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第6話 デュレン
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「……西岡、さん」
男の顔を見た瞬間に声が出た。
だた、そう呼ばれた男のほうは、何を言われたのかわからない様子で眉をひそめている。
仕立てのいい生地の貴族風の服装。腰には剣を穿き、服に包まれた体躯はしなやかで引き締まっている。西岡悠司と確実に違うのは、身のこなしが俊敏なところだろう。悠司なら絶対に、いきなり獰猛な狼と戦うことなどできない。
よく見ると髪の長さも違うし、髪型も違う。さっぱりした爽やかなサラリーマンらしい短髪の悠司とは違い、この男はもう少し髪が長い。毛先が肩には届かず、うなじが隠れる程度だが、どう見ても悠司より長い。それに髪の色も黒ではない。濃い茶色だ。
それに表情もまるで違う。悠司は仕事ができても、やはり平和な平成の日本に生まれ育った雰囲気が全身に漂っていて穏やかだが、この男は精悍な顔つきで表情も厳しい。間違いなく戦い慣れている。
そしてもっと違うのは年齢だ。悠司は三十歳の大人の男だが、目の前にいる男はもっと若い。十代後半あるいは二十代前半ぐらいだろうか。とにかく若い。
「……あなたは、誰……?」
呆然と問いかけるリアナに対し、男は悠然と答えた。
「俺はデュレン・ミラファ。伯爵家ミラファの当主だ。おまえは?」
相手からも問いかけられ、リアナは慌てた。地面に座り込んだ姿勢のまま口を開く。
「わ、私は……亜姫、じゃない、リアナ。リアナ・フレングスです」
「……フレングス?」
デュレンが何かに気づいた様子で眉をひそめた。
「フレングス子爵の娘か? あの壊滅したフレングス家の」
「壊滅……?」
リアナはどこか遠い世界の話でも聞いているような感覚で、言葉を繰り返した。
「壊滅って……?」
ぼんやり言葉を繰り返すリアナに業を煮やしたのか、デュレンはいきなり彼女を抱き起こした。
「きゃあっ」
「ここでのんびり話してるとまた獣が現れるぞ。この森は物騒なんだ」
お姫様抱っこの形で抱きかかえられ、リアナは慌てふためいた。
「待っ……! ちょっ、なんで、どこに連れて行く気なの……っ!」
「いいから、じっとしてろ」
軽々とリアナを持ったまま、デュレンが駆け出した。伯爵というのは貴族ではないのか。貴族というのはもっとひょろひょろして力がないものではないのか。
そんなに大柄でもなければ、筋肉隆々でもないのに、いったいどこからこんなパワーが湧いて出るのか。まるで戦隊物のヒーローのようだと思いながら、リアナはあれよあれよという間に運ばれて行った。
気づけば森を抜け、目の前には道が広がっていた。
建物などどこにもない。ただ道が延々と地平線まで続いているだけ。空が広大だった。
その世界を見た瞬間、リアナは改めて確信した。ここは現代日本とはまるで違う別世界なのだと。そしてもう二度と、あの平凡で平穏な暮らしには帰れないのだと。
男の顔を見た瞬間に声が出た。
だた、そう呼ばれた男のほうは、何を言われたのかわからない様子で眉をひそめている。
仕立てのいい生地の貴族風の服装。腰には剣を穿き、服に包まれた体躯はしなやかで引き締まっている。西岡悠司と確実に違うのは、身のこなしが俊敏なところだろう。悠司なら絶対に、いきなり獰猛な狼と戦うことなどできない。
よく見ると髪の長さも違うし、髪型も違う。さっぱりした爽やかなサラリーマンらしい短髪の悠司とは違い、この男はもう少し髪が長い。毛先が肩には届かず、うなじが隠れる程度だが、どう見ても悠司より長い。それに髪の色も黒ではない。濃い茶色だ。
それに表情もまるで違う。悠司は仕事ができても、やはり平和な平成の日本に生まれ育った雰囲気が全身に漂っていて穏やかだが、この男は精悍な顔つきで表情も厳しい。間違いなく戦い慣れている。
そしてもっと違うのは年齢だ。悠司は三十歳の大人の男だが、目の前にいる男はもっと若い。十代後半あるいは二十代前半ぐらいだろうか。とにかく若い。
「……あなたは、誰……?」
呆然と問いかけるリアナに対し、男は悠然と答えた。
「俺はデュレン・ミラファ。伯爵家ミラファの当主だ。おまえは?」
相手からも問いかけられ、リアナは慌てた。地面に座り込んだ姿勢のまま口を開く。
「わ、私は……亜姫、じゃない、リアナ。リアナ・フレングスです」
「……フレングス?」
デュレンが何かに気づいた様子で眉をひそめた。
「フレングス子爵の娘か? あの壊滅したフレングス家の」
「壊滅……?」
リアナはどこか遠い世界の話でも聞いているような感覚で、言葉を繰り返した。
「壊滅って……?」
ぼんやり言葉を繰り返すリアナに業を煮やしたのか、デュレンはいきなり彼女を抱き起こした。
「きゃあっ」
「ここでのんびり話してるとまた獣が現れるぞ。この森は物騒なんだ」
お姫様抱っこの形で抱きかかえられ、リアナは慌てふためいた。
「待っ……! ちょっ、なんで、どこに連れて行く気なの……っ!」
「いいから、じっとしてろ」
軽々とリアナを持ったまま、デュレンが駆け出した。伯爵というのは貴族ではないのか。貴族というのはもっとひょろひょろして力がないものではないのか。
そんなに大柄でもなければ、筋肉隆々でもないのに、いったいどこからこんなパワーが湧いて出るのか。まるで戦隊物のヒーローのようだと思いながら、リアナはあれよあれよという間に運ばれて行った。
気づけば森を抜け、目の前には道が広がっていた。
建物などどこにもない。ただ道が延々と地平線まで続いているだけ。空が広大だった。
その世界を見た瞬間、リアナは改めて確信した。ここは現代日本とはまるで違う別世界なのだと。そしてもう二度と、あの平凡で平穏な暮らしには帰れないのだと。
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