを除いたら変化することができるということ以外に特別な効果がないみたい。ロモンちゃんの盾みたいにバリアを張って宙に浮けるだとか、リンネちゃんの剣みたいに所有者の光属性の威力を高めて敵の光属性への耐性は下げるだとかはないってことね。ただ、自由に変化できるため刃こぼれしたりしてもすぐに直せるらしい。その点はなんだか私の体を使った装備品みたい。これが私の得物の効果。


「つまりシンプルってことなんだね」
「形取ってる武器ごとに効果が付いていても把握するの大変だし別にいいんじゃないかな」
「そうですね、今まで使っていた杖剣のように光魔法と回復魔法の威力が上がる効果は付いていませんが……もともとあまり私には必要ない物でしたし」


 自然生成されるダンジョンから出てきた私ぴったりの武器。なんだか嬉しい。使いこなせるかどうかは別として。
 私たちはおじさんにお礼を言ってからお店を出て宿に戻った。


「それで今まで使ってた杖剣はどうするの?」
「サブウェポンですかね。とっておきますよ」


 武器を奪われてピンチになる状況だってないとは限らないものね。それに私の体を使ったことには変わらないんだからもうちょっと大切にしたい。


「じゃあまずなにか武器に変えてみてよ!」
「なにがいいですかね?」
「ナイフとか?」
【鉤爪とか?】
「ああ、いいねそれ! 鉤爪のアーティファクト見てみたい」


 たしかに鉤爪なんてアーティファクトにはなかなか存在しいだろうし面白そう。私はメタモルアームに魔力を流して形を変えてみた。私の手より何周りも大きいものにしてもいいけど、実用性を考えて丁度いい感じにする。ちゃんとできた。


「どうでしょうか」
「アイリスちゃんの徒手格闘技術と合わせたら強そうだね」
「でも両手じゃないのがやっぱり残念だね……」
【アイリス、条件は別個に分かれないアイテムなんだよね? それなら細い鎖か何かで間をつないでみるなんてどうかゾ? どこか一部でもくっついてたら一個ということにできるかもしれないゾ】
「なるほど!」


 ケル君のアドバイス通り、私は長くて細く、あまり動くのに邪魔にならなさそうなチェーンで鉤爪と鉤爪の間をつなげるイメージをして魔力を流してみた。……なんと、ケル君の言った通りになった。いやぁ、すごいわね。


「すごいですねケル君……」
【当たってたんだゾ! えっへんなんだゾ!】
「バリエーション増えそうだね!」


 これなら鎖鎌とかモーニングスターとかもできそうね。なんなら鎖で調節するような構造を考えることで鎧一式に変えてしまうこともできると思う。まあ私は自分自身が頑丈だからいらないんだけども。


「そうだ、魔物に戻ったアイリスちゃんならそのアーティファクトの上限を底上げすることもできるのかな?」
「たしかにゴーレムのアイリスちゃんは大きいし重いものね」
「そんな太ったみたいに言わないでください……」
「どちらにせよここでは試せないよ」
「あ、そういえばゴーレムの時のアイリスちゃんがまともに持てる武器って今までなかったけど、それは柄の大きさも変えられるから扱えるんだよね?」


 たしかにゴーレムの時の手はロモンちゃんとリンネちゃんを乗せて飛べるくらい大きくて握れる武器なんてなかった。ゴーレム状態でも武器を扱えるってのは嬉しいわね。ロモンちゃんがさっき言ったとおりゴーレムの時の体積が反映されるなら超巨大な剣を作ることもできそう。特にゴーレムの時なんて痛みや重さを感じにくいんだし、それを軽々と振り回すことだって不可能じゃないはず。そう考えるとかなり強いわね……特殊効果がほとんどないなんて気にならないほどに。


【ほんとーにアイリスちゃんにぴったりの武器たゾ。……魔法を禁止にしても肉弾戦でSランクに勝てちゃうんじゃないかゾ?】
「ケル君がそう言うならそうかもしれませんね」
「試すのが楽しみだねぇ……! ところでケル、アイリスちゃん」


 ロモンちゃんがワクワクした顔をしながら話題を変えてきた。だいたいなにを言いたいかはわかる。


「進化、いつにする?」


 私とケル君は目を合わせ、同時に質問への答えを出した。


【「明日で!」】


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