上 下
2 / 378

2話 幼い岩人形

しおりを挟む
 

 ぐりぐりぐりぐりぐり……。

 私はゴーレムの傷口に無理矢理ねじ込まれ、サイズがぴったりだったのか、すっぽりとはまってしまった。

 あー、わかる。
 自分がこの子の体の一部として吸収されてく感じがよくわかる。
 まるで指の上でアイスクリームが溶けているような、吸い込まれるようなこの感覚。

 思ったより早く小石の人生という、地獄のような孤独な一生を終えられることができたのかもしれない。
 よかった…本当によかった。
 さっき感じた運命って、このことだったんだね!

 幼いゴーレムちゃん、ありがとう。
 私はこのまま死ぬけれど、もう転んだりせずにうまくゴーレムとして生きていってね。

 あぁ、神様、どうか私の次の輪廻転生先は、超美少女で将来的に大金持ちで優しいイケメンと結婚できる人生か、超イケメンでどっかの可愛いお嬢様と結婚して逆玉の輿する人生にしてくださいな。


◆◆◆


 あれ? おかしいな、意識がある。
 目の前はまるで明かりの灯ってない真夜中のように真っ暗だけど。
 おかしいな、私はゴーレムちゃんに体の一部として吸収されながら、玉の輿美少女か逆玉の輿イケメンになることを望んで死んだはず。

 あ! もしかしてもう目を開けたら、玉のように可愛くて可憐な赤ちゃんとして生まれ変わっていて、美貌溢れる玉の輿の素晴らしい人生を歩むのかも……。

 そんな淡い期待を込めつつ私はそっと目を開け_____られなかった。
 そもそも瞼なんてなくて、最初から目は空いてたみたい。
 じゃあなんでさっきは暗かったの?

 私はその原因に割と悩むことなく気づけた。
 数日間も居続けた岩壁に顔が驚くほど密着していたから暗かったんだ。

 チッ……なーんだ、死ななかったのか。

 だけどおかしいなぁ。
 小石の時と比べて、ものすごく目線が高いよ。
 さらに、身体含め手足の感覚がある感じがする。
 どうにも、私がなんらかの方法でいきなり身体を手に入れたとしか思えな……!?

 まさか……まさか私が吸収されたんじゃなくて、逆に私がゴーレムちゃんを吸収して、今の私はあの幼いゴーレムちゃんになってたり?
 
 私は自分の、さっきまでなかったはずの"手"を慌てて見てみた。
 その手は岩と土でできていて、子供用手袋のように、親指以外全部くっついる上に、なんかすごく、でかい気がする。
 その上、腕が地面につきそうなくらいに長い。

 これは完全にあれだね、私はゴーレムちゃんになっちゃったか、あるいは吸収されたはずが逆にあの子を吸収しちゃったんだね。
 どういう原理かまったくこれっぽっちもわかんないけどさ。
 うぅ…美少女になれなかった…イケメンにもなれなかった……わたしの玉の輿が____

 まぁ、道端の小石なんかよりも何十倍もマシだし、これはこれでいいかな? 幼ゴーレムちゃんには悪いけど。
 ちゃんと身体はあるし、手足それぞれ細かく動かして試運転してみたけれど、なんら過ごすには支障ないみたいだし。

 さて、これからどうするかな? 特に生きる以外の目的もない私は何をしたら良いんだろうね。

 とりあえず、何かを求めて歩いとけばいいかな?

 私は今まで見ていることしかできなかった、土と岩でできた、車二台分はありそうなこの広い道を自分の…いや、他者から奪ったこの足でえっちらおっちらと歩き始めた。

 注意することがあるとすれば、転ぶとか、ぶつかるとかの強い衝撃には気をつけないといけないよね。 
 さっきの、幼ゴーレムちゃんが転ぶところを見ていた限りでは、この身体はすごく脆いもの。

 慎重に慎重に、足元と前方、それと上からの落下物がないか、気をつけながら私は広いこの道をまっすぐすすむ。
 歩くスピードは決して早くはないけれど、イライラして、周りへの注意力が散漫になるほど遅くもない。
 小さな子供がほふく前進で進むぐらいのスピードはあるんじゃないかな?

 えっちらおっちら、えっちらおっちらと私は一歩一歩噛み締めてとにかく歩き続ける。
 
 一体何時間歩いたんだろう、かなり歩いてるはずなのに全く疲れるような様子がない。
 ご飯も水分もいらない、そもそも口がない。
 その上、眠気も来ない。
 なんというパーフェクトバディ。
 まるで動き続けるためにだけに生まれてきたような、変なところで頑丈な身体だよ…。
 
 それにしても、これから本当にどうしよう。
 馬車が通ってきているから、人間がいるってことはわかってる。
 ファンタジーであろうこの世界では、つまり私は魔物とか怪物とかモンスターとかクリーチャーとかエネミーとかスペクターとかなんだよね、多分。
 家畜みたいに共同生活してる線もなくはないけれど、人にはそう簡単に私のこの姿は見せない方がいいかもしれないね。
 そもそもこの子、こんなに転びやすそうな体型で、さらに簡単に欠けるほど脆いんだし、きっと子供にすらあっという間に殺されると思う。
 やっぱり気をつけなきゃね。

 私は再び周りに細心の注意を払って気を引き締めて歩く、とにかく歩く。
 それにしてもこの岩の道はどこまで続いてるのかな?
 もうかなり歩いたんだよ? つかれることはないけど。。

 私は時たまに、そこらへんに落ちている小石を身体のどこか、主に腹部にくっつけて吸収して暇つぶししてるの。
 石は食べられるんだよね…口がないのに。
 これ、共食いにならないよね?

