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剣と魔法の世界のストレンジャー

森での戦い(2)

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『Cu-Estas-Vere, Ke-Iu-Estis-tie?』
『ESTAS-VERA!』
『Ili-Eble-Venis……』

 あの独特な言葉遣いがここまでにじんでくる。
 それに伴う妙にまっすぐな白い背筋も段々と大きく見えてきた。
 十人だ。緑色に浮かぶ白が、弓やら槍やら剣やらを手にのしのし歩んでる。

(……タケナカ先輩、まさに想定外がきてないか? 多すぎるぞ)

 一方でこっちの周りはどうだ?
 この面々はそこらの植物にあやかってじっと這いつくばってた。
 もちろん俺たちはこんな時に備えて練習はしてた。
 もし敵が気づぬまま近づいてきたら二人か三人がかりで確実に仕留めろ、小さく丸まってチャンスを伺え。
 でも目の前には十だ。十数匹のうちのほとんどがわざわざ出向いてるんだぞ?

(巡回してるってのは予想の範疇だが、十人は多すぎじゃないかって気分だ。ほとんどこっちに来てることになるんだぞ?)
(それより俺は砦を手薄にしてまでこうしてやってくる理由が気になるんだが。あっちも何かあったのか? さーてどうする?)

 先輩二人はお出迎えの剣と槍を手元にいつでも駆け抜けられる状態だ。
 周囲の狩人たちの方は調子を合わせて仰向けに待ち構え始め。

(我々はそちらに合わせます、タケナカさん。各々狙いは掴みました)

 なんてやつらだ、もう矢を番えて放つ瞬間をじっと待ってる。
 三人の矢じりは言われずともそれぞれ狙いを定めてた――これが狩人ギルドか。
 敵は中々の歩幅でその見てくれをどんどん寄せてくる、猶予はあと数十歩もない。

(……聞けみんな、ぎりぎりまで引き寄せてから一斉に攻撃だ。矢を放った瞬間に最低二人であたれ、仕掛けるタイミングは「いけ」だ)

 このパーティのリーダーの指示はこうだ、ただ確実に仕留めろ。
 狩人たちの狙いにあわせて、他の奴らも草木に掠れつつ得物を抜いてる。
 俺もならって消音器を抜いて銃口にはめた、周りに見せつければタケナカ先輩が満足な頷きだ。

(サイトウ、無理せず手近な敵を狙え。イチ、お前はフォローを頼む。残りは数人一組で突っ込んで逃すな)
(分かりました。可能な限り射貫いて見せます)
(了解リーダー。みんな、やべえと思ったら俺に丸投げしろよ)

 どうであれこのヒロイン不在の連中ができる選択肢は一つだ。
 目と鼻の先まで迫らせて最善を尽くす。
 サイトウが狩人を真似して地面に背を預けて、俺も更にその真似だ。
 芋虫みたいにもぞもぞして森へ身体を打ち上げる。
 「はぁっ」と女性の息遣いが混じった。アオだ、すぐヤグチが手で口を宥めたが。

『Cu-Egoisma-Agado-Estas-Enordo?』
『Car-Venas-Plifortigoj……』
『Estos-bone、Car-Ci-Tie-Estas-Tiom-Da!』

 来た。武器を手にした白いやつらが後十歩ほど。

(……あ、あれが……し、白き民なのかよ……!?)
(大丈夫、大丈夫、大丈夫……怖くない怖くない怖くない……!)

