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68話 剣の大会4戦目でございます!
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今日はリンネちゃんの剣の大会、準決勝の日。
あと2回勝つだけで優勝なんだよね…頑張って欲しいな。
《それでは4日目、準決勝! 第一回戦…はじめっ!!》
司会者の開始の言葉と鐘が鳴り響く。
今日の解説もお父さんで、リンネちゃんを必死に応援していた。
リンネちゃんのコンディションは完璧。
昨日と一昨日と同等に体調は良いし、なにより可愛いの。
対戦相手はワザヤルという人。
見た目はものすごく普通の人で、使っている武器も一般的や片手剣と小さめの丸い盾。
剣の扱いも特に変わった事はなく、基本に忠実。
だけど、この人は使える技が多いの。
昨日のこの人の試合では、試合中に12種類位の技を使っていた。お父さんは解説で、F~Cランクにしては覚えてる技がかなり多いんだって。
まあ…リンネちゃんはもっと覚えてるんだけどね。使ってないだけで。
しかしこの人、今大会に何か執着があるのか、昨日の試合はすごく粘っていた。
確かに12種類の剣技を使ってたんだけど、それでも相手の方が強くて…身体中が傷だらけの中、何度も何度も立ち上がっていたんだよね。
そして粘り勝ち。
ちょっとだけカッコ良いなって思っちゃった。
ちなみに今はその傷は全部消えてるみたい。
剣の大会には国が抱えている上級の回復魔法使いが試合が終わった後に回復してくれるらしいからね。
ワザヤルという人とリンネちゃんは剣を交えていた。相手はいきなり剣技を乱発してきてる。
日頃から剣技の連続使用を練習してるのか、剣技から剣技への移動が早い。
昨日もこれくらいやってたら傷を負わずに勝てたんじゃないかな? きっと、実力を隠してたんだね。それで負けそうになるのは如何なものかとは思うけど。
しかし、技から技へ素早く移動する技術はとっくの昔にリンネちゃんも体得しているんだなぁーこれが。
ワザヤルという人の剣技に全く同じ剣技をぶつけて相殺……してるとごろか押し勝ってる。
ワザヤルという人はまるで何かに追われているように次々と剣技を連発するけれどリンネちゃんはあっさりその上をいっちゃう。
そして幾度となく続いた(開始1分間だけだけど)剣の競り合いをリンネちゃんは制し、肩から腹部中盤辺りまでに、防具ごと斜めに真っ直ぐに斬った。
小石視点で見ると、リンネちゃんは少しやり過ぎちゃったと言いたげな顔をしてる。
まあ、仕方ない。どうせすぐに治るさ。
これで勝敗が決した…誰もがそう思ってた。
司会者もロモンちゃんも観客のみなさんも、私だって。
気がつくと…リンネちゃんから突然、極少量だけども血が噴き出していた。
大体、お臍らへんから横に一直線。
見ると、リンネちゃんの綺麗なお肌のお腹に痛そうな一の字の切り傷と流れる血。
何が起こったか…といえば、相手が痛みをこらえてリンネちゃんに反撃したんだ。
リンネちゃんが相手を斬り、試合が終わったと思って気がほーんの少しだけ緩んだその瞬間、技を使ってリンネちゃんのお腹を斬ったんだ。
いや…正直、相手はすごい。
試合に命を懸けているレベルだと思う。あのひと、リンネちゃんの一撃をワザと受けて、それからリンネちゃんに反撃したんだよね、多分…。
リンネちゃんはお臍まわりはいつもほとんど剥き出しなんだよ。いや、そりゃあ服は着てるけど……。
起きてるリンネちゃんのお臍はお風呂と着替えてる時ぐらいでしか見てないよ。…防具をつけてないって意味なんだよ?
