呪いから始まる恋

めぐみ

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それからというもの、ロックスさんは毎日朝早くから夜遅くまで文献を読み漁っていた。私も手伝いたかったが蛇族の秘密主義は相当のもので文献の文字は蛇族にしか読めない言語で書かれていてさっぱり読み解けなかった。

「くそッ…どうして、どうして見つからないんだ…ッ!今まで呪いによる事故は無かったのか!?」

ある日図書室の前、彼にコーヒーを持って行こうと扉を開けようとした瞬間ロックスさんの珍しく激情に駆られた声が聞こえた。

「蛇族が他の種族と仲が悪かったことがここにきて仇になりましたね…今までは事故で他の種族が死のうと関係なかったのでしょう。この呪いは蛇族たち身内には効果のないものですし。」

ロックスさんと話していたのはセスさんだった。ロックスさんの声に対してセスさんの声がやけに落ち着いているように感じた。

「もう保っても一月半しか期限はないんだ…いやそれより少ないかもしれない。だが諦めるわけにはいかないんだ…彼女は、死にかけた俺を助けてくれたのに、俺は彼女の死期が近づくのをただ待つことしか出来ないなんて…」

「殿下…気を落とさないでください。ベラさんから聞きましたよ、呪いを解いてご結婚なさるんでしょう?」

「ベラが…そう言っていたのか?」

フライヤさんの声も聞こえてきて急に私が話した話が出てきてどきりとする。

「ええ、楽しみにしてるご様子でしたよ。こんなことで挫けてられないでしょう?」

「…っ、ああ!そうだな。すまない、お前たちも部下を持つ立場なのに俺の私情に付き合わせて…」

「私たちもベラさんが好きなんです。彼女には生きていてほしい、だから気にしないでください。好きでしてることなんですから」

フライヤさんの言葉に胸が熱くなる。ずっと1人で生きてきて、このまま森の中で1人で死んでいくのが当たり前だと思っていた。だけどロックスさんと出会って私を好きだと言ってくれる人に出会えた。その優しさにはしっかりと応えたいと思った。
そのためにまず始めたのは城での手伝いだ。森の中で過ごしてきた私にできることなどたかが知れていたが、ロックスさんには城の敷地内なら好きに歩いていいと言われていたので何かないかと外を歩いていると厩の近くに来ていた。

「なんかコイツ様子がおかしいんだよな、挙動不審だし…何か病気なのか?」

「確かに…いつもより落ち着きがないような…参ったな。これから人間界に荷物を運ぶ予定だったのに」

ロックスさん曰く、道が整備されているところはあの早い乗り物を乗るようだが人間界や道が整えられていないところは馬を使って移動することもあるそうだ。その馬の様子がおかしいと話す男性兵たちの方を見やるとそこには見慣れた馬がいた。
自宅から蛇族の国へとやってきた時に乗っていた馬車を引いていた馬だった。彼らの言う通り、その場をうろうろと回りながら挙動不審という言葉が適切な様子にじっとその馬を観察する。

「あの…ちょっとその子見てもいいですか?」

「…っ!貴方はロックス殿下の…っ!」

「…おい、大丈夫か?彼女は人間だぞ」

私が近寄って話しかけると相手は大袈裟なくらい反応して、もう1人の男が私を見て耳打ちをした。ここにきて二週間ほどだがこの反応は初めてではない。メイドさんも兵の人もどこかよそよそしくて、恐らく人間がいるのが不服だがロックスさんの客人だから何も言えないということだろう。だからといって放って馬のことは放ってはおけない。私は馬の異変の原因に気付くと慌てて駆け寄った。

「この子、出産間近です。どうかお手伝いだけでもさせてもらいませんか?私こういうのは慣れているので」

「え?!出産?!」

私の言葉があまりにも想定外だったのか兵士の人は明らかに動揺した。父の手伝いをしていた中で馬は最も診察してきた動物のうちの一匹だ。治療ではなく出産程度なら何度も経験してきた。

「ええ、この子を厩の中に戻して…落ち着く場所に誘導してあげてください。あと私が今から言うものを準備してくれませんか?」

私の指示に彼らは反発する間もなく従って、そのまま手伝ってもらう。そうしてようやく生まれた仔馬は双子であまりの愛らしさに疲れが吹っ飛んだ。

「お二人ともありがとうございました。2人のおかげで出産を成功させられました」

「あ…いや、俺たちは何も」

「あ!手に怪我されているじゃないですか手の甲出してください」

一方の男性の手の甲は切り傷ができて血が滲んでいる。その手を引いて近くの水場で持っていたハンカチを濡らし、血を拭き取ると軽く強張る。

「ベラ様…大した傷ではありません。」

「傷からなる感染症を舐めないでください。傷口を衛生的に保っていないと化膿もしますし…今はハンカチを当てておきますが、ちゃんと傷薬を塗ってくださいね」

「あ…ありがとう、ございます」

「いえ、お大事にしてください」

よそよそしさが少し和らいだ気がしてホッとする。警戒心が薄れたようだ。しかし今度はじっと視線を感じて落ち着かない。
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