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魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち

アサイラムはメルタの種

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 軍用トラックは荷物と冒険者を乗せてひと働きしてくれた。
 ただし150年もお利口に拾う神を待ってたようなやつだ。
 走れば「ごとごろ」「きしきし」語りかけてきて、けっきょく足元からの異音と仲良くしながらの帰路になった。

 乗り心地? 荷台に乗ってる間ずっと下半身が踊ってる気分だった。
 車体に負担をかけないようにとスパタ爺さんがひやひやしてたぐらいだ。
 でも錆びても車だ。タカアキの運転センスで慎重に走ってもらったとはいえ、楽に早く帰還できたのは確かか。

 最悪の乗り心地で拠点までたどり着けば、ゲートの先で待機組が驚いてた。
 そりゃそうか、『白き戦利品のヤグチたち添え』が乗ってたんだから。
 本日の収穫を降ろして乗客の安否(特に尻)を確かめてしばらくすれば、他の連中も無事に戻ってきたみたいだ。

 タケナカ先輩率いる東側担当はそこそこの戦果といった感じだ。
 見張り塔に巣食う白き民、言語に換算すれば「うじゃうじゃ」を二チームでどうにか駆除したらしい。
 負傷したやつも少なくなかったが、戦利品を担いで帰ってこれるほど良い成果だったようだ。

 西側へ向かったヒロインたちはどうだって? 大活躍だ。
 放棄された風車だらけの町から白い奴らを一掃したとのこと。主な被害はびしょぬれになった服ぐらいだ。
 人類より一癖二癖強くて基礎能力クソつよな美少女の振る舞いなんてそんなもんだろう。ほぼカッパー等級でこれだぞ?
 
 結果として、今日の俺たちは総じて収穫ありだ。
 基本報酬と制圧ボーナスに加えて、白き民が落としてくれる金属資源にアーツにスペルと、ここはメルタに恵まれてる。
 そういう事情があってか、アサイラムの面々は苦労はあれど嫌な顔を浮かべる奴は一人もいないのだ。

『なるほどな、北にキャプテン率いるご一行か。そいつら壊滅させるとはやるじゃねえかヤグチ』
『いや、正直イチ君の援護がなかったら危なかったですね……かなりいましたけど、どうにか全滅させたからあの屋敷はもう安全だと思います』
『持ち帰った武器やら防具やら見りゃ一目瞭然だ、良くやったなお前ら』
『タケナカ先輩もお疲れ様です、みんなちゃんと帰ってこれて安心しました。そうだ、【デストラクション】っていう刀剣60のやつが出てきました。俺まだスキル足りないから、良かったら……』
『俺に気を使うな、お前たちの戦利品はお前たちでどうにかしろ。それに今なら向こうでアーツやらスペルやらの話で盛り上がってるぞ、行ってみたらどうだ?』

 立ち上げたハウジング・メニューの青さの裏に、まさにそのいい例があった。
 タケナカ先輩とヤグチのやり取りだ。
 広場隅に積まれたのそばで、今日の苦労に達成感を感じてるようだ。
 次第に二人がどこかを向いたかと思えば、宿舎近くに冒険者が群れていて。

『誰かピアシングスロウいりませんか? 投擲40のアーツです。お値段はそちらの希望でどうでしょう?』
『ブレイカーっていう斧20のやつ拾いましたけど誰か欲しい人いますかー? 鈍器20のアーツと交換でもいいですよー』
『盾50のテストゥドマーチってアーツ拾ったんだけど誰かいらない? 相場分からないから10000ぐらいで売るけど』
『ウォーター・スパイクってスペル拾ったぜ! 誰か電撃魔法と交換してくれないか!?』
『レフレク、光魔法を探してます! フォトン・アロー以外買い取りますよ!』
『受け流し40のウェポンリフレクト誰か持ってませんか? 高値で買い取りたいです。それか鎧着こなしスキルのアーツと交換で』

 手にしたアーツ入りの透明な板と、スペルが籠ったひし形の宝石で取引イベント開催中である。
 人間もヒロインもごちゃ混ぜで忙しくも楽しげだ。

『皆のものよく聞け、儲け話が届いたぞ。クラングルや他の都市から職人たちがお主らの拾った素材を買い取りたいそうじゃ、白き民の落とし物、魔獣の素材、薬草や鉱石といろいろ欲しがっとるみたいでの』
『売りたいもんがあったらステーションいって運んでもらえ、冒険者ギルドの買い取り窓口まで速達で届けてやる。金属系なら俺たちにそのまま売るなり、お前らのおあつらえ向きに加工してもらうってのも歓迎だぜ』

