【完結】囚われの蝶

彩森ゆいか

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後編

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 俺は彼の足元にしゃがみ、勝手に下着の中からまだ萎えているものを引っ張り出して、大きく口を開けた。
 根元を手で上下にしごきながら、舌も使い、口に含んだものを執拗に出し入れする。歯が当たらないように気をつけた。
 あっという間にそれは硬くなり、大きくなった。先走りの蜜が溢れ始める。
 静寂の中で、俺が奉仕する濡れた音だけが辺りに響く。江島さんの手が、そっと俺の髪に触れた。
 やがて彼は切羽詰ったような息遣いになり、ぶるっと震えた。
「……うっ」
 溢れ出した白濁を俺は喉の奥へといざない、必死で飲み干した。
 江島さんの手が、俺の髪を撫でる。その手は優しかった。
「……本気にしてもいい?」
 少しかすれた低い囁き。
「本気に、してください」
 俺は吐息混じりに答えた。
「わかった。本気にする」
 江島さんが小さく笑った。完敗したような響きだった。
 その後、トイレから出た俺たちはすぐに店を後にし、スマートフォンの地図検索で、男同士でも入れるラブホテルを探した。幸い、近くで見つかった。
 部屋に入ると、江島さんが急に積極的になったから驚いた。俺の身体を抱きしめてきて、濃厚なキスをくれる。俺はくらくらする頭で、熱に浮かされたようにされるがままになった。
 どっちがヤるかヤられるかの話はしていなかったのに、気づけば俺は江島さんの下に組み敷かれていた。俺、ヤる側のつもりだったんだけどな。まあいいか……。
 俺の服を脱がしながら、江島さんが問いかけてくる。
「泰人くんは男とするのは初めて?」
「……いや、ヤる側ならあります」
「やっぱり。フェラ上手かったもんね」
 褒められてドキリとした。下手と言われるよりは上手いと言われるほうが嬉しいに決まっている。
 乳首に江島さんの唇が触れ、どぎまぎした。濡れた舌に刺激され、なんとも言いようのない甘美な快感に浸った。
 濃厚で甘い前戯に意識が飛ぶ。江島さんは上手かった。
「入れるよ」
 さんざん指でほぐした場所に、とうとう江島さん自身が来た。俺の全身は歓喜に震え、生まれて初めて尻で男を受け入れた。
 ベッドがギシギシときしむ。江島さんが腰を動かすたびに俺の身体が揺れる。俺の小さな孔は彼でいっぱいになり、むりやり開かれる悦びに酔いしれた。
 奥のほうまで届く先端に腰ががくがくと震え、どうしようもない快楽へと引きずり込まれていく。
 意外と江島さんにはためらいや戸惑いがなく、不思議と手順も心得ていた。もしかしたら初めてじゃないのかもしれない。
 正常位や後背位や騎乗位を一通り実行され、俺は身も心もすっかり蕩けきっていた。
「泰人くん、君の身体は極上だね」
 江島さんが俺の背中から腰へと唇を這わせる。くすぐったい反面で、ぞくぞくした。
「君はもう俺だけのものだ」
 ああ、俺は江島さんのものになったんだ。
 幸せでたまらない。
「君をもっと鳴かせたい。快楽から逃れられない身体へと変貌させたい」
 江島さんが妙なことを言った。
 俺は戸惑いながら顔をあげた。江島さんはまっすぐに俺を見ていた。
「俺だけに見せる顔、見せてよ」
 危険な目の色だった。まるで獲物をつかまえた猛獣のような。
 俺は激しく戸惑った。これは、誰だ?
 俺の知っている江島さんじゃない――。
 彼は薄く笑った。俺は反射的に、吸血鬼に噛まれる寸前の令嬢のような気分になる。
 殺されるのかもしれないと思うような恐怖で全身が震え、江島さんの目から視線を外せなくなった。ヘビににらまれたカエルのように。
 酷薄な笑みを浮かべたまま、そっとメガネを外し、江島さんは口を開いた。
「調教開始だ」
「……え……」
「覚悟してくれ。君はもう俺だけのものなんだから」
 そう告げると江島さんは、ベッドの脇にあった俺のシャツをつかみ、あっという間に俺の腕を縛りあげた。さらに江島さんが脱ぐ前に身に着けていたネクタイをつかみ、俺は目隠しされた。
 うつ伏せの姿勢からぐいっと腰だけを持ち上げられ、後背位の姿勢になる。いきなり後ろから突き入れられて、反射的にうめいた。
「うっ……あっ」
「たっぷり可愛がってやるよ、泰人」
 江島さんはそう囁くと、ねっとりと腰を動かし始めた。
「俺はこの瞬間が来るのをずっと待ってた。目に見えない蜘蛛の糸を張り巡らせて、君が美しい蝶のように引っかかるのをずっと待ってたんだ」
 江島さんが嬉しそうな声で、ぞっとするような告白を始めた。
「君がこの半年間ずっと俺に好意を持ってくれていたことは知っていた。熱い眼差しを感じるたび、俺はこの日のことを思い描いていた。どうやって鳴かせてやろう。そんなことばかり考えていたよ。君のほうから飛び込んでくるのをずっと待っていた。つかまえたからには逃さない。君は永遠に俺だけのものだ」
 目隠しされ、腕を拘束され、後ろから突き上げられていると、今が現実なのか夢なのか、だんだんわからなくなってくる。研ぎ澄まされる快感ばかりが脳を占めて、江島さんの告白の内容がよくわからなくなってくる。
 気持ちよさに溺れると、すべてがどうでもよくなってきた。
 江島さんに愛され、抱かれている。その現実さえあればいい。そう思った。
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