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第7話 蝶はあでやかに舞う

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 霧也が姿を見せたのは、半年ほどは過ぎた頃だ。
「仕事が忙しかったのでね」
 本当かどうかは確かめる術がない。
 言われた言葉を素直に信じるしかなかった。
「俺でいいんですか」
「いいから指名したんだ」
 半年ぶりの霧也は変わっていなかった。
 ベッドの上で、しゅるしゅると帯を解かれる。
 脱がされた着物がシーツの上に落ちた。
 霧也の視線にさらされる。
「…………?」
 いつもと少し違っていた。
 いつもは着物を纏ったまま崩されていき、完全な全裸にされることはない。
 そういう趣味なのだと思っていた。
 こんな風にじっくりと肌を観察されたことは、これまでなかった。
「キスマークをつけてもいいか?」
「ダメです」
 客の所有物のように扱われるのは禁止事項だ。
 キスマークは他の客から嫌がられる。
「そんなことを言うな」
 霧也の顔が俺の胸に近づいてきた。
「んっ……」
 鎖骨の辺りに小さな痛み。
 見ると、鬱血の痕。
 霧也はさらに吸いついてきた。
 乳輪の横。肌の白い部分に。
「どうして、つけたいんですか」
「なんとなくだよ」
 霧也はそう言って笑い、俺の乳首に吸いついた。
「んっ」
 霧也の唇が俺の乳首をはみ、舌先で転がす。
「んっ、んっ」
「おまえは乳首が弱いな」
 霧也が嬉しそうに言った。
 霧也の前戯は濃厚だ。俺の身体からはたちまち力が抜けていき、自分ではどうにもならなくなっていく。
 気づけばベッドの上にうつ伏せにされていた。
 霧也の舌が俺の背中を舐める。
 肩甲骨をなぞるように。
「うっ、あっ」
 背中にもキスマークをつけられているようだった。
 どうして、今日はそんなに。
 尻を持ち上げられた。
 何度も優しく尻を撫でられた後、霧也の唇が腿に触れた。
 腿にもキスマークをつけられている。
 俺は霧也のものにされているのだろうか。
 霧也の唇が尻へと移り、俺の孔に霧也の舌が入ってきた。
「うぅ……んっ」
 ぬちゃぬちゃと抜き差しされる。
 オメガの尻は甘く濡れる。
 濃厚な前戯のせいでぐっしょりだ。
「もう入るな」
 霧也はそう言うと、太くて熱くて大きなものを挿れてきた。
「んぁっ、あっ」
 霧也は背中に覆い被さってきた。上から両手首をつかまれ、ホールドされる。
 ああ、また霧也の唇がうなじの近くにきてる。
 霧也の腰が尻に叩きつけられた。
「ひぁっ、あっ、うっ、うぁっ、あぁんっ」
 勢いに呑まれているうちに、またわけがわからなくなる。
 霧也はいつも容赦ない。たちまち俺から理性を奪っていく。
「あっ、いくっ、いっ……あぁぁぁ……っ!」
 腹の奥に熱いものが流れてきた。霧也がイッたのだ。
 俺の意識が混濁する。
 気が遠くなる。
 全身の力が抜ける。
 霧也の指が、俺のチョーカーに触れた。
 パチンと音がした。
 と思ったら、首が軽くなった。
 えっ、と思う間もなく、うなじに激痛が走った。
「いっ……たっ……!」

 噛まれていた。

 油断して客に噛まれてはいけないと、さんざん教えられた。
 もし噛まれそうになった時は、部屋に隠してあるブザーを押すこと。
 押して、SOSを呼びなさい。
 何度もそう言い聞かされていた。
 俺は反射的に手を伸ばし、ブザーを探しかけて。
 やめた。
 SOSはいらない。
 だって噛んだ人は霧也だから。

 はぁ、はぁ、と霧也は肩で息をしていた。
 ケモノのような息遣いだった。
 瞳の奥にも獣性があった。
 ラットになってはいないはずなのに。
 俺は今ヒートではないから。
 霧也は、呆然とする俺をまっすぐに見つめていた。
「たった今から、おまえは、俺のつがいだ」
 その言葉を聞いた俺の目から、涙のような粒が溢れ出た。

 オメガたちはみんな夢を見ている。
 たった一人の誰かに生涯、愛されることを。
 アルファのつがいになることを。
 娼館で働くオメガたちは半ば諦めながら、そんな夢を見る。

 本当なら許されない。
 客のアルファが商品のオメガを噛むことは。
 霧也だって知っていたはずだ。
 あれよあれよと状況が変わる。
 俺は娼館の商品という立場ではなくなった。
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