『観察眼』は便利

Nick Robertson

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「それにしてもさ、激しく殴り合いしてたね」
ナギが苦笑いしながら言う。

「バカ言え。一方的に俺が殴られ続けてたろ。ああいうのは、殴り合いとは言わない」
傷がヒリヒリと痛んだ。自然に、舌が傷を覆うように動く。

「……で、別のおっさんにヤられて、こいつはノびた、と」
まだカズヤは起き上がる気配を見せない。どんだけ力込めたんだろう。それとも、ピンポイントで急所を突いたのだろうか。どっちにせよ、やはりタダ者ではないようだ。

あのおじさんは依頼掲示板をじっと見つめていた。背中しか見えないが、時折アゴを触って何やら考え込んでいる。もう俺達のことは気にも留めていないようだ。アッサリした奴だな。

そんな風なことを考えながら、ぼんやり部屋を眺め回していると、用事が済んだらしい1組の探検者達が、こっちに唾を吐きかけて出て行った。

「…ねぇ、もう外に進むべきじゃない?ここ、雰囲気悪いよ」
「そうだな。受付のねぇちゃんを泣かしたからな……」

そう言われて気がついた。今、依頼について対応しているのは、若い男性である。

「でも、カズヤはどうするの?まだ目を覚まさないみたい」

フミが心配そうに彼の顔をのぞいた時、カズヤを気絶させたおじさんが動きだした。
クルリと掲示板に背を向け、受付に歩いてくる。

一瞬目が合った。ニヤッと笑っているようだ。俺達に対する侮蔑、なのか。

「……急ごう」
「え、でも」
「俺が担ぐ」

素早くカズヤを抱き起こす。一刻も早く脱出しないと、息が詰まりそうだった。

「あはっ、介護みたいだ。一時的に気を失ってるだけなのにさ」
「笑うくらいなら手伝え」

そう言うと、ナギはすぐに従ってくれた。ちょっと拍子抜けだ。

「せーのっ」
短く息を吐きながら、両脇の下から体を支え、立たせる。

「俺はこいつが後ろに倒れないように手を添えておくから」
「…おうっ。そうしてくれ」

そのままガラス戸へ連れて行く。カズヤの靴のかかとが擦れているのが分かった。

「…はいっ、開いたよ」
「どうもっ」
フミはいち早く戸を開けてくれた。だから、スムーズに外へ出ることができる。

「よぉーっこらせぇっと」
「…………んあっ?」

あのおじさんに鉢合わせしないように、組合の建物をグルリと回って、玄関の反対側へカズヤを降ろした。
だが、最後だからと力が抜けて、彼の尻を地面に落とすような形になる。……つまり、雑にしちゃったのだ。

「……えーと、ここは?」
それで、ボケーっとしたまま、カズヤは起きたわけである。
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