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プロローグ:現代のはなし
world.addThing(you)
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それからしばらくして――少し気になって、振り向く。
結局あの贈り物はテーブルの上に置いてある。
その向こうで棚に設置された一つ目少女のフィギュアがこちらを凝視していた。
『……で、ノルテレイヤについて調べたわけだけどさぁ』
そこでヘッドセット越しの声がして、チャットにリンクが貼られた。
『ああ、どう考えてもこの会社だよな。っていうかこれしか出ないよな』
おれだって『ノルテレイヤってなんなんだ?』と調べはした。
でもこれしかヒットしない。つまりこの会社絡みなのは間違いないわけだが。
『ゲーム用AIの開発をしてる小さな会社らしいぜ。今どき珍しいホワイト気質、できて間もないけどいい感じに成長中、しかも地味に近所にある。以上説明終わり』
アイツの言うとおりにそれくらいの情報しか得られなかった。
とはいえ不審な点は見当たらず、むしろおれには十分ホワイト企業に見える。
……いや待て、よく見るとあった。
【女性型の人工知能とお話したりして学習させていくお仕事です。スキル、経験は一切不問とします。但し性別は男性、年齢は21歳、人種は日本人、髪色は地毛茶髪、目つきが鋭い方のみとさせていただきます】
採用情報のところにふざけた文章が堂々と掲載されていた。
こんなもん載せたやつの思考と心境が知りたい。
『この会社は求人と捜索願いの区別ができないのか?』
『うわーマジだ……しかもこれお前の外見と完全一致じゃん、奇跡かよ』
『ついでに毒親にひどいことされました、とか書いてたら完璧に俺だな』
確かにおれは二十一歳、れっきとした日本人だし、地毛で茶髪だ。
認めたくないけど目つきもアレだ。
でもそれさえ満たしてりゃいいよっていう職場ってどうなんだろうか。
仕事内容もイメージしづらいし、給料悪くないし週休二日だし……。
『……受けてみるか』
いろいろ考えた結果おれは開き直ってやってみることにした。
休みは撤回する、もう少しだけ頑張ってみよう。
『え、本気で言ってる? 俺焦るなって言ったよね???』
『どうせダメだったら蹴られるだけだ、さくっと書いてくる』
そんなわけで本当にさくっと書いて送信した。
この手のことも何度も繰り返しまくったせいですっかり慣れてしまった。
『なあ、何焦ってるか知らんけど無理すんなよマジで。だいたい昔と違って――』
また一仕事終えてタブを閉じると嫌な声が聞こえてきた。
タカアキのやつは「しまった」とでも思ったんだろう、すぐに黙り込んだ。
『……そうだったな。昔とは違ったな』
おかげで嫌な思い出がよみがえる。
今は少なくともベルトで叩かれたり深夜まで罵倒されることはないのだ。
だいたいの話、おれがこんなに苦労しているのもあのクソ親どもが――
『ま、あんまり自分を追い込むなよ? そんながんばる君にいいものをあげよう』
いやなものがこみ上げてきたが、悪だくみのこもった声が挟まってきた。
『……おい、前にサプライズとかいいながらみんなで祝ってくれた時はうれしかったけど、そのあと出した一つ目美少女バニーのエロフィギュアの件は二度と忘れないからな』
おかげで戻ってこれた。自己嫌悪いっぱいのため息を吐いた。
タカアキは「いいものをあげよう」といって妙なものを良く押し付けてくる。
そう、例えば棚の上でおれをじっと見ているバニー姿の単眼少女のように。
彼女は去年の春ごろからずっと、こだわり抜いた造形の太ももをちらつかせている。
『でも飾ってんだろ律儀に』
『ああ、あの日からずっと視線を感じる。熱いやつだ』
『俺の大好きなもちもち単眼美少女アイボルちゃんバニー衣装モードから? 魂でも入ったのか? よおし、次はろりぷに単眼少女アイズちゃん裸ニー……』
『オーケー、もうこの話はやめよう』
需要について考えさせられるフィギュアから視線をそらした。
画面に『アンドロイドの実用化』だの『ゲーム運営に人工知能を使うべき理由』だのニュースが回収されていた。
正式サービス開始時間はまだずっと先だ。
『ほおれ、お兄さんからプレゼントだぁ』
そこに人生の不安をぶち抜くような声が聞こえてきた。
【STEEL】というゲーム配信プラットフォームが『ギフトを受け取りました!』と通知。
『っておい! いきなりゲーム送り付けてくるなよ!?』