 ……と、こんなにつまみ食いしてたからかな?
 もう辺りが夕方と終わりに近づいてきて、かなり暗くなっちゃった。
 どうしよう、夜の間も動き続けた方がいいかな? うん、完全に見えなくなったら休んじゃおうっと。
 眠気はないんだけれど、これまた不思議なことに、寝ることはできるみたいだしね。

 夜月の明かりがなかったら、もはやなにも見えないと予測できるくらいには暗くなった頃、岩の影からピョンとブヨブヨとした何かが勢いよく飛び出してきた。

 不意打ちのつもりなのかな? なかなか派手な登場をしたそのブヨブヨ何かは私に向かってジャンプしながら、体当たりをかましてきた。

 そこでなぜかはわからないけれど、私の身体が今までの幼ゴーレムの遅さでは考えられないような速さで咄嗟に動く。
 これは"ゴーレム"という本能が動かしてるんじゃなくて、私の元人間、元小石としての脳の機能が"反射"で動いているんだ。

 その不意打ちしてきた何かを、改めて歩く時とでは考えられないような反射神経で右手でいなし、そのまますかさずその何かに左肘の鉄槌をいれた。

 その何かは勢いよく吹っ飛んだようだ。
 ふむふむ、中々に手応えがあったみたいだけど、このブヨブヨした奴、まるで少し柔らかめのゼリーを殴ったようなバシャッとした音がしたよ?

 ほんの少し辺りを照らしてくれている月と星の光のおかげで、吹っ飛んばした先に居るその、ブヨブヨとした何かの正体をよく見れた。
 
 それはアンノウン、液体生物、丸い。
 地球にはこんなの存在しないけど、ゲームには存在してる、まさにファンタジーのテンプレ生物。
 そう、そいつの名前はスライムだ。
 まさに、スライムとしか言いようがないような薄黄緑色の生物が少し弱った感じで、私が肘鉄のカウンターで吹っ飛ばした場所に居た。

 ほう、攻撃してきたということは、スライム(仮)よ、貴様は私と敵対するということでいいんだね?
 私はまだ動けずにいるスライムに近寄り、頭部であろうとみれる部位を行動を抑えるために左手で引っ掴み、勢いよく右手の拳を振り下ろす。


ブショーーー!


 うむ、かなり手応えありだね。
 私はプルプル震えているスライムを一旦手から放してやる。
 相当、右手の私の振り下ろしが効いたんだろうね。石で殴られたら痛いもんね。

 そう考えつつもう一度、殴るためにスライム(仮)をみてみると、下部がずりずりと後ずさりしていて、私から少しずつ遠ざかろうとしているのがわかった。
 残念、先に攻撃してきたのは君だよ。逃がさん。

 私はファイティングポースのごとく、その長い腕を、無理のないような形で顔の前に構える。
 そして、スライムに向かって左のパンチ…左ジャブを2回入れた後に右のストレート。

 
ピシャーーーー! ピシャ………


 スライムは断末魔らしきものをあげながら弾けたよ!
 やったね! 大勝利!
 
 でも倒したはいいんだけど、なんでかすこし身体がムズムズする。

 小石を食べたから排泄しなきゃいけないとか?
 スライムは実は毒を持ってたとか?
 いや、そんな感じじゃないんだよね、少し癖になりそうな気持ち良さがあるし、どうしても悪い影響のものだとは思えない。
 スライムを倒した瞬間にムズムズして……ここはファンタジーで……あ、これもしかして?


【スライムを倒した! 経験値5を取得】
【レベルが1上がり、レベル2になった! 詳細はステータスを見ましょう】


 うん! やっぱりね。
 そんなことじゃないかと思ってたんだ。

 でも、ステータスの見方がわからん。
 ステータスみたいなー?
 どうすればいいのかなー?
 
 そう考えていたら、ステータスが表示された。
 成る程ね、見たかったら、見たいと思えば見れるんだ。
 やっぱり、地球ではありえない、かなりファンタジックだね。


==============
トゥーンゴーレム
Lv.2

HP: 15/15
MP: 7/7
攻撃:15 
魔力:7
防御:15
器用:7
素早:5
==============
 
 
 やっぱり私が吸収したこの身体はゴーレムだったんだ。
 それにしても地球のゲームのようにいかにもゴーレムって感じの、攻撃と防御基準のステータスしてる。
 個人的にそこまで素早さ低くないと思うんだけどね。

 ところで、さっきの私の格闘技のフルコンボはなんだったんだろう? 
 前世、私はなにか格闘技でもやってたのかな?
 まぁ、いまはそんなこと、幸運程度に捉えればいいかな。
 つまりこれでもう、何者かに襲われて、無抵抗のままいきなり死んじゃうようなことはないわけだよね。
 格闘技と高い反射神経がなんとかしてくれる。

 勝てそうな魔物…いやモンスターかな? 
 まぁ、とにかくなんかファンタジーっぽい生き物がいたら、経験値の肥やしとして殴り飛ばせばいいよね!
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...