 人間さながらの仕草が近づいて、ホンダとハナコの震えた声がとうとう漏れる。
 そのせいか? 向こうで一瞬ぴたりと足並みが止まる。
 たぶん誰もが焦った。弓持ちがこっちに指を向けて訝しんでいたからだ。

『Io-Estas-Stranga……?』

 距離感のせいであの低く張った声がよく伝わった。
 引き絞られたサイトウの弓がぷるぷる震えるのを見て、俺もとうとう45口径の照準を首上に合わせるも。

 ――ざっ。

 運がいいのか悪いのかは分からない、向こうの足音がまた進む。
 とうとうトリガに指をかける。ニクが事前に広げた伸縮槍を握りしめる。
 面白みのない大きな身体が森を踏みにじる、あと八歩、七歩、六歩、五歩……。
 その時だ、森の薄暗さを前にした白き民が『ア』と嫌な立ち止り方をして――

「……いけッ!」

 タケナカ先輩のそっと吐き出すような一言が覆いかぶさった。
 周りからびゅっ、と矢が解き放たれるのも同じくしてだ。
 三方向からの矢じりにそれぞれが射貫かれた、表現力のない顔や首元に矢羽の白が飾られるが。

『AAAAAAAAAAAAA……!』
『MA……Malamiko……!?』

 いいや、まだ生きてやがる。
 誰かがぶち抜いた一体がふらつき倒れる傍らで、生き残りが急所ともつかない矢でもがいて逃げ出す。

「……サイトウ!」

 こういう時のための俺たちだ。すかさず目星をつけた相手にトリガを捌き。

*Pht! Pht! Pht!*

 ねじ伏せられた45口径の音の先で次々なぞる。
 PERKの効果か滑るように手が動いた。
 殺しそこないの脳天を、剣持ちの胸元を、奥でこまねく槍使いの顔をぶち抜いた。
 かしゅかしゅっと小気味よい弓のリズムも混じる――サイトウの腕前だ。
 弾を喰らってもまだ死にきれない二体にも追って矢が立つ、フォローどうも。

「――う、おおおおおお……ッ!!」

 その時、まさにが突っ込んだ。
 屈んだシナダ先輩が飛び出て、ここぞとばかりに穂先を突き出す。
 半壊した敵の先頭が剣で防ぐも、間合いを生かした突進が腹をぶち抜く方が早い。

『O、OOOOOOOOOOOOOOooooooooooo!?』
『K――Kio-Diable!?』
『MALAMIKA-SURPRIZATAKO! Rebati! Rebati!』

 唐突な槍のサプライズに白き民はびっくりだ。
 背までぐっさり縫われた味方に引けた腰で構え、得物が一斉に持ち上がる。

「逃がすな、確実にやれ!」

 その瞬間にタケナカ先輩も駆けて続いた。
 串刺しのまま押し退けられる敵を抜けて、力強い足取りで潜り込む。

『Ma、Malamika-Atako……ッ!?』

 坊主頭の後ろ姿が振り下ろす一撃に白き民は思わず身を丸めた。
 まっすぐな太刀筋を咄嗟の刀身でぎぎっと受け止めきったらしい。
 が、滑るような足取りが剣を擦らせつつ横を抜ける。
 見事だ先輩、すれ違いざまの突くような斬撃が白い脇腹をかっさばき――

「い、今だッ! 行くぞ!」
「お、おおおおおおおおっ!」

 大急ぎでキリガヤとヤグチも一匹にとびかかる、相手は大剣持ちだ。
 振り回された一撃を二人して滑り込むように避ければ、キリガヤがそいつの胴にしがみついて押し倒す。

『AAAAAAAAAAAAAAA! Damnu-gin! DAAAAAMNU!?』

 白き民は当然暴れる、急に圧し掛かる熱血男をぐらぐら振り回すのだ。

「早くとどめを刺せ! キリガヤ、ヤグチ!」

 そんな仲間に『Foooooorigi!』と叫んで駆け寄る一人をまたタケナカ先輩が遮る、見事な突きで胸を射止めた。
 そこに続く槍使いを発見、自動拳銃でぱすぱすっと撃って食い止める。

「こ、のっ……! うあ、あああああああああ……!?』
「ぬううおおおおおおおおおおおおおお……!」

 それでもキリガヤは殴る。もはや格闘とはいえないただの乱打だ。
 なお暴れる身体にヤグチが剣で腹を叩く、混乱したアオも「ど、どいて!」と長柄の石突もどすどすぶち込むが。

