『観察眼』は便利

Nick Robertson

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ゴッ、ゴッ、ゴッ……
たまたまだろうけど、数発のパンチは、どれも、俺の鉄壁ガードをくぐることはなかった。
それでも、手は痛いし、すっげえ怖い。腕はパンチを受けるごとに衝撃で弾んでいる。
それから、掌位置がだんだんズレてきて、口の中を軽く切った。自分の手の甲が、唇の上で殴打されたものだから、押し潰されるような格好で怪我をしたのだ。

(ってぇ……)
何もできない。何も言えない。ただジッと彼が拳を振り上げて落としてくる、その様子をスローモーションのように、片時も見逃さずに眺めている。

……攻撃がゆるんだ。どうやら、俺の顔面に的確に打撃をヒットさせようと狙っているらしい。
左手で地面に押しつけられ、反対の右手は俺の側頭部の上あたりをチラチラと動いていた。

(「ここまでするか?」って言葉をそのまま返してやりたい気分だっ!!)
俺は斜め上を目で捉えながら、焦りを募らせる。

ガツッ!
「…………っ!!」

鈍い音がする。
しかし、その直後に倒れたのは、カズヤの方だった。

「?」
俺は覆いかぶさってきたカズヤを横にどかすようにして向こうを見る。
すると、いかつい顔の男と目があった。

「おい、ここはガキの遊び場じゃねぇんだぞ。喧嘩ならヨソでやってろ。クズどもめ」
どうやらこの探検者がカズヤの凶行を止めたらしい。やーい、怒られてやんの。…俺もだけど。

(しかし、一発で気絶させたか………。うぅむ、なかなか心得がある人なのかな?」
延髄でも殴ったのだろう。恐ろしやぁ。

「オラ、邪魔だっつってんだよ。そこをどけ」
「あ、うーい」

俺はスルリとカズヤから抜け出し、彼の足を引っ張ってズルズル部屋の隅っこまで引きずった。

「……お疲れさん」
「おう」
ナギに返事をして、口元をぬぐう。鉄っぽい味が舌にしみた。

「結構派手にやってたじゃん。映画のワンシーンみたいだったよ」
「どうも」
フミには褒められた。……褒められてないか。

「で、任務達成の報酬とかはどうなったんだ?」
俺はちょっと威勢良く聞いた。まだ感情が高ぶっている。それを悟られまいと、ハキハキした声で覆い隠すのだ。

「あ、そのことなんだけど、ダメだったわよ」
「は?!何が?」
「お金。貰えなかったの」

フミが首を振りながら言う。

「ちょ、どうしてだよ!確かにセコいやり方だけどな、達成は達成だろ?」
「えーとね、先に合格してたチームがあったみたい」
「ふぇ?」
「私達がここに戻ってくるまでの間に、任務完了が認められた人がいたの」
「……………」

依頼を受けるためには費用がかかるが、報酬を獲得できるのは一番乗りに成功できたチームのみなのだ。
それはそうだが、まさか、俺達が組合を出て、石を拾って入って戻ってくる間に合格したチームがあったとは。

「単独チームが達成したんだってさ。利益は独り占めってことだね。ガッポガッポ」
彼女は「ガッポガッポ」という言葉に合わせて両手を上げたり下ろしたりする。

(だから、受付の人は口ごもってたのか)
てっきり、「石ころは、宝と認められません」って言いたいんだと思ってた。
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