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世紀末世界のストレンジャー

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 ウェイストランドの夜は思った以上に暗い。
 スティングはまだ人工的な灯火は少しだけあれど、それでも文明崩壊後の世界の闇を照らすには頼りない。
 あるのは夜空がもたらすほんのわずかな光だけだ。だからこそ良かった。

「おーおー、やってるねえ。確かに派手に騒げとは言ったんだがなあ」

 そんな暗闇の中、再び騒がしくなり始めた夜のスティングをトラックは走る。
 連続した銃声、重い破裂音、車両が駆け回る駆動音、喧しさが街を巡ってた。

「ツーショット、本当に大丈夫なのか? 俺たちが進んでるのは敵のすぐ目の前だぞ?」
『こっそりじゃなくて堂々と入っちゃってますよね……!?』
「心配いらないさ、俺たちはただ忘れ物を返しに来てるだけだからな」

 そんな様子に運転席でハンドルをさばいていた運転手はにこやかだった。
 不安になって外に顔を出してみると、トラックの六輪が街中にあるひらけた土地をぐんぐん進んでいるところだ。
 後ろにはライトを付けた同じ車両がしっかりとついてきている。
 幌の中に素敵なサプライズを込めた二両のトラックは、どういうわけか敵地の中に入って目的に直線してるところだ。

「こちらツーショット、間もなく事務所に続く道路へ差し掛かる。到着するまでライトは消すな、堂々と駆け足だ。オーバー」

 荒れ地に揺らされながら進む車はようやく道路に落ち着いたみたいだ。
 目的地も見えてきた。人工的な照明をこちらに向けた防御陣地が構えられてる。
 言ってみれば敵が目の前にいるわけだが、なぜか撃ってこない。

「さてご覧の通りだ。俺たちはこの戦火の中、命かながら乗り捨てられた忘れ物をお届けに来た親切な同志だ」
「今度はミリティアごっこか。次はライヒランドの兵士になりきれとか言わないよな」
「レイダーは信用されちゃいない、ライヒランドは偉すぎる、間にある傭兵どもが都合がいいのさ。その格好似合ってるぜ」
『また敵のふりなんですね……』
「全然嬉しくないお褒めの言葉ありがとう」
「どういたしまして、礼はビールでいいぜ。おっと思想まで染まるなよ?」

 俺は黒いジャンプスーツに重ねたボディアーマーに触れた。
 ここに黒いニット帽をかぶった黒尽くめは、いい感じにミリティアだと思う。
 まったくいい作戦だ。混乱に乗じて乗り捨てられた敵のトラックでお邪魔しに行くなんて。

「あのカルトどもの時みたいにうまくいくと思うか?」
「うまくいくようにゴリ押すだけさ」
「だよな、そのためのこいつだろうからな」

 簡素なホルスターに差し込んだ消音拳銃を確認した。
 ボルトを回して引くとかちりと九ミリ弾が装填された。これで殺せる。

「――混乱が続いてるうちに片をつけるぞ」

 ツーショットの声は硬く引き締まった。何時にもなく本気だ。
 トラックは荒野を抜けると、その先で構えられた敵の拠点に近づいていく。
 大きな土嚢袋を積んで形作られた陣地がお堅く道に立ちはだかっており、

「待て! 進むな、停車しろ!」

 黒と緑が混成した兵士たちがライトの光を向けてきた。
 銃眼からは五十口径がこっちを覗いているところだ、既に生きた心地がしない。
 ライヒランドの兵士が自動小銃に手をかけたままこっちに駆け寄ってきて。

「貴様らは――」
「すまねえ同志、敵の攻撃が想像以上にやべえんだ。どうにか逃げて来たんだが……」

 質問が始まる前に、ツーショットが適当なことを言い出した。
 兵士たちは俺たちに釘付けだ。今のうちに周りを探ろう。
 ここには確かにアイボリー色の建造物が広がっていて、目的地なのは分かる。
 二階部分に据えられた銃座や投光器がしっかりと周囲を見張っているせいで中々に強固だ。

