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第5話 実力試験

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「えー、みんな座りましたね」


 誰一人欠けていない。ちゃんと全員揃い、全員席についている。
 先生はうなずくと、言葉を続けた。


「ではこれからとても大事な話をします。貴方達の一生に関わる話です。特に剣士や魔法使いなどの戦闘職の子は。……いまから一週間後、昨日教会に集まった他校の子達と合同で実力試験を行います」


 実力試験……か。

 他校の生徒達やその先生方だけでなく、この町を管轄している貴族や商人、国から派遣されてきた人や近遠問わずやってきた冒険者ギルドの経営者の前で己の強さをアピールし、スカウトしてもらうという行事だ。
 それ以外の職業の人達は、また別の会場でその職業にあった手腕を見せることで同じようなことをするらしい。

 でも魔物や賞金首が蔓延っているこの世の中である意味一番盛り上がるのはやはり、戦闘職の試験。ここでいかに良いところに拾われるかで今後の身の振り方が変わってくる。


「対戦相手は試験直前にわかります。各自、この一週間の間に儀式で得た情報をもとに己を鍛えてください。これが大事ですよ。いままでここで勉強してきたことの集大成です」


 もう卒業式も儀式の一週間前に終わってる。つまり、実力試験が終われば僕たちはもう学び舎に来ることはなく、一人の人間として独立し、生きていくことになる。
 とはいえ半分近くはすぐにはスカウトしてもらった先へ行かず、一年ほど自宅で自己鍛錬や気持ちの整理をしてからなんだけど。


「……ただ、一人だけ今回例外が居ます。みんな知っている通りアテスさんです。すでに王国から直接、お話が来ています」
「おおおお!」
「そりゃそうだよな!」


 当然だ。国そのものが剣聖以上の存在を野放しにしておくはずがない。さっきまでアテスが個人的に受けていた話の内容もきっとそれだろう。
 アテス本人はやっぱりあまり顔色が良くない。戦闘職自体を嫌がっている訳ではないと思うけど、あまり突拍子も現実味もない自分の突きつけられた才能に戸惑い続けているんだろう。


「……では、短いですが。今日の話はここまで。これで解散です。八年間の学業生活もこれで終わり。みなさん、最後の最後まで気を引き締めていきましょう」
「「「はいっ」」」


 話が終わり、教室から立ち去ろうとしているブライト先生は一瞬だけ僕に向かってアイコンタクトをとった。
 僕は荷物を持ってすぐに立ち上がり続けて教室をでる。本当はアテスに声をかけてやりたいけど。

 僕とブライト先生は一直線に校長室へやってきた。
 入るなり校長が失意に満ちた表情で僕を迎えてくれる。


「ギアルくんや、まあ、座りなさい。ブライト先生も私の隣に」
「はい、失礼します」
「……で。その、魔法については、残念だったね。スキルも二つだけのようだし……ね?」
「そうですね」


 校長先生はため息混じりにそう言った。そこから不自然なほど長い沈黙のあと、ブライト先生が話を再開した。


「……君には二つ、謝らなければならないことがあります」
「はい」
「……一つは昨日。私が大勢の前でギアルくんの魔法の種類を勝手にバラしてしまったことです。驚いていたとはいえ、不注意でした。本当に申し訳ありませんでした」


 ブライト先生は深く頭を下げた。
 魔法の種類や能力を勝手にばらされるということは、住所や身長、体重を断りなくバラされるのと同義。
 昨日のブライト先生が行っていた儀式を行う司教として本来、絶対やっちゃいけないこと。
 ま、僕はあんまり気にしてないけど。誰だって驚いちゃうだろうし。


「人はミスをするものですから。僕はあんまり気にしてませんよ」
「たった一つの魔法の種類をバラされたのにかい? 普通の人の魔法が一種バラされるとは、全然違うんだよギアルくんや」
「いいんです、僕は怒ってませんから」
「そうかい? 相変わらず寛容というか、クールというか。……とのことですな、ブライト先生。今後は深く気をつけてくださいよ」
「はい……」


 ここまでシュンとしているブライト先生は初めて見た。かなり反省してるんだろう。どっちみち僕が怒っていたとしても、この姿をみたらその怒りも引っ込んだかもしれない。


「それでね、もう一つは……その、先月話した君に事前のスカウトがあった話なんだが……。ほら、この国一番の冒険者ギルドから」
「あ……? ああ……」
「それがその、もう既に君が一つしか魔法を持たない大魔導師ってことが伝わってしまったみたいでね。その……今朝、断りの連絡が……」
「あー……」


 正直、この国一のギルドから話がなくなってしまったのは痛い。先月の僕は大して気にしてなかった話だから、記憶がおぼろげだけど。今の僕にとっては違う。最強を目指すっていう夢ができたからね。
 ……とはいえ、自分をいらないと判断したギルドに入れてもらって気持ちよく仕事ができるかと言われればそれはありえない。ならば普通に来週の試験でスカウトしてもらったほうがいい。


「わかりました。残念ですが、みんなと同じように来週に賭けることにします」
「そのこと、なんですけどね、ギアルくん。私も一緒に話をつけにいきます。いくらでも頭を下げますから、あなたのお父さんのところで司書として働かせてもらえるように……」
「なんなら私も同行しよう」


 むっ。魔法がばらされたことより今の発言にかなりカチンときた。
 どうやら僕のことをずっと買ってくれていたブライト先生すら僕はもうダメだという烙印を級友達と同じように押してしまうみたいだ。


「つまり試験は諦めろと? すいませんが先生方、そうはいきません。僕は冒険者になってやりたいことができたので」
「し、しかしだね、君は……!」
「無理だと思うのなら、勝手にそう思っていればいいでしょう。僕はやります。一週間後を楽しみにしていてください」
「え、あ、今のに怒っ……」
「失礼しました」


 僕は立ち上がって一礼をしてから校長室を去った。
 さて、特訓だ。特訓を始めなければ。
 この一週間でみんなを驚かせるくらい強くなってやる。僕なら、夢を持った僕ならばそれができるはずだ。


<【特技強化・極】の効果が発動。
  能力追加:【ネバーギブアップ】>





==========
(あとがき)


「職業の強さについて」

 本物語ではゲームのようなステータスなどは定めていませんが、わかりやすくするために敢えて数値化して職業を考えています。その場合、以下のようになります。
(全て例えです。今後あとがきには何回か登場する設定ですが、本編には反映させません)。

「剣士」×1.00
「上級剣士」×1.25
「剣豪」×1.50
「剣聖」×2.00

 例えば、剣聖Lv20が居たとして、それと全く同じ魔法・能力を持つ剣士がその剣聖に追いつくにはLv40まで上げる必要があります。

 逆に言えば鍛えさえすれば、最下級でも最上級に勝つことはできてしまいます。
 また、魔法や能力による相性で有利不利が変わるので、最下級だから弱い、最上級だから強いとは限りません。



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