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広い世界の短い旅路

無人兵器が壁の中に!!(01/08修正)

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「これはデュオ少佐殿、ヴァルハラは一足先にハロウィンを満喫しておられるようで」

 様々な顔ぶれが外骨格を囲んで調べると、中尉はデュオへ絡みに行った。
 しかし「少佐」あたりがどうも気に入らないらしい、嫌そうな笑顔だ。

「その呼び方は止めてくれよ中尉、今は社長だろ? ストレンジャーが世話になったな」
「ああ、彼らが来てくれたおかげで良い刺激になったようだ。そちらのお望みどおりエグゾ体験もさせてやったぞ」
「ほお! で、どうだった? 転んだか?」

 二人はこっちを見て少し盛り上がってた。
 なるほど、「興味があるなら」とスティングで言われた気がしたけども、エグゾ体験の件はボスたちが取り計らってくれたのか。

「何度か転んで傷物にして整備班に嫌な顔されたけど、その日のうちにダネル少尉と一緒に的当てするぐらいには楽しめたよ」
『イチくん、最初はずっと転んでたけどすぐに慣れちゃったよね……』
「ああ、タロン上等兵の言う通り「乗る」じゃなくて「着る」って分かってきてからコツ掴めた気がする」
「へえ、たった一日でものにしたってか? 大した奴だぜやっぱり」

 「どんな感じか」をお望みどおりに手ぶり身振りで表現してやった。
 理解したデュオは嬉しそうだ。そこにフォボス中尉も「そうだぞ」と割り込んできた。

「本人がこういうように素晴らしいものだったぞ、デュオ少佐。イチ上等兵の戦闘センスは北部部隊でも通用するほどだ、365日貸してくれればアリゾナの情勢が変わるだろう」
「だが所有権は俺たちプレッパーズのもの、そしてあいつは向こうの世界へ行く身だ、諦めろよ?」
「訳ありじゃなければ何が何でも引き抜こうとしていたところだ。さてデュオ少佐、少し込み入った事情になってるようだな?」
「ああ、あんたらも今朝の暴走事件をもうかぎつけた感じか? 敏いねえ」

 そんな二人と『無人エグゾ』の調査現場にたどり着くとはあった。
 装甲を剥がされ、むき出しになった配線を整えられ、引きずり出された基盤やらが死体解剖のごとき有様で。

「どうだい? 君の目線から見て何かおかしい点はあったかな?」

 しばらくしないうちに、解体現場をじっと伺っていたヌイスが尋ねてた。
 そのそばで接続したラップトップを覗いていたラザロはというと。

「……はぁ!?」

 第一声がそれだ。裏返った悲鳴同然の声だった。
 当然周りは釘付けだ。エミリオやボレアスだって慌てて駆けつけてきて。

「ど、どうしたんだい君? 今の声はすごく良からぬ知らせがあったように感じるんだけど……」
「今度は一体なんだ。人類滅亡プログラムでも組み込んであったのか?」
「……いや、そんな、いや……ありえない、ありえないぞ」

 心配するスカベンジャーも無視して、慌ててもう一体の方に移ってしまった。
 ピアノで圧死した方のエグゾだ、機材とつなげると神妙な顔つきで調べた。
 「なんなんだ」とランナーズとスタルカーの二人が見合わせるも、あいつはどんどん顔色を悪くする一方で。

「おい、小男。どうしたんじゃ? なんかすっごい顔色悪いぞおぬし」
「というか何しとんじゃこいつ。まさかゴーレムの回路いじるアレか?」
「そんな感じじゃね? こっちのゴーレムもフランメリアとすること変わんねーのな」

 興味津々だったドワーフの爺さんどもすら伺いにくるが、もはや眼中にない。
 フォート・モハヴィの一件を共にした身には不吉な様子だったのは言うまでもない。
 あの時、窮地を脱したきっかけを作ったやつがここまで取り乱す理由は一体。

「ラザロ、悪い知らせか?」
『あの……どうかしたんですか? 顔色、すごく悪いですよ?』

 さすがにおかしい。ミコと一緒に覗きに行くも、あいつは少し震えて。

「……ストレンジャー、質問がある」

 恐る恐るといった様子で振り返ってきた。
 貧血になりそうな顔色からしてまずいものを掴んでしまったに違いない。

「なんでも答えてやるよ。どうした?」
「ま、まず……こ、こいつはどこのどいつが使ってた?」
「えーと……ヴァンガード・ゼロっていう連中だったか。傭兵の空き巣に手を貸してたやつらだ、ラーベ社絡みなのは間違いない」
「そ、そうか……じゃあ……この機体は他にいたか? ここにある二機以外だ」