「待て、お前らはどこの部隊だ?」

 ミリティアもどきのまま見張っていると、ご本人が問いかけてきた。
 ニット帽をかぶった傭兵姿は俺たちを訝しんでいるようだ。

「ここから南にある住宅街にいた部隊だよ、分かんねえのか?」
「南? まだ仲間たちが戦ってるはずだぞ? それをお前たちはどうして……」

 疑いを強くし始めたそいつに、その場所と思しき方から銃声やらが届くだろう。
 投光器がこっちに集まり、周りの連中も胡散臭そうにしてるものの――その隙に後ろのトラックから続々と誰かが降りていくのもミラーに映る。

「……ストレンジャーだ……!」

 そこに、ツーショットが良くできた震え声で言い放つ。
 すごい演技だ。ハンドルを握る手もぶるぶるしてるぐらいには。

「……なんだって?」
「ストレンジャーだよ、あいつがやって来たんだ……!」
「おい、まさかあの擲弾兵グレネーダーか」
「あいつが来たってのか? 嘘だろ?」
「マジだよ……! ミューティどもを連れて暴れてやがるんだよ! あいつ、俺たちの仲間をバラバラにして笑ってやがった……!」

 確か南側はシエラ部隊がマジモンスターと暴れてるところだが、そこにずいぶんとひどい嘘を付け足されたと思う。
 しかしフリー素材と化したストレンジャーは効果的だったみたいだ。

「同志たちの四肢をもいで道に飾ったのは奴の仕業だったのか……?」
「くそっ、そういうことかよ……! 南と北とで一斉に攻撃が始まった理由はこれか、畳みかけにきやがったのか……!?」
「南はあのシエラ部隊の連中がいると聞いたぞ、まさか北は囮か? 主力を南に集めて――」
「落ち着けお前ら! 擲弾兵がなんだってんだ! それよりもどうすんだこいつら!?」
「南にいる部隊との連絡はどうしたんだ!? さっきからずっと応答がないんだぞ!? ああくそまさか――」

 指揮系統が乱れてるのは本当らしい、話がまとまらず混乱している。

「俺たちは負傷者を連れてくるので精一杯だったんだよ! 頼む、入れてくれ!」
「くそっ、くそっ……いや、どうであれこれでようやく物資が運べるんだ、トラックが戻ってきたのはデカいぞ」
「人員も足りてないんだ、負傷者だろうがいいからこき使うしかねえ!」
「待てよ、それにしたってこいつら怪しいぞ!? 調べ――」

 そうやって問答を繰り返してると、ぶつっと投光器が停まった。
 ひどい暗闇が広がって、頭上に設けられた明かりも次々と消える。
 「ひっ!?」と誰かが怯える声が聞こえた。混じって、どさっと何かが倒れる音も重なる。

「なっ――なんだ!? 照明が消えたぞ!?」
「畜生、まさか発電機の故障か!? それか燃料切れたのか!?」
「誰か明かりをつけろ! 敵襲かもしれないぞ!」

 この感じからして頃合いみたいだ。
 俺は消音拳銃を握りながらライトを手に取って、

「大丈夫だ。ほら、明かりだ」

 トラックのそばでおどおどするライヒランド兵の顔を照らした。
 眩しそうにしていたが、青ざめた顔に安心感が戻ったのを見て……銃を向けた。

「……おい、なんだそれ」

*Patht!*

 トリガを引くとばつっ、と押し殺された銃声が響く。
 びくっと震える程度の反動の先で男の頭をぶち抜いた。ふらっと崩れる。

「今の音はなん゛っ」
「ぐげっ……!」

 周りからも似たり寄ったりの音が響いて、次々と死んでいくのが分かった。
 銃に手をかけ始めた傭兵にもツーショットが九ミリ弾をねじり込んだようだ。

「んご……っ!?」

 建物の屋上から人落ちてくる。かすかに見えた黒装束はアレクだろう。

「ひ、ひっ……一体、どうなってるんだよぉぉぉ……ッ!?」

 暗闇の中で誰かが背を向けて逃げるのも見えた。
 荒野に走り出した姿は目的を果たせなかったみたいだ、首が帰ってくる。

「これでお綺麗になったっすねえ。アヒヒー♡」

 首狩りを終えたロアベアが代わりにやってきた。制圧完了だ。

「へへへ、見たかよ爺さん。脳天にばしっ!だぜ」
「わしだって綺麗に撃ち抜いたぞい。お前もやるじゃないの」
「もう、私達は遊びに来たんじゃないのよ?」
「これくらいでいいんだよラシェル。気楽にやろーぜ」

