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第37話 腹ぺこゴブリン 2
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ゴゴッゴゴーレムはまた宙に浮く。
やつが落ちた跡には僕が倒したゴブリンの死骸がぺちゃんこになって血溜まりができている。こいつならもし仲間のゴブリン達が生きていたとしても気にせず押し潰しに巻き込んでいたような気がしてならない。
やつはそのまま真上まできて、魔法を解除して落下。僕は再びそれを回避する。
今の僕にそれが当たるわけないんだけど、もし当たったら一巻の終わりだから冷や汗が出る。間違いなくぺちゃんこになっちゃうもの。
そしてまた浮く。そしてまた落ちる。これで三回目。
僕も三回目の回避を行おうとしたところ、どうにも足取りが重たいことに気がついた。加えてゴブリンの落下速度が少し速くなっている。
……たぶんこの僕にかかっている重さも、落下スピードも重力魔法。魔法が2カ所以上を対象にしている。つまりそれはこいつが【多発魔法】の能力も所持していることになる。
魔法陣が見えなくて、魔法も口に出さなくて良くて、多発魔法もできて、魔法の応用を使いこなしている。まるで僕じゃないか。
魔法の種類とか見た目とか全然違うけど、僕自身と似たことをされるだけでこんなにも驚異だったとは。試験の時、皆が驚きすぎて僕に対して黙ってしまったのを思い出す。……これからも続けよう。
とはいえ多少体を重くされたくらいでこのスピードが止められるわけでもない。ゴゴッゴゴブリンが落ちてくる範囲から倒れ込むようにして逃れる。このくらいならまだ大丈夫だ。
どうせまたすぐに次がくる。
そう思って身構えたけれど、今度はなぜか地面に顔から突っ伏したまま動かない。
そして四度目の腹の音がなった。もはやそれは本当に空腹によるお腹の音なのか怪しいくらいの爆音。ゴブリンは手足をバタバタさせて苦しんでいるように見える。
「ヌ……ヌガ……ウガアアアアアアア!」
悲痛な声をあげながら上半身を少しだけ起こし、僕の方を睨むと、全身が鉄のように銀色に染まった。おそらく硬さも鉄や鋼そのものになっている。鉄魔法の一種だ。
その状態でゴゴッゴゴブリンは僕を睨んだまま空へ登っていった。さっきまでの高さとは比にならないくらい高く、高く。
穴の高さは悠に超え、さらにその二倍はあるであろう地点で動きを止める。
要するに超重量の鉄の塊が重力魔法によってより重さを増しながら落ちてくる。……直撃しなかったとしても僕にダメージがきそうだ。
ゴゴッゴゴブリンは空中で動きを止めてから中々降りてこない。どうやら僕以外のものに注意が逸らされた様子。
……いや、まずい。その目線を向けている方向がまずい。猫族の皆が隠れている先だ。上から見て気がついちゃったんだ。
首だけを左右に振り、僕と猫族達を交互に見ている。
しばらくそれを繰り返すと、もう一度僕の方に視線を向け、ついに落下してきた。
やっぱり僕が食べたいということだろうか。もっと小さい子供とか女性とかよりも? たしかにお姉ちゃんからはよく食べちゃいたいって言われてきたけれども……。ま、まあ、僕は自由に逃げられる分、皆んなが標的になるよりは断然マシだ。
鉄を纏った巨体のゴブリンが空から自分めがけて降ってくる。もちろん落下速度と僕の体の重さも変えて。
しかし今度は空に浮いている間にだいぶ時間があったから、どこにどう逃げるか考えてある。
ゴゴッゴゴブリンが穴の中と外の境目のラインを超えた頃、僕は転がりながら横穴の一つの中に入った。これで飛ばされてくる瓦礫や風圧は防げるというわけだ。
うまく横穴の中に逃げ込んだ次の瞬間、ものすごい揺れが地面を唸らせる。ここまで土煙や風が舞い込んでくるほど。
揺れがおさまってから横穴から出ると、ゴゴッゴゴブリンが地面に半分以上埋まっていた。しかしすぐにやつはそこから自力で起き上がり、その場に座り込む。
もう落下攻撃はやめたのだろうか。
そう思った次の瞬間、手のひらを猫族達がいた方向に向けた。今はもう僕の方を見向きもしていない。
