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しおりを挟む目の前に現れた城は遠目で見るよりもさらに迫力があった。御伽話にでも出るような神秘性さえ感じるような見た目に、広い庭園、真ん中には噴水があってその一つ一つが綺麗に整えられている。
「殿下、おかえりなさいませ」
「ロックス殿下、ご機嫌よう」
「ロックス殿下だ!彼がここに来るのは数ヶ月ぶりじゃないか」
使用人やら、兵士やらが彼を見ては明るい表情を浮かべ、彼らに愛されているのだと実感する。一方でその隣を歩く私は気まずかった。
誰も何も私に対しては何も言わないが私に向けられた訝しげな視線は気のせいではないだろう。
「君はここに来るんだ。俺と一緒に歩こう」
ロックスさんは私をマントの中に隠すと肩を掴んで一緒に歩いてくれる。
もしかしたら国でも重要人物のロックスさんを誑かした悪い人間だと思われているのかもしれない。
「何、気にすることはない。彼らも悪い者じゃないんだ…君のことを知れば彼らだって君を好きになってくれる。」
「ロックスさんの怪我も元々人間が原因なんですもんね…みんなが心配する気持ちももわかります」
「…理解してくれてありがとう。だからこそ、君のそういうところがみんなも好きになってくれると思うんだ。」
ロックスさんの優しさに寄りかかりながら歩いていき城の中へ入ると広いロビー、やたらと幅の広い廊下を抜けていきとある一室の前に立つ。落ち着いていながらも綺麗な装飾が施された扉はそこだけでもその中が豪勢な部屋だと分かった。
「ここが俺の部屋だ」
ロックスさんがノブに触れると鍵が開くような音がして扉が開かれた。一体どういう仕組みで鍵が開いたのか全く分からず困惑する私の頭を撫でながらロックスさんがそこに招き入れてくれる。
ロックスさんらしい、だけど貴族らしくはない黒と茶色で統一されたシンプルな部屋だった。しかし置かれている家具や家電は一級品のもので中でも並んだら7,8人は寝れそうな豪勢なベッドが目を引いた。
「あー…デカ過ぎるよな。色々と。とりあえず座ってくれ」
ロックスさんは黒い革張りのソファーに座ると隣をポンポンと叩いた。促されるままに座るとつい部屋を見回す。この部屋だけで私の家の一階部分全てくらいの広さでソワソワしてしまう。
「俺でさえ広すぎて落ち着かないんだ、君が落ち着かなくて当然だ」
「ロックスさんはもともとどういう家庭で幼少期を過ごしてきたんですか?」
「あー…それはな…」
ロックスさんの歯切れが悪くなって言葉を濁す。そんな時突然扉が勢いよく開いて、反射的にその音の方に目をやると目鼻立ちの恐ろしく整った男の人が立っていた。
右半分は前髪を下ろして、左半分の前髪から後ろ髪にかけて三つ編みで編み込んだシルクのような銀髪に赤茶の瞳、形の良い鼻と唇に圧倒される。そして何より釘付けになったのは彼の頭に乗っている王冠。この場でこんなものを被ることが許されているのはよっぽどのことがない限りただ1人だけだ。
「帰ってきたのに挨拶もなしかロックス」
「国王陛下…今挨拶に参ろうとしたところです」
やはり彼が国王、その立場に相応しい威厳を放っていた。ロックスさんは苦笑いをして立ち上がると、私の手を引いて私も立たせてくれる。
「他人行儀になるな、私とお前の仲だろう。我が愛しき弟よ」
「陛下…」
「弟…?」
ロックスさんは深いため息をついてサングラスを外した。弟…確かにそう言われるとぱっと見は似ていないが顔のパーツのひとつひとつは似ているところがある。
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