『A――AA!? Re……Retirigi! Retrigi!』

 このどさくさに紛れて弓持ちが急に背中を見せた――逃げやがった。
 銃口で追うと人型に遮られた、剣を持ったしんがりだ。
 咄嗟に銃口を重ねるも、シナダ先輩とニクの槍が二段構えで串刺しにして。

「ご主人、弓使いが逃げてる……!」
「逃がすな! 早く仕留めろ!」

 二本槍が敵をぶん投げながら俺に仕事を促してきた、絶対に逃がすか。
 その合間に割り込もうとするやつを発見、打ち込んで転ばせる。
 戦線をぐるっと横に進めば、狩人たちが逃げる姿を矢で追いかける最中だ。
 サイトウも回り込もうとする残りに「逃がすか!」と必死に短弓を放つが。

「ひ、ひいいいいいいいいいいいいい……!?」
「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOoooo!」

 その様子に誰かがよろよろ退いてくる――ホンダのやつめ!
 いつの間にしでかしてたのやら、白き民がぶん回す剣を受け止めながら後退してきた。
 よりにもよって矢も何発も食らってまだ現世にしがみつく手負いだ。
 滅茶苦茶な暴れように抜けそうな腰でそろそろ返り討ちにあいそうだが。

「イチ先輩!」

 ガタガタ震えながらのハナコが駆け寄ってくる、オーケーだ後輩。
 逃げる『アーチャー』を追いながらぐちゃぐちゃな戦場を横切った。
 二本の槍がまた別の敵をあの世に留める。別の敵にとびかかったキリガヤが地面に叩きつけられる。ヤグチとアオが二人で滅多打ちにする――乱戦だ。

「フォロー任せたぞ」
「ああ、得意だ」

 更に一体袈裟斬りに仕留めたタケナカ先輩とすれ違う。
 今にも尻もちをつきそうなホンダをかばって手負いに向けて二連射――大きく怯んだ。
 そうしてそばで誰かが「いひぃ!?」と情けなく転んだところに。

「あっぁ【アイシクル・バレット】!?」

 ひどく裏返った疑問形の詠唱が届く、ハナコの魔法だ。
 横目に氷のつぶてが何かをばちっと打ち据えるのを感じた。
 視界の端で白き民が崩れた、後は一任して自動拳銃にカービン・キットを組んだ。

「く、くそっ! なんて素早い……!?」

 どこだ、いた、ミナミさんが弓を遠くに撃ちまくってる。
 木々をどんどん抜ける白色があった――慌てず抱え込むように得物を構え。

「狙撃なんてガラじゃないんだけどな。おやすみ」

 凹凸の上に捉えた、森をかき分ける背筋がぴったり乗った今だ。

*Pht!*

 撃った。じっと見守る先で誰かが派手に転ぶのが見えた。
 そいつの結末は分からないけど、狩人の「やった!」という言葉を信じよう。

「く、くそっ! くそっ! くそぉぉっ!」

 見ればあたり一面に武具が転がってた、白き民が死んだ証拠だ。
 しかしそんな中、キリガヤはまだ拳を振り下ろしてた。
 顔を血まみれにしながら、斧槍を手放さない相手と取っ組み合ってる。
 向こうもしぶとい。籠手の殴りで顔が歪みつつもまだくたばりそうにない。

「ううぅぅぅおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 拳銃で横槍を入れようと思った矢先、気合を込めた拳が更にもう一発。
 首元めがけて雑に振り下ろされたそれは命の大部分を潰したに違いない、やっと硬直して青く崩れていく。
 あいつの顔は悪い意味で真っ赤だ、馬乗りになった尻がぺたっと地面に落ちた。

「……負傷者はいるか! 全員生きてるな!」

 逃げ遅れを仕留めてきたタケナカ先輩も大慌てで戻ってきた。

「熱血極まって真っ赤になったやつが一名、全員五体満足だ」
「ん、みんな無事みたいだよ」
「やった……やったぜ! どうにか、俺たちでも倒せたな、タケナカ……!」
「キリガヤ、大丈夫ですか……? 頭から血が……」
「な、なんとか、やれた……やれたんだ……俺たちでも!」
「あははは……も、もうだめかも、私、し、心臓飛び出そうだよ……」
「かっ、帰りたい……!? 無理だ、俺じゃ無理だこんなの!?」
「ホンダ、落ち着いて! 私が倒してあげたからしっかりして!」
「いやあ……全員お見事です、我々狩人だけじゃ無理ですねこりゃ……」