 意気投合したヒドラとドワーフも戻ってきた、今回はラシェルも一緒だ。

「鮮やかだったね。それじゃあチーム分けだよ、内部に突入する人たちはオレクス君に従って動いて」
「こんな形で職場に戻れるなんてな。外回りの制圧は任せたぞ。全員腕章をつけろ」

 目に見える敵を排除すると、ハヴォックとオレクスが建物の方へ向かっていく。
 裏口があるようだ。頼りのない一枚の扉に、元自警団が鍵束を手に近づいて。

「ここから倉庫に入るぞ。お前らはそこの扉から事務所を制圧しろ」

 俺に鍵を投げ渡してきた。
 言われた通りに腕章もつけた。今から青に白を添えたこれで識別する。
 行く先は、登れないように有刺鉄線がこれでもかと設置された壁にある扉だ。

「外側は俺たちに任せな」
「行くぜエルフども、さっさと片づけんぞ」
「ほんと無防備ねえ、人間って」
「それでは挨拶代わりに矢を進呈しましょう、行きますよ」
「行ってくるぞ、みんな」

 牛熊コンビがエルフたちを屋上に持ち上げ飛ばしていった、それから二人は人間を連れて中庭に入っていく。

「いいか、お膳立ては十分だ。余計なことは考えんなよ、仕事に集中しろ」
「心配しないで思う存分やりゃいいのさ。さあ行くぞぉ」

 ツーショットとコルダイトがこっちに忍び寄ってきた。他にはハヴォック、ロアベア、吸血女にニクか。
 鍵を開けた。別動隊も倉庫への道を確保した、突入だ。

「――突入ゴー

 扉を開けて踏み込む。
 向こう側にあったのは駐車場だ。周囲は金網に覆われていて、暗闇の中で無数の誰かが戸惑ってるのを感じた。

「くそっ見えねえぞ!」
「わっ馬鹿こっちにライト向けんなはぁぁッ!?」
「な、ど、うわぁぁッ!?」

 そこから悲鳴が聞こえた。矢の風切り音もだ――エルフたちの仕事ぶりか。

「固まって動いて、射線を作りつつ前方カバー」

 ハヴォックが先に立った、消音拳銃を構えたままに。
 ツーショットが左に、コルダイトが右に、俺とロアベアで側面や後方に気を使いながら進んでいく。

「て、敵か……!?」
「妙だぞ! 何が起きてんだ!?」

 壁に沿って進んでいく矢先、向こうから数名の黒と緑がやって来る。
 人間じゃない、色だ、敵だ。ハヴォックが容赦なく立ち止まった先頭にばすっと打ち込む。
 黒がダウン。射線の先にいるびすっ、ばすっ、と二人分の射撃が入って緑たちが倒れる。

「はっ……はっ……! くそっ、何事だ――」

 横だ。駐車場の方から軍服姿が逃げてきた。
 咄嗟に撃った。握り潰された銃声のあと、喉をぶち抜かれてよろめく。
 ぱつっと横からフォローが入る。ロアベアだ、目に打ち込んで永遠に転ばせた。

「リロード忘れないで。再度前進」

 ……ハヴォックの様子がいつもと違う。
 エンフォーサーっていう名前は伊達じゃないようだ、雰囲気がまるで違うし、機械的に敵を処理してる。
 言葉通りにボルトを回転、引っ張って次弾を込めた。

