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隣の座席に腰を下ろした男の子は、楽しそうな顔で俺のシートベルトを締めてくれた。
「お………おじ、さん?」
「おうよ。何だ?」
「……こういうことができるんだったら最初から言ってよ」
「『こういうこと』とは?」
くそっ、トボけやがって!
「だから、助っ人を呼んだり、車を出してきたり。今までしてくれなかったことばっかりだ!」
「ハハハ、喜んでくれたみたいで何より」
……俺、いつ喜びを表現したのかな。「ありかとう」とも、「嬉しい」とも言わなかったはずなんだけど。
「……そいじゃ、ともかく情報交換でも…」
「待てぇ!まだ何も言ってないじゃん!どうしてこんな優秀な男の子をくれたりするのかって聞いてんだよ!………あっ、その、運転手さんもとても優秀ですよ。すみません……」
ミラーに映る顔がなんだか怖く思えたので、一応補足しておく。まぁ、案の定、黒いサングラスをかけたその男は口角を上げてもくれない。
「お、そんなことが聞きたかったのか?…えーっとぉ、その特別待遇のことだがな、お前もとうとう、お偉いさんがたに認めてもらえたらしいんだ」
「と言うと?」
「今までの功績を踏まえて、このような処置を施すに足る人物だと理解を得られたってことだ」
「ほほぉ」
つまり、信頼されてるってことらしい。…ひゃあ、俺もついに出世かぁ。
「……だから、こういう難易度の高い依頼も舞い込んできたわけだな」
「は?難易度が高い?今までもこういう仕事をしたことあるけど」
「ヒヒヒ。あの、コソ泥もどきみたいな三人組を捕まえたヤツか?言っとくけど、これとあれとでは敵の大きさが段違いだぜ」
「え、それを分かって俺に託したのか?……それを決定した奴、バカだろ」
俺は呆れ顔で息を吐く。その時、クスッと少年が笑ったのが聞こえたから、今度は誇らしくなった。……こんなことで誇らしくなっちまうとか、そりゃあ全く残念なことである。
「あぁ。俺にもそいつの考えが分からねぇや。でも、とにかくその人はあんたを指名したんだよ」
「ふーん」
オラはァ、いつしかユーメージンになっとったらしいんだべ。
「……でだ、この依頼を達成するのは一筋縄じゃいかねぇってことは容易に判断できてきたわけだ。だから、ヘルパーを用意したんだよ。もちろん、正式な許可を経てだ」
「ふむふむ。何となく掴めたぞ。つまり、この少年は、凄く能力に長けてるわけだ。………あっ、運転手さんも素晴らしいお人柄なのは重々承知なんですよ」
俺はミラーに向かって急いで頭を下げる。
「…お前、ぜってーワザとだろ」
「はは、バレた?だってこの人、全然表情変えてくれないんだもん。イタズラして気持ちを揺さぶりたくなるのが通常の反応ってものでしょ」
「ふーん。ってことは、お前は自己満足のために、忙しい中おいでくださった超スーパーエリートにチョッカイを出すわけだな?」
おかしそうに知らないおじさんが言った。
……俺の背中に冷たいモノが流れる。
「えっ、あっ、うっ、それホント?」
「ハハハ!嘘に決まってんだろ!どうしてそんな奴が新米のお前なんかについて来るんだよ!!」
「あ、そ、そーだよねぇ。ビックリしたじゃねえか!この野郎!」
「んー、でも、超スーパーエリートってのは本当だぜぇ?ただ、個人的に気になる人間の手伝いしかしないから、忙しくはなさそうだが」
(…えっ、なんて言いました?)
俺は、自分が石像のように硬くなっていくのを感じた。
こいつも、俺に惚れちゃった感じのファンだったのかぁぁぁ!!
「…そういう人が多いのは、うん、アイドルとして当然なんだけど、その、プレッシャーが半端じゃなくって、その、私……」
「何を言っとるんだ。早く本題に移らなきゃ、時間なくなっちゃうぞ」
(ちぇっ、ちょっとは夢を見させてくれよ!)
