『観察眼』は便利

Nick Robertson

文字の大きさ
上 下
119 / 132

119

しおりを挟む
『直ちに会議室に全員集合しろ!なるべく多くの人数で、固まって進め!』
アナウンスがギャンギャン鳴って、音割れを起こしている。

俺は「…ついてこい」と言うザクに従った。

『観察眼』を使うと、
『通常能力 移動 上
                竜巻 下
                風刃 中』と出た。

(…移動………、一度行ったことのある場所を事前にマークしていればそこにいくことができる。マークは1つ施すことができ、解消することもできるが、実際に自分が触れた場所でないとマーキングをやり直すことはできない。……一回術を使うとかなりの体内エネルギーを消費する。マークを維持するのにもエネルギーは必要………)

「…………ザク」
「なんだ?」
「俺を、追ってたのか?」
「……、『観察眼』、使ったんだな」
「ああ」

彼はこの基地にマークをしていた。と言うことは、あの倉庫に来るために『移動』の技を使用するのは不可能だ。

「…そうだ。俺は、あんたを迎えに行った」
「……どうやって…」
「場所の確認は簡単だ。お前に機械がずっと作用してる」
「あ、あれ、まだ無事だったのか……」

こっそり車の中でつけられてたヤツ。

「違うな。あれはもうない」
「じゃあ?」
「クッキー、食ったろ。…あの中の一つに入ってたのさ。安心しろ。ウンコに出るから、詰まったりはしねぇ」
「あ、あれか……」

疑ってもなかった。あんな所まで、細工がされていたのだ。少年は「美味しいお店のだ」って言ってた気がするけど……。

「スイッチを押すと、お前の腹の中から信号が放たれるようになってたのさ。それを追って来た」
「でも、それにしては速過ぎる」

俺はその時にかかった時間を想像した。あんなにスピーディーにことが運ぶものだろうか。

「……実はな、その近くに俺がいたのさ」
「えっ?」

考えられることとしては、それが適当な気はする。でも、どうして。

「俺だって、実は臨時の調査員を務めてる。人手がなかったんだから、派遣されるのは当然だろ」
「じゃあ、俺が近くにいなかったら…」

呟くと、ザクは笑ってこっちを見た。

「…実はな、俺らはあそこに目をつけてたんだよ。もともとな」
「え」
「カズヤがたった一人で立て籠もった瞬間が、カメラにバッチリ映ってたんだ。よほど腕に自信があったんだろうな。隠れてもなかったぜ」
「?他にも男が…」
「お前を運んで来た奴らは後から来たんだよ。お前と一緒にな」

そこで、ザクは『竜巻』を操り、煙を巻き起こして俺を救出した。ついで、『風刃』で周りにいた人間を一掃したそうだ。それからすぐに『移動』を使った。

「…依頼の初めからザクが参加してたら…」
「あくまで異常事態以外は下っ端司令官なもんでね。自分は情報集めに徹するのさ」

それからすぐ、俺は聞いた。「目をつけていたのは、ザクだけではないだろう」と。では、他の人はどうしたのだろう。

「放って来たさぁ。『移動』で他人を運ぶのは一人が精一杯、仕方なかったんだよ」
「…………」

俺は何もしてないのに生き残ってここにいる。
それで、汗水を流して奔走した調査員達は置いてけぼりか。

会議室の扉は開いていた。
俺とザクの他に六、七人ほどの人がいっぺんに入る。机や椅子が並べられていたらしいが、それらは部屋の後ろに固められている。机なんか、半分くらい粉砕していた。

「だから落ち込むなっての。俺が選択したことだろ。『せっかくだから、自分の部下を助けることにしよう』ってな」
うししし、と彼は笑った。俺は、それに返す表情を作ることができない。

その会議室には、もうほとんど全員が集合しているようだった。お互いを警戒して、少しずつ距離を保ったまま、ピリピリ立っている。

「……おい、俺らもあれを見習おうぜ。…あっ、そう言えば、俺はリョウタが偽物だって可能性を考慮してねぇんだよなぁ」
「…………」
「おいおい、何か言えよ。安心しろ。疑ってなんかねぇっての」

俺が唇をまっすぐ横に結んでいるので、ザクも心配している。
でも、力を緩めれば緩めたで、変なことを口走ってしまいそうだ。
例えば、「どうして俺を救ったんだ」とか。ザクを追い詰めることにしかならない言葉を。

「…なぁ、考えてもみろ。少しでも疑ってたらな?別の人間を連れて来るって。だってさ、損害とかを………っ」
俺が睨んでそれを制す。ザクは俯いてしまった。
……ああ、結局こうなる。

