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G.U.E.S.T-Survival Simulator

勇気を出して戦えるわけがない

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「ひっ! ひぃぃぃぃぃっ! い、いやだ死にたくないィ!!」

 死体を乗り越えた矢先、そんな悲鳴が向こうから聞こえた。
 先行していた男がこっちを見て「しっ!」と沈黙を求めてきた。
 ああ、くそ、言われなくても黙ってやるさ。

(……おい、新兵。伏せてじっとしてろ)

 急に男がその場でうつ伏せになった――死体のすぐそばでだ。
 とはいえ銃は握ったままだし、目はしっかりと開けて向こう側を見ている。
 足元はひどい匂いのする血だまりができている。でも、我慢してべったりと伏せた。

「おいおいおいおい! 逃がさねぇぜお肉ちゃん! 神聖な儀式にはちゃんと参加してもらわねぇとなぁ!」

 そうしていると向こうから攻撃的な声が近づいてきた。

 最初に黒いジャンプスーツ姿の男が、続いて半裸で屈強な野郎どもが来た。
 逃げてるやつは俺と同じぐらいの年齢だろうか――どのみちひどい光景だ。

「おっ! 俺のことなんかほっといてくれ! 頼むよぉ!」
「知ったことか! おいおめーら! 早く捕まえろ!」
「ヒャッハー! 儀式の供物にしてやるぜぇ!」

 いかにも世紀末な感じのする連中がどんどん近づいてきた。
 そこに「ぱんっ」と乾いた破裂音が響く。

「――ぎゃっ!?」

 逃げていたやつがぐるりと転んだ。片足を手で押さえている。
 向こうで半裸の変態が古いライフルを構えていた、まさか

「い……あ……! た、助けて……!」
「はっはぁー! 見たかよ今の! 走ってるやつに直撃したぜ!」
「良く当てやがったなお前。さっさとハノートス様のとこに持ってくぞ」
「そういやシェルターの裏切り者どもはどうすんだ? あのまま仲間になんのかな?」
「なるわけねェだろ。利用した後は全員ぶっ殺して食うに決まってる」
「はっ……離せ……! こんなところで、しに……!」

 撃たれた男が倒れたまま、片足を引きずるようにこっちに来た。
 半裸男たちはその足を掴んで狩りの獲物を引きずっていく。

「た……すけて……くれ」

 なんてこった。そいつと目が合ってしまった。
 俺たちに絶望の顔を向けたまま、かわいそうな男は連れていかれる。

「……ふう。こっちには気づかなかったみたいだな、あのヤク中ども」

 目の前が静まり返ったのをみて、隣の男がやっと立った。
 もう大丈夫ってことらしい。
 だが後味は最悪だ、見殺しにしてしまったのだから。

「助けなくてよかったのか?」

 立ち上がってつい問いかけてしまった。
 いや、聞かずにいられなかった。
 なぜなら散弾銃ショットガンを持ってるからだ。
 あの時アイツらにぶっ放せば――少なくとも逃げる隙ぐらい生まれたかもしれない。

「おい、さっきの哀れな奴のことを言ってるのならこう答えさせてもらうぞ」

 しかしそんな浅はかな考えなんて全部お見通しと言いたいのか、

「仕方がなかった。俺とお前が生き残るためだ。いいな?」

 いま自分が唯一頼ることのできる男はそうあっさりと言い捨てた。
 それからあいつらがやってきた方向へと再び進み始めた。

「よし、俺たちはこれから運搬用エレベーターに向かう。ヒーローになろうなんて思うなよ? 生きてりゃ勝ち、死んだら負けの単純な話だ」

 ……そうだ、仕方がなかったんだ。

「……分かった」

 意識してゆっくりと息を吸って、そして吐いた。
 肩の力が程よく抜けて少し余裕が生じた、だが悪夢はまだ続いている。

「……今なら安全だ、行くぞ」

 そして男が静かに駆け出す。

 気づけばあたりには死体が数え切れないほど転がっていた。
 同じ格好の人たちが、廃材から生まれたような野蛮な奴らが、等しく死んでいる。

 なんとなくわかった。
 こいつらはここで戦って死んだのだと。

 鉄臭さと、それとはまた違う独特の酸っぱさ――火薬の香りというやつだろうか。
 足元には無念にも手放された武器が、空薬莢が、カーペットのように転がっている。

「新兵。さっきアイツらが言ってたことを覚えてるか?」

 と、目の前の男は振り向かないままこっちに尋ねてきた。

「さっき……っていうと?」

 そういわれても何のことやらさっぱりだ。

「アルテリー・クランのやつらが『裏切り者』っていってただろ? そいつを聞いてやっと分かったんだ。あいつらが外の世界からここに侵入できるわけない」

 全く分からない単語が次々に出てくる。

「単純な話だ。俺たちの中にあいつらに同調するやつが混じってたってことだよ。自分たちの命がかわいくてたまらない裏切り者どもがな」

 ……つまりどういうことだ。
 っていうかシェルターってなんだ?
 少なくとも俺に分かるのは人殺し集団に侵略されているってことぐらいだ。

 ここはまるでゲームの世界みたいだ……待てよ、ゲーム?