「……おーい、なんだなんだ? なんか聞こえたぞー……?」

 入口のところまで近づくと、暗い扉の向こうから誰かが現れた。
 酒臭い緑色だ。酒瓶を持ったライヒランド兵士がよろよろ出てきたが。

「……ガゥゥゥッ……!」

 突然の姿にニクがとびかかった。
 ゆるみ切った首を噛み潰してくれた、もがきながら酒瓶ごとごろっと倒れる。

「おいおい勤務中に酒かよ、うらやましい」

 コルダイトが苦笑しながら弾を撃ち込む。排除した。
 目に見える脅威はゼロだ。そのまま事務所の中へと入り込もうとするが、

「――おい! なんだお前たち……!?」
「動くな……! くそっ、侵入者……!」

 背後から声だ。咄嗟に全員で得物を向ける。
 が、その必要はなかったらしい。確かに車の陰から出てきたミリティアたちがいたが、びすびすっと横から矢が刺さる。
 脳みそをほじくられ、心臓も射抜かれた奴らが苦痛と共に倒れており。

「一つ借りですよ、人間」

 上の方からそんな声がした。白エルフが弓を手にこっちを見ている。
 俺は「どうもありがとう」と手で送ってから進んだ。

「エントランスだ、敵がいるぞ。いいな?」

 自警団事務所に入口につくと、ツーショットが扉の横について手をかける。
 中から気配がする。「何かおかしい」「外の様子を」だとかいう声がした。

「向こうが立て直す前にいくよ。ゴー」

 ハヴォックの言葉に従って、ドアがすっ……と開け放たれる。
 薄暗い正面玄関に陣形を保ったまま入り込むと、様々な顔ぶれと鉢合わせる。

「……あ?」「……おいっ!」「敵ッ……!」「くそっ!」

 向けられた声も相応だ。ミリティアが、ライヒランド兵が、動き始めた。
 それより早く撃つ。簡素な照準の先で小銃を向けた傭兵の顔を抜く。
 ツーショットとコルダイトの同時射撃が得物を持ち上げる二人を無力化、逃げようとした奴の後ろ姿にハヴォックが撃ち込む。
 こっちにはっと気づいた玄関そばの兵士が断首処刑だ――くそっ、机の向こうにまだいる!

「――愚か者め、遅いぞ」

 そんな状況で大きく動いたのが吸血鬼だ。
 いきなり飛び出たと思えば、急にその体が黒い煙に変わってしまった。
 だけど一瞬だった。姿を消したと見せかけて、赤黒いドレス姿はいつの間に机の裏で構えていた兵士たちの間に現れ。

「……へ、あっ!?」
「なにっ……なんだこいつッ!?」

 いきなり目前に移動してきたそれに敵は狼狽えるが、ブレイムは腕を払う。
 すると宙に黒いもやのようなものが浮かび――そこから何かが出てきた。
 武器だ。槍と斧を混ぜたような大きな得物を取ると、ぶぉんっとそれを振り。

「ふぎょっっ」

 気を取られたライヒランドの兵士を斜めに切断してしまう。
 実に妙な声を残すそれに、仲間が「ひぃぇぇぇ」と奇声を上げて腰を抜かすも。

「くくく……♪ 今から貴様は我が眷属だ、我の下で働くことを特別に赦そう」

 その首を掴んだ。鋭い爪先をねじり込むように。
 勢いを付ければ串刺しにして殺せるんじゃないか、と思うほどに握りしめるが、その顔はどんどん青白くなって。

『……はい、主様』

 暗闇の中でも赤く光る瞳のまま、むくりと起きた。
 どう見ても普通じゃない。生気が失われて無機質な動きだ。

「……なあ、この新しいお友達はどうしたんだい、吸血鬼のお嬢ちゃん」

 ツーショットがとても気味悪がってるが、さっきまの敵は何もない表情のまま加わってきた。
 敵意すら感じられない。生ける屍だ。

「特別に雇ってやっただけだぞ? くくく……♪」

 言いたいことは分かった、眷属にするっていうのはこういうことか。

「別にいいけどさ、用が済んだらちゃんと片づけてね?」
「心配するな、日の光でチリになるぞ。さあゆこうか」
「お~、ゾンビみたいっす」
『うわぁ……』

 エントランスは制圧、次は廊下だ。
 支配された兵士と一緒にそろそろと進めば、非常灯のついた赤い通路が見える。
 いい加減異変に気付いてしまったんだろう、向こうから何名か走ってくるところだった。