 「こいつ以外はな」とキリガヤを教えれば、みんなもへたり込みつつ応じた。
 急な戦いだったけどこれで敵は片付いたわけだ、俺だって気が抜けていくが。

『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――!』

 ……次に待ち構えてたのは森の奥から響く、くぐもった叫びだ。
 誰もがもしやと振り向けば、そこはさっきの弓使いが逃げた先である。

「……ミナミさん、さっきアーチャーが逃げた方には何がある?」

 すぐに俺は得物を背中の突撃銃に切り替えた。
 分かるやつは「まさか」って感じで向こうを眺めてる。
 そのもっともたる狩人は嫌そうな顔がを一際強くしたままで。

「まさに砦の方ですね。そんなところに逃げ出したってことは……」
「あいつが助けを求める奴がまだそこにいるってことだろうな、どれだけいるか分からんが」

 タケナカ先輩も横に同じくだ、危惧してた想定外が見え始めてるようだ。
 どっちだ? 向こうは十人も失ってまだそれを上回る戦力があるのか。
 それとも当初の想定通りで、もはや敵は残り少ないのか――

「……タケナカ先輩、こいつはもう想定外だよな?」

 少なくとも判断はこうだ、もうストレンジャーとして遠慮することはない。
 砦とやらに予定外の敵がいるなら出番だ、もう『白慣れ』するだけの簡単な依頼じゃなくなる。

「イチ、お前はあいつらが砦にまだわんさかいると思うか?」
「わざわざ逃げた先から堂々と声が上がってる、十人も固まって強気の偵察に来る、それでいてさっきの遭遇は向こうにとっても想定外だ。お互い当初の予定からだいぶずれてるってことは――」
「最悪のケースだって言いたいわけか」
「そして最悪に対する切り札がここにいるぞ、良かったな」
「ああ本当に良かった――くそっ、最悪のケース踏んじまったぞ」

 いつどこで変わってしまったのか、この依頼は何かおかしい。
 だが、しかし、ここまで来てしまえば悪いものなんてよく続く。

『OOOOOOOOOOOOOOOOOO……!』
『Alllllpooorrtuuu-giiiiiin!』
『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!』

 まさにその悪い知らせが遠くから届いた。
 砦の方から異形の雄叫びをはっきり感じるはめになったからだ。
 力強さすら感じるそれはこの達成感をぶち壊すには十分だ、全員が『この次』に困った表情をしてる。

「そ、そんな馬鹿な!? 確かに今朝まではそんなにいなかったはずなのに……!?」
「ど、どうなってるんですかミナミ先輩!? どうして増えてるんですかアレ!?」
「おいおいおいおい……何がどーなってるんだ、敵が増えたっていうのか……?」