お臍だしてるちょいエロな格好じゃないのが残ね_____ゲフンゲフン。
まあ…リンネちゃんに限らず、軽量の女剣士の皆さんはほとんどそうなんだけど。
首から臍下までにかけてつけている防具は胸当てぐらい。
最初からそこを狙ってたんだと思う。
それに、普通はリンネちゃんみたいな娘が出てきたら、深手を負わせないようにする人が多いみたい。……私の知り合いの男性剣士の10人中6人はそうだった。
残りの人は『同じ土俵に立っているなら手加減は失礼だ』という感じの人かな。
ワザヤルという人はそのタイプなのかも…いや、もしかしたら勝ちに執着してるのかな?
とにかくリンネちゃんは深手を負った……ように周りには見えてるかもしれない。
でもあれは見た目より傷は深くないかな。
リンネちゃんの反射神経は本当に鋭いから…すんでのところでお腹を凹ませてなんとか致命傷は避けたんだ。
どっちみちリンネちゃん自体の防御力がそれなりに高いし、専門職以上に回復魔法をマスターしてるから、まともに食らっても全然大丈夫だったんだけどね。
あー、でもリンネちゃんのお腹に傷が残らないように後で回復魔法たくさんかけてあげないと。
リンネちゃんはその傷を負わされてからすぐに反撃。
下から上へ技を使わずに斬りあげ。
これによりついに相手は倒れ、リンネちゃんは勝った。
しかしお相手さんが倒れる前に気になることを呟いた。
『勝てなかった…すまない…助けられなかった』だって。
あれはきっと良聴を使ってるたしか、その場に居るリンネちゃんにしか聞こえないと思うけど…。
◆◆◆
「お姉ちゃん、お姉ちゃん! おめでとう!」
「うん…ありがと、ロモン」
リンネちゃんはどこか腑に落ちていない表情をしている。お腹の傷は消えてるみたい。向こうの回復魔法使いも中々なものだね。
……でも念のためさっきから回復魔法を何回もかけてるんだけどさ。
ちなみに破れた服はもう着替えてるよ。
【どうかされましたか?】
リンネちゃんがなんか元気ない理由はわかるけれど、敢えて訊いてみる。
「いや、なんでもないよ」
「お姉ちゃん…? 何がなんでもないの?」
「え、あ、本当になんでもないから! えーっと…えへへ、ぼく、また勝っちゃった! イエーイ!」
「い…イエーイ…?」
…本当にこの大会はリンネちゃんにとって大事な良い経験になるよね。
軽い気分で挑んでる人から、命を賭けて試合に挑んでる人とか…リンネちゃんみたいに沢山の人から応援されてる人も居れば、全く無名な人も居る。
様々な人達と剣を交えてどんどん強くなってって欲しい。
【あのワザヤルという剣士が倒れる前に言った言葉が気になるのですよね?】
【アイリスちゃん聞こえてたんだね。…そうなんだ】
【大会には軽い意気込みで臨んでる人から死ぬ気で臨んでる人まで色々居ます。彼は後者だったのでしょう。恐らく大会の賞金が誰かの為に欲しかったとか…そんな感じでしょうかね。大丈夫です、3、4番目の方にも賞金は渡されますから】
渡される…と言っても微々たるもんだけどね。
…参加費が返される程度かな。
リンネちゃんの明日の試合に支障が出ても困るから、私はちょっとそのワザエルとかいう人と話をしてみようと思う。
完全に考察だけど、彼にとって大切な人が、なんらかの病気にかかったんだも思うんだよね。
【リンネちゃんはそこで次の試合の相手を見ていてください。……ところですいませんが、私はちょっとだけ用事が有りますので…】
【どこか行っちゃうの?】
【そうですね。今日中には戻りますので】
【そっか。わかった、いってらっしゃい】
ロモンちゃんにも出掛けると言ってから、私は彼女らと別行動を始めた。
◆◆◆
小石視点と隠密の併用でめぼしい場所を探して回ろうとしたんだけど、その人がコロシアム周辺のベンチで塞ぎ込んで座ってるところを、割とすぐに見つけた。
私はワザヤルに話しかけてみる。
【もし、そこの貴方…】
「はい………?」
顔をあげた彼の目は涙で溢れていた。
そして普通の人とかと同じように話しけてきたのがゴーレムだとわかると、驚いた顔をする。
「な、なんだよ…。ゴーレムが何の用だよ…。つーかなんでゴーレムがそんなに喋れて_____」
私の顔を見ながら喋っていた彼は、私に見覚えがあるのかまた表情が変わった。
「あっ…あれだ、魔物武闘大会で優勝したあの…」
【そうです。アイリスと申します。本日は私の主人の姉であるリンネとの対戦、ありがとうございました】
「……人の言葉がわかるのか…?」
【ええ】
その後のやり取りで私は、私の対人スペックやここに来た理由など大まかな事を伝えた。
話で私が怪しい者ではないことを理解してくれたのか、最初より穏やかな表情をしてる気がする。
「成る程な…。そうだ…悪かったよ、君のもう一人の御主人に大きな怪我をさせちゃって。……しかし、あの娘には俺はどう足掻いても勝てそうになかったな。偶然一撃入ったものの…。冷静になればわかる」
【ありがとうございます。怪我の件に関しては大丈夫です。試合ですし、回復魔法で完治してますし】
「そうか…。で? そういや俺が最後に言ったセリフが気になって来たんだったか? あれはな_____」
その話の内容はこうだった。
彼の妹…だいたい、リンネちゃん達と同い年ぐらいの妹と共同でクエストに行っていた最中、魔物の毒にやられたと。
その治療費を手に入れるために剣の大会に出て、なんとでも勝ちたかったのだそうな。
因みに賭けは糞ほど弱いらしく、行わなかったらしい。
その魔物、すごく気になる。もしかして……
【すいません、もしかしてその魔物、大きな蛇のような魔物ではありませんでしたか? それとその噛まれた後の症状なども詳しくお教え下さい】
「心当たりがあるんだな!? ああ、君が言っている通りだ。妹を噛んですぐにどこかへ行ってしまったから、詳細はわからないけど…。症状の方は、俺の妹は噛まれた後から、身体中に黒い模様のようなものが現れ始めて…」
ワザヤルという人は強く悔しそうに拳を握ったが、それに心当たりがありそうな私が現れたからか、目は私を強く捉えている、
ていか…あー、やっぱりそうだったかって感じ。
ヤツだ、サナトスファビドだね。
ここまでで、ヤツはジエダちゃんのご両親と、ジエダちャン自身とこの人の妹の4人をその毒牙にかけたわけだ。
なんか半分が若い女の子ばかりか気がするけど…そういう趣味なのかな? Sランクだからハッキリとした人格もあるだろうし。
【それはサナトスファビというSランクの魔物の毒の症状ですよ】
「エスっ…ランクッ!?」
【はい。また現在、その魔物の毒を治せる人間は居ないみたいですね】
「い…居ない? 治せる人がいねってのか!? 嘘だろ、嘘だって言ってくれよ…! じゃ、じゃあ俺の妹はどうなるんだよ、このまま苦しんで死ぬしかないのか? 死ぬしかないのかってんだよ!?」
彼は私の肩を強く掴んできた。
しかし、なんともない…。
それよりも早く私は治せるということを伝えなきゃね。
【人は居ませんよ、人はね。……私は治せます。もう既に一人、同じ状態であった16歳の女の子を治療しましたよ】
「ま…マジかよ…嘘じゃあ無いよなぁ…おいっ…」
【この状況で嘘を言っても意味はありませんよ。なんならその治した本人を連れてきましょうか?】
「いや…いい…! なあ、なあ、治せないか? 俺の妹を治してくれないか!? なんでもする! 金なら一生かけて払う! だから頼む…お願いだ、治療してくれ、治してくれよっ…」
あれは私にしか治せない。…今の所の話だけど。
でも私は既に億万長者なワケで、命をかけてお金を得ないと治療費が稼げない人からお金をもらおうだなんて思わない。
まあ、つまりの話、前回同様に無償で治すわけで。
【お金は要りません。私ご覧の通り、魔物なので。サナトスファビドが気まぐれに貴方の妹さんを毒したように、私は気まぐれに貴方の妹さんを治しましょう。それで良いですね?】
「あ…ありがてぇ!! だ…だがそれじゃあ悪いっつーか…その…本当に良いのか?」
【良いのですよ、それで。どうしても気になるのなら、この事を"かし"としておきましょう】
「……っ……恩にきるっ……」
その後私は彼の家に行き、寝込んでいた妹を2時間かけて治療した。
それは無事に成功し、目一杯に感謝されつつも早々にそこを去り、部屋に帰ってきた。
既に二人は部屋の中に居た。
「アイリスちゃん、おかえりなさい」
【ただいまです。申し訳ありません、用事が立て込んでしまったものでして】
「アイリスちゃんだから、自由行動認めてるんだよ。変なことはしてないよね?」
【して無いです、大丈夫です】
その後、2時間ほど、リンネちゃんの体調を魔法で整えたり、夕飯を食べたりした。
そして今日はリンネちゃんと1対1でお風呂入る日だからその時に何があったか報告することにした。
【あの剣士さん、あんなに頑張ってたのは妹さんの病気の治療費を稼ぐ為でしたよ】
「あー、そうだったんだね。アレ、アイリスちゃんの用事ってもしかして……」
【ええ、それを訊いてました。リンネちゃん、どこかモヤモヤしてたでしょう? それを解決する為に】
その後、私は話を大幅に改変(主にサナトスファビドとか)して、大体、宿屋の娘さんを治療したのと同じ感じだという事にしておいた。
リンネちゃんは思いっきり私を撫でてくれて、その後、ロモンちゃんに一から説明。
二人から私はめちゃくちゃ褒められたり可愛がられたりした。やっぱり人助けって素晴らしい。
サナトスファビドが若い女の子を狙ってることに、私は二人も狙われないか心配しているけれど、だけど、今はそれよりもリンネちゃんを応援しなくちゃね。
頑張って!
あと2回勝つだけで優勝なんだよね…頑張って欲しいな。
《それでは4日目、準決勝! 第一回戦…はじめっ!!》
司会者の開始の言葉と鐘が鳴り響く。
今日の解説もお父さんで、リンネちゃんを必死に応援していた。
リンネちゃんのコンディションは完璧。
昨日と一昨日と同等に体調は良いし、なにより可愛いの。
対戦相手はワザヤルという人。
見た目はものすごく普通の人で、使っている武器も一般的や片手剣と小さめの丸い盾。
剣の扱いも特に変わった事はなく、基本に忠実。
だけど、この人は使える技が多いの。
昨日のこの人の試合では、試合中に12種類位の技を使っていた。お父さんは解説で、F~Cランクにしては覚えてる技がかなり多いんだって。
まあ…リンネちゃんはもっと覚えてるんだけどね。使ってないだけで。
しかしこの人、今大会に何か執着があるのか、昨日の試合はすごく粘っていた。
確かに12種類の剣技を使ってたんだけど、それでも相手の方が強くて…身体中が傷だらけの中、何度も何度も立ち上がっていたんだよね。
そして粘り勝ち。
ちょっとだけカッコ良いなって思っちゃった。
ちなみに今はその傷は全部消えてるみたい。
剣の大会には国が抱えている上級の回復魔法使いが試合が終わった後に回復してくれるらしいからね。
ワザヤルという人とリンネちゃんは剣を交えていた。相手はいきなり剣技を乱発してきてる。
日頃から剣技の連続使用を練習してるのか、剣技から剣技への移動が早い。
昨日もこれくらいやってたら傷を負わずに勝てたんじゃないかな? きっと、実力を隠してたんだね。それで負けそうになるのは如何なものかとは思うけど。
しかし、技から技へ素早く移動する技術はとっくの昔にリンネちゃんも体得しているんだなぁーこれが。
ワザヤルという人の剣技に全く同じ剣技をぶつけて相殺……してるとごろか押し勝ってる。
