8 / 44
失恋の特効薬
8
しおりを挟むそれから1週間近くが経った頃、私はノアのお店に来ていた。閉店間際の22時前の飲食店、洗った食器を布巾で拭くノアは1人で私の顔を見るなり揶揄ってくるかと思ったら目を見開いて近寄ってくる。
「どうしたこんな夜遅くに──酒飲みに来たって感じでもないだろ。ハーヴィルの件でなんか嫌なことでもあったか?」
わざわざカウンターから出てきて心配そうな表情で出迎えるものだから調子が狂う。
「あ…いや、ただ…その、顔見にきただけ」
「顔って…なんだそりゃ」
ノアは私の答えを聞くと言葉では馬鹿にしながらも安心したようにホッと息をついている。
…というか顔を見にきたっていう私の返答もおかしな話だ。恋人でもないのに、何をしに来たんだろうと思われてもしょうがない。
「その、夕飯食べそびれちゃって…閉店間際にごめん、だけど…」
「んならウチで食ってくか?俺もまだ夕飯まだだし…1人分も2人分も変わらないからな」
「ん、じゃあ…そうする」
「分かった。じゃあもうちょっとで片付け終わるからよ、座って待っててくれ」
ノアの提案に安堵の息を漏らす。お腹が空いてるのは本当だったが、正直に白状すると今回の目的はノアと再びセックスすることだった。彼が心配するようなハーヴィル関係のいざこざがあったとかではない。ただ単純にノアとのセックスが忘れられなくて自分から誘いにきたのだった。彼の思惑通りなのは悔しいが仕事中も食事中も夜寝る時もあの時のことがチラついて何事にも集中できないのだ。
「よし、これで片付け終わり」
私も掃除や片付けを手伝うとあっという間に終わってノアは店の鍵を内側から閉めた。お店に隣接したノアの家は裏口から繋がっており、裏口の鍵を開けると店の電気を消して家の中へと入った。
1週間前に散々感じたノアの香りが広がって妙に緊張してしまう。ノアはキッチンに入って冷蔵庫の中を確認して野菜を何種類か取り出していた。
「簡単なモン作るからお前は適当に座っててくれ」
「はぁい……」
もう何度も来ているので慣れた様子で上着を脱いでソファに腰掛ける。ノアの家のソファはふかふかと柔らかく、座り心地がいいのでついくつろいでしまう。
というかどうやって私からエッチを誘うべきなのか。最近処女を捨てたばかりの私には経験値がカンストした彼を誘惑するなんて到底できやしない。頭の中でぐるぐると考えてるとキッチンからノアがやってきてテーブルにお皿を乗せた。
「おーい、できたぞ」
それは野菜とローストビーフが乗ったバゲットのサンドイッチと野菜スープで、それを見た瞬間食欲がそそってお腹が鳴る。飲食店をやっていると普段の料理の盛り付けも洗練されるのかセンスのある仕上がりだった。
「え、すごい……お店メニューみたい」
素直に感想を零すとノアは「だろ?」と自慢げに口角を上げた。そして私の隣に腰掛けてサンドイッチに手を伸ばす。私もそれに倣って一口頬張ると口の中で野菜のシャキシャキした食感がしてとても美味しい。
「ノアって昔からなんでも器用にこなすよね…」
「そうか?あ…ほら、慌てて食べると膝に溢しちまうぞ」
幼少期から世話焼きな彼は慣れた手つきで私の太ももに落ちたパンくずを拾っていく。
「子供扱いしないでよね」
そんなノアの手を軽く払いのけても彼は笑っていて何だか私も馬鹿らしく思えて笑ってしまう。付き合いの長い彼と一緒にいる時の私は心まで幼く戻ってしまうのだ。
「今日は仕事遅かったのか?こんな時間までメシ食ってないなんて珍しいじゃねぇか」
ノアの言葉にぎくりと体を強張らせる。まさか食事は言い訳で本当はエッチしてもらいに来たなんて言えない。
「ま、まぁね…」
「ふぅん…じゃあ明日も仕事なのか?」
「ううん、明日は休み」
ノアも明日は定休日だったはずだ。きっちりと調べてそこに合わせてきた自分が恥ずかしくなる。
「そっか、じゃあこんな時間だし今夜も泊まっていけよ」
「う、うん…」
「風呂も沸いてるからあとで一緒に入るか」
「…っ!」
恥ずかしがったところでもう遅かった。彼の質問から私の要望なんてバレていることが分かって、恥ずかしくなって顔を伏せる。
「いつから分かってたの…?」
「何が?お前がエッチしたくて俺の家に来たこと?」
「そ、そう……」
はっきりと声に出して言われるともうどうしようもなくなって、大人しく白状する。
「ちゃんと俺の言いつけ守って営業終わる頃に来てくれたし…それにそんな物欲しそうな目で見られたら気付かないワケないだろ?」
「っ、」
そんな……ノアにバレないように必死に隠してたのに顔に出ていたとは……。恥ずかしくて顔を手で覆っていると横で笑いを堪えている姿が指の隙間の視界にチラついた。
「こんな美人に求められちゃ光栄だ。実は俺もあれ以来シてないから結構溜まってんだよ」