「…お前ら、いいか、ここで固まって、動きを取らないこと。排便がしたくなったら、遠慮なく垂れ流せ。ふふふ、緊張した人の性格は大きく二つに分けられる。分かるか?尿意を催す人と、尿意が引っ込む人、だ。ひひひ」

さっきアナウンスしていたのと同じ人だ。白い髭に少し赤みがかった顔。ここの組織のボスなのだろうか。

「トップから二番目の人だ。副将な」
俺の心を読んで、ザクがそっと教えてくれた。なら、一番目の人はどこかへ隠れているということなのだろう。一人で隠れる、か。それ、ここよりもっと危ないと思うんだけど。

「ま、みんな、その場でいてくれや。時間を稼ぐしか方法はないだろうよ。…………で、だ」
副将はぐるりと首を回して、俺達がいる方を見た。

「ザク、その人が?」
「そうだよ。こいつがリョウタ。『観察眼』の持ち主だ」
「ふむ」
(…え、何、俺??!)

思わずザクを見る。すると、彼は無言で、副将に向いたまま頷いた。

「では、君、ここに来なさい」
「は、……あ、うん………」

「はい!」と威勢良く返事をするのは、この状況では違う気がしたので、残念なくらい曖昧な返事になった。俺は歩いて副将の隣に行く。

「ザクの言うことが正しければ、このリョウタという人物は、ここに潜んでいる犯人を特定できるそうだ。完全に信用することは禁物だが、参考程度に、みんなを調べてもらおうと思う」

副将ははっきりした声で言った。

(…なるほど、このために、ザクは俺を救出することにしたのか!)
やっと真意が分かった気がした。確かに、これは俺が一番適任なのだろう。でも。

「…あのぅ、俺、奴らの術とか、未知のところが多くて……」
「良いのだ。ナギとかフミとかの技に関しては調べてるのだろう?そいつらがここに混ざってないか調べるだけで十分」
「それなら……」

俺は一人一人に目を移していく。
副将はもちろん、会ったことのないエリート達にも。

「おま、…あなた、隠蔽術を持ってるな」
「……そういう役柄だから」
「…………あなたも」
「同じく、調査してたから」

ダメだ。ほとんどの人が隠蔽術を持っている。これじゃあ絞り込むことはできない。

「…ほら、土術で人形作ってみたりとかさ、『変化』とかさ、『火柱』『威圧』、そういうのがあるんだろう?」
副将が聞いてくる。
「んー……と、そういう人は、いないと思う」
俺は首を傾げながら応えた。
「そうか………」
副将は自分の髭をこれでもかというくらいに引っ張っていた。

…ただ、俺としては、目を合わせた瞬間に、歯を食いしばって『観察眼』で調べる時間が終わるのを待つ人々がいるということ自体が怖い。誰が犯人か分からない。もしかしたら、いないかもしれないし、全員が敵かもしれない。そんな最悪の事態はないと思うけど。

「全員、一旦大丈夫だという結果に落ち着いたか………」
「でも、敵もやり手だろうから……」
「それは分かっている。みんな、片時も気を抜くなよ!」

俺は元の位置に戻った。

前から見ていると顔が青白くなっている人も見えていて、こっちも気が滅入る。
もう少ししたら、誰かが気を失って倒れるかもしれない。いくら訓練を積んだ人達だと言っても。

すぐ横で、唾を飲んで息を吐く人がいた。必死にみんな耐えているのだ。この時間が終わる、いつかのために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】婚約破棄からの絆

岡崎 剛柔
恋愛
 アデリーナ=ヴァレンティーナ公爵令嬢は、王太子アルベールとの婚約者だった。  しかし、彼女には王太子の傍にはいつも可愛がる従妹のリリアがいた。  アデリーナは王太子との絆を深める一方で、従妹リリアとも強い絆を築いていた。  ある日、アデリーナは王太子から呼び出され、彼から婚約破棄を告げられる。  彼の隣にはリリアがおり、次の婚約者はリリアになると言われる。  驚きと絶望に包まれながらも、アデリーナは微笑みを絶やさずに二人の幸せを願い、従者とともに部屋を後にする。  しかし、アデリーナは勘当されるのではないか、他の貴族の後妻にされるのではないかと不安に駆られる。  婚約破棄の話は進まず、代わりに王太子から再び呼び出される。  彼との再会で、アデリーナは彼の真意を知る。  アデリーナの心は揺れ動く中、リリアが彼女を支える存在として姿を現す。  彼女の勇気と言葉に励まされ、アデリーナは再び自らの意志を取り戻し、立ち上がる覚悟を固める。  そして――。

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

呪配

真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。 デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。 『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』 その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。 不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……? 「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!

処理中です...