ワザヤルという人はまるで何かに追われているように次々と剣技を連発するけれどリンネちゃんはあっさりその上をいっちゃう。
そして幾度となく続いた(開始1分間だけだけど)剣の競り合いをリンネちゃんは制し、肩から腹部中盤辺りまでに、防具ごと斜めに真っ直ぐに斬った。
小石視点で見ると、リンネちゃんは少しやり過ぎちゃったと言いたげな顔をしてる。
まあ、仕方ない。どうせすぐに治るさ。
これで勝敗が決した…誰もがそう思ってた。
司会者もロモンちゃんも観客のみなさんも、私だって。
気がつくと…リンネちゃんから突然、極少量だけども血が噴き出していた。
大体、お臍らへんから横に一直線。
見ると、リンネちゃんの綺麗なお肌のお腹に痛そうな一の字の切り傷と流れる血。
何が起こったか…といえば、相手が痛みをこらえてリンネちゃんに反撃したんだ。
リンネちゃんが相手を斬り、試合が終わったと思って気がほーんの少しだけ緩んだその瞬間、技を使ってリンネちゃんのお腹を斬ったんだ。
いや…正直、相手はすごい。
試合に命を懸けているレベルだと思う。あのひと、リンネちゃんの一撃をワザと受けて、それからリンネちゃんに反撃したんだよね、多分…。
リンネちゃんはお臍まわりはいつもほとんど剥き出しなんだよ。いや、そりゃあ服は着てるけど……。
起きてるリンネちゃんのお臍はお風呂と着替えてる時ぐらいでしか見てないよ。…防具をつけてないって意味なんだよ?
お臍だしてるちょいエロな格好じゃないのが残ね_____ゲフンゲフン。
まあ…リンネちゃんに限らず、軽量の女剣士の皆さんはほとんどそうなんだけど。
首から臍下までにかけてつけている防具は胸当てぐらい。
最初からそこを狙ってたんだと思う。
それに、普通はリンネちゃんみたいな娘が出てきたら、深手を負わせないようにする人が多いみたい。……私の知り合いの男性剣士の10人中6人はそうだった。
残りの人は『同じ土俵に立っているなら手加減は失礼だ』という感じの人かな。
ワザヤルという人はそのタイプなのかも…いや、もしかしたら勝ちに執着してるのかな?
とにかくリンネちゃんは深手を負った……ように周りには見えてるかもしれない。
でもあれは見た目より傷は深くないかな。
リンネちゃんの反射神経は本当に鋭いから…すんでのところでお腹を凹ませてなんとか致命傷は避けたんだ。
どっちみちリンネちゃん自体の防御力がそれなりに高いし、専門職以上に回復魔法をマスターしてるから、まともに食らっても全然大丈夫だったんだけどね。
あー、でもリンネちゃんのお腹に傷が残らないように後で回復魔法たくさんかけてあげないと。
リンネちゃんはその傷を負わされてからすぐに反撃。
下から上へ技を使わずに斬りあげ。
これによりついに相手は倒れ、リンネちゃんは勝った。
しかしお相手さんが倒れる前に気になることを呟いた。
『勝てなかった…すまない…助けられなかった』だって。
あれはきっと良聴を使ってるたしか、その場に居るリンネちゃんにしか聞こえないと思うけど…。
◆◆◆
「お姉ちゃん、お姉ちゃん! おめでとう!」
「うん…ありがと、ロモン」
リンネちゃんはどこか腑に落ちていない表情をしている。お腹の傷は消えてるみたい。向こうの回復魔法使いも中々なものだね。
……でも念のためさっきから回復魔法を何回もかけてるんだけどさ。
ちなみに破れた服はもう着替えてるよ。
【どうかされましたか?】
リンネちゃんがなんか元気ない理由はわかるけれど、敢えて訊いてみる。
「いや、なんでもないよ」
「お姉ちゃん…? 何がなんでもないの?」
「え、あ、本当になんでもないから! えーっと…えへへ、ぼく、また勝っちゃった! イエーイ!」
「い…イエーイ…?」
…本当にこの大会はリンネちゃんにとって大事な良い経験になるよね。
