『観察眼』は便利

Nick Robertson

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すぐそこに、階段がある。この駅のホームは、建物の二階の中にあるのだ。
「あそこから降りるよ!!」
「お、あっ」

慌てていたので、ろくに返事もできなかった。

(凄えな、階段に一番近い扉を選んで脱出したのか…)
 この男の子、プロフェッショナルだ。
俺は確信する。

階段の端には、下りの人専用の道が作られていた。下りの人しか使っちゃいけないっていう階段があるってことだ。そこを利用させてもらう。

ダッ、ダッ、ダッ、ダッ……、カツーン

一段飛ばしで階段を降り、最後はジャンプした。

「大丈夫?お兄ちゃん」
「全然イケる!」
「じゃ、まだ走れるね?!こっちだよ!!」

人の波をすり抜け、男の子は俺を導いてくれる。
頭の中に地図が折りたたまれているらしく、その足に迷いはなかった。

ちょっと後ろを振り向いてみた。
…ナギの姿は見えない。でも、スパイ相手に油断は禁物だろう。

俺はすぐに顔の向きを戻して、少年の背中を追うことに専念した。頼りになるなぁ。
いくらか進むと、切符回収機に突き当たった。だが、男の子はそこに切符を入れる前に、駅員の人に早口で何かを言って、お金を手渡した。

(裏で話が通ってるのかな?)
俺が追いつくと、彼は俺を指差して、「この人です」と駅員に告げた。
すると、その駅員は頷いて、「こちらからどうぞ」と俺をカウンターの横から通してくれる。

(?、?、?)
何をされたのかすぐには分からなかった。
が、自分のポケットの中がスッカラカンであることを知って、だんだん理解し始めた。

(そうか。全員分の切符はナギが持ってたんだ)
それを見越して、男の子は現金で支払ってくれたのだ。

そろにしても………。少年はそのまま切符を投入して出てきたのだが、彼よりずっと大きい俺がこの有様なのだから、駅員の人も内心不思議がってるだろうなぁ。これじゃ、どっちが年上か分からない。

「お兄ちゃん、足を止めないで!捕まったらおしまいだよ!」
「すっ、すまん!」

また右手を握られた。
こうすることで、はぐれることはなくなるんだろうけど、やっぱり変に見えるよねぇ。

ズンズン駆けていって、ようやく出口の明かりが見えた。これで、出られる……。
白い日光に包まれた直後、俺は男の子によって真っ黒の車の中に引き込まれた。
 
「あえっ?!ここは?」
「よぉ、元気にしてるか」
「!!」

知らないおじさんの声じゃないか!
その音声は、トランシーバーから聞こえてくる。車と同じような黒色の服を着た運転手に、それを無言で手渡された。
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