 ラザロが続けざまに問いかけてきたが、あいにくこれ以上機械の知人はいない。
 アグレッシブな引っ越しに参加した面々に「みたか?」と身振りで聞くも、この場の二機がせいぜいらしく。

「ラザロ、何かがあったのかはよくわかりました。まず落ち着いて説明してください、一体どうしたんですか?」

 そこへニシズミ社からよこされたエヴァックが諭すように近づいた。
 ラザロの顔がいろいろな言葉を口走りかけてもごもごしまくったが。

「……エヴァックさん、聞いてください。これはフォート・モハヴィの暴走した無人兵器のAIをそのまま使ってるんです」

 二つの横たわる外骨格を背にはっきりとそう答えた。
 さっきヌイスが触れた部分だ。その白衣姿は「やはり」という目つきだが。

「それもそのまま複製したやつですよ、中にあるウィルスごとね。そこにラーベ社の管理用のプログラムも組み込まれてるんですが、既に書き換えられてて攻撃目標が人間に再設定されてます」

 続いた言葉のなんとまあとんでもない事実か。
 あのウィルス感染済みの無人兵器がそのままここに詰まってるってことだぞ?
 ラザロの口はどうにか保ってた平静もぶち破れて、早口加減が強くなっていき。

「……これは間違いなくラーベ社のものです。作り方は素人でもできそうなやり方ですよ、どこで手に入れたか知りませんがデザートハウンドのAIからウィルスを除去する、そこに少し手間をかける、最後にお粗末な管理用タグをつけ足して複製すれば簡単に無人兵器用のプログラムが手に入るんですからね」

 そういって、絶望的な顔つきで動かぬ外骨格を横目で見ていた。
 つまりこいつは実質『デザートハウンド』だ、あの狂ったAIを努力して書き換えたようだが無意味だったらしい。

「でも、でもですよ? 無人兵器のAIっていうのはしぶといんです。例えばあいつらがデザートハウンドの残骸をどうにか手にしたとして、それに少しでも電力が残ってれば生きてるんですよ。だから除去したとしても、周りに一体でもまだ稼働してる個体があれば――」
「ラザロ、もういいですよ。実にわかりました」

 聞き取れなくなるほど早まっていくが、エヴァックが「もう結構」と手で制す。
 事の重大さはもう十分に広まってた。説明を求めたスーツ姿が頭を抑えるほどには。

「……これはラーベ社が作ったものなのは間違いない、それはいいとしましょう。ですがウィルスに汚染済みで、まだ他にもいるとなれば実に大問題です」

 そういうように、壁の中に狂った無人兵器がいることになるのだから。
 既に二体いたという事実はこうして目の前に転がってる。

「おいおい……何考えてやがんだあいつら、汚染済みのAIを複製して売り物にしようって考えてたのか? ないわー……」

 最前列で良く耳にしていたデュオなんて死にそうなほど呆れてた。
 俺だって「ないわー」だぞ。あの人殺し無人兵器が一緒にコピーされてエグゾに組み込まれてた、なんて最悪の知らせにもほどがある。

「じょ、冗談だろう……!? 無人兵器を作ってたってそういうことかよ!? あの廃墟の殺人マシンをブルヘッドに持ち帰ったってことじゃないか!」
「どうにか生きてフォート・モハヴィから帰ってきたってのによ、今度はホームグラウンドで無人兵器だって? 今世紀最悪のニュースが来ちまったぞ……」

 エミリオもボレアスも震えあがってしまってる。
 無人兵器のヤバさを知ってる仲だからこそ分かり合えることだ。
 あのお構いなし見境なしの機械がこんな都市に現れたらどうなると思う?
 段々と事の重大さは広まっていった。やがてフランメリア人にも伝わるだろうが。