 そう、そばでミナミさんたち狩人どもすら狼狽えるほどの想定外だ。

「……砦の方から匂いがいっぱいする」

 更にわん娘の嗅覚もアテにすれば、これはもう避けられない事実だ。

「あ、あの、帰りませんか……? も、もう俺たちじゃどうにもできないんじゃ……」

 とうとうホンダがそういってしまえば、ここの共通の認識は「逃げろ」に変わるだろう。
 他のやつらだって諦めのムードに達してるが、先輩どもや俺は違う。

「どの道予定以上にいたらいたでこっちに来る。あんだけ元気なんだ、逃げたところでここぞとばかりに追って潰しにかかるぞあいつら」

 だったら現代火器をご馳走してやるつもりだ。ライフル・グレネードを取った。

「そいつの言葉を借りるならの話だが、うまく逃げきれたとしても誰に助けてもらうんだ? 頼れるヒロインたちもいないんだぞ?」

 タケナカ先輩は余計な荷物を下ろしてる、敵に向けてだが。

「ある意味予定通りかもな、俺たちだけでやるっていう点がな。ここで活躍して彼女に自慢話を持ち帰るってのもありじゃねーの?」

 シナダ先輩も槍の具合を確かめて駆け出すつもり満々だ。

「……申し訳ありません皆さま、これはもはや我々狩人ギルドのミスです。相手の動向を読み間違えた上、こうして全体を危機に晒してしまうとは……なんとお詫びしたらいいか……!?」
「まあ気に病むな、俺たちだって白き民のことは全然分からねえんだからな。お互い様ってことだ」
「あーあ、けっきょくこうなっちまうのか……無事に帰るために一仕事頼むぞイチ」

 ミナミさんも平謝りしにくるレベルだが、先輩どもはあれから俺を良く信頼してくれてると思う。
 オーケーだ、R19突撃銃のハンドルを引いて初弾を装填した。

「お前ら、さっきの叫びは聞いたな? わざわざ自分たちの居場所を伝えるってことはだ。向こうはこっちに気づいてて、しかも俺たちより優勢だって信じてるわけだ」

 見れば今日共にしたばかりの面々が「どうしよう」な顔で統一されてる。

「……イチ、まさかとは思うんだが」

 キリガヤも物理的に頭の血が降りたのか落ち着いたみたいだ。
 雑に巻かれた包帯がまるでハチマキのごときだが、俺は銃剣を着剣して。

「逆に突っ込んで速攻で終わらせる。俺たちこうして生きて十人相手に勝ったんだ、もう白き民慣れはしただろ?」

 奥で更に青ざめてるホンダはともかく全員にそう言い聞かせた。
 こんなざまだが白き民に勝てる実績を得たばかりだ、俺たちでもやれる。
 自分でもひどい言い訳だと思うが。

「……や、やってやります……! も、もう倒しましたから……!」

 意外中の意外だ、ハナコが前に出てきた。
 ぎゅっと握った杖はもう震えない、地味な顔に冒険者らしさがある。

「お、俺も……俺もだ! 俺だって勝てるんだ!」
「私も……! そうだもん、慣れたもんね! やれるんだ!」

 ヤグチとアオも乗った、散らばった敵の武具に勇気づけられてる。

「――生半可な気持ちで挑んだわけじゃないぞ、やってやる!」
「なんだかワクワクしてきましたよ。俺たち人間だってやる時はやるんですから」

 キリガヤにサイトウもだ――次第にホンダが「やります」とあきらめ気味に言ってくれたところで。

「確かに嘘はついてねえな、どいつもこいつも白き民で卒業した連中だ」
「物も言いようか。上等だ、いい土産話を作ろうぜお前ら」
「流石はイチさんだ、噂通りで何よりです……分かりました、私だってできるやつだって示したいですしね。目に見える形でお詫びさせていただきます」

 先輩たちも狩人の皆さんも同意してくれた。そうとなれば――

「……じゃ、行くかお前ら! これより白き民狩りだ、臨時収入が待ってるぞ!」
「ん、本気モード」

 俺が一番乗りだ! 突撃銃をその手に走り出す。
 後ろから「ひでえ第一声だな!」とリーダーの声を受ければ、前にはあいつらの叫び声だ。

『Ki――Kion-Vi-Celas!?』
『Malamika-Atako! Iru! Iru!』
『Vi-sercas!? Preeeeeeeeta!』

 なんとまあ、あの声が混乱してることか。
 お前らの言語も息遣いも分からないが、こうして共通できるところはあったみたいだな。
 それはびびるってことだ、お前らは弱みを見せたんだぞ?