おそらく、今の一撃でダメだったら僕のことを放っておいて猫族達に切り替えようと、あの交互に眺めてる時に決めたんだろう。
そもそも手を動かす速さが今、普通だった。普通の速度だった。もう僕の補助魔法はきれたというのだろうか。
かなり強い耐性の能力を持っているか、あるいは早く解除される能力を持っているかは知らないけれど、こいつはことごとく今まで僕が培ってきたものを打ち破ってくる。
止めなくちゃ。
そう思って動き出した途端、目眩し程度ではあるけれど僕の目の前で小規模の爆発が起こる。それに見事にはめられ、ゴゴッゴゴブリンの重力魔法発動を許してしまった。
「わ、わあああ、ひ、引き寄せられる!?」
「にゃんだこれ!」
「こ、子供! 子供から庇うんだ!」
猫族のみんなが森の中から引き摺り出され、木々に捕まって耐えているのがわかる。もうここから何人か姿が見えるほどだ。
……赤ちゃんを抱いていた女性が、手が滑ったのかその子を手放してしまった。
「あっ……!?」
「あぶにゃい!」
物陰から飛び出したのは一人の女の子。その子は赤ちゃんをすんでのところで掴むと、お母さんとその子の手を握らせた。
そしてその代わりにその女の子が完全に捕まる拠り所をなくし、重力魔法に引き寄せれ、こちらに向かってくる。
「に、にゃああああ!」
僕はゴゴッゴゴブリンの元へ駆けた。一瞬で足元に着き、重力魔法を放っている手に向かって鞭を振るう。しかし全く聞いていない。痛みすらほとんど感じていないようだ。
続けて、合わせられる限りの技を合わせた最高火力の一撃を放とうとする。その構えをとった瞬間、再び顔面近くに爆発が起こり、目が眩まされ、体を硬直せざるを得なくさせれられた。
「にっ……」
「グハァ……ハァ……ブハァ……」
そしてその隙に女の子の体がゴゴッゴゴブリンの手の内に収まってしまつまた。
「な、なんにゃ……?」
女の子の問いかけに応えるように、お腹の音が鳴る。
「ま、まさか……た、助けて……!」
ゴゴッゴゴブリンは口を大きくあけ……。
=====
(あとがき)
※次の投稿は明日の午後6時です!
追記:すいません! 予約投稿の日程ミスってこんな時間になってしまいました! 申し訳ありませんでした!
(非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!)
やつが落ちた跡には僕が倒したゴブリンの死骸がぺちゃんこになって血溜まりができている。こいつならもし仲間のゴブリン達が生きていたとしても気にせず押し潰しに巻き込んでいたような気がしてならない。
やつはそのまま真上まできて、魔法を解除して落下。僕は再びそれを回避する。
今の僕にそれが当たるわけないんだけど、もし当たったら一巻の終わりだから冷や汗が出る。間違いなくぺちゃんこになっちゃうもの。
そしてまた浮く。そしてまた落ちる。これで三回目。
僕も三回目の回避を行おうとしたところ、どうにも足取りが重たいことに気がついた。加えてゴブリンの落下速度が少し速くなっている。
……たぶんこの僕にかかっている重さも、落下スピードも重力魔法。魔法が2カ所以上を対象にしている。つまりそれはこいつが【多発魔法】の能力も所持していることになる。
魔法陣が見えなくて、魔法も口に出さなくて良くて、多発魔法もできて、魔法の応用を使いこなしている。まるで僕じゃないか。
魔法の種類とか見た目とか全然違うけど、僕自身と似たことをされるだけでこんなにも驚異だったとは。試験の時、皆が驚きすぎて僕に対して黙ってしまったのを思い出す。……これからも続けよう。
とはいえ多少体を重くされたくらいでこのスピードが止められるわけでもない。ゴゴッゴゴブリンが落ちてくる範囲から倒れ込むようにして逃れる。このくらいならまだ大丈夫だ。
どうせまたすぐに次がくる。
そう思って身構えたけれど、今度はなぜか地面に顔から突っ伏したまま動かない。
そして四度目の腹の音がなった。もはやそれは本当に空腹によるお腹の音なのか怪しいくらいの爆音。ゴブリンは手足をバタバタさせて苦しんでいるように見える。
「ヌ……ヌガ……ウガアアアアアアア!」
悲痛な声をあげながら上半身を少しだけ起こし、僕の方を睨むと、全身が鉄のように銀色に染まった。おそらく硬さも鉄や鋼そのものになっている。鉄魔法の一種だ。