 また違うところでは、ドワーフの関心がお持ち帰りされた白き民の装備に向いていた。
 ここで触れ回る言葉にみんなが「どうしよう」と戦利品の処遇に悩んでる。
 それにしても一体誰が狩ったのやら、エーテルブルーインの抜け殻も混じってるぞ。

「おーおー、賑わっとるじゃないの。アサイラムのおかげでどいつもこいつも景気よさそうで、なんかわしらも楽しいもんじゃなあ」

 明るい営みから建築リストに向き合えばスパタ爺さんと重なった。
 職務を全うしたトラックを背に瓶を掲げて乾杯、冷たそうだ。

「スパタ爺さんも景気がよさそうだな、帰るなりアルコールか」
「いんや、酒じゃないぞ。こいつはビールじゃ」
「変だな……俺の人生じゃビールは酒だった気がするけど間違ってたか?」
「わはは、ドワーフからすりゃこんなんじゃ酔えんし実質ノンアルコールよ」
「肝臓の強さが物言ってやがる、流石ドワーフ」

 一方で俺は逞しい内臓の持ち主を画面越しに相変わらず拠点の整備だ。
 本を読み漁った頑張りがちゃんと実ってる、建築可能なものが増えてバリエーション豊かだ。
 例えば――金属や建材で作るコンクリートの強固さ、拠点の守りとなる障害物、発電機や電化製品、より良いベッドだとかだ。
 資源もまた増えた今、アサイラムの主はまた建築に頭を悩ませる必要がある。

「それよりお前さん、さっきから何しとんの? ずうっとそこらうろうろしつつ悩ましそうにしとるけど」
「ハウジングで悩ましくしてた。今度はできることが増えて逆に困ってる」

 気にかけてくれたスパタ爺さんにいいもの見せてやろう。
 増えた引き出しを手繰れば寝具の項目に到達、そこに前よりワンランク上のベッドやらが表示されてた。
 布と木材に加えてコンポーネントも消費していい寝心地になるらしい、試しに【ダブルベッド】を選んで。

*がらん*

 アスファルトの上に輪郭を重ねて建築。
 何もないところからイメージを厳守した二人用の寝具が爆誕した。落ち着いた色合いでふかふかしてる。

「選択肢が増えると困る気持ちはわしも分かるけどね? だからって何いきなり路上にダブルベッド召喚しとるんじゃ」
「ご覧の通り建築リストがすごいことになってるんだよ……ベッドどころかコンクリ建築とか発電機とか工作台とか水耕栽培設備とか増えまくりだ、これ全部作れるとかどうなっちまったんだ俺」
「うわあドワーフ的に全部欲しいぞそれ、くっそ羨ましいわ。なんかわしそろそろお前さんが万物の神に見えてきとる」
「その神様がこうして悩んでるのが分からないか?」

 呼び出した理由は重くなった腰を下ろすアテだ、二人でどすんと座った。
 中々の心地よさだ。野郎二人で座る構図はともかく、今宿舎にある物よりは数倍マシだろう。

「なあに、いきなりダブルベッド置いてくつろぎだすぐらいのユーモアがあるなら問題ないじゃろ」
「つまりこのダブルベッドで仲良く座ってるのが正解だって?」
「うむ、どうせお前さんやれることが一気に増えすぎて混乱しとるんじゃろ?」
「そうだな、というかリスト見てほんとにこれ全部作れるのかってマジで驚いてる。ぶっちゃけキモい」
「わし、むしろ気味悪がっとるだけまだマシじゃと思う」
「どういうことだ」
「お手元に指先一つで気軽に何でも作れちゃう力がありゃ、偉くなった気分に浸れて大体のやつは少しすりゃ浮かれてつけあがるのがオチじゃと思うぞ」
「まさに万物の神になった気分?」
「そそ、そんなすげえのあったら大体のやつはイキりたくなるもんじゃ。なのにお前さんと来たら見事にそのハウジングとやらに振り回されとるときた」
「ついでに言うとこういうのでイキれってボスから教わってないのもあるぞ」
「わはは、それでよしじゃ。そーゆー時はあれこれ手つけようとせず、今必要なことだけを堅実にこなせばよいだけよ。そこに謙虚さがありゃ誰も文句は言えんさ」
「つまり今見えてるものに惑わされるな、と」
「分かってるじゃないの、じゃあ大丈夫じゃな」