「……ははっ! まったく、お前と一緒にいると馬鹿で気持ちがいいな!」
「ウェイストランドってとこじゃいつもこうだったのか!? いつも思うがお前はひでえ新入りだ!」

 そんな弱みに向けてタケナカ先輩とシナダ先輩が追いついてきた。
 横並びになった二人に思わず笑った、俺たちは吹っ切れてる。

「――や、やばい! 矢が! 矢!」

 そこへ横槍だ。ミナミさんの悲鳴で何かがうっすら飛んでくるのを知った。
 言葉通りのものがそばの木を叩く。続けざまに何本も足元頭上を掠めていき。

「とにかく動けお前ら! 守りながら進め!」
「俺たちを盾に進め! 止まるんじゃねえぞッ!」
「走れ走れ! 止まったら当たるぞ!」

 人を狙った矢じりが滅茶苦茶にあたりを襲う。
 しかしさすが先輩どもだと思う、剣で槍で払って軌道を明後日へ変える。
 ニクも前に出て落ちてくるそれを叩き落とす――グッドボーイ。

「いっ――! ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ……!」
「私たち人間、なめんなよぉぉぉぉぉぉッ!」

 ヤグチとアオも止まらない、矢で射貫かれた彼氏と仲良く追いすがる。
 矢を避け弾いた俺たちに砦の姿が近く見えてきた。
 誰かの言葉通りだ、ボロボロ加減が森の中にそびえたってる。
 俺たちの獲物はその根元だ。大きな瓦礫やらを盾に、白塗りの身体が弓使いらしい仕草でお出迎えときた。

「……は、ははっ! 刺激的だな、たまらないぞッ!」

 キリガヤも全力疾走の形でついてくる。赤く染まった包帯をぶん投げてだ。
 まだやる気か、大した奴め。そんなお前にご褒美だ。

「キリガヤ、手ぶらはなしだ。こいつを使え!」

 走りつつ、その横顔に腰からあるものをパスした。
 ずいぶん前にドワーフの爺さんの一手間が加わった予備の銃剣だ。
 向こうはナックルダスターつきのそれを確かに撮ると少し驚きつつ。

「……分かった、借りるぞ!」
「いや、くれてやるよ。その代わり絶対死ぬな、お前がいないとちょっと寂しい!」
「ああ! 俺も死んだら寂しいからな!」
「その意気だ!」

 ぎこちなく握って顔がほころんだ。そいつを引き換えに絶対に死なない約束だ。
 ぎしっと嫌な音を立ててヘルメットが何かを弾く――間もなくのところで矢を番える奴らが見えた!

「う、うわあああああああああああああああああ……!?」
「ほんとイチ先輩って……イカれてますね!? 最高です悪い意味で!」

 地味顔コンビも半狂乱でついてきた。オーケー、今がその時だ!
 崩れた砦に陣取る一団がそこではっきり浮かんでた。
 何名かの弓使いをはべらせた立派な鎧の姿、指揮官持ちだ。
 しかもソルジャー相当の得物持ちが何人もいるときた、群れてやがったか。
 俺は「キャプテンかよ!」と毒づく坊主頭をかき分けて。

「今だ、左右に散開して突っ込め!」

 そこでストップ、しゃがんだ、頭上すれすれを矢が掠める。
 そのままライフル・グレネードを突撃銃に突っ込むと同時に。

「――援護するよ、どいて」

*papapapapapapapapapapapapapm!*

 ダウナーな声とわん娘の手が九ミリ弾のフルオートをご馳走した。
 薙ぎ払うような弾幕に敵が緩む。その間に全員が左右に分かれたのを横目に。

「ご挨拶だ、喰らえ!」

 銃床を地面に食い込ませて弾頭の安全装置を抜く、角度は水平だ。
 狙いは銃弾に狼狽えるそこだ。『キャプテン』の兜を目印に撃った。

*BAAAAAAAAAAAAAAM!*

 少しの間を置いて、瓦礫の向こうで多目的榴弾の白い爆発が立ち上がる。
 より固まっていた一団のど真ん中でそんなのが炸裂したらどうなる?
 答えは致命的だ、爆発と破片はお前らを逃さない。