 そうだ、そうだった。
 確か……こうなる前にアイツからもらったゲームを起動してた気がする。

 アイツは世紀末モノだといってた。
 そう、ちょうどさっき「ヒャッハー」な連中がいたわけだ。
 そしてキャラ作成の際に俺はしっかりとあの説明文も読んでいた。
 『ハーバー・シェルターの擲弾兵グレネーダー』と。

「……まさか」

 いやな予感がした。
 目の前の男を追っていく途中で、壁にポスターが貼られていた。
 ジャンプスーツを着たおっさんが『アメリカ再建のため、君の力が必要だ!』と指をこちらに向けている。

「なあ、その……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ、手短に言ってくれ」
擲弾兵グレネーダーって知ってるか?」

 俺はあることを確認するために思い切って目の前の男に聞いてみた。
 相手はほんの少しだけ振り向いて。

「ああ、知ってるとも。かつては外でレイダーどもをぶっ殺しまくった精鋭部隊だったからな。だが今じゃお前みたいなひよっこばかりだ、くそったれ」
「お前? じゃあ……俺は擲弾兵なのか?」
「……何言ってるんだ。じゃあお前の身に着けてるその襟章はなんだ?」

 そこで言われてようやく気付いた。

「……え? 襟章?」

 ジャンプスーツの襟に言われた通りのものがついていた。
 少し立ち止まって確認してみると……そこにはちゃんと刺繍も施されていた。
 棒状の手榴弾にシャベルを重ねたようなものが、今の立場を物語っている。

 つまり俺は立派な擲弾兵ってわけか、んでここはあのゲームの世界ってことか。

 いやふざけんなゲームの世界だって?
 ゲームの世界に転移しちゃったとかいうやつなら分かるが、もしそうなら世紀末世界に来たことになるんだぞ。
 だいたい、なんでよりによってアイツがくれたゲームなんだ。 

「おい、お悩みのようだが今はそれどころじゃないぞ。集中しろ」

 もう残された手段はこの男についていくか、なんとか夢から目を覚ますかの二択だ。

「……了解」

 クソ、そういうことならいまは擲弾兵になってやる。

 しばらくして道の途中に大きな入口が見えてきた。だが扉は全開だ。
 その直前で目の前の男は「ちょっとそこで待て」と手を向けてきた。
 それから少しだけその中をちらっと覗き、

「ちっ……最悪だ。やつらとんでもないことしてやがる」

 他人の嘔吐物でも噛みつぶしたような最悪の表情を見せてくれた。

「どうしたんだ?」
「儀式だ、俺たちシェルター住人を使ってのな。何なら見てみろ」
「儀式って……何してるんだ?」

 興味がない……といってしまえば嘘になる。
 なので『食堂』と表記された場所をこっそりと覗いてみた。

 一度にたくさんの人間が食事できそうな広い部屋だ。
 テーブルはひっくり返されて、中央に「人間」が集められていた――死体も含めて。
 『レイダー』というべきやつらはそこで円を作って彼らを取り囲んでいる。 

『さあ、我が兄弟たちよ! 今宵こよいはこの哀れな子羊たちをいただきましょう!』

 そこで最初に目の当たりにしたのは小太りの汚らしい野郎だった。
 肌の露出が妙に多くて、なんというか女装したデブ、といった感じだ。
 遠くから分かるぐらい顔は脂ぎっていてハゲている。キモい。

『まっ待ってくれ! お前たちの望みはなんだ!? ここの物資か!? チップか!? いくらでもくれてやるから我々を見逃してくれ!』

 そこへ一人が立ち上がった。
 どんな人間かは分からないがここの偉い人なんだろうか?

『んー……望み?』
『そうだ! ここにある物資が欲しいんだろう!? 欲しければ持っていけ、その代わりこれ以上住人たちには手を出さないでくれ!』
『そうだねえ……ここは我らアルテリー・クランの新たな拠点にしたい。ここにある物資も欲しい。外との取引でたっぷり蓄えたチップもぜひとも欲しい。でもねえ……』

 そんな二人のやり取りの間に、ひどい猫背をした巨漢が無言で割り込んだ。
 むき出しの上半身にファッションだといわんばかりに手榴弾を山ほど括り付けている。
 少しきっかけがあれば爆発、炎上してしまいそうな見てくれだ。

『君は優秀なリーダーだ。だからその力をいただくとしようかなあ』
『力だって? おい、一体何を――』

 小太りの男がねちゃりと笑った。
 それとほぼ同じタイミングで猫背男が白髪の背後から近づいて、

『……ハンズリー。その男、最初に食べても良し』
『……すべての生きるものに感謝を!』

 その首にかぶりついた。

「いっ………! ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 男が狂ったように暴れ出すが、猫背のやつはお構いなしに押し倒す。
 それだけじゃない、周りにいる奴らも集って手足にかみつき始める。
 そしてかみしめた肉ごと顎を持ち上げて……。

「……く……くそっ! 新兵、こんなとこ早く逃げ」
「うっ……わっ……ひ、ひぃぃぃっ!?」

 最悪の場面が見える寸前、隣からの声で反射的に駆けだしてしまった。
 俺はなんて馬鹿なことをしてしまったんだ、気持ち悪い声を上げたせいで気づかれた。

『おーっと! そういえばさっきから覗き見してる悪い子がいたねえ。皆さん、追いかけなさい! 捕まえたものには5000チップを上げちゃうよ!』

 無様に逃げた、背後から無数の足音が迫ってくる。

「やめろ! 食うなっ! 離せ! 痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃ!」
「や、やだ……助けてェェェ!」
「はっ話が違うぞ!? お前らに手を貸せば何もしないって……!」

 背筋に助けを求める悲鳴が突き刺さる。
 これは最悪の、最低な悪夢だ。
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