 まあ、この悩ましさもスパタ爺さんの人生分のアドバイスにはかなわなかったか。
 そうだ、ここにいるのは何も立派な都市を作るだとか大層な理由じゃない。 
 ただのフランメリアのためだ。ひいてはアバタールのやり残したことを継ぐため、世話になってる冒険者ギルドの利益のためだ。

「こういう時に人生経験豊富なドワーフがいると助かるよ、どうもありがとう」
「こういう時に素直に礼を口に出せるのがおると快いもんじゃよ、その気持ちを大切にな」
「そうする。後で寝床の改善でもやっとくか」
「それもよいが白き民の拠点が二つもあることにも気を使っとけよ、タケナカの報告も含めれば南と東に敵抱えとるからな」
「ワオ、二面に敵とか最高過ぎるな。防御どうしよう」
「東にも土嚢張っとくべきじゃな、西と北を制圧したのはでかいぞ」

 続く話の結果は「万が一」に備えて拠点の防御を固めようかという流れだ。

「……それで質問なんだが、なんで揃いも揃ってこんな場所でダブルベッド作ってくつろいでやがるんだ?」

 そこに話し相手がいなくなったタケナカ先輩が訝し気に近づいてきた。
 ダブルベッドを共にする人間とドワーフに距離を置きたがってるようだ。

「ちょっと書店で勉強したらレパートリーが増えたから試しに置いてみた。座り心地は悪くないしセクシーなやつもあるぞ」
「フランメリアの家具に比べりゃまだまだ及ばぬってところじゃが、今宿舎にあるベッドよか睡眠の質は向上するじゃろうなあ。タケナカの、お前さんもどう?」
「んなもん話し合いの場にするな!? それよりもだ、例の報告も絡めて色々話しておきたくてな」

 ここに坊主頭の先輩が混じるのはどうしても嫌だってさ、よって近くの街灯に背を預けたようだ。

「だとしたら主な話題は森の奥にあった得体のしれない廃墟だろうな、なんだよあれ」
「そのことについて良く知ってそうな人柄に是非とも意見を聞きたくてな、どうなんだ爺さん」

 じゃあ、その次の話題は? 例の東側の森についてだ。
 そう二人で「良く知ってそう」を見れば、あてはまる小柄さは頷いた。

「スクショ見たけどありゃ歯車仕掛けの都市のもんじゃろうなあ……そういや自動人形オートマタどもも、まだアバタールが存命だったころ開拓事業に忙しく参入しとったからのう」
「良く見聞きする歯車仕掛けのなんとやら、か。犯人の人物像は判明したみたいだぞ」
「じゃあなんだ、その自動人形とやらがあんな場所に街作ろうとしてたってか? どんなやつらなんだか是非聞いてみてえところだが」
「うむ、そもそもお前さんらは歯車仕掛けの都市のことは知っとるか?」
「ああ、パン屋のオーブンがまさにそんな感じだった」
「俺が分かってるのは、そいつらのシンボルと思しき歯車のマークが瓶からシャワーから魔導コンロまで刻まれてるってことだ。どんなとこなんだ?」

 歯車仕掛け、その言葉が絡むものは誰もが何度も目にしてきたはずだ。
 瓶のラベルから鍋の側面まで、いたる場所で自己主張する歯車の印である。

「フランメリアで暮らしとるとあの印が目につくじゃろ? あんな風にこの国の暮らしに必要なもんを工場で大量に作り続ける都市がずうっと北にあるんじゃ。その名は【カルーセス】といってな」

 でもたった今名がはっきりした、カルーセスというらしい。
 ドワーフの髭面はいかにそこのおかげで世が快適なのかを訴える口ぶりだ。
 実際そうだろうな、便利さにあやかる瞬間には大体あの印が目に付く。

「みんなの生活環境を快適にしてくれてるのはそのカルーセスってところか。きっといいところなんだろうな」
「カルーセスね、分かりやすくていい名前だ。普段目に付く製品はそこで作られてるみてえだな」
「街中で休むことなく歯車が動き続けるような忙しい場所じゃよ。住民もからくりでできた者たちなんじゃが、皆気さくでわしらドワーフも良い取引相手としてかれこれ長い縁でなあ」
「ドワーフと仲良しなら安心だな、今のところの印象は悪いやつらじゃなさそうって具合だ」
「都市がそうなら住んでるやつも歯車仕掛けってか、どんなとこなんだか。それで? あの東の森にどう関わってやがるんだ?」
「あいつらもここらの開拓にあやかって新たな営みの場を作ろうとしてたんじゃろうよ。もっとも、カルーセスの者どもってのはで迫害されてるところをアバタールが招いた連中よ。あいつへの恩で一生懸命に働いとったから、亡くなったと広まれば都市一つがしばらく停まったぐらいじゃぞ?」

 その上で、ドワーフの強い顔がちらりとこっちを見てきた。
 アバタールの名がここに絡むとなれば、どういう背景であの歯車だらけの街がほったらかしにされたか想像も働く。

「もしかして作りかけの町一つぶん投げる理由がそれ? 大げさすぎないか?」
「もしあの街が中途半端なままぶん投げられた理由に「恩人を失ったから」ってのがあるなら、そりゃ心中お察しするような不幸ごとだがな。となるとそいつらの都合のせいで、俺たち冒険者どころか国民の皆さま迷惑してるってことになるわけだが」
「廃墟の様子から察するに、あんな歯車だらけにしてよほどデカいの作ろうとしたんじゃろうなあ……じゃが、それだけの規模が白き民の住居になっとるとなれば大問題よ」
「ああそうだな、おかげで枕を向ける方向が三つから二つに減ってる。それで今から東の防御も固めないといけないんだぞ」
「そいつらの仕業なのは今やっと判明したが、じゃあ俺たちはどうすりゃいいかって話だ。ちょっと偵察にいっただけで何十って数が確認できたんだからな」
「今回の件は冒険者ギルドへの報告を通じてカルーセスに届いとるはずじゃ、これからごたごた話し合った末に向こうも介入しにくるさ。まあそれまで、引き続きここをわしらで維持しつつ周囲を制圧してくほかないじゃろう」
「それまで冒険者の皆様で努力しろってか? オーケー、ついでに「仕事増やしてくれてありがとう、マジでいい迷惑だ」って報告しとけ。アバタール名義でもいいぞ、最悪おっ立てた中指も添えちまえ」
「いい都市かと思ったがあんなもん放置して危険招いてるなら撤回させてもらうぞ。カルーセスのやつらめ、今までどんな顔して過ごしてやがったのやら」

 未来の俺の親愛なる友人のやらかしだってさ、ふざけやがって!
 おかげで大切なことをまた学べたぞ、何も考えずに手元のものを中途半端に投げ捨てると災いを招くってことだ。
 当時の連中はこの世らしいノリと勢いではしゃいでたそうだが、アバタールはそいつらの支柱だったらしいな――あるいはストッパー。

「わしらに充分な火薬と設備と砲がありゃ東も南も火力でぶっ飛ばしてやるんじゃがなあ……イチ、なんかそういうの作れんか? できれば105㎜砲とか対地ミサイルとか派手なやつ」
「さっきからリスト見てるけどな、そんなの俺のデータにはないぞ」
「こいつがそこら一帯ぶっ壊せる兵器作れたらそれはそれで問題だと思うがな、これ以上物騒になったらギルマスがストレスで寝込むぞ」
「冗談じゃよ。まあお前さんがそんなやべーこと出来ちまったらすげえ奴通り越してただの要注意人物じゃ、どうかそのままのバランスで健やかに過ごしとくれ」
「作れたらそこらの環境ごと綺麗にしてやってると思う。とりあえず明日はどうする?」
「その件なんだが、ヒロインの中にに行きたいってやつらがいるそうだ。あそこは無駄に広いからな、そこで金目のものを稼げるぞとかほざいてやがったぞ」
「フルーツ狩りじゃないんじゃぞ、何考えとんじゃそいつら。気持ちは分からんでもないがその辺はよく話し合っとけよ」

 けっきょく出てきた答えはこうだ――どうか守りを固めて明日も頑張ってください。
 こうしてる間にも、広場からは『東で狩ってみない?』とか可愛い声で恐ろしい話が飛び交うほどだ。
 良かったな白き民ども、お前たちのおかげでここは賑わってるぞ。もし今晩あたり襲いにきたらぶっ殺してやる。

「ふ~、さっぱりしました☆ アサイラムがあって良かったです、雨でびしょぬれになっちゃいましたけど、お風呂も温かいお部屋もありますから快適ですね~♪」

 野郎三人でダブルベッドを交流の場にしてると、元気な美少女ボイスが混じった。
 宿舎の方からだ、まだ青髪がしっとり温かく濡れたリスティアナだった。
 いつもの冒険者の装いじゃなく私服だ。白っぽいセーラーワンピースで胸元を強調させつつ、足取りも馴れ馴れしい。

「周りのひどさはともかく、こうしてアサイラム暮らしを楽しんでくれてるやつがいるのが幸いだな」
「ああ、なんつーかギャップの差がひでえな。思うに人間とヒロインの精神構造はだいぶ違うんじゃねえか?」
「わはは、リスティアナの嬢ちゃんめ人生楽しんどるなあ。まああれくらい図太い方が冒険者的にはよいのかもしれんぞ?」
「むむっ? どうしてこんなところにベッドが……さてはイチ君の仕業でしょうか? 私もお邪魔しちゃいますね~♪」

 機嫌のよさはこっちに牙を向いたようだ。あの野郎「えーい♡」とかいいながら隣に座ってきた。
 おかげで右にドワーフの爺さんの強面、左にお人形系美少女のキラっ☆とした笑顔と中々面白いことになってる。

「んもーこの子って急に距離縮めてくる……」
「わ~お☆ お尻に感じる弾みが全然違いますね、すごくふかふかです。ところで皆さんどうしたんですか? 何やらこんなところでお話してるみたいですけど……?」
「そう言われて気づいたんじゃが、なんでわしらこんな唐突なダブルベッドの周りで話しとったんじゃろうな……」
「おい、今更だが込み入った話があるならせめてベッドじゃなく椅子にしろ、ひでえ構図になってんぞお前たち」

 新しい寝床の柔らかさにご満足いただけたみたいだ、リスティアナはにっこりくつろいでる。

「そういえばお前ら、西側制圧してきたんだよな? あっちはどうだった?」
「はい、白き民がいっぱいいたのでみんなでやっつけちゃいました♪ ナイトとかマジシャンとか混じってて大変でしたけど、ヒロインいっぱいなら楽勝ですね☆」

 一応、西にある風車の町とやらの具合について聞いてみた。
 ただし返答は人間よりフットワークが軽い、ゆったりしつつ球体関節の指で広場を示しており。

「あれがその証拠か。全部持ち主不在と考えると、白き民どももヒロインのパワフルさにはかなわなかったか」
「……今日一番の活躍を見せたのは間違いなくお前たちだろうな、あんな場所に山積みにしやがって」
「本日のMVPは西側担当のやつらじゃな、ドワーフの目に宝の山が映っとるぞ」

 そこで寄せ集まった武具がざっくばらんな山を築いていたからである。
 向こうから気合で運んで来たであろう金属製品が、オーガの巨体も埋まりそうなほどに積もってる。

「ご覧の通りドロップ品もいっぱいですよー? アーツアーカイブもスペルピースも色々出てきたので、みんなで取り分をどうするか話し合ってました」
「そして帰ってくるなりメルタの話で盛り上がってますと。タケナカ先輩、この様子だと西は大丈夫そうだな」
「あれ見て「ヒロインを全員東に投入すりゃいけるんじゃないか」って思い始めてるぞ俺は。幸先明るくなった気分だ」
「嬢ちゃんがた、ほぼストーンのくせに先輩どもより大活躍じゃのう。お前さんらいればアサイラムも安泰じゃなこりゃ」
「これにて風車の街は制圧完了です、ここもちょっとは安全になったはずですよ。あっ、そういえば東にも白き民がいっぱいいるそうですけど、そちらはどうするんでしょうか……?」
「今その件で愚痴ってた。誰かの言ったヒロイン全ベットが視野に入るぐらいだ」
「冒険者を適当にぶち込んだところでどうにかなる規模じゃねえからな、どう攻めたもんかと三人で悩んでた」
「一応、今回の報告が届いて明日にはまた依頼を受けた連中がやってくるそうじゃぞ。そいつらの顔拝んでから考えてもよいんじゃないかの」
「聞いた話だと、森の中に大きな街の廃墟があるそうですねー……いろいろ大変そうですけど、もし私にお力になれることがあれば何なりと言ってくださいね?」
「じゃあやべえのがきたらお前に任せる、スペシャルスキルでどっかに吹っ飛ばせ」
「はいっ♪ その時はイチ君のために頑張っちゃいますね☆」

 陽気なリスティアナと周囲の盛り上がりを見るに、今は身の回りを整えるべきか。
 本格的にこっちから攻め込むにせよ、ここはまだ勝手の分からぬ土地だ。

「まあ、今日のところはここまでってとこか。あそこでみんな楽しそうにしてるのが何よりだ、明日はもっといい調子で挑めるように拠点を良くしておくよ」

 よって本日のお勤めは終了だ、頑張ったみんなのために安心できる寝床を保証してやろう。
 そう思いつつ、俺は操作画面から【セキュリティ】項目を開いた。

「お前の言う通り、ここに来て間もないのにどいつもこいつも景気よくなってやがるからな。このモチベーションがある限りは安泰だろうよ、だが無理はするなよ?」
「今後方のやつらが防御の足しにならんかといろいろこしらえとるからな、そいつが届くまで東側の整備しちまおうぜ」
「オーケー、資源も補充できたしサプライズでもしかけてやるか?」

 そろそろ重い腰を上げてバリケードでも作りに行くか、そう思っていると。

「うわっ、どしたんそれ? なんでこんなとこにダブルベッドあんの? なんかよくわからないけどあーしも混ぜろ~♡」

 広場の群がりからチアルが抜け出してきた。
 こいつも乾いた服と温かいシャワーでさっぱりした様子だ。
 興味深そうに目をまじまじとさせた挙句、ベッドにぼふっと埋まった――文字通り羽を広げてる。

『お゛~……けっこーふかふかじゃん、今晩これで寝たいんですけど~……』
「ふふふっ、良かったですねイチ君? チアルちゃんに好評ですよ~?」
「まーたなんか増えた……おい、ここは休憩スペースじゃないぞ。後で部屋のベッド取り換えてやるから寝るのやめなさい」
『えー……やだー、あーしふかふかだいすきー……」
「おいこの野郎眠ろうとしてるんじゃねえ! 俺のダブルベッドだぞ!?」

 女性要素が二つ増えてしまった。しかも図々しくうつ伏せにぐったりしてる。
 すると今度は向こうからロアベアも駆けつけてくる、によによ二倍でだ。

「なんすかなんすか、面白そうなんでうちもどうぞっす」
「お前も便乗しにくるんじゃないよ!」

 ぽふ、と取れたての生首を差し出してきた。何様だこいつ。
 腹立ったのでチアルのそばに置くとして、メインカメラを失ったメイドはリスティアナの隣でお行儀よく座り出した。

「……じー」

 今度は誰だ!? ニクだ! タケナカ先輩の後ろから座りたさそうに見てる。
 しょうがないので「おいでおいで」だ。愛犬はぽてぽてした足取りのあと、定位置に座ってくれた。
 広場の連中も極めて異物を見るような視線だ。やめろ見ないでくれ。

「ん、ここ大好き……♡」
「イチ君モテモテですね~♡ また可愛い子はべらせちゃってますよー?」
「あははっ、いっちの周りいっぱいじゃ~ん? こんなとこでハーレムつくんなし~♡」
「歳も種族もガン無視で仲良くなりまくりっすねえ、イチ様ぁ。ところでどうしたんすかこのベッド」
「タケナカ先輩助けて……」
「知るか、こんなとこにベッド置いたやつの責任だ。自分でどうにかしなさい」
「いつみても楽しそうじゃなお前さん……タケナカの、食堂にまだ冷えとるのがあるからちっと付き合え」

 ……しばらくみっちりしたダブルベッドの上に縫い留められた。

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