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第二章 花散る所の出涸らし姫
二十一、それは好意か悪意か
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雛菊に案内された場所は、奥の座敷であった。
一部の障子が大きく開かれており、縁側と桜が並ぶ庭園が一望できる。
その庭園には、先程の芙蓉達がいるようだ。
派手な振り袖姿とそれを引き立てる背景、さらに長い棒を持った同じ年ぐらいの少年達――十人ぐらいが賑やかな歓声を上げている。
「あの子達、子鬼を退治しているの」
雛菊の言う通り、人ではない不思議な生き物が動き回っていた。
(・・・・・・へえ、あれが子鬼なのね・・・・・・そんな悪いことはできなさそうだけど)
藤花の腰ぐらいの大きさで、体色は青朽葉。
一本か二本の小さい角が生えている姿は、『子鬼』と呼ぶに相応しい見た目だった。
それらは小さい爪で襲い掛かろうとしているようだが、白い光や炎を浴びて、少しずつ数を減らしている。
「普段は天津の若い術者達が修行代わりに相手しているのだけど、芙蓉がお友達と退治したいって・・・・・・元気よねぇ」
くすくすと笑う雛菊とは対照的に、青柳は眉を顰めている・・・・・・良くは思っていないだろうことが理解できた。
「私達はお茶にしましょう・・・・・・どうぞ、座って」
雛菊に勧められるまま、藤花は腰を下ろした。
(この人、何でもできるわねぇ・・・・・・)
藤花が感心しながら眺めているのは、青柳の手元。
彼は雛菊に命じられて、茶を点てていた。
(お茶かぁ・・・・・・どうしよう・・・・・・)
高鴨藤花は困っていた。
まさか、このような形で茶を振る舞われるとは思っていなかった。
子爵令嬢をしていた頃に、作法を習ったこともあったが、もう昔の話。
雛菊の優雅な所作を盗み見るが、真似できるとは思えない。
「気楽にどうぞ」
藤花に気を使ってか、茶碗を置かれた際に雛菊が一声掛けてきたが・・・・・・気楽にできる空気ではない。
「・・・・・・お点前頂戴いたします」
意を決して手を伸ばす藤花に、囁く声があった。
「おんし、此方を見るなよ」
その言葉と共に、藤花の右手に紅鏡の前脚が触れる。
肉球のふにっとした感触が気持ちいい。
「もう少し下、次は左手で・・・・・・」
藤花の手を支えながら、紅鏡は次々と助言していく。
(ああ肉球柔らかい・・・・・・茶の湯しんどい・・・・・・肉球かわいい・・・・・・)
もうこんな重くて高そうな茶碗など投げ捨てて、紅鏡のおててを握り締めたい――現実を忘れかけながらも、なんとか飲み終える。
(あなたも、何でもできるのねぇ・・・・・・)
紅鏡へ感謝の視線を送れば、飼い猫は自慢げに胸を張っていた。
「武甕槌命が白鹿に乗って来た時、我が茶の湯でもてなしたからな」
(・・・・・・嘘だぁ)
「貴女みたいな人が来てくれて安心したわ・・・・・・私のせいで、撫子は天津家でも立場が無くて・・・・・・私のせいで、うう・・・・・・」
(まだ続くんだ・・・・・・)
澄まし顔で取り繕いつつ、紅鏡の与太話と雛菊の泣き言を聞き流す。
そこに、座敷の外から誰かの足音がした。
「奥様!」
息を切らしながら座敷に飛び込んできたのは、撫子と一緒に居たはずの千代であった。
「お嬢様を・・・・・・どうか撫子様を、助けて下さい!」
一部の障子が大きく開かれており、縁側と桜が並ぶ庭園が一望できる。
その庭園には、先程の芙蓉達がいるようだ。
派手な振り袖姿とそれを引き立てる背景、さらに長い棒を持った同じ年ぐらいの少年達――十人ぐらいが賑やかな歓声を上げている。
「あの子達、子鬼を退治しているの」
雛菊の言う通り、人ではない不思議な生き物が動き回っていた。
(・・・・・・へえ、あれが子鬼なのね・・・・・・そんな悪いことはできなさそうだけど)
藤花の腰ぐらいの大きさで、体色は青朽葉。
一本か二本の小さい角が生えている姿は、『子鬼』と呼ぶに相応しい見た目だった。
それらは小さい爪で襲い掛かろうとしているようだが、白い光や炎を浴びて、少しずつ数を減らしている。
「普段は天津の若い術者達が修行代わりに相手しているのだけど、芙蓉がお友達と退治したいって・・・・・・元気よねぇ」
くすくすと笑う雛菊とは対照的に、青柳は眉を顰めている・・・・・・良くは思っていないだろうことが理解できた。
「私達はお茶にしましょう・・・・・・どうぞ、座って」
雛菊に勧められるまま、藤花は腰を下ろした。
(この人、何でもできるわねぇ・・・・・・)
藤花が感心しながら眺めているのは、青柳の手元。
彼は雛菊に命じられて、茶を点てていた。
(お茶かぁ・・・・・・どうしよう・・・・・・)
高鴨藤花は困っていた。
まさか、このような形で茶を振る舞われるとは思っていなかった。
子爵令嬢をしていた頃に、作法を習ったこともあったが、もう昔の話。
雛菊の優雅な所作を盗み見るが、真似できるとは思えない。
「気楽にどうぞ」
藤花に気を使ってか、茶碗を置かれた際に雛菊が一声掛けてきたが・・・・・・気楽にできる空気ではない。
「・・・・・・お点前頂戴いたします」
意を決して手を伸ばす藤花に、囁く声があった。
「おんし、此方を見るなよ」
その言葉と共に、藤花の右手に紅鏡の前脚が触れる。
肉球のふにっとした感触が気持ちいい。
「もう少し下、次は左手で・・・・・・」
藤花の手を支えながら、紅鏡は次々と助言していく。
(ああ肉球柔らかい・・・・・・茶の湯しんどい・・・・・・肉球かわいい・・・・・・)
もうこんな重くて高そうな茶碗など投げ捨てて、紅鏡のおててを握り締めたい――現実を忘れかけながらも、なんとか飲み終える。
(あなたも、何でもできるのねぇ・・・・・・)
紅鏡へ感謝の視線を送れば、飼い猫は自慢げに胸を張っていた。
「武甕槌命が白鹿に乗って来た時、我が茶の湯でもてなしたからな」
(・・・・・・嘘だぁ)
「貴女みたいな人が来てくれて安心したわ・・・・・・私のせいで、撫子は天津家でも立場が無くて・・・・・・私のせいで、うう・・・・・・」
(まだ続くんだ・・・・・・)
澄まし顔で取り繕いつつ、紅鏡の与太話と雛菊の泣き言を聞き流す。
そこに、座敷の外から誰かの足音がした。
「奥様!」
息を切らしながら座敷に飛び込んできたのは、撫子と一緒に居たはずの千代であった。
「お嬢様を・・・・・・どうか撫子様を、助けて下さい!」
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