「そ、そうなの?」
「あぁ、早くシてえって毎日思ってんのにタイミング合わねえし。だから丁度よかった」
ノアは頬杖をついて私を見つめながら口元を弧に歪める。その色っぽい笑顔と言葉に悔しいが胸が高鳴るのを感じた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
運命の終着点
めぐみ
恋愛
一族の血を守るために結婚まで考えていた彼氏と別れなくてはならなくなったヴァレリア。
酒場で泣いてやけ酒しているところをハンサムな男性、ゲイルに慰められる。
優しい彼と仲良くなりすぐに打ち解けるが彼にはヴァレリアにも関わるある重い過去があり
それを知ったヴァレリアとゲイルの関係は複雑になっていって─?!
「たまには噛みつくことは許してくれよ?」
今回は少し強引だけど優しくて孤独なお兄さん(33)×お人好しで他者を放っておけない女の子(28)の ファンタジードエロラブストーリー第三弾です
第一弾の「スターチスの思い出」と第二弾「きいちごの恋」と世界観がつながっておりますが こちらだけでもわかるかと思います
※R-18作品です 18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください 淫語・♡喘ぎ等ございます、苦手な方はバックで!
【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人
キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。
だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。
だって婚約者は私なのだから。
いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
R-18小説 読み切りストーリー集
うすい
恋愛
他サイトにて投稿した作品の中からフルで無料公開している作品をピックアップして投稿します。
一度ガイドライン抵触につき全作品削除されてしまいましたので、予告なく非公開にする可能性があります。
恐れ入りますが、ご了承ください。
【完結】都合のいい妻ですから
キムラましゅろう
恋愛
私の夫は魔術師だ。
夫はものぐさで魔術と魔術機械人形(オートマタ)以外はどうでもいいと、できることなら自分の代わりに呼吸をして自分の代わりに二本の足を交互に動かして歩いてほしいとまで思っている。
そんな夫が唯一足繁く通うもう一つの家。
夫名義のその家には美しい庭があり、美しい女性が住んでいた。
そして平凡な庭の一応は本宅であるらしいこの家には、都合のいい妻である私が住んでいる。
本宅と別宅を行き来する夫を世話するだけの毎日を送る私、マユラの物語。
⚠️\_(・ω・`)ココ重要!
イライラ必至のストーリーですが、作者は元サヤ主義です。
この旦那との元サヤハピエンなんてないわ〜( ・᷄ὢ・᷅)となる可能性が大ですので、無理だと思われた方は速やかにご退場を願います。
でも、世界はヒロシ。
元サヤハピエンを願う読者様も存在する事をご承知おきください。
その上でどうか言葉を選んで感想をお書きくださいませ。
(*・ω・)*_ _))ペコリン
小説家になろうにも時差投稿します。
基本、アルファポリスが先行投稿です。
女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集
春
恋愛
様々な設定で女の子がえっちな目に遭うお話。詳しくはタグご覧下さい。モロ語あり一話完結型。注意書きがない限り各話につながりはありませんのでどこからでも読めます。pixivにも同じものを掲載しております。
きいちごの恋
めぐみ
恋愛
数年前に村を出た姉を探すため、4年前から旅に出ていたエリー・クーパー。
姉の手がかりをようやく見つけたと思ったところ、そこで迷子になってしまう。
そんな時に助けてくれたきさくなおじさんはエリーのタイプドンピシャで─?!
「物好きだねぇ、一回りも上のおじさんに興味津々なんて」
今回は枯れた(?)おじさん(36)×積極的な女の子(24)の
ファンタジードエロラブストーリー第二弾です
第一弾の「スターチスの思い出」と話がつながっておりますが
こちらだけでもわかるかと思います
※R-18作品です 18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください
淫語・♡喘ぎ等ございます、苦手な方はバックで!
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる