『観察眼』は便利

Nick Robertson

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132 かんけつぅーーーーーー

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「こんなにおおっぴらな大量殺人で利益なんか発生すんのかな」
「さぁて。武器を売る人が、『この商品はこんなに強いんだぞ』って示すために街を焼き払って…」
「あるわけねぅだろ」
「はは、そーだよねぇ」

カズヤは素早く俺をエネルギーの岩のところへ連れて行ってくれた。

「……届く?『観察眼』」
「いけそうだ。昨日今日で能力が上がりまくってっから」

遥か空高くから、土煙を潜って、そのさらに下の岩をうかがう。

「…どうだ?…いや、すまん。集中してる時に」
「大丈夫。話しても問題ないぞ。……うん、見えた」
「で?」
「岩が割れてやがる」
「ふーん」

粉砕と言うより、荒くパッカリヒビを入れて、つまりカチ割った感じだ。

「誰が……、って、あれ?」
「どうした」
「内側の方が細かく砕けてる。なんでだろ」
「それ……、内側から岩を破壊したってことになるな」
「できるのか?そんなの」
「エネルギーを暴発……、いや、違うか…?」
「あ、中央からヤられたわけじゃないな。なんだろう、ど真ん中よりちょっと上のあたりを狙ったのかな?どうしてだろ」
「……………」

何か分かったのか、カズヤは俺の方をじっと見た。

「なんだよ、早く話せ。バカ野郎」じれったくなって、俺は催促する。
「サラじゃねぇか?」
「サラ?」
「うん。あいつの『突炎』なら、それは可能だろ」

サラ、か……。こいつが逃した奴ね。

「でも、『突炎』ってそんなに硬い場所を攻撃できるもんじゃなかっただろ。あくまで、標的にした人、個人を殺すための技なんだから」
「体内エネルギーの岩の真上にいたんなら、術の威力は跳ね上がるぞ」
「あ」

それはそうだ。じゃあ。

俺は頭を掻く。「……ん、いやぁ、どうかなぁ。まず、あの岩に近づいたら狂うんだろ?どうやって術の制御をしたんだよ」
「そりゃあお前、奴らは誰かに操られてんだぜ?『操作』よりもっともっと強力な何かに捕まってるんだ。だから、サラがどんなに頭おかしくなっても、外部の人間が勝手に体を動かしてたんなら……」
「えげつねーな」
「そんなもんだろ」

それが本当なら、サラは自分の体を襲う痛みなんかで喚きながら、岩の中心あたりを狙って『突炎』をしたんだろうか。わぁ、想像したくないな。

「そうか。サラは目視して標的を定めてたもんな。岩の中心がどこかなんて分からなかったわけだ」
「そればっかりは、操ってた奴も放っておいたんだな。どっちにしろ、壊れたし」

煙がまた大きくなった。細かい砂の粒はどこまでも伸びてくるのだ。
俺はカズヤが何を思っているのか、それは分からなかったが、サラは助けずに殺してしまっていた方が、一瞬の痛みで済んだのではないか、と、こう思った。それとも、今はなきウチの組織の連中も、どっちにせよ、スパイ達を痛みつけて殺したんだろうか。それは分からない。ただ、やはりカズヤは飄々としている。

「サラ、以外の人間っていう線は、ないかな」
「あるにはある。だが、俺は一番サラが適任だと思っただけだ。あいつの『突炎』って技は珍しい。そうそう色んな奴ができることじゃねぇのさ。あいつ、あの組織でトップクラスなんだからな」
「そうか。そりゃあ、この街ではそんな芸当できる奴はいなかっただろうけどさ。敵は外部の人間だろ?なら、その中の一人が、そういう攻撃ができても変ではない……」
「あのな、至近距離で岩を破壊したならその後、確実に死ぬんだぜ?で、遠距離から破壊できる奴。こいつがいたんなら、もうちっとスマートに事を運ぶだろうよ。こんなに派手なことしなくても…」

カズヤは、巻き上がる風を見ながら、「……いや、ワザと残虐仕様にしたのかもな」と喉の奥の方で呟き、引き笑い、のような音をたてた。もちろん、表情自体はそれほど明るくない。

……………と、その時だった。

「おい!リョウタ」
「どうした?」
「あそこ」
「?……!!」

向こうの方の土煙がいきなり消えた。……何かが迫ってきている!!
俺達は驚いて、カズヤはとっさにその反対側に逃げた。しかし、隠れる場所は何もない。

「おいっ!クソッ!!」
「バカ、静かにしろ。俺は体内エネルギー操作系統も上手なんだ。高度な『隠蔽』してるから」

そうか、そうだった。こいつはそれができるんだ。
で、今度は俺が貢献すべく『観察眼』の意識を地下から外してそこへ向けようと思ったのだが……
必要なかった。

「何、何だあれ……」
ガッチリ武装した集団が大群で通っていく。
すると、今まで荒れ狂っていた土は、母親に叱られた子供のように、ベソをかいて、大人しく所定の場所へ帰っていく。

「俺、俺達は……」
次第に鎮まりかえっていく、その場所を見つめながら、理解した。

今、敵に回そうとしていたのは、あまりにも大きな団体だった。
カズヤが、万が一勝ってしまったとしたら、この国は滅びるだろう。それ以前に、やはり、相手の方がカズヤなんかより格段に強い、そんな気がする。そして、どんな色のついたメガネを使っても、あいつらが味方という風には、見えない。

「どこから湧いてきやがったんだ、ったく………」

カズヤも言葉を漏らす。
彼らはどんどんと整地を行なっている。列には少しの乱れもない。

(…もし、生存者が奇跡的にいたとしたら、あいつらはその人間をどうするんだろう?)
……
やめた。考えただけ無駄なことだ。そんな奴がいるわけないのだから。

「……手、引くしかなさそうだな。…………この街の貴族、そんなに悪さしてたかなぁ」
「関係ないだろ。民間人もヤられてるんだぞ」

もはや、どこまで、どれだけの人が関係しているのかは不明だ。外国にまでそれはまたがっているのかもしれない。この街が滅んだという情報は、やがてみんなに知られるところとなるだろうが、真相は、隠れたままだろう。

…観察眼に反応があった。
目をやると、どこから掘り出されたか、小さく、埃にまみれたキングハリネズミが、ヨタヨタと自分の体を引きずるように動いているのだった。
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