「くそっ! 無線が使えないぞ!?」
「攻撃だ……! 全員急げ、侵入者がいるぞ!」

 慌ただしく混成部隊が走ってくるものの、ブレイムはそれに向けて。

「早速出番だぞ、我が眷属。止めてこい」

 軽く指を鳴らす。それをきっかけに兵士はおもむろに銃剣を抜いたようだ。

『分かりました、主様。使命を全うします』

 何も面白みのない淡々とした声で、駆け寄る敵に走っていく。
 敵からすればどう見えたんだろう。刃物を手に近づく仲間に思わず足を止め。

「おっ――おい! どうした!? 何があった!?」
「敵がきたのか!? 大丈夫か……ってどうした、なんでお前そんな」

 誰よりも一番に心配した同僚に切りかかった。
 首を一閃だ。ざっくり断たれて「おあ゛ぁぁ……!」と血で溺れた声で崩れる。
 そこに覆いかぶさってざくざく刃を立てる――あんまりな光景に敵は転び怯んだ。

「あっ、あ……あああああああぁぁッ!?」
「な、ど、どうしたんだよぉぉぉッ!? うわ、わ、ああああぁぁッ!?」

 正気を損なわれた集団に一斉に消音拳銃を向けた、ばつばつばつっ、と連続した銃声の後に全員静かになったらしい。
 通路の奥からも絞り殺された銃声が聞こえてくる。別動隊もいい具合に進んできたのか。

「ふん、もう終いか。ここの人間は大したことがないではないか」
「吸血鬼の姉ちゃんはもうちょっと人材を大切にするべきだなぁ」

 退職した眷属を雇い主が跨いでいき、コルダイトの軽口に俺たちも続いていく。
 次へ進んだ。建物から人の気配が薄くなったのをいいことに大胆に扉を開くと。

「ま――待てよオレクス! 仕方がなかったんだ! 生きるためだよ!」
「無実の市民に戦車砲をぶち込むのが仕方がないっていうのか?」
「命令されたんだ! 憂さ晴らしとかじゃないんだ! 頼む仲間だッッ」

 尻もちをついた自警団の男がずりずり壁に逃げていく姿に出迎えられる。
 まあ、消音された銃声の向かう先はそいつの脳天だったようだ。

「クソがぁッ! せっかくここまできたのに、死んでたまるかァッ!」

 別の自警団員も走って来た、短機関銃を捨ててこっちに全力疾走中だ。
 ところが、その何倍ものスピードで黒い影が追いつく。
 通路に風を吹かせながらも、するりとそいつの前にアレクが立ちふさがって。

「逃すかッ! 成敗ッ!」

 十五歳児のその言葉通り、胸に何かが突き立てられる。
 黒染めの刀身――小さな刀だ。心臓を突いて背中まで貫いたらしい。
 身体に近道ができてしまった男はがくがく震えながら死んだ、成敗された。

「アレクのやつ新しいおもちゃにすっかり夢中だな」
「しょうがないでしょ、まだ十五歳なんだし」
「わしらの作った武器をあんなに使ってくれてもう感無量じゃよ」

 後に続いてヒドラ&ラシェルやドワーフの爺さんたちもやってきた。
 向こうもだいぶ片づけて来たらしい。特にオレクスはスッキリしてる。

「よお自警団、同僚に仕返しは済んだかぁ?」
「次からスティング自警団は仕返しを必修科目にするべきだな」

 コルダイトが死体を漁りながらニヤニヤしたが、質問された本人は後腐れなさそうな様子だ。

「こっちは終わったよ。そっちの状態は?」
「こっちも片づけたぞ。あるのは死体だけだ」

 ハヴォックとオレクスの報告からしてよく殺せたらしいな。
 そうなるといよいよ本命、この先にある刑務所か。

「いいか、この先が刑務所だ。そこに武器やら保管してあるはずなんだが」

 頑丈そうなスライド式のドアにオレクスが近寄った。
 鍵はかかってない。ということは向こうに誰かがいるわけか。
 用心深いままウェルロッドを構えて先に行ってしまった、ハヴォックも。

