『観察眼』は便利

Nick Robertson

文字の大きさ
上 下
37 / 132

37

しおりを挟む
「…これは、やっぱり調べる必要がありそうだな。調査団を派遣しとこう」
「おっさん、そんなこともできるのか?」
「おいおい、俺を誰だと思ってるよ」
「誰だよ」
「お偉いさんの下っ端の下っ端の………、お前らの上司だ」

そんなに良いご身分ではないってことらしい。かわいそうなことだ。

「……あと10分程度で商店街駅に着く」
いきなり低い声がするのでビクリと体が震えた。
(なんだ、運転手か)

「えっ、えーと、奴らはローンって人の邸宅に行くって言ってたぞ。そっちに行けばどうだ?」
「……………」

相変わらずのポーカーフェイスだ。この顔の下に、俺に対する好奇の目が、はたして存在してるんだろうか。

「え、あいつらそんなこと言ってたの?そりゃあマズいことになったなぁ」
「ローンって奴、知ってんの?」
「ここらじゃ名が売れてんぞ。なにせ、街で一番デカい組合の責任者だからな」
「商店街の組合長ってわけか……」
「そうだ」

そんな地位にいるんだったら、この街の探検家の常識ってトコだろう。つまり、それが分からなかった俺は常識知らずだ!

「……だがな、嘘をつかれてるかもしれないだろ?全く別の場所に行くかもしれない。だから、駅の出入り口に行くのが確実なんだよ」
「そうか……」
「1%の危険をなるべく0にして、100%の選択肢を選べるようにするのが一番だろ?」
「今、『あっ、俺カッコいいこと言った』って思ったな?」
「当然!!」
知らないおじさんが嬉しそうに叫ぶ。

「100%にしたいんなら、各駅で待ち構えないとダメだろ。もし奴らが別の駅で降りたらどうすんだ?」
俺は首を左右に振りながら言った。

「それのために、今も監視はしてる」
「ふーん」
「動きはないな。ナギがカズヤに話しかけてるだけだ。さっきの出来事をウヤムヤにしようとしてんのかもしれねぇ。ただ、フミは俯いたまんまだな」
「あっ、そうそう。フミに何したんだよ」
ここにきて、すごく気になっていた疑問を思い出した。よく今まで忘れてたもんだ。

「えっとなぁ。耳鳴りって分かるか?」
「『キィィーーン』ってなる、アレか」
聴力検査のことを回想する。俺はなぜだか、あの時に限って耳鳴りを感じることが多かったのだ。「雑音がない状態で、耳に意識を向けてるのだから当たり前だ」と自分に言い訳していたが。

「それそれ。イヤホンについてたボタンを押して『ON』にすれば、あの高い音を何十倍も大きくしたような爆音を鳴るようにしてたんだよ。だからフミは、右の鼓膜が破れてるはずだ」
「………おい、俺が使ってたらどうなったんだ」
「あの状況でそれは無理だった」

そりゃそうだ。そうだけれども!

「……………」
「あいつも警戒はしてたみたいで、音が聞こえた瞬間『OFF』にしたんだが、ちょーっと遅過ぎるよなぁ。至近距離で空気の大振動がブチ当たるんだから。…でも、まっ、左耳を犠牲にしなかったことは褒められること、なのかなぁ」
(あいつ、ワザと右耳だけイヤホンをはめたのか)

俺は現場にいたのに、これっぽっちもそういう「カケヒキ」みたいなものに気づかなかったぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

夫は平然と、不倫を公言致しました。

松茸
恋愛
最愛の人はもういない。 厳しい父の命令で、公爵令嬢の私に次の夫があてがわれた。 しかし彼は不倫を公言して……

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...