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275話 アンデットのダンジョンのボスでございます! 2

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「……! ……、……!」
「うーん、もっと加速した方がいいかな?」


 そう言うと何かを叫ぼうとしてるタキシードアンデットを他所に、リンネちゃんはもっと早くなった。あまりに早すぎて集中してないと光属性の剣技が一つの線で繋がって見える。


「そろそろかな……そーれっ!」


 斬撃を飛ばす技の中でもかなり強力なものに光属性を込めてリンネちゃんは放った。猛スピードでタキシードは吹っ飛ばされ、向こうの壁に激突した。


「これで倒したかな?」
「探知にはまだ残ってます。まだのようですね」
「えーっ! 結構自信あったんだけどなぁ……」
【じゃあ次オイラだゾ、バトンタッチだゾ】
「うん、いいよ。トドメ刺しちゃってよ」


 というわけで望み通り今度はケル君が前に出た。リンネちゃんは全く疲れた様子を見せず私達の元に戻ってくる。あたりまえだけどら一撃も食らってなかったので無傷。艶やかなお肌に傷はついていない。


【モンスアーガも魔人融体も無しでいくゾ!】
「こ、今回も魔物使いとしての実力発揮できなかった……」
「ロモンは普通の魔法しか使わなかったね、今回のダンジョン」
「それほど個々で強くなっているということです」
「これじゃあ私、魔物使いじゃなくて普通の魔法使いだよ……」


 そう呟くとケル君がこっちを振り向いた。首を少し傾けてから念話を送ってくる。


【……やっぱり、ちょっと魔人融体するゾ?】
「いいの?」
【個人の力を求めるのも大切だけど、やっぱり連携も大切にしないと】
「やった! じゃあお姉ちゃん、アイリスちゃん、私の身体よろしくね」


 ロモンちゃんはにっこりと嬉しそうに笑ってからケル君に向けて魔人融体をした。がっくりと身体が倒れそうになるので私達で支える。


【あー、この感覚! 実戦じゃすっごーく久しぶりだよ!】
【やっぱりレベルたくさん上げたお陰で、このダンジョンに潜る前より色々上がってるみたいだゾ、強力な力を感じるゾ】


 これは期待できそう。あとは本当にトドメを刺すだけで敵は倒さそうだけど。そう思ってリンネちゃんが吹っ飛ばした方向を見ると、タキシードがかなりいい背筋でその場に立ち上がっているのが見えた。……なぜかリンネちゃんから受けた傷が全部消えている。


「……私達が会話している間に傷がなくなってますね、あの魔物」
「武器を杖に変えてるし、回復魔法覚えてたんじゃないかな」
「なるほど」
【それならそれでいいんだゾ! むしろマトが簡単に倒れてくれなくて良かったんだゾ!】
【そうだねケル! それじゃあ全力で行こう!】


 一応、ケル君は私と同じBランクの魔物。もっと細かく区分すれば私より下位にあたる。それでも単独でAランクの魔物を圧倒できるケル君にこれまたかなり強くなったロモンちゃんの力が合わさったら……素早さはともかく、それ以外はさっきのリンネちゃん以上なのは確実ね。


【隠し部屋の魔物は素早さ重視で倒したし、それはさっきリンネが見せてくれたからオイラ達は魔法の数の多さで頑張るゾ!】
【わかった! じゃあ一緒に……!】


 ロモンちゃんの力と、ケル君の流気による魔法陣の出現先増幅。これによりこちらに向かってくるタキシードを囲むように連続して光る円が出現し、そこから光属性の最上級魔法が放たれて行く。
 タキシードは今度は武器を棍かなにかに変えていてみたいだけど、そんなことは関係なく、まるで何十人にも一気に攻撃されたみたいに集中砲火を食らっていた。


【進化したらオイラもママと同じ重複魔法陣ができるようになるゾ。それ以前だったらこれがおそらく最高の魔法攻撃なんだゾ!】
【お姉ちゃんが光属性への耐性を下げてるから……あの光の中でグチャグチャになっていたりして】
【それもあり得るゾ】


 タキシードがその場から動かなくなってからも1分くらい攻撃し続けた。ついにケル君が攻撃するのをやめる。それに伴いロモンちゃんも自分の体に戻ってきた。


「あー、スッキリした!」
「もし機会があれば次は私ですね」
「もちろん!」
「それであのアンデットは倒せたの?」
【まだなんだゾ、においがする。回復魔法を唱える隙はなかったはずなんだけど……Sランクは伊達じゃないみたいだゾ】


 確かにケル君のいう通り、まだ反応は残っている。しぶといわね。まあ確かに今まで戦ってきたSランクもみんなこのくらいしぶとかったけど。


「じゃあ最後はアイリスちゃんにでっかいのを撃ってもらおうね!」
「一撃の威力ならやっぱりアイリスちゃんが一番だもんね!」
【ドカンと一発、派手にやるんだゾ!】
「よろしいのですか? ではお言葉に甘えて」


 まさか自分の番が回ってくるとは思わなかったけど、たしかに自分の魔法の火力を試しては見たかった。ボロボロの姿で立ち上がろうとしているタキシードの姿を目で捉える。私はゴーレムに一時的に戻り光属性の最上級魔法、リスシャイラムを全て消しとばすつもりで本気で唱えた。
 大きな光柱がタキシードのアンデットを飲み込む。その瞬間、探知の反応がなくなった。


「……倒したの?」
【ええ】
「結果だけ見ると圧勝だったね」
【今まで強敵ばかりと戦って、各々で好き勝手特訓しまくった成果なんだゾ。……ちなみにオイラ今、レベルが止まったゾ】


 私もステータスを確認してみると確かに止まっていた。進化する選択をしたら今すぐにでもこの姿が変わってしまうと思う。
 ちなみに人間に戻ると、ちゃんと人間仕様になっているようで進化するかどうかの選択はできなくなった。またゴーレムに戻ればできると思う。


「やったぁ! また二人の進化が見られるんだね!」
「魔物使いとしては二人とも確実に新種になるからね、楽しみで楽しみで仕方ないよ。それで、お宝は出てきたのかな?」


 私がトドメの一撃を与えた箇所にはあのアーティファクトらしき武器は残っていなかった。しかし最初の方にリンネちゃんがタキシードアンデットを吹っ飛ばした場所を見てみると、杖状態の全く同じ武器と宝箱が出現していることに気がついた。


「やっぱりあれがアーティファクトなんだね!」
「リンネちゃんの二本目のアーティファクトの剣としましょうか」
「ううん、ぼくが持つより絶対アイリスちゃんの方がいいよ」
【オイラもそう思うゾ】
「私も!」
「だってアイリスちゃん、一緒に練習してて気がついたんだけど剣と杖だけじゃなくてそれ以外の武器も基本程度なら使えるでしょ?」


 たしかにそんな気がする。徒手と剣と杖術だけじゃなくてまだなにかやれるような。それに私の持ってる私の身体で作った杖剣でなく、正当な剣にも正当な杖にもなれるアーティファクトっていうだけで十二分に私の実力を出してくれそう。三人の言葉に甘えて、あれは私がもらうことにしよう。


「わかりました、ではあれは今日から私の得物です」
「まあでも実用するのはちゃんと鑑定してもらってからだね。変形するだけじゃなさそうだし」
「とりあえず町に帰ろ! そして儲けたお金でたくさんご飯食べよ! まずはそれからだよ!」
【賛成なんだゾ】


 というわけでアーティファクトと宝箱は私のスペーカウの袋に入れ、転移魔法を使って町へと帰った。ガーベラさんへのダンジョンクリアの報告はギルドで会った時でいいでしょう。
 とりあえず私達はとくに別のアーティファクトなどが入ってるわけではなかった宝箱の中身をいくらか売り大金を作って、たくさん料理を食べさせてくれそうなお店へ突入。
 そしてその日のお店の食材が一切なくなってしまうまでたっぷり食べ続けた。……ロモンちゃんとリンネちゃんが。最近暴飲暴食してなかったからその反動でいつもよりすごい。
 結果、二人してお腹が風船みたいに膨らんでる。トイレ行ったら元に戻るそんなお腹をつい私はつっついて遊んでしまった。かなり触り心地よくて楽しかったけど、お風呂で二人から仕返ししてくれるそうな。むしろご褒美。


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