顔をしかめながら、胸の内で舌を出した。
「お………おじ、さん?」
「おうよ。何だ?」
「……こういうことができるんだったら最初から言ってよ」
「『こういうこと』とは?」
くそっ、トボけやがって!
「だから、助っ人を呼んだり、車を出してきたり。今までしてくれなかったことばっかりだ!」
「ハハハ、喜んでくれたみたいで何より」
……俺、いつ喜びを表現したのかな。「ありかとう」とも、「嬉しい」とも言わなかったはずなんだけど。
「……そいじゃ、ともかく情報交換でも…」
「待てぇ!まだ何も言ってないじゃん!どうしてこんな優秀な男の子をくれたりするのかって聞いてんだよ!………あっ、その、運転手さんもとても優秀ですよ。すみません……」
ミラーに映る顔がなんだか怖く思えたので、一応補足しておく。まぁ、案の定、黒いサングラスをかけたその男は口角を上げてもくれない。
「お、そんなことが聞きたかったのか?…えーっとぉ、その特別待遇のことだがな、お前もとうとう、お偉いさんがたに認めてもらえたらしいんだ」
「と言うと?」
「今までの功績を踏まえて、このような処置を施すに足る人物だと理解を得られたってことだ」
「ほほぉ」
つまり、信頼されてるってことらしい。…ひゃあ、俺もついに出世かぁ。
「……だから、こういう難易度の高い依頼も舞い込んできたわけだな」
「は?難易度が高い?今までもこういう仕事をしたことあるけど」
「ヒヒヒ。あの、コソ泥もどきみたいな三人組を捕まえたヤツか?言っとくけど、これとあれとでは敵の大きさが段違いだぜ」
「え、それを分かって俺に託したのか?……それを決定した奴、バカだろ」
俺は呆れ顔で息を吐く。その時、クスッと少年が笑ったのが聞こえたから、今度は誇らしくなった。……こんなことで誇らしくなっちまうとか、そりゃあ全く残念なことである。
「あぁ。俺にもそいつの考えが分からねぇや。でも、とにかくその人はあんたを指名したんだよ」
「ふーん」
オラはァ、いつしかユーメージンになっとったらしいんだべ。
「……でだ、この依頼を達成するのは一筋縄じゃいかねぇってことは容易に判断できてきたわけだ。だから、ヘルパーを用意したんだよ。もちろん、正式な許可を経てだ」
「ふむふむ。何となく掴めたぞ。つまり、この少年は、凄く能力に長けてるわけだ。………あっ、運転手さんも素晴らしいお人柄なのは重々承知なんですよ」
俺はミラーに向かって急いで頭を下げる。
「…お前、ぜってーワザとだろ」
「はは、バレた?だってこの人、全然表情変えてくれないんだもん。イタズラして気持ちを揺さぶりたくなるのが通常の反応ってものでしょ」
「ふーん。ってことは、お前は自己満足のために、忙しい中おいでくださった超スーパーエリートにチョッカイを出すわけだな?」
おかしそうに知らないおじさんが言った。
……俺の背中に冷たいモノが流れる。
「えっ、あっ、うっ、それホント?」
「ハハハ!嘘に決まってんだろ!どうしてそんな奴が新米のお前なんかについて来るんだよ!!」
「あ、そ、そーだよねぇ。ビックリしたじゃねえか!この野郎!」
「んー、でも、超スーパーエリートってのは本当だぜぇ?ただ、個人的に気になる人間の手伝いしかしないから、忙しくはなさそうだが」
(…えっ、なんて言いました?)
俺は、自分が石像のように硬くなっていくのを感じた。
こいつも、俺に惚れちゃった感じのファンだったのかぁぁぁ!!
「…そういう人が多いのは、うん、アイドルとして当然なんだけど、その、プレッシャーが半端じゃなくって、その、私……」
「何を言っとるんだ。早く本題に移らなきゃ、時間なくなっちゃうぞ」
(ちぇっ、ちょっとは夢を見させてくれよ!)
顔をしかめながら、胸の内で舌を出した。
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