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254話 炎蜥蜴を捕獲したのでございます!

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 あの棍はやはり魔王軍幹部特有のアーティファクトね。炎天如と言われたそれは名前を叫ばれた瞬間から真っ赤に燃え盛っているのに、イフリートサラマンドラから半魔半人のジンになった彼の腕は全く燃えていない。


「ははははははは! 我が炎天如は全てを破壊し燃やし尽くす!」
「そうか。どれ、その効果を見てみようかの。クロ」
【リスドゴドラム!】


 クロさんは水晶の槍をジンに向かって飛ばし始めた。しかしジンはそれらを振り回すだけで全てのかし、また、棍に触れた水晶は岩であるにもかかわらず接触箇所が溶けていた。


「ほぉ、なかなかの熱量じゃの」
「ははははは! そうだ。これは我が最大火力の魔法を何発も保存しておいたもの! 我のことをよく知っていたな老人。これがどう意味か……はははははは! わかるだろう!」


 未だ飛んでくる水晶を弾き溶かしながらおじいさんとクロさんに向かって突撃してきた。でも二人は悠長に構えている。


「はははは! 焼き切れて死ねぇい! ……ぐふぉ!?」


 おじいさんまであと1mあるかないかまでジンが近づいてきたその時、地面からジンの鳩尾にめがけて水晶でできたげんこつが飛んできた。見事なクリーンヒット。


「うぐ………」
「そんな物騒なものは手放すんじゃ」
「あっ」


 さらに地面から別の水晶でできた手が生えてきて、一瞬悶えて隙ができたジンから棍をもぎ取った。


「くそ……ぬ!」
「これで一件落着じゃな」


 気がつけば次から次へと地面から水晶でできた手が生えてきて、ジンの身体をおさえつけてゆく。あっという間に拘束が完成してしまった。


「は、ははは! くそが!」
「さて、これから色々訊くとしようかの」
「………」


 すごいわおじいさん。こんなにアッサリと魔王軍幹部を無力化させた人を初めて見た。お父さんもお母さんもある程度は手を焼いたり私たちのサポートが必要だったりしたのに。
 これでもう警戒する必要はないだろうし、私とロモンちゃんは魔人融体を解くことにした。


「不愉快だ! 実に不愉快だ! はははは、この我がこんな簡単になんども……!」
「いくら魔王軍の幹部で半魔半人化してると言っても、基本の基本はトカゲの魔物じゃ。ワシは全ての魔物の基本形を熟知しておる。なんならもう一戦やってみるか? 結果は同じじゃぞ」
「っ……!」


 ジンの歯ぎしりが聞こえてくる。おじいさんを睨んでいるけれど、すごんだってなんの意味もないことくらい本人はわかっていると思う。


「しかたな……ぬぐ!」
「無駄じゃよ」
「あれ、今あいつ何しようとしたの? 一瞬光ったように見えたけど……」
【多分、おじいちゃんが魔物化するのを無理やり止めたんだよ】
「なるほど」


 よく見たらおじいさんの水晶の手による拘束は鳩尾部分だけがガラ空きで、そこに狙いを済ませたように地面からもう一本水晶が待ち構えていた。今のはこれで殴ったのね。


「ちなみに、いつ衝撃を与えれば行動をやめさせられるかも完璧にわかっておるつもりじゃよ。魔物化して一旦拘束を解こうなぞ無理だと思うことじゃな」
「くそが! ならば殺せ! 殺すがいい!」
「違うんじゃよ。コッチはお前さんから話を聞きたいんじゃ」
「死んでも話すものか!」
「はぁ……仕方ない」


 ま、まさかあの優しいおじいさんが尋問、拷問をするのかしら……!? ちょっとイメージできないし、あまり見たくない。


「はははは! 絶対に口は割らないからな」
「別に何も、お前さんが話さなくても良いわい」
「ははは? それはどういう……」
「クロ、あれをやる。ありったけの魔力を貸してくれ」
【あれか。すごく久しぶりだなー】


