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第1話 閉じ込められた
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ダンジョンに入ってから、かれこれ半年ほどは経つ。
ラムティスはタランロルド王国の王子だ。本来なら城にいなくてはならない立場なのだが、道中で魔王に襲われて逃げた先が、このダンジョンだった。
一緒にいたはずの従者たちともはぐれ、今はひとりぼっちだ。
乗っていた馬も、ダンジョンに逃げ込む前にどこかへ行ってしまった。
他国の宴に呼ばれ、多くの王女たちと舞踏会を繰り広げてきた帰り道の出来事だった。
ごく普通のありふれたダンジョンであれば、とうに城に帰ることもできていたであろう。
だが、ここは普通のダンジョンではなかった。
入るたびに姿を変える、ランダムに変化するダンジョンだった。
出口を探し続けた。見つからない。さらに探し続けた。だが見つからない。そんなことをしているうちに半年ほどが過ぎた。
魔王から追われていた時に、洞窟に飛び込んだ。初めのうちはゴツゴツとした岩肌の道が続いていたが、つきあたりの扉を開けると、どこかの建物内へと繋がっていた。城の内部のような様相だが、何かがおかしかった。
まず、人がいない。あらゆる扉を開き、あらゆる通路を歩いたのだが、どこにも人がいなかった。
それからおかしなことに気づいた。来た道を戻ろうとしても、戻れない。たった今開いたばかりの扉を再び開くと、違うところに出る。まるで迷路のようだと思ったが、どうやらランダムに変化しているのだと気づくまでに丸一日かかった。
窓があるわけではないし、朝も夜もわからないので、時間の概念は初日で崩壊した。本当は、半年過ぎているのか、実は三ヶ月程度なのか、ラムティスにもはっきりとはわからなかった。
不思議なことに、食事は用意されていた。あちこちの扉を開けてさまよっていると、ふいに食事部屋に到着する。空腹になった瞬間を狙ったように、きっちりご馳走が用意されていた。それはそれで不気味だが、考えてわかるようなことではなかったので、ありがたくいただくことにした。毒も入っていないし、味も美味い。空腹に満たされると睡魔に襲われ、そのまま食事部屋の床で眠ってしまった。
目覚めるとまた扉を開け、再びさまよい始める。そうして外に繋がる扉を探し続けていたが、見つかることはなかった。
ダンジョンの中にモンスターがいることに気づいたのは、一週間ほど経った頃だ。扉を開けて部屋に入ると、装備一式が揃っていた。
革の鎧と革の盾と鋼の剣。
見た目は軽装だが、防御力は悪くなさそうだった。鋼の剣もしっくりと手に馴染む。次の部屋で、モンスターが現れた。コウモリの姿をしたモンスターだった。
王子と言えど、モンスターと戦ったことがないわけではなかった。
城に暮らしていると遭遇することは滅多にないが、外に出ればたまに出会う。とはいえ、普段は従者たちが守ってくれている。一人で戦うのは生まれて初めてだ。
少し怪我をしたが、倒せないこともなかった。次の部屋に入ると、薬草を見つけた。
座り込んで途方にくれた。この部屋にはモンスターは出ないようだ。わけのわからないダンジョンの中で、どうしたらいいのかわからなくなった。
(……いや、探し続けよう。出口に繋がる道を)
ラムティスはなんとか自分を奮い立たせ、再び立ち上がる。だが、出口が見つかりそうな気配すらないまま、半年ほど経ってしまった。
モンスターとも戦い慣れ、ここでの暮らし方が少しわかってきた頃、何もない部屋でぼんやりと休んでいた。ギイと音がして、ハッとした。扉の方から音がした。自分から開けない限り、扉が勝手に開くようなことはないはずだった。
どういうことだ。戦慄した。
緊張しながら音のする扉を見つめていると、扉が開いた。
男が立っていた。
見知らぬ男だ。
骨太で、背が高い。ラムティスも低いほうではないが、もっと高そうだ。引き締まった筋肉を持つ、強そうな男。鎧を纏っている。剣も持っている。兵士か? いや、戦士か? それとも勇者か?