『で、でも……どうしてラーベ社はそんなものを作ろうとしてたのかな……?』

 しばらく無言が続くとミコがいきなりそう言った。
 確かにデカい企業が「実質暴走無人兵器」を丸ごと粗製乱造する理由が分からない。

「そ、それは……近頃のラーベ社の業績に起因してると思う」

 みんなで「どうして」の部分を考え始めた頃だった。
 突然関係のない声が後ろから聞こえてきた。誰のものかと思って振り返ると。

「ローレル! お前どのツラ下げてここに来やがった!?」

 ボレアスが速攻で突っかかるやつがそこにいた。裏切者のローレルだ。
 相当ボコられてまだ顔に傷が残ってるが、どうもこうして生かされてたらしい。

「おい、なんでこいついるんだ? 脱走か?」

 次は何を裏切るのかと身構えてしまったが、すぐエミリオが割り込んできた。

「ま、待ってくれよ。ローレルはもう大丈夫だ、デュオ社長が解放してくれたんだよ」
「ローレル、何か知ってるの? 続きを話してちょうだい」

 ヴィラもだ。スカベンジャーからのひんしゅくはともかく、あいつは「わかった」とおどおどしつつ。

「あ、あのさ、俺はこういうの詳しくないんだけど……最近ウェイストランドの情勢が大きく変わりすぎて、ラーベ社は従来のやり方じゃ儲けられなくなってたんだ。外の経済状態が良くなったり、勢力が一つ潰れたりで、その影響は間違いなくこの街にも来てた」

 ラーベ社の実情を落ち着いて話してくれた。
 確かに誰かさんのせいで世の中は変わったが、その変化はあそこの業績にも影響を与えてしまったんだろうか?

「で、商売仇のニシズミ社に嫌がらせをしつつ、新しい商売を模索するべく事業開拓してやがったんだよな? ホワイト・ウィークスとか言うパクり野郎を雇ってな」

 するとデュオが食いつく、ローレルは小さく頷いて。

「でも情勢の変化でニシズミ社とバロール・カンパニーは逆に利益を出してた、人工食品なりスカベンジャー用のグッズなり得意な分野があったから。損をしてたのは浅く広くで特に押し出せるもののないラーベ社だけだったんだ、だから自分たちも新たなシェアを獲得しようとしてた……と思うんだ」

 この場にいる全員にそう主張してた。
 そんな困るに困った結果がまさか無人兵器ビジネスなのか、と思ったが。

「なるほど「誰にも手がつけられない事業」が無人兵器か。だがそもそも、やつらが赤字だった理由は単純だぞ、君」

 フォボス中尉が何気なくローレルと距離感を狭めてきた。
 後ろめたい人柄の最中だけあって、シド・レンジャーズのコート姿に怯えてたが。

「最近調査して分かったことなんだが、あの企業はライヒランドとつながりがあってな。この都市で製造した物資を極秘裏に運ぶぐらいの親密さはあったのだが、それがこうして全て無駄になったのだからな?」

 にやぁといい笑顔をされた。まさかのライヒランド絡みだったのかあの企業め。
 マジかよと思わずデュオを見てしまった。あいつも「マジかよ」だった。

「……ラーベ社が俺を恨んでらっしゃる理由もう一個追加か」
『……ええ』
「イチ、お前は投資先を潰したってことだな。いやまさかあんな企業がライヒランド絡みだったなんてな、ボスが聞いたらショック死しそうだぜ」
「そりゃ恨まれるわ、気の毒に」
『他人事すぎるよいちクン……』

 なるほどお友達をぶち殺したわけだ、ラーベ社の報復の理由がまた一つ分かった。
 くそっ、大企業があの人食いクソ集団と懇意だったって?
 ブルヘッドの中身はどうしてこうろくでもない事実ばっかなんだ?
 いや、それなら納得だ。自分の身内まで徹底的に手をかける理由になる。

「は? じゃあスティングで勝利した時点で私たち恨まれてたわけ?」
「そのようですなあ……よほどの大損害を被ったように見えますね」
「あれだけ気合の入った報復を敢行する理由がこれですか。ほんと人間は愚か」

 長耳を立てていたエルフたちも納得してた。
 いや「はいそうですか」と受け入れる話じゃないと思うが。

「だが……ローレル君だったかな? 君の言う通り、商売先が一つ潰れた挙句に他の企業に追い越されたラーベ社は困ってたに違いないだろうな? 他の企業が手を付けられないことといえばやはり「無人兵器」だ」

 フォボス中尉はビビる裏切者の男へと(楽しそうに)にっこり語った。
 しかしふと気になったことが浮かぶ。ちょっと質問してみるか。

「なあ質問。無人兵器ってここらの技術があれば簡単に作れる気がするんだけど……今までそういうのに手を付けた企業とかなかったのか? なんかラーベ社が初めて試みたように聞こえるぞ」

 それは無人兵器のことだ。
 この壁の内側だったら全自動人殺しマシンなんて簡単に作れるはずじゃ?
 なのにわざわざ暴走した人工知能をコピーして自社の物にする理由はなんなんだ?
 どんな事情があるんだ、と周りに伺った矢先に。

