呪いから始まる恋

めぐみ

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「おい、ベラ・グリーン。牢から出ろ」

「一体なんなの…子供たちの安全を保障しなければ従わない」

「それを決めるのは俺じゃない、お前の行動次第だ」

男は腰に挿した拳銃を子供達に向けると脅すような口調で笑って私を見た。私は彼を睨むと渋々と牢を出る。要は私が従わないと子供達に危害を加えるという意味なのだろう。
数日過ごしてきて分かった。姿は蛇とはいえ子供達は不安げな視線を向けていて、私は安心させるように微笑みかけた。
そして彼らと引き離されると別室に連れて行かれ、薄着の袖のないワンピースに着替えさせられる。そこでしばらく待機していろとの話だったが嫌な予感は拭いきれない。そもそも私や子供を誘拐した組織が行う実験なんてものはろくなものではないだろう。幸い順番は私が先だ。子供たちが実験対象になる前になんとか耐えてオジサンとやらが助け出してくれれば万事解決だ。
しかし私だって怖いものは怖い。何をされるかわからないその実験に手が震えてそれを無理矢理抑えるように拳を握った。

「おい、実験の時間だ。早く来い」

乱暴な口調で再び呼び出された連れてこられたのはステージの袖だった。この施設にはホールまであったのかと広さに圧倒させられるがそんな間もなくステージの真ん中へと追いやられる。顔をマスクで隠した数十人の観客がこちらを見る様は異様で身震いしてしまう。どれも身なりがよく、絵に描いたような貴族、お金持ちだと感じさせられる。そしてステージの真ん中にはキャンプファイヤーにでも使うかのような薪が組まれ、その前に立たされ、30センチ四方の立方体の箱を渡される。

「さぁでは、商品の効果を見てもらいましょう。さて、目を離してはなりませんよ。」

司会のような男が揚々と観客に語りかけると背後にいた男が箱を火へと投げ入れろと耳打ちした。何かは全くわからないが頭の中の警鐘がやってはいけないと訴えている。私が渋っているのを察してか背後の声は苛立ちを隠さず脅してくる。

「お前ごと蹴飛ばして火にくべていいんだぞ?」

究極のこの空間では私に選択肢など残っていなかった。口内に溜まった唾を飲み込むと、震える手で箱を火へと放った。その一瞬、箱の中身がごそりと動く感触に背筋が凍る。
私は何かとんでもないことをしてしまった。本能で感じる危機感が正解だと感じたのはその十数秒後だった。

(お姉ちゃん…どうして…)

聞き慣れたその声…あの蛇の女の子の声が頭の中に響く。それと同時に全身を黒いアザが覆い尽くし、酷い痛みが襲った。紐状の何かが身体を締め付けるような痛み。引きちぎられるような痛みが襲う中、司会の男は嬉々として観客へと語りかける。







「ご覧ください、蛇の獣人にはこのような力があるのです!自分を殺した相手を反射的に呪い殺す能力。戦場で彼らを有効活用すればいくらこちらが殺されても相手も道連れにできるというのです!相手も簡単に手出しはできないでしょう」







────────────その言葉に耳を疑った。
歓声が上がるその空気の中、私だけが別の空間に放り込まれたようだ。





蛇の獣人、自分を殺した相手、反射的に呪い殺す




「ぁ、ぁ"…ぁ"あ"、ぁ"ああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」

その言葉が脳内で何度も駆け巡ってその言葉の意味を理解すると声にならない声で絶叫して今や燃えて形の崩れた箱へと手を突っ込んだ。自分の手がどんな火傷を負おうと関係ない。

全身に広がったこのアザは、痛みは蛇の獣人の呪い───あの子供達を火へ放った私への呪い。
私があの子達を殺した。

「言っただろ?子供達の安全の保障を決めるのは俺じゃない、お前の行動次第だと」

背後に立っていた男が燃えた箱の火を必死で消す私を嘲笑うように言い放った。燃え滓となった箱は崩れ落ち、中からは三匹の黒焦げになった辛うじて蛇と分かるものが姿を現した。ピクリとも動かないそれらはもう生き物ではなく、命を失った亡骸と化していた。

(これは、呪い──────蛇の呪い)

今度はレオという男の子の声が脳内に響いて、皮膚だけではなく内臓も締め上げるような痛みが走る。これは罰だ。彼らを殺した私の罰。
実験に巻き込まれた自分が被害者だなんて言い訳をする気持ちなんて一切生まれない。私を慕ってくれていた子供達を殺してしまった。それが原因で殺されるのだから当然のことのように思えた。自分の死が目の前に迫っているのが分かる。箱の前で蹲るように崩れ落ちた私はもう終わりだと思った。しかしこれは受け入れるべきものだ。
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