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第4話 治療
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血まみれの腕を、ガルドがじっくりと眺める。
「俺は冒険者だから、便利な道具をたくさん持ってる。薬草や解毒剤も持ってる。だが、魔法も使える。治癒魔法、使ってほしいか?」
治療すると言ってつかまえたのだから、使ってほしいに決まっている。
「……使ってくれ。借りを作るのは嫌だが、やむを得ない」
心の中の葛藤を隠さず、ラムティスが告げる。ガルドが彼を眺めながら腕を組んだ。
「ふむ」
「早くしてくれ。死ぬじゃないか」
「交換条件を出そう。治したら俺に抱かせろ」
「……は?」
ラムティスの眉根が寄る。険しい顔になった。
ガルドは真顔だった。
「このまま放置して死ぬか、治癒して俺に抱かれるか、どっちかだ」
「……はぁ?」
それはなかば脅迫。交換条件にもなっていない。
「くっ、人の弱みにつけ込むとは。なんて卑怯な男なんだ」
「俺は卑怯だよ。少なくとも清廉潔白な男じゃねぇ。さあ、どっちか選べ」
選びようがない。身体を差し出す以外に、生き延びる道がない。
だが、死にたくはない。
しかし、初対面の男に抱かれるなんて嫌だ。
葛藤しているうちに、だんだん意識が遠のいていく。
頭がうまく働かなくなってきた。
目を閉ざす。
「ちっ」
ガルドが舌打ちした。
「強情なヤツめ。解毒!」
ガルドが呪文を唱えると、ラムティスの全身が淡い光に包まれた。
体内に回っていたコウモリの毒が消えていく。
ふっと意識が浮上し、ラムティスはまぶたを開けた。
「……う……」
「解毒してやったぞ」
「……俺は、まだ選んで……ない、ぞ」
「待ってたら死ぬ。死体と同じ部屋で過ごすなんてまっぴらだ」
「……俺、だって……まだ、死ぬ、わけには……」
ラムティスはハァッと深く呼吸した。解毒はされたかもしれないが、腕はまだ血まみれのままだ。ズキズキと激しく痛んでいる。
ガルドが急に話題を変えた。
「さっき通過した部屋に、やけに豪華な食卓があったな。あの部屋には戻れるのか?」
「戻れない」
「なぜだ」
ラムティスは疲れた吐息をつく。
「進むことはできるが、戻ることはできないからだ。入ってきた扉から戻ろうとしても、違う部屋になってしまう。常に新しい部屋になるんだ。過去にいた部屋には二度と着かない」
「なぜだ」
「知らぬ。俺に聞くな」
体内の毒は消えても、腕は痛いままだ。治療はしてくれないのだろうか。それともまだ、交換条件の話は続いているのだろうか。
「だから……うっかり荷物を忘れたりしたら、もう取り戻せなくなる」
「なるほど。はぐれたら、二度と会えなくなるってことか」
「その通りだ」
俺は早くはぐれたい。ラムティスは内心で毒づいた。
ガルドが寝台の脇でしゃがんだ。ラムティスがぎょっとする。
縄でぐるぐる巻きになっているので、腕もくくりつけられたまま動かない。ガルドがしゃがんだ場所はその付近だった。
血まみれの腕をじっと見つめている。かと思ったら、いきなり舌先を出し、傷口をべろりと舐めた。
「…………っ!」
全身が総毛立った。と同時に痛みが倍増する。
ガルドが真顔でしれっと問いかけた。
「痛いか」
「痛いに決まっている!」
痛い上に気持ちも悪い。
ガルドが意味深な顔をした。
「治してほしいか?」
「…………っ」
治してほしい。だが、それは同時に身体を差し出すことでもある。
冗談ではない。一国の王子たる者が、得体の知れない男に抱かれるなど。
あってはならないことだ。
今ここに従者たちがいれば。このような男を近くに寄らせはしなかったというのに。
ラムティスは嫌悪感を隠さなかった。
「治したいが、抱かれるのは嫌だ。断る」
「そんな都合のいい話があるかよ。諦めな、王子様」
揶揄するような声で、ガルドが言い放つ。
立ち上がり、寝台の上に膝を乗せてきた。まだ腕は血まみれのまま治っていないというのに、いったい何をする気なのか、この男。
戸惑うラムティスにはお構いなしで、ガルドは寝台の上に乗ってきた。
寝台に縄でくくりつけられた仰向けの身体を、ガルドがまたぐように膝立ちしている。
「…………」