軽い気分で挑んでる人から、命を賭けて試合に挑んでる人とか…リンネちゃんみたいに沢山の人から応援されてる人も居れば、全く無名な人も居る。
様々な人達と剣を交えてどんどん強くなってって欲しい。
【あのワザヤルという剣士が倒れる前に言った言葉が気になるのですよね?】
【アイリスちゃん聞こえてたんだね。…そうなんだ】
【大会には軽い意気込みで臨んでる人から死ぬ気で臨んでる人まで色々居ます。彼は後者だったのでしょう。恐らく大会の賞金が誰かの為に欲しかったとか…そんな感じでしょうかね。大丈夫です、3、4番目の方にも賞金は渡されますから】
渡される…と言っても微々たるもんだけどね。
…参加費が返される程度かな。
リンネちゃんの明日の試合に支障が出ても困るから、私はちょっとそのワザエルとかいう人と話をしてみようと思う。
完全に考察だけど、彼にとって大切な人が、なんらかの病気にかかったんだも思うんだよね。
【リンネちゃんはそこで次の試合の相手を見ていてください。……ところですいませんが、私はちょっとだけ用事が有りますので…】
【どこか行っちゃうの?】
【そうですね。今日中には戻りますので】
【そっか。わかった、いってらっしゃい】
ロモンちゃんにも出掛けると言ってから、私は彼女らと別行動を始めた。
◆◆◆
小石視点と隠密の併用でめぼしい場所を探して回ろうとしたんだけど、その人がコロシアム周辺のベンチで塞ぎ込んで座ってるところを、割とすぐに見つけた。
私はワザヤルに話しかけてみる。
【もし、そこの貴方…】
「はい………?」
顔をあげた彼の目は涙で溢れていた。
そして普通の人とかと同じように話しけてきたのがゴーレムだとわかると、驚いた顔をする。
「な、なんだよ…。ゴーレムが何の用だよ…。つーかなんでゴーレムがそんなに喋れて_____」
私の顔を見ながら喋っていた彼は、私に見覚えがあるのかまた表情が変わった。
「あっ…あれだ、魔物武闘大会で優勝したあの…」
【そうです。アイリスと申します。本日は私の主人の姉であるリンネとの対戦、ありがとうございました】
「……人の言葉がわかるのか…?」
【ええ】
その後のやり取りで私は、私の対人スペックやここに来た理由など大まかな事を伝えた。
話で私が怪しい者ではないことを理解してくれたのか、最初より穏やかな表情をしてる気がする。
「成る程な…。そうだ…悪かったよ、君のもう一人の御主人に大きな怪我をさせちゃって。……しかし、あの娘には俺はどう足掻いても勝てそうになかったな。偶然一撃入ったものの…。冷静になればわかる」
【ありがとうございます。怪我の件に関しては大丈夫です。試合ですし、回復魔法で完治してますし】
「そうか…。で? そういや俺が最後に言ったセリフが気になって来たんだったか? あれはな_____」
その話の内容はこうだった。
彼の妹…だいたい、リンネちゃん達と同い年ぐらいの妹と共同でクエストに行っていた最中、魔物の毒にやられたと。
その治療費を手に入れるために剣の大会に出て、なんとでも勝ちたかったのだそうな。
因みに賭けは糞ほど弱いらしく、行わなかったらしい。
その魔物、すごく気になる。もしかして……
【すいません、もしかしてその魔物、大きな蛇のような魔物ではありませんでしたか? それとその噛まれた後の症状なども詳しくお教え下さい】
「心当たりがあるんだな!? ああ、君が言っている通りだ。妹を噛んですぐにどこかへ行ってしまったから、詳細はわからないけど…。症状の方は、俺の妹は噛まれた後から、身体中に黒い模様のようなものが現れ始めて…」
ワザヤルという人は強く悔しそうに拳を握ったが、それに心当たりがありそうな私が現れたからか、目は私を強く捉えている、
ていか…あー、やっぱりそうだったかって感じ。
ヤツだ、サナトスファビドだね。