「実にその通りです。ですがストレンジャー様、これにはブルヘッドの掟というものが関わっておりまして」

 ニシズミ社の男がさぞ複雑な事情がありそうに語りかけてきた。
 「簡潔にどうぞ」と手で招くと、相手は少し考えてから口を開いた。

「確かに作れるでしょう。ですがそもそもブルヘッドは無人兵器を作ることに拒絶反応が出てしまうような場所です。外の様子やテュマーのもたらす悲惨な歴史を知っているのであれば、壁の中に無人兵器を作るなんて嫌だと思いません?」
「ああそうか。市民一同仲良く『無人兵器マジ怖い』ってか」
「実に。そんなものと隣り合わせになって気持ちのいい方々はおられないでしょう、我々だって興味はあれど壁の外のような惨劇を目の当たりにはしたくないですからね――なのです」
「だからこそ?」
「ブルヘッドは確かに企業ありきの世界ですが、だからといって無秩序を望んでいるわけではありません。市と企業が話し合った結果、我々は長らく「無人兵器用のAIを禁ずる」と定めているのですよ」

 伝えられたのは「無人兵器作んな」だ――いや待て、じゃあなんでこいつが?
 俺は思わず足元に転がる無人の外骨格を見た。

「……なるほどいいルールだと思う、でも破ってね?」

 続いてみんなも見て来た。どう見てもレギュレーション違反の証拠がある。

「それがどうもそこに付け入る隙があったようですね。確かに我々は総意のもとで「無人兵器に利用できる、またはその可能性がありえるプログラムの開発、製造を禁ずる」と決めましたが、「既存の無人兵器のAIを調整して複製したものを搭載してはいけない」とまでは至ってなかったのですよ」

 だが、しかし、エヴァックは困ったように半笑いだ。
 何笑ってんだよ。法律のグレーゾーン攻めてきてるぞあのクソ企業。

「おい、じゃあブルヘッドの法の隙間をすり抜けて来たのかよあいつら」
「実にそうなっちゃいますね。いやまさか、あの恐ろしいフォート・モハヴィから無人兵器のAIを持ち帰り、シド・レンジャーズの皆様の目をかいくぐり、その上でこの都市まで持ち帰ってそこまでするとは思わないでしょう? 世の中の乱れに乗じた火事場泥棒さながらといいますか、本当にやっちゃいますかねえははは」
「笑ってる場合じゃねえだろマジでやりやがったんだぞふざけやがってあいつら」

 さすがにどついた。「おうふっ」と正気を取り戻してくれたみたいだ。

「えーと、つまりですね、私が思うに前々から『新商品』ということで「合法無人兵器」を開発してたと思います。ところがラザロの言う通り、おそらくまだ稼働していたAIがウィルスに再感染させたんでしょうね。その結果どうなるかと言いますと、現時点でラーベ社が作った分だけの無人兵器がそのままこの都市で暴走することになります」

 危機感の感じられぬまま続く言葉によれば「暴走無人兵器パレード」の予兆がある、だとさ。
 ブルヘッドの一日が最悪な雲行きに変わるのをみんなで仲良く感じてると。

「そのことなんだけど、あの……ちょっといいか?」

 ラザロが控えめに挟まってきた。
 その顔はかなり嫌なものを含んでいたのは言うまでもなく。

「こいつには番号が振られてたんだ。おそらく機体を管理するためのナンバーなんだと思う、でも……」
「こんな流れでこんなこと聞きたくないけど聞いてやるよ相棒、「でも」の続きは?」
「……この無人エグゾには『0403』と『0404』って割り当てられてた。だからその……俺の単純な見解だけど、最低でも無人兵器は400体ぐらいはいるんじゃないか?」

 『400体の無人兵器(質はとわず)』が既にこの街にいらっしゃるという仮定だ。
 はっはっは、そうかそうか、殺人機械が都市のど真ん中に現れたってか。

「……っっざっけんな!? 都市のど真ん中に無人兵器が400っていいたいのか!?」
『よ、四百……!? ここでそんなにいっぱい現れたら大変なんじゃ……!?』

 冗談じゃねえ。思わずラザロに食いかかった。

「あ、あくまでの話だよ! だいたい400体分の無人兵器の入れ物をどうやって用意したっていうんだ!? もしそれができたらかなり前から準備してたとしか……」

 その時だった――俺たちの頭上でどぉぉぉん、と低くて鈍い唸りが伝わる。
 ぐらぐらとした揺れはあまりにもタイミング的に重なりすぎていた。

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