「――はああッ!」
『Ki……Kio-Diable-Okazassssssssss……!?』

 そして俺たち冒険者もだ。白煙の向こうへタケナカ先輩が切り込む。
 あの人がアーチャーを一人叩き斬る様子が確かにあった、白き民の塊がさっそく崩れ始める。

「どおおおおおおおおおおおりゃあああああああああああッ!」

 えらくひどい叫びも混じった、全力で走り続けるキリガヤだった。
 矢にもお構いなしに飛び込むと、弓を番える姿にナックルガードを叩き込む。
 押しかけて来た二人に陣取る敵は大混乱だ。俺も銃剣を前に駆ける。

「OOOOOOOOOOOOOOOOOO! Iru! Iruuuuuuuu!」

 抜け出たソルジャーと鉢合わせる、振り上げた片手斧がすぐそこだ。

「二人に続けお前ら! 勢いならこっちのが上だ……!」

 相手の利き腕に合わせて逆に踏み込む。
 すぐ横をぶぉんと切り裂く感触に、短く持った突撃銃を突きつけた。
 硬いゴムを貫くような手触り――横腹を串刺しだ、手にした斧が止まり。

『OOOOOOAAAAAAAAAAAAA!?』

 それでも物足りないか、いまだ元気に斧刃がぶん回される。
 蹴り飛ばしつつ一歩後退、至近距離から見下ろす顔面を銃口で追って。

「お前らも頭が大事らしいな? じゃあ5.56㎜はどうだ?」

 トリガを絞った。

*PAPAPAPAPAPAPAKINK!*

 防弾性能に自信がないらしい、小銃弾を直に受けて頭が吹っ飛ぶ。
 倒れぬまま溶け始めたそいつを蹴とばした。そこに槍持ちの先輩が「せええい!」と突き殺した敵を踏みにじって混乱が広がる。
 もっと混乱させてやる、銃口を重ねてぱきぱき撃ちなぞる。

「うっ、うっ、うわあああああああああああああああああああああああ!?」
「ふぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 吹っ切れたホンダとヤグチもやかましく混ざってきた。
 崩れた防御に滅茶苦茶な剣さばきはだいぶ効果がありだ、一人を張り倒す。
 そこからはまさに滅多打ちだ。馬乗りで兜の上から剣でガンガン殴りまくる。

『Kio、Kio-Diable-Estas-Ci-Tiuj-uloj――』

 別の敵が棍棒を振り落とす……が、そこに盾の縁がぶち込まれた。
 ヤグチが殴るように盾を突き出したのだ。不意の一撃に怯んだ矢先、続けざまの剣先がトドメを刺した。

「当てれられるところを狙え! 弓を撃たせるな!」
「人間なめるな畜生おおおおおおおお!」
「俺たちだってやれるんだ! 撃て撃て!」

 回り込んだミナミさんたちからも援護射撃が飛んでくる。
 矢の雨のお返しに砦に集まる敵は大混乱だ、今のうちに弾倉を交換した。

「い、イチ君ちょっとお願いします……!」

 と、ここで呼び掛けだ。 
 振り向けばすたたっと軽やかなバックステップで尻を近づける女性が一人。

『MORTIGI! MOOOOOOOOORRTIGI!』
『Ne-Lasu-Gin-Eskapi! Iru! Iruuuuu!』

 その名もアオ、白き民のソルジャーを二人添えてだ!

「――ハナコ!」
「――はい!」

 ならチェンジだ、突撃銃を構えた先で二匹の獲物が俺に向かう。
 意味はともかく殺意は感じる言葉を乗せて剣先が、戦槌の尖りが近づくも。

「ご主人、僕もいるからね」
「いつもどうもグッドボーイ、いくぞ」

 ダウナーなジト顔が横に入った、ニクの槍が二つ同時に軌道を払う。
 がきっといい音で小さく怯んだ、すかさず剣持ちの白い顔をぐっさり刺して確実にキルだ。

「【アイシクル・バレット!】」

 そのタイミングで詠唱が聞こえた。もう一体をニクと蹴とばして離れる。
 大きく怯んだそいつに青輝きする氷の弾丸が捻じり込まれた、死んだ。
 振り返るとハナコがいい顔だった、地味なくせによくやる。