ラムティスは言葉もなく、ガルドを見上げた。
ガルドはどこか楽しそうに、にやにやしている。
「俺は冒険者だから、便利な道具をたくさん持ってる。薬草や解毒剤も持ってる。だが、魔法も使える。治癒魔法、使ってほしいか?」
治療すると言ってつかまえたのだから、使ってほしいに決まっている。
「……使ってくれ。借りを作るのは嫌だが、やむを得ない」
心の中の葛藤を隠さず、ラムティスが告げる。ガルドが彼を眺めながら腕を組んだ。
「ふむ」
「早くしてくれ。死ぬじゃないか」
「交換条件を出そう。治したら俺に抱かせろ」
「……は?」
ラムティスの眉根が寄る。険しい顔になった。
ガルドは真顔だった。
「このまま放置して死ぬか、治癒して俺に抱かれるか、どっちかだ」
「……はぁ?」
それはなかば脅迫。交換条件にもなっていない。
「くっ、人の弱みにつけ込むとは。なんて卑怯な男なんだ」
「俺は卑怯だよ。少なくとも清廉潔白な男じゃねぇ。さあ、どっちか選べ」
選びようがない。身体を差し出す以外に、生き延びる道がない。
だが、死にたくはない。
しかし、初対面の男に抱かれるなんて嫌だ。
葛藤しているうちに、だんだん意識が遠のいていく。
頭がうまく働かなくなってきた。
目を閉ざす。
「ちっ」
ガルドが舌打ちした。
「強情なヤツめ。解毒!」
ガルドが呪文を唱えると、ラムティスの全身が淡い光に包まれた。
体内に回っていたコウモリの毒が消えていく。
ふっと意識が浮上し、ラムティスはまぶたを開けた。
「……う……」
「解毒してやったぞ」
「……俺は、まだ選んで……ない、ぞ」
「待ってたら死ぬ。死体と同じ部屋で過ごすなんてまっぴらだ」
「……俺、だって……まだ、死ぬ、わけには……」
ラムティスはハァッと深く呼吸した。解毒はされたかもしれないが、腕はまだ血まみれのままだ。ズキズキと激しく痛んでいる。
ガルドが急に話題を変えた。
「さっき通過した部屋に、やけに豪華な食卓があったな。あの部屋には戻れるのか?」
「戻れない」
「なぜだ」
ラムティスは疲れた吐息をつく。
「進むことはできるが、戻ることはできないからだ。入ってきた扉から戻ろうとしても、違う部屋になってしまう。常に新しい部屋になるんだ。過去にいた部屋には二度と着かない」
「なぜだ」
「知らぬ。俺に聞くな」
体内の毒は消えても、腕は痛いままだ。治療はしてくれないのだろうか。それともまだ、交換条件の話は続いているのだろうか。
「だから……うっかり荷物を忘れたりしたら、もう取り戻せなくなる」
「なるほど。はぐれたら、二度と会えなくなるってことか」
「その通りだ」
俺は早くはぐれたい。ラムティスは内心で毒づいた。
ガルドが寝台の脇でしゃがんだ。ラムティスがぎょっとする。
縄でぐるぐる巻きになっているので、腕もくくりつけられたまま動かない。ガルドがしゃがんだ場所はその付近だった。
血まみれの腕をじっと見つめている。かと思ったら、いきなり舌先を出し、傷口をべろりと舐めた。
「…………っ!」
全身が総毛立った。と同時に痛みが倍増する。
ガルドが真顔でしれっと問いかけた。
「痛いか」
「痛いに決まっている!」
痛い上に気持ちも悪い。
ガルドが意味深な顔をした。
「治してほしいか?」
「…………っ」
治してほしい。だが、それは同時に身体を差し出すことでもある。
冗談ではない。一国の王子たる者が、得体の知れない男に抱かれるなど。
あってはならないことだ。
今ここに従者たちがいれば。このような男を近くに寄らせはしなかったというのに。
ラムティスは嫌悪感を隠さなかった。
「治したいが、抱かれるのは嫌だ。断る」
「そんな都合のいい話があるかよ。諦めな、王子様」
揶揄するような声で、ガルドが言い放つ。
立ち上がり、寝台の上に膝を乗せてきた。まだ腕は血まみれのまま治っていないというのに、いったい何をする気なのか、この男。
戸惑うラムティスにはお構いなしで、ガルドは寝台の上に乗ってきた。
寝台に縄でくくりつけられた仰向けの身体を、ガルドがまたぐように膝立ちしている。
「…………」
ラムティスは言葉もなく、ガルドを見上げた。
ガルドはどこか楽しそうに、にやにやしている。
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