『今夜はフルスロットルだぜ! DLCもつけちゃうぞ!』
……どうやらアイツがまた購入したゲームを送り付けてきたらしい。
ぴこんぴこんと次々と通知が重なっていく。これがギフトテロである。
【タカテュ・アイメンマハ様からのギフトが届いています!】
そして送られてきたのは……G.U.E.S.Tという名前の洋ゲーだ。
『なんかお前って世紀末が似合うと思うからゲームを楽しんでね!』とある。
どさくさに紛れて『ヤンデレ一つ目少女と共依存生活♥(R18版)』とかいう修羅味を感じるヤバそうなのも送られてきた。
『G.U.E.S.T……サバイバルシミュレーター?』
『世紀末モノだよ。最終戦争後の世界で生き延びるゲームで自由度が高すぎてやりこみ要素も多すぎて人生泥棒っていわれてる。さあやりたまえ』
『どうしてお前はいつもやりごたえのあるゲームばっか送ってくるんだ?』
『さっき見たらセールやってて全DLC込みで半額だったからつい……』
とはいえちゃっかりダウンロード、DLC込みで200GBほどあったけどインストール込みで二十秒以内でケリがついた。
さあこれでいつでも遊べるわけだけど。
『インストール終わったし……ちょっとやってみるか』
どうせだしゲームをウィンドウモードで起動してみた。
よくわからないロゴムービーが流れたのでスキップ、メインメニューに到着。
メニューの背後で映像が流れだす。
茶色く、不毛な荒野のど真ん中に炎と煙が立ち上がっていた。
煙をたどると砲塔を吹き飛ばされた戦車らしきものがこんがり焼かれてる。
そして豪快な鉄の焚火の近くに誰かがいた。
ぼろぼろの銃を手に、壊されたものをむなしく眺めているだけだ。
その背中と共に『NEWGAME』の選択肢が浮かび上がって……。
『あ、DLCはCATALYSTってやつからやるといいよ。簡単だしなんと俺が出演してる』
……今なんていったコイツ。
『出演? どういうこった』
『ふっ……前にゲーム開発に出資しまくってたから特別に声優として出演させてもらったんだ。タカテュって名前でレイダーを惨殺する東洋人の殺人鬼だ!』
『……マジでなにやってんだお前』
あいつがゲームにも出てくるって悪夢かなんかか。
というかこれ絶対、自分が出てくるからって送り付けてきたやつだ。
『まあ分かった。そいつに会ったら跡形もなく吹っ飛ばしていいんだな?』
『やめろォ! その世界の俺、DLCクリア後も連れまわせる強い仲間なんだぞ! ただし一つ目の敵とエンカウントするたびに勃起するとか叫ぶ』
『いや仲間にしたくねーよそんな危ないの』
『ちゃんと仲間にしろよ! 面白いキャラだから! 海外でも大人気なんだぜ』
残念ながら面白いやつはこいつ一人で間に合ってる。
まあそれはさておきキャラメイク画面に進んだ。
最初にキャラの見た目を決めるようだ――面倒だからデフォルトのまま次へ。
次に名前を決めるらしいけどやっぱりめんどいので名前を『112』にした。
『なーなー、まさかキャラ名……また112にしてない?』
『ちっ、バレたか』
『あのさあ……ふつう自分の部屋の番号をキャラ名にしちゃう? ロボットじゃないんだからちゃんとした名前にしろよ、シューヤとかさあ』
『それおれのリアルネームだろ。名前ぐらいなんだっていいじゃんゲームだし』
『MGOでかわいい子たちから数字で呼ばれるんだぞ? 囚人かなんかかよ』
『別にいいだろ、この部屋の番号が気に入ってるんだ』
次に初期ステータスを選択する画面が出てきた。
筋力、耐久力、感覚、技量、知力、幸運。計六つだ。
それに対して振り分け可能なポイントが30点。自由に振れってことらしい。
1つのステに振り込める最大値は10か。でも今回はお試しだし。
【筋力6 耐久力4 感覚7 技量6 知力5 幸運2】
こんなもんでいいだろう。運などいらぬ、力で切り開け。
ステータス配分が終わると、次は役割とスキルの設定だ。
兵士、斥候、擲弾兵、医師、料理人、スカベンジャー、商人、科学者、運転手、殺人鬼といろいろな役割があるみたいだ。
いわゆる職業的なものか。
【ハーバー・シェルターの擲弾兵といえばかつてレイダーたちを恐怖に叩き込む精鋭のことでしたが、とても残念なことにベテランは次々死んでしまったので今やその名前ぐらいにしか価値がありません。投擲、重火器にスキルボーナスが入ります】
擲弾兵を選んだらものすごく切ない説明文が出てきた。
ほかの役割も【兵士ですが現場じゃクソも役に立たないでしょう】とか【シェルターの物資を横流ししている商人です】とか辛辣だ。
オーケー。擲弾兵、きみに決めた。