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260話 ガーベラさんの報告でございます!

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「ごめんな」
「何があったかはわかりませんが、こうして無事に帰ってきてくれたのです。……怒ったりしませんよ」


 よく考えたら冒険者だから傷だらけなんてのは当たり前なのよね。でもガーベラさんってAランクの亜種以上の魔物を単独で倒せるくらいには強かったはず。あれだけの傷を負わせるなんて、やっぱりAランク以上の何かと戦ってたのかしらね。


「それでどうしてああなったのですか?」
「一人でダンジョンをクリアしてきた」
「……たしかこれで二回目ですよね?」
「うん。でも今回主として出現したのはSランクのダンジョンの加護がかかった魔物でさ、苦労したよ」


 たった一人でダンジョンに入り、一人でSランク以上の強さを持つ魔物を倒しクリアするですって。もしかしなくても、初めて出会った時よりかなり強くなってるわよね? 
 いや、すでに私より強いはず。ちょっと前まではほとんど同じ強さだったのになんて成長の早さ。ケル君並みじゃないかしら?
 これはもしかして焦ったほうがいいのかな。いや、でも自分より彼氏の方が強いというのは私にとったは理想的な方だし……。


「いつのまにそんな強くなったのですか?」
「まあ、コツコツと」
「……この間まで、そう、付き合う直前くらいまでは私の方が強かった気がしていたのですけどね。告白された時くらいから抜かされてたんですかねー」
「ああ……そうだね」


 ガーベラさんは頷くと、なぜかかなり真面目顔で私のことを見つめ始めた。なんてかっこいい顔立ち。やっぱりイケメンよね。
 そういえば私の男性に対する理想ってイケメンでお金持ちだったっけ。ガーベラさんがかっこよくて優しくて素敵だから半ば忘れてたけど……ダンジョンを一人でクリアできるような猛者だもの、お金に関してもいつのまにか満たしてるようなものじゃない。
 ここまでくると逆に私が彼に見合うかどうか心配になってくる。


「この調子だとすぐに出世してしまいそうですね」
「そうなるのかな」
「し、出世したら、言い寄ってくる人とかも増えそうですね……ガーベラさんかっこいいですし」
「ははは、でも彼女がアイリスならみんな諦めてくれるって」
「えぇ……」


 眩しい笑顔でそんなこと言ってくれるなんて。信用してなかったわけじゃないけど、本当に私のことを好きでいてくれるみたい。
 自分で話を振ったのになんだか恥ずかしい。ちょっと話題を変えようかしら。


「そ、そういえばダンジョン攻略ですよね? 私達にお声をかけてくださればお手伝いしましたよ。お一人だと苦労しませんか?」
「そうだね、普通なら複数人でダンジョンに行く。でも俺はそうするわけにはいかないんだ」
「どういうことですか?」
「アイリス耳貸して」


 ガーベラさんが耳元で囁いてくる。なんだかこそばゆい。顔も近いし。
 彼が話してくれた内容は、自身の固有特技に仲間を巻き込むほどの強力な技……いうなれば周りに被害が出ない時にだけ使える必殺技があることと、個人の特殊技能に一人でダンジョンに潜ると必ず最低一個、アーティファクトが見つかるという変わった技能があることだった。周りには内緒らしく、ギルドマスターにも言ってない。私だから教えてくれたらしい。
 たしかに私でも一人でダンジョン攻略した方が良さそうなステータスならそうするわ。


「なるほど、それなら納得いきます」
「だろ?」
「ということは今回も獲得したのですか、アーティファクト」
「もちろん」
「よければ見せてください!」


 冒険者としてやってきた年月が少ない割には、アーティファクトはかなりの数見てきている。ガーベラさんは前に力が上がる小手を手に入れたはずだけど、今回は何かしら。


「あんまり大勢の人の前で見せびらかすわけにもいかないから、ちょっと向こう行こうか」
「わかりました」


 私達はギルド内のあんまり目立たないところに移動した。ガーベラさんを心配したり、何故か私のことを心配して数人付いてきたけれど、恋人同士で会話したいことがあると言ったら大人しく戻っていってくれた。何人か涙目になってた気がするけど、気のせいかしら。


