『観察眼』は便利

Nick Robertson

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俺と相手はしばらく見つめあった。
互いに、何も喋らなかった。
それから動き出したのは、敵の方だ。

「運が悪かったよ」
あいつはそう言ってかすかに笑い、今度こそ向こうへ消えていった。

マズい。
このままでは、みんな……。

また頭痛がやって来た。
俺はしゃがんでそれに耐える。
奴が遠ざかっているからなのだろう、その痛みはさっきと比べると、徐々に、減ってきているようにも思えた。

(…かっ、『観察眼』)

『通常能力 反響
                妨害
                幻覚
  特殊体質  溜め』

……
…っ
俺はこれを見た時、あいつが敵の組織の中でも有数の実力者であること、そして奴は一人でここに乗り込み、今まで暴れまわっていたのだということを理解した。

『反響』は音を遠くまで届かせる術で、『妨害』では敵の感知能力を阻むことができ、『幻覚』を使えば、幻を見せたり、頭痛を生み出したりできる。
『溜め』というのはかなり強力で、体内エネルギーを集めて術の範囲を拡張させることができる。

これらを使えば、さっきまでの現象が解明できてしまった。

まず下準備として、持ち合わせていた毒ガスを使い、みんなの緊迫した感情を高める。
そこで、『反響』を使い、さらに周囲に警戒させた。
次に、『溜め』をして範囲の広がった『幻覚』を定期的にあの部屋へ送りつけ、遠距離から精神を操作していたのだ。

(…俺以外の人間で感知タイプはいなかった。カバートの森なんかに出払ってたらしいから、そいつらは置いてけぼりになったんだろう。だから、気づくのに遅れたんだっ)
それに、俺の『観察眼』のレベルが『妨害』に負けないくらい、もう少し高ければ、また、『観察眼』以外の術の鍛錬もしていれば。

「…………」
下の階にいる奴らは殺されるのだろう。
俺は『観察眼』を使っていたから、あの敵が目前に迫った時にようやく気づいたのだが、それまでは、あいつは壁になりすましていた。『幻覚』によって、自分の身を隠していたのだ。簡単に気づけるものではない。

(…あいつは、偽物の少年になって俺を襲った奴だろう。そうだ、最初からおかしかったんだ。俺は『変化』を使える人間があの男の子に成り代わったのだと思ってたが、確か『変化』というのは対象者に触れなければならなかったはずだ。でも、あの少年がやすやすと接触されるわけがないのだ。あの時はまだ、生きてたんだから)
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