失恋の特効薬

めぐみ

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失恋の特効薬

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それから1週間近くが経った頃、私はノアのお店に来ていた。閉店間際の22時前の飲食店、洗った食器を布巾で拭くノアは1人で私の顔を見るなり揶揄ってくるかと思ったら目を見開いて近寄ってくる。

「どうしたこんな夜遅くに──酒飲みに来たって感じでもないだろ。ハーヴィルの件でなんか嫌なことでもあったか?」

わざわざカウンターから出てきて心配そうな表情で出迎えるものだから調子が狂う。

「あ…いや、ただ…その、顔見にきただけ」

「顔って…なんだそりゃ」

ノアは私の答えを聞くと言葉では馬鹿にしながらも安心したようにホッと息をついている。
…というか顔を見にきたっていう私の返答もおかしな話だ。恋人でもないのに、何をしに来たんだろうと思われてもしょうがない。

「その、夕飯食べそびれちゃって…閉店間際にごめん、だけど…」

「んならウチで食ってくか?俺もまだ夕飯まだだし…1人分も2人分も変わらないからな」

「ん、じゃあ…そうする」

「分かった。じゃあもうちょっとで片付け終わるからよ、座って待っててくれ」

ノアの提案に安堵の息を漏らす。お腹が空いてるのは本当だったが、正直に白状すると今回の目的はノアと再びセックスすることだった。彼が心配するようなハーヴィル関係のいざこざがあったとかではない。ただ単純にノアとのセックスが忘れられなくて自分から誘いにきたのだった。彼の思惑通りなのは悔しいが仕事中も食事中も夜寝る時もあの時のことがチラついて何事にも集中できないのだ。

「よし、これで片付け終わり」

私も掃除や片付けを手伝うとあっという間に終わってノアは店の鍵を内側から閉めた。お店に隣接したノアの家は裏口から繋がっており、裏口の鍵を開けると店の電気を消して家の中へと入った。
1週間前に散々感じたノアの香りが広がって妙に緊張してしまう。ノアはキッチンに入って冷蔵庫の中を確認して野菜を何種類か取り出していた。

「簡単なモン作るからお前は適当に座っててくれ」

「はぁい……」

もう何度も来ているので慣れた様子で上着を脱いでソファに腰掛ける。ノアの家のソファはふかふかと柔らかく、座り心地がいいのでついくつろいでしまう。
というかどうやって私からエッチを誘うべきなのか。最近処女を捨てたばかりの私には経験値がカンストした彼を誘惑するなんて到底できやしない。頭の中でぐるぐると考えてるとキッチンからノアがやってきてテーブルにお皿を乗せた。

「おーい、できたぞ」

それは野菜とローストビーフが乗ったバゲットのサンドイッチと野菜スープで、それを見た瞬間食欲がそそってお腹が鳴る。飲食店をやっていると普段の料理の盛り付けも洗練されるのかセンスのある仕上がりだった。

「え、すごい……お店メニューみたい」

素直に感想を零すとノアは「だろ?」と自慢げに口角を上げた。そして私の隣に腰掛けてサンドイッチに手を伸ばす。私もそれに倣って一口頬張ると口の中で野菜のシャキシャキした食感がしてとても美味しい。

「ノアって昔からなんでも器用にこなすよね…」

「そうか?あ…ほら、慌てて食べると膝に溢しちまうぞ」

幼少期から世話焼きな彼は慣れた手つきで私の太ももに落ちたパンくずを拾っていく。

「子供扱いしないでよね」

そんなノアの手を軽く払いのけても彼は笑っていて何だか私も馬鹿らしく思えて笑ってしまう。付き合いの長い彼と一緒にいる時の私は心まで幼く戻ってしまうのだ。

「今日は仕事遅かったのか?こんな時間までメシ食ってないなんて珍しいじゃねぇか」

ノアの言葉にぎくりと体を強張らせる。まさか食事は言い訳で本当はエッチしてもらいに来たなんて言えない。

「ま、まぁね…」

「ふぅん…じゃあ明日も仕事なのか?」

「ううん、明日は休み」

ノアも明日は定休日だったはずだ。きっちりと調べてそこに合わせてきた自分が恥ずかしくなる。

「そっか、じゃあこんな時間だし今夜も泊まっていけよ」

「う、うん…」

「風呂も沸いてるからあとで一緒に入るか」

「…っ!」

恥ずかしがったところでもう遅かった。彼の質問から私の要望なんてバレていることが分かって、恥ずかしくなって顔を伏せる。

「いつから分かってたの…?」

「何が?お前がエッチしたくて俺の家に来たこと?」

「そ、そう……」

はっきりと声に出して言われるともうどうしようもなくなって、大人しく白状する。

「ちゃんと俺の言いつけ守って営業終わる頃に来てくれたし…それにそんな物欲しそうな目で見られたら気付かないワケないだろ?」

「っ、」

そんな……ノアにバレないように必死に隠してたのに顔に出ていたとは……。恥ずかしくて顔を手で覆っていると横で笑いを堪えている姿が指の隙間の視界にチラついた。

「こんな美人に求められちゃ光栄だ。実は俺もあれ以来シてないから結構溜まってんだよ」

「そ、そうなの?」
 
「あぁ、早くシてえって毎日思ってんのにタイミング合わねえし。だから丁度よかった」

ノアは頬杖をついて私を見つめながら口元を弧に歪める。その色っぽい笑顔と言葉に悔しいが胸が高鳴るのを感じた。
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