戦い慣れた顔をしている。だが、とても端正だ。多くの女たちが群がってきそうな顔をしている。多くの男たちからは嫉妬されそうな顔だ。髪は漆黒で短い。瞳の色も黒い。肌は褐色。
男はラムティスを不審そうに見た。
「誰だ、おまえ」
「俺は、タランロルドの王子だ」
ラムティスはひるむことなく答えた。こういう時はつけ入る隙を与えないように、気丈に振る舞うのが正しい。弱さを見せたら侮られるからだ。
ラムティスはタランロルド王国の王子だ。本来なら城にいなくてはならない立場なのだが、道中で魔王に襲われて逃げた先が、このダンジョンだった。
一緒にいたはずの従者たちともはぐれ、今はひとりぼっちだ。
乗っていた馬も、ダンジョンに逃げ込む前にどこかへ行ってしまった。
他国の宴に呼ばれ、多くの王女たちと舞踏会を繰り広げてきた帰り道の出来事だった。
ごく普通のありふれたダンジョンであれば、とうに城に帰ることもできていたであろう。
だが、ここは普通のダンジョンではなかった。
入るたびに姿を変える、ランダムに変化するダンジョンだった。
出口を探し続けた。見つからない。さらに探し続けた。だが見つからない。そんなことをしているうちに半年ほどが過ぎた。
魔王から追われていた時に、洞窟に飛び込んだ。初めのうちはゴツゴツとした岩肌の道が続いていたが、つきあたりの扉を開けると、どこかの建物内へと繋がっていた。城の内部のような様相だが、何かがおかしかった。
まず、人がいない。あらゆる扉を開き、あらゆる通路を歩いたのだが、どこにも人がいなかった。
それからおかしなことに気づいた。来た道を戻ろうとしても、戻れない。たった今開いたばかりの扉を再び開くと、違うところに出る。まるで迷路のようだと思ったが、どうやらランダムに変化しているのだと気づくまでに丸一日かかった。
窓があるわけではないし、朝も夜もわからないので、時間の概念は初日で崩壊した。本当は、半年過ぎているのか、実は三ヶ月程度なのか、ラムティスにもはっきりとはわからなかった。
不思議なことに、食事は用意されていた。あちこちの扉を開けてさまよっていると、ふいに食事部屋に到着する。空腹になった瞬間を狙ったように、きっちりご馳走が用意されていた。それはそれで不気味だが、考えてわかるようなことではなかったので、ありがたくいただくことにした。毒も入っていないし、味も美味い。空腹に満たされると睡魔に襲われ、そのまま食事部屋の床で眠ってしまった。
目覚めるとまた扉を開け、再びさまよい始める。そうして外に繋がる扉を探し続けていたが、見つかることはなかった。
ダンジョンの中にモンスターがいることに気づいたのは、一週間ほど経った頃だ。扉を開けて部屋に入ると、装備一式が揃っていた。
革の鎧と革の盾と鋼の剣。
見た目は軽装だが、防御力は悪くなさそうだった。鋼の剣もしっくりと手に馴染む。次の部屋で、モンスターが現れた。コウモリの姿をしたモンスターだった。
王子と言えど、モンスターと戦ったことがないわけではなかった。
城に暮らしていると遭遇することは滅多にないが、外に出ればたまに出会う。とはいえ、普段は従者たちが守ってくれている。一人で戦うのは生まれて初めてだ。
少し怪我をしたが、倒せないこともなかった。次の部屋に入ると、薬草を見つけた。
座り込んで途方にくれた。この部屋にはモンスターは出ないようだ。わけのわからないダンジョンの中で、どうしたらいいのかわからなくなった。
(……いや、探し続けよう。出口に繋がる道を)
ラムティスはなんとか自分を奮い立たせ、再び立ち上がる。だが、出口が見つかりそうな気配すらないまま、半年ほど経ってしまった。
モンスターとも戦い慣れ、ここでの暮らし方が少しわかってきた頃、何もない部屋でぼんやりと休んでいた。ギイと音がして、ハッとした。扉の方から音がした。自分から開けない限り、扉が勝手に開くようなことはないはずだった。
どういうことだ。戦慄した。
緊張しながら音のする扉を見つめていると、扉が開いた。
男が立っていた。
見知らぬ男だ。
骨太で、背が高い。ラムティスも低いほうではないが、もっと高そうだ。引き締まった筋肉を持つ、強そうな男。鎧を纏っている。剣も持っている。兵士か? いや、戦士か? それとも勇者か?
戦い慣れた顔をしている。だが、とても端正だ。多くの女たちが群がってきそうな顔をしている。多くの男たちからは嫉妬されそうな顔だ。髪は漆黒で短い。瞳の色も黒い。肌は褐色。
男はラムティスを不審そうに見た。
「誰だ、おまえ」
「俺は、タランロルドの王子だ」
ラムティスはひるむことなく答えた。こういう時はつけ入る隙を与えないように、気丈に振る舞うのが正しい。弱さを見せたら侮られるからだ。
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