「いい調子だぜ、このままお目当ての物資までまっしぐらだ」
「へっへっへ、どんなお宝があるんだろうな?」
「爆弾がいっぱいだといいんだがなぁ」

 ツーショットや物騒な放火魔と爆弾魔もぞろぞろ向かった、俺も続いた。
 中まで踏み込むと、そこは映画だとか海外ドラマで見た本物の刑務所だ。
 もしもここをオレンジ色のジャンプスーツを着た連中が歩いてたらまさにそれだ。
 床から壁までひどく殺風景で、窓もこれでもかと補強され、外からも内からも出入りできないような強固さだった。

「この先だ、行くぞ」

 オレクスが先導してそんな風景を進むが、すぐに目的のブツは見つかってしまった。
 行きついた先は開けた場所だった。
 椅子やテーブルがあって、ちょうどそこで食事をしたりするにはちょうど良いかもしれない。
 そんな場所に――どういうこった、大量の物資が積まれていた。

 木箱や頑丈なケースが幾段も重ねられ、缶詰やら野菜が雑に並び、持て余しているであろう武器弾薬が所狭しと空間を支配している。
 それが俺たちで持ち帰れそうな数ならいいが現実は違う、あんまりにも多すぎたのだ。

「……よいですか? このことは他言無用ですよ」

 そんな過剰なほどの物資の前で、白いレインコートみたいなのを着た男が何かをしていた。
 手には強い青の光を放つ謎の瓶を手に握り、

「ああ、もちろんさ。お互い幸せだな、良い取引ができたと思う」

 職務をあきらめたライヒランドの奴が山ほどのチップを手に頷いていた。
 何かしらの取引が行われてたのは確かだ。そしてそんなところに間の悪い遭遇を果たしてしまったわけで。

「……ん? あちらの方は――」

 白装束の奴に気づかれてしまう。
 最初は俺たちを仲間と思ってたかもしれないが、やがて違うと気づいてしまい。

「……てっ! 敵だッ! なんでこんな……ッ!」

 緑色姿がチップを落として拳銃を抜いた。
 白い男もあたふたしながらポケットから回転式の拳銃を取るが。

「なんだこやつら」

 ……吸血鬼が呆れて斧槍を取り出してぶん投げた。
 重々しい投擲武器は白い姿を横半分に断ち切り。

「お取込み中ごめんなさいっす、あひひひっ♡」

 すかさず踏み込んだロアベアが【ゲイルブレイド】を斬り放つ。
 首を落とされた兵士はチップの上に倒れ伏した、これで壊滅だ。

「……で、ここまで来たのはいいんだけどよ」

 念のため他に敵がいないか調べるものの、ヒドラが呆然としていた。
 こっちも同じ気分だ。そりゃそうだ、確かにこうしていただきに来たわけだが。

「……ちょっと多すぎないか?」
『……ちょっと、じゃないよね。すごい量だよ……』

 殺風景な広間を火薬庫に変えるぐらいの物資が山を作っているんだ。
 馬鹿か? ライヒランドの連中は馬鹿しかいないのか?
 俺から見たってわかるぐらいにありすぎるんだ。なんだこの量は。

「……おいおい、連中何考えてんだよ……まさかこんな場所に全部集めたってか……?」

 ツーショットの声は絶望的だった。
 つまりそれだけあるのだ。食料も、武器も、砲弾も、燃料も、すべてが。
 外のトラック二両じゃ絶対足りないだろう。倍あったとしてもまだまだ余るほどに過剰なのだ。

「どうすんだこれ……どうやって持ち帰るつもりだ……」

 流石に「どうすればいいんだろう」とみんなを見た。
 ロアベアが「エナジードリンクっす~♡」と紙箱を嬉しそうに掲げていた。

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