ここまでで、ヤツはジエダちゃんのご両親と、ジエダちャン自身とこの人の妹の4人をその毒牙にかけたわけだ。
なんか半分が若い女の子ばかりか気がするけど…そういう趣味なのかな? Sランクだからハッキリとした人格もあるだろうし。
【それはサナトスファビというSランクの魔物の毒の症状ですよ】
「エスっ…ランクッ!?」
【はい。また現在、その魔物の毒を治せる人間は居ないみたいですね】
「い…居ない? 治せる人がいねってのか!? 嘘だろ、嘘だって言ってくれよ…! じゃ、じゃあ俺の妹はどうなるんだよ、このまま苦しんで死ぬしかないのか? 死ぬしかないのかってんだよ!?」
彼は私の肩を強く掴んできた。
しかし、なんともない…。
それよりも早く私は治せるということを伝えなきゃね。
【人は居ませんよ、人はね。……私は治せます。もう既に一人、同じ状態であった16歳の女の子を治療しましたよ】
「ま…マジかよ…嘘じゃあ無いよなぁ…おいっ…」
【この状況で嘘を言っても意味はありませんよ。なんならその治した本人を連れてきましょうか?】
「いや…いい…! なあ、なあ、治せないか? 俺の妹を治してくれないか!? なんでもする! 金なら一生かけて払う! だから頼む…お願いだ、治療してくれ、治してくれよっ…」
あれは私にしか治せない。…今の所の話だけど。
でも私は既に億万長者なワケで、命をかけてお金を得ないと治療費が稼げない人からお金をもらおうだなんて思わない。
まあ、つまりの話、前回同様に無償で治すわけで。
【お金は要りません。私ご覧の通り、魔物なので。サナトスファビドが気まぐれに貴方の妹さんを毒したように、私は気まぐれに貴方の妹さんを治しましょう。それで良いですね?】
「あ…ありがてぇ!! だ…だがそれじゃあ悪いっつーか…その…本当に良いのか?」
【良いのですよ、それで。どうしても気になるのなら、この事を"かし"としておきましょう】
「……っ……恩にきるっ……」
その後私は彼の家に行き、寝込んでいた妹を2時間かけて治療した。
それは無事に成功し、目一杯に感謝されつつも早々にそこを去り、部屋に帰ってきた。
既に二人は部屋の中に居た。
「アイリスちゃん、おかえりなさい」
【ただいまです。申し訳ありません、用事が立て込んでしまったものでして】
「アイリスちゃんだから、自由行動認めてるんだよ。変なことはしてないよね?」
【して無いです、大丈夫です】
その後、2時間ほど、リンネちゃんの体調を魔法で整えたり、夕飯を食べたりした。
そして今日はリンネちゃんと1対1でお風呂入る日だからその時に何があったか報告することにした。
【あの剣士さん、あんなに頑張ってたのは妹さんの病気の治療費を稼ぐ為でしたよ】
「あー、そうだったんだね。アレ、アイリスちゃんの用事ってもしかして……」
【ええ、それを訊いてました。リンネちゃん、どこかモヤモヤしてたでしょう? それを解決する為に】
その後、私は話を大幅に改変(主にサナトスファビドとか)して、大体、宿屋の娘さんを治療したのと同じ感じだという事にしておいた。
リンネちゃんは思いっきり私を撫でてくれて、その後、ロモンちゃんに一から説明。
二人から私はめちゃくちゃ褒められたり可愛がられたりした。やっぱり人助けって素晴らしい。
サナトスファビドが若い女の子を狙ってることに、私は二人も狙われないか心配しているけれど、だけど、今はそれよりもリンネちゃんを応援しなくちゃね。
頑張って!
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竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
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