「ううううううおおおおおおおおおおりゃああああああああああ!」

 今度はなんだ――キリガヤだ!
 なんてやつだ、槍持ちをボコボコに殴りながら押し出してきた。
 籠手とナックルダスターの左右交互の乱れ撃ちに、流石の白き民も身体を震わせながら場を弾かれてた。

「これで、トドメだぁぁぁぁぁぁッ!」
「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOooooooo……!?」

 熱い叫びもろとも最後の一撃、いいパンチを顔面にお見舞いしてKOだ。

「いい一撃だ、自慢話ができたな」
「なに、まだまだだ」

 背中から倒れて溶けていく様子はまさしく撃破した証拠だ、ハイタッチした。
 さあ残りはどいつだ。気づけば大体の奴は得物をその手により集まってた。
 周りを見渡してもぶち殺す相手が見当たらない。
 どこを見ようがいつのまにか空っぽの武具が転がっており。

「……はあああああああああああああああッ!」

 そのど真ん中だ、一人の男がまっすぐな太刀筋を叩きこんでいたのは。
 俺たちの良く知る坊主頭が剣筋を打ち込むワンシーンがそこにあり。

『AAAAAAAAAAAAAAAAA!? HE――HELPO……!?』

 鉄すらぶち抜くあのアーツが体幹を崩した相手をぶったぎる。
 犯人はタケナカという男、被害者は『キャプテン』に相当する立派な防具をつけたやつだ。
 死因は鎧ごと胴体をざっくり、少しのよろめきを迎えて青く風化していった。

「はっ……は、はは……マジか、マジかよ俺たちは……!」

 ぶち壊された身なりだけがからんと音を立てると、タケナカ先輩はやっと気が確かになったんだろう。
 汗だくの顔が変に笑ってた。剣も落としてやりきったように腰が抜けてる。

「…………や、やったのか?」

 状況によっては罪深くなるシナダ先輩の一言に俺たちは周りを見渡した。
 静かだ。どこを見渡しても森の深みと静けさだけで、十人ほどの冒険者らしい装いが戦いの名残に囲まれてる。
 人はそれを敵の全滅というかもしれない、それか――

「……お、俺たち、勝った……?」
「ほ、ホンダ……!? き、傷が……大丈夫!?」

 人間側の勝利というべきか、たった今地味顔コンビが膝から崩れたように。
 初々しいストーン相当の顔はざっくりと刻まれた傷で血まみれだけど、痛みを忘れていい顔だ。

「あ、あはははは……や、やってしまいました、ね……なんて日なんだ、今日は……」

 最後を締めくくったのはミナミさんの一声だった。
 まさに『矢尽きる』を体現した狩人たちも、信じられないのか変な笑いが出てる。
 おかげで緊張が解けてしまった。俺もニクも、先輩も後輩も、みんな等しく腰が落ちていく。

「……な? だからいったろ?」

 誰かにそう尋ねて、ひび割れた石床の上に転がる兜を蹴っ飛ばした。
 持ち主を失ったそれは力なく空を見上げる先輩に届いたようだ。

「……お前のせいでこんなもん叩き斬る目になるとは思わなかったぞ。このイカれ野郎」
「キャプテンの鎧だな、無傷だったらけっこういい値で売れたんじゃないか?」
「これくらいだったら一万ほどで売れたかもな。はっ、もったいねえこった」
「買い手がいなかったら集会所に飾ったら? ちょうど飾りが足りないとか言ってたやつがいただろ?」
「馬鹿野郎、こんなもん飾ってどうすんだ趣味悪い――まったく、こんなおっさんに何やらせてんだかお前は」

 返ってきたのはいかつい笑顔だった。
 そばでズタズタに転がる鎧はもし無傷なら結構な価値があったはずだ。
 でも今の俺たちにそんなことは関係ない。
 たとえそれが一万メルタの価値があったとしてもどうでもいい。
 この面々だけが知る勝利の証だ――誰かさんが槍でぶち抜いた戦車みたいなもんさ。

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感想 456

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