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「へいへーい」
用事を言いつけられたおじさんが仕方なく歩き出した直後、「その必要はないね」という声が聞こえてきた。
「だ、誰?!」
男が驚いてその人物を見る。
「…いや、私達も昨夜この街に来たばっかなんだから、顔は知られてないはずなんだけどさ。えーとね、つまり、こいつのことはちょっと知ってんだ。だから任せてよ…ってこと」
ハッとして俺も叫ぶのをやめた。森で出会ったチームの女の人じゃないか!
「……すまんなぁ。その様子からして、こいつがここで暴れてお前の大事な右腕を蹴ったんだろ?……まぁ、こいつは攻撃能力を持ってないくせに森に入るようなバカだからなぁ」
「森って言うと、まさかカバートの森のことか??!」
「そうだ。それで熊に殺されかけてんの。よっぽど要らない記憶を溜め込んでるか、単に命知らずかだと思わねぇか?まっ、普通じゃないわな」
同じくあのメンバーの人がまだ大げさに手首をさすっている男の人に説明し、ゴソゴソと何か渡した。…あー、お金だ。
「………ふんっ。慰謝料ってわけか。うーむ、こっちとしても、そんなにコトを大きくしたくないしなぁ。…よし!分かった!もう許すから、こいつを早く連れて行ってくれ」
「ありがとな」
メンバーの男二人に支えられて立ち上がった。ってか、どうして助けてくれたんだろ。
「じゃ、俺達はこれで」
「おう」
左脇に手を入れて俺を歩かせているナギは、店を出て行く間際に後ろに軽く頭を下げ、軽く俺を小突いた。
「いたっ!」
「てめぇ何してんだよ。こんな所で」
「いや、お前こそ」
「俺らは通りがかっただけだ」
ナギは喋りながら空を仰ぐ。だいぶん太陽が高い。そして日射がキツい。
「なぁにが『通りがかっただけ』だって?店の中を通り過ぎる人間がいるのか?」
「それはお前だろ」
「うるせぇ!」
「…ねぇ、もしかして、あんたが騒いでた原因ってこれ?」
「!!!」
いつの間にか、女の人が回復薬をしげしげと見つめていた。こっ!こいつがスパイだ!!
「返せっ!」
「あら、図星なのね。別にこんなガラクタ誰も欲しくないわよ」
「???…………!!!!!」
あっさり回復薬は手元に戻ってきたが、今度は別のショックを受けた。
「が、ガラ、クタ?」
「あら、ごめんなさい。そんなの言っちゃ悪いわよね。……それ、どこで買った回復薬なの?」
「……………」
「あぁー、機嫌を直してよ。それが偽物だってことの理由を一から教えてあげるからさぁ」
女の人は、泣き続ける子供に対してウンザリしている時のような顔をして俺を見ている。
「…なっ、なんだよ。早く話せ」
わずかな沈黙に耐えられなくなって、話を急かす。
「ふふ。プライド高いのかな?めんどくさい性格ね、あんたって」
「何だと!」
俺が男二人の手をするりと抜け出して掴みかかると、女の人はスルリとそれを躱した。
「あはは!全然動きがなってないわよ」
「こっ、この女がス……」
叫びそうになったが、慌てて自制する。「スパイ」なんて単語をやすやすと連発するのはなんだか幼稚だし、かなり危険だ。
「?どうかした?」
「何でもねぇ!さっさと話せ!」
「あー、あんたやっぱり私の嫌いなタイプね」
(うるせぇよ!誰がお前に好かれたいもんか!!)
この言葉は喉の奥でとどまる。怒りすぎると口も動かなくなるらしい。
用事を言いつけられたおじさんが仕方なく歩き出した直後、「その必要はないね」という声が聞こえてきた。
「だ、誰?!」
男が驚いてその人物を見る。
「…いや、私達も昨夜この街に来たばっかなんだから、顔は知られてないはずなんだけどさ。えーとね、つまり、こいつのことはちょっと知ってんだ。だから任せてよ…ってこと」
ハッとして俺も叫ぶのをやめた。森で出会ったチームの女の人じゃないか!
「……すまんなぁ。その様子からして、こいつがここで暴れてお前の大事な右腕を蹴ったんだろ?……まぁ、こいつは攻撃能力を持ってないくせに森に入るようなバカだからなぁ」
「森って言うと、まさかカバートの森のことか??!」
「そうだ。それで熊に殺されかけてんの。よっぽど要らない記憶を溜め込んでるか、単に命知らずかだと思わねぇか?まっ、普通じゃないわな」
同じくあのメンバーの人がまだ大げさに手首をさすっている男の人に説明し、ゴソゴソと何か渡した。…あー、お金だ。
「………ふんっ。慰謝料ってわけか。うーむ、こっちとしても、そんなにコトを大きくしたくないしなぁ。…よし!分かった!もう許すから、こいつを早く連れて行ってくれ」
「ありがとな」
メンバーの男二人に支えられて立ち上がった。ってか、どうして助けてくれたんだろ。
「じゃ、俺達はこれで」
「おう」
左脇に手を入れて俺を歩かせているナギは、店を出て行く間際に後ろに軽く頭を下げ、軽く俺を小突いた。
「いたっ!」
「てめぇ何してんだよ。こんな所で」
「いや、お前こそ」
「俺らは通りがかっただけだ」
ナギは喋りながら空を仰ぐ。だいぶん太陽が高い。そして日射がキツい。
「なぁにが『通りがかっただけ』だって?店の中を通り過ぎる人間がいるのか?」
「それはお前だろ」
「うるせぇ!」
「…ねぇ、もしかして、あんたが騒いでた原因ってこれ?」
「!!!」
いつの間にか、女の人が回復薬をしげしげと見つめていた。こっ!こいつがスパイだ!!
「返せっ!」
「あら、図星なのね。別にこんなガラクタ誰も欲しくないわよ」
「???…………!!!!!」
あっさり回復薬は手元に戻ってきたが、今度は別のショックを受けた。
「が、ガラ、クタ?」
「あら、ごめんなさい。そんなの言っちゃ悪いわよね。……それ、どこで買った回復薬なの?」
「……………」
「あぁー、機嫌を直してよ。それが偽物だってことの理由を一から教えてあげるからさぁ」
女の人は、泣き続ける子供に対してウンザリしている時のような顔をして俺を見ている。
「…なっ、なんだよ。早く話せ」
わずかな沈黙に耐えられなくなって、話を急かす。
「ふふ。プライド高いのかな?めんどくさい性格ね、あんたって」
「何だと!」
俺が男二人の手をするりと抜け出して掴みかかると、女の人はスルリとそれを躱した。
「あはは!全然動きがなってないわよ」
「こっ、この女がス……」
叫びそうになったが、慌てて自制する。「スパイ」なんて単語をやすやすと連発するのはなんだか幼稚だし、かなり危険だ。
「?どうかした?」
「何でもねぇ!さっさと話せ!」
「あー、あんたやっぱり私の嫌いなタイプね」
(うるせぇよ!誰がお前に好かれたいもんか!!)
この言葉は喉の奥でとどまる。怒りすぎると口も動かなくなるらしい。
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