語らなくても

Nick Robertson

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それから俺はライオンみたいな獣の看病を受けて少しずつ回復していった。
看病というのは、食べ物のことである。
いつもウサギみたいな獣や、薬をつけてくれたリスみたいな獣まで、ありとあらゆる獣の肉を分け与えてくれた。
俺を止血して助けてくれた獣は、いつしか俺の血肉の糧になった。
俺はすぐ歩けるほどまで回復して、川を探し出した。
水っぽい草だけじゃ足りない。
ライオンみたいな獣は自分で摂取しているようだ。
水まで運んでもらえるほど物事はうまくいかない。
うろうろしていると、サラサラと音が聞こえた。
俺がそこに駆け寄ると綺麗な水が途切れることなく流れている。
直接口をつけて飲んだ。
冷たい。
川の中は木々に遮られないから、光も降り注いできて、明るい緑に囲まれる。
俺はそんな中でくつろいでいたが、かすかな呻き声を聞いて身構えた。
青く透き通った獣が倒れている。
龍のような体。
いくつもの矢が体に刺さって、動くのも辛そうだ。
俺は考えた。
ここで矢をすぐに抜いたとしても、出血がひどくなるだけで、死んでしまうのではないか。
だが、ほっとくわけにもいかない。
その時リスのような獣にしてもらったことを思い出した。
俺は草を噛みながら矢を抜いた。
やはり深く刺さっていて、足で獣の体を押し付けるようにして引き抜かないといけない。
獣は叫ぶ。
俺は何も言わずに草を塗りつける。
なんだか、ここの草は凄いな。
塗りつけたところにしっかり張り付く。
数えてみれば八本の矢が刺さっていた。
全て抜き終え、噛み潰した草をなすりつけると、俺は立ち去った。
帰ってみれば、ライオンみたいな獣の上にネズミみたいな獣が乗っている。
赤い目をしていた。
しかしそんなことも一向に構いなくライオンのような獣は寝そべっている。
みんな食べる時でしか、相手を殺したりしない。
逆に、食料が必要な場合は、たとえそれがどれほど親愛深い生き物でも殺す。
それの例外として、人間が相手の時、というのがある。
あいつらは敵だ。
殺さないとこちらが殺される。
俺も少しでも抵抗するそぶりを見せていたら死んでいたに違いない。
今でも、獣は腹を空かせたら俺を食べるだろうが、なぜだか襲ってこない。
おかしいな、こればっかしは、情け、とか物珍しさ、とかなのかもしれない。
こんな外見の獣なんて他にいないだろうから。
そう、俺も獣だ。
時々森の中に続いている小道を見かける。
人間が通ったものだが、その中には猫のような耳が生えた奴もいる。
「猫人族も、蟻人族も、妖精も、俺たち真っ直ぐな人族も、差別しないぜ!だからともに戦おう!」
みたいなことを言ってた人間がいたが、自分たちは獣であることをすっかり見落としている奴だ。
なんで「人」って言葉が付いてない獣は殺したがるんだろう。
みんな正直に言えば放っていてもらいたい。
あっちから生活範囲に踏み込んできて、「危険な猛獣」問うことで狩られているのだから、たまったものじゃないと思う。
みんなはそれを耐えているんだ。
だが俺は、ある日その心が爆発した。
その時は久しぶりに龍みたいな獣に会っていた。
傷跡もうっすらと残っているのみで、ほとんど全快していた。
その獣は低く伏せて俺に乗られるのを待っているように見えた。
だから俺も喜んで飛び乗ると、獣は大きく弧を描きながら上空高くを飛んだ。
それが終わるとゆっくりとまた俺を降ろしてくれた。
そして俺もそいつの顔を撫でていた時に、急に刀が空を切り裂いて現れた。
「あ……」気づいた時には龍みたいな獣はどさりと崩れ落ちている。
刀が刺さった首からはとめどなく血が噴き出て、下はだらりと地についているし、目はもう虚ろだった。
木々の間から今度は一人の人間が出てくる。
「いやあ、こんな所でカランデーに襲われている人がいたとは。全く間一髪だったね。怪我はない?」
俺は首を振ることもできず、弱々しく相手を見た。
弾けるような笑顔をしている。
「よっぽど怖かったんだね。えー、怪我は無いみたいだ。間に合ってよかった。それにしても君、装備は?無いの?死んじゃうよ。服もボロボロじゃないか。よし、俺がすぐそこのギルドまで運んであげるから。行こうか」
俺はやっと首を振った。
それでも男は朗らかに話し続ける。
「いやあ、ダメだよー、今のはたまたま俺が通りかかったから運が良かったけど、次はそうはならないよ。今のでも結構危なかったんだからな?」
男の人が俺の手首をつかもうとしてくる。
俺はそれを振りほどくように避けた。
「なんで?さあ行こうよ」
男の人が近づいてくる。
ザッザッと落ち葉を踏みつける音。
俺は顔が真っ青になる思いで逃げ出した。
「おーい、待てって!待てったら!そっち行ったら道に迷って食われちまうぞー!」
その声が怖いんだ。
俺は木に時々ぶつかりながら走った。
それから誰かにぶつかる。
ボフッとした感触。
ライオンみたいな獣が、俺を止めてくれていた。
俺はその体にしがみ付くようにして泣いた。
ライオンみたいな獣は、銅像のように固まって、俺を受け止め続けた。
俺は人なんだな、と思った。
いくら獣でいたくても、心の奥で、俺と獣とで境界線を引いている気がする。
こんな線、壊れればいいのに。
俺も、人間みたいな獣、になりたい。
初めて、仕返しをしてやろうと思った。
人間を倒せ。
やられたことをそのままやり返すのだ。
どこが悪い。
俺は森を出ることにした。
食べること、生きること以外で獣を殺すなんて、あり得ない。
そのルールは俺が作った、いや、教えられたものだ。
それを破る奴は、同じ事をされてしかるべきだ。
俺は無鉄砲な作戦を実行する前に、ライオンみたいな獣に頭を少し下げて別れを告げた。
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