 あれってなんだろう。とてつもなく嫌な予感というか、とんでもないことを披露してくれそうな予感がする。とりあえず痛いことをするわけではなさそう。


「おじいちゃん何を見せてくれるのかな?」
「わくわくだね!」
【野生の勘が言ってるゾ。すごいけどあまり良いものじゃない気がするんだゾ】
「えっ、やっぱりそうなのかなぁ」
【クロから言わせてもらうと、そこそこヤバイ技だぞ】


 ケルくんもクロさんもそう言ってる。やっぱり痛いことなのかしら?
 おじいさんはジンの目の前まで来ると、立ち膝をして、ある程度押さえつけられてる彼に目線を合わせた。ジンの額に手を置く。
 しばらくそうしていると、なにかを思い出したように私の方を振り向いた。


「そういえばアイリスちゃんも魔力が膨大だったな?」
【え、ええ、まあ】
「ならばワシに魔力を送ってくれんか。クロの手を握ってるだけでいい」
「わかりました」


 言われた通りにクロさんに近づき、彼の手を握る。今の私に感覚はないけど皮膚が硬そうなのはわかる。
 

【基本的な魔力吸収特技だからたくさん吸い取れるわけじゃない。安心して】
【わかりました】
【ところでアイリスといったな? 君はかなり特殊な存在みたいだ】
【それはよく言われます】
【そっか。あ、吸い取り始めるよ】


 クロさんの手から私のMPが吸い取られて行く。事前に宣告された通り大した量ではない。お役に立てるのかしら。それよりおじさんが何をするかの方が気になるんだけど……。


「じゃあ、始めるかの」
「なにをする気だ!」
「なに、お前さんの記憶を覗くだけじゃよ」
「は……? はっははは、どうやってそんなことを……」


 なんと魔人融体と同じ反応をおじいさんはジンに向けて行い始めた。ジンは愕然とした表情で体をうねらせ、叫び始める。


「やめ、やめろぉぉおぉ!? なぜだ、なぜ入ってこれる!? 貴様と我は契約などしていない! それどころか、今の我は人間だぞ!? や、な……やめ……うがあああああああああああ!」


◆◆◆


【お、安定してきた】


 クロさんがそう呟いた。おじいさんは普通に魔人融体してる魔物使いと同じように身体を眠らせており、ジンは中に入られただとかなんとかで目を白くさせ、ピクピクと体を震わせながら半ば気絶したようになっている。


【あ、あの……】
【ジーゼフの愛孫。なんだい?】
【おじいちゃんは何をしたの?】
【色々複雑なんだけど、簡単に言えば魔人融体の応用の応用だな。最初にあいつのステータスを見たのも応用だ】


 ロモンちゃんの問いに、クロさんは優しく答えてくれていた。魔人融体の応用の応用……ねぇ。たしかに魔人融体をしてるのにその場で立って話せてたり、色々とできそうだものね、おじいさんは。


【ありがとう。おじいちゃん、すごいなぁ……】
【そうだな。ジーゼフは伝説的な存在と言っても過言じゃないとクロも思ってる。常人じゃ真似できないような代物だ。あ、本人には言わないで、照れ恥ずかしい】
【うん、わかった】
【でも孫だし、君ならできるかもな】


 そうか、色々できそうなのはいいけど、どう考えても記憶やステータスを覗けるのは強すぎる。だから国から力を使うのを全面禁止されてたのかしらね。
 ロモンちゃんには期待したいな。おじいさんみたいなこと、できるようになるかしら?


「ぬ、ぬぐうおおおおおおお……」
「な、なに!?」
【お、終わったみたいだ。ちょっと長かった……知りたいこと以外のことも色々覗いてきたのかも】 
「お……おお……うっ……」


 ジンは完全に気絶した。その瞬間、おじいさんが真顔のまま背筋を伸ばしてシャンと立ち上がる。膝や埃を払ってから私たちに近づいてきた。


「少し長くかかったわい」
【なにか別のことも見てたんじゃないの?】
「まあ、その通りなんじゃが」
「記憶覗いたんでしょ? どうだった?」
「ほっほっほっ……といったかんじじゃな」
「「そ、そんなのじゃわかんないよー!」」


 おじいさんはただ笑っている。
 笑ってるけど……なにか、重大なことがわかったため、それをごまかすために笑ってる気がするな。


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