「実は鎧なんだよ」
「鎧ですか! これまたガーベラさんにはぴったりの代物ですね」
「まだ鑑定してもらってないからどんな効果持つのかわかんないけどね。だから人に見せるのはアイリスで初めてだ」


 ガーベラさんはスペーカウの袋から青白く金色の装飾が施されたかっこいい鎧を取り出した。ルビーみたいな宝石も所々埋め込まれている。とくに胸の真ん中あたりにはひとしきり大きなものが。


「アーティファクトでなくとも芸術品として価値がありそうな見た目をしていますね」
「明日、店に行って調べてもらうつもりだけど、それまで装備はできないな」
「ガーベラさんの戦闘スタイルと合うものだと良いですね」


 アーティファクトはピンキリ。使用者が見つかりにくく、結果的にハズレ効果になってしまうものもある。例えばリンネちゃんが持ってる剣がそう。偶然、私達が光魔法に長けてたから十分強い代物だけど普通の人間は光魔法なんて覚えられないから持っていても仕方ない。


「ああ、楽しみだ。もしハズレでも売ればいい」
「ちょっともったいない気もしますがね」


 ガーベラさんはニコニコしながらスペーカウの袋に鎧をしまいこんだ。金髪で男前なガーベラさんに似合いそうな鎧だったし、当たりな効果だといいな。


「ところでアイリス」
「はい、なんでしょう?」
「今日はなんだかいつもと違うね?」


 ガーベラさんは私の顔から少し下に目線を向けている。そうだった、今日は私の持ってた服の中でも一番首回りがひらけてる服をガーベラさんのために着てきたんだった。あんまりジロジロ見られると恥ずかしい。でも、ガーベラさんに見られるために着てきたんだからそれでいい。


「……す、少し勇気を出してみました」
「あの時の会話、がっつり聞いてたもんね」
「は、はいっ」


 我ながら大胆だと思う。昔の私じゃ、絶対こんなことしなかった。


「その気持ち、すごく嬉しいよ。やっぱり手や顔以外の肌も綺麗な白色なんだね」
「ふふ…いつも露出少ないですからね。ここまで一気に肌を見せたことなんて、自主的にはないでしょう」
「とても綺麗だ」


 ガーベラさんが私に向かって手を伸ばしてきた。これはどういう手なんでしょう? さ、触るのかしら。いや、もしかしたら触れるだけじゃなくて……。


「あ、そうだ。ところでガーベラ」
「うわぁ!?」
「ぎ、ギルドマスター!?」


 茶色い毛むくじゃらのおひげと酒瓶が私達をのぞいてる。ビックリした。色々な意味で。ドキドキしたし今もしてる。


「あ、いけね。いいとこだったか」
「ギルマスないす!!」
「よくやった!!」
「昔同じ様なことやって、グライドとノアに怒られたことあるんだがな。ガハハハハハ! っと、言いたい要件は笑い事じゃねぇんだ」


 ギルドマスターはガーベラさんに今起こっている出来事を伝えた。どうやらそれ言いにきたらしい。一応、ガーベラさんも魔王軍幹部討伐に参加したことあるものね。
 

「そんなことが……」
「ダンジョンの出入り口付近で人影見たりしてないか?」
「そ、そうですよ! 何か怪しいものがあったとか」
「ないなぁ……ごめん。じゃあもしかしたらアイリスたちは忙しくなるかもしれないんだ」
「はい」
「そっか」


 それから私達はもう時間も遅かったので30分だけ話をしてからそれぞれの住処に戻った。明日は何か進展があるといいのだけれど。


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昨日投稿できなくてすいませんでした!
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