その状態でゴゴッゴゴブリンは僕を睨んだまま空へ登っていった。さっきまでの高さとは比にならないくらい高く、高く。
穴の高さは悠に超え、さらにその二倍はあるであろう地点で動きを止める。
要するに超重量の鉄の塊が重力魔法によってより重さを増しながら落ちてくる。……直撃しなかったとしても僕にダメージがきそうだ。
ゴゴッゴゴブリンは空中で動きを止めてから中々降りてこない。どうやら僕以外のものに注意が逸らされた様子。
……いや、まずい。その目線を向けている方向がまずい。猫族の皆が隠れている先だ。上から見て気がついちゃったんだ。
首だけを左右に振り、僕と猫族達を交互に見ている。
しばらくそれを繰り返すと、もう一度僕の方に視線を向け、ついに落下してきた。
やっぱり僕が食べたいということだろうか。もっと小さい子供とか女性とかよりも? たしかにお姉ちゃんからはよく食べちゃいたいって言われてきたけれども……。ま、まあ、僕は自由に逃げられる分、皆んなが標的になるよりは断然マシだ。
鉄を纏った巨体のゴブリンが空から自分めがけて降ってくる。もちろん落下速度と僕の体の重さも変えて。
しかし今度は空に浮いている間にだいぶ時間があったから、どこにどう逃げるか考えてある。
ゴゴッゴゴブリンが穴の中と外の境目のラインを超えた頃、僕は転がりながら横穴の一つの中に入った。これで飛ばされてくる瓦礫や風圧は防げるというわけだ。
うまく横穴の中に逃げ込んだ次の瞬間、ものすごい揺れが地面を唸らせる。ここまで土煙や風が舞い込んでくるほど。
揺れがおさまってから横穴から出ると、ゴゴッゴゴブリンが地面に半分以上埋まっていた。しかしすぐにやつはそこから自力で起き上がり、その場に座り込む。
もう落下攻撃はやめたのだろうか。
そう思った次の瞬間、手のひらを猫族達がいた方向に向けた。今はもう僕の方を見向きもしていない。
おそらく、今の一撃でダメだったら僕のことを放っておいて猫族達に切り替えようと、あの交互に眺めてる時に決めたんだろう。
そもそも手を動かす速さが今、普通だった。普通の速度だった。もう僕の補助魔法はきれたというのだろうか。
かなり強い耐性の能力を持っているか、あるいは早く解除される能力を持っているかは知らないけれど、こいつはことごとく今まで僕が培ってきたものを打ち破ってくる。
止めなくちゃ。
そう思って動き出した途端、目眩し程度ではあるけれど僕の目の前で小規模の爆発が起こる。それに見事にはめられ、ゴゴッゴゴブリンの重力魔法発動を許してしまった。
「わ、わあああ、ひ、引き寄せられる!?」
「にゃんだこれ!」
「こ、子供! 子供から庇うんだ!」
猫族のみんなが森の中から引き摺り出され、木々に捕まって耐えているのがわかる。もうここから何人か姿が見えるほどだ。
……赤ちゃんを抱いていた女性が、手が滑ったのかその子を手放してしまった。
「あっ……!?」
「あぶにゃい!」
物陰から飛び出したのは一人の女の子。その子は赤ちゃんをすんでのところで掴むと、お母さんとその子の手を握らせた。
そしてその代わりにその女の子が完全に捕まる拠り所をなくし、重力魔法に引き寄せれ、こちらに向かってくる。
「に、にゃああああ!」
僕はゴゴッゴゴブリンの元へ駆けた。一瞬で足元に着き、重力魔法を放っている手に向かって鞭を振るう。しかし全く聞いていない。痛みすらほとんど感じていないようだ。
続けて、合わせられる限りの技を合わせた最高火力の一撃を放とうとする。その構えをとった瞬間、再び顔面近くに爆発が起こり、目が眩まされ、体を硬直せざるを得なくさせれられた。
「にっ……」
「グハァ……ハァ……ブハァ……」
そしてその隙に女の子の体がゴゴッゴゴブリンの手の内に収まってしまつまた。
「な、なんにゃ……?」
女の子の問いかけに応えるように、お腹の音が鳴る。
「ま、まさか……た、助けて……!」
ゴゴッゴゴブリンは口を大きくあけ……。
=====
(あとがき)
※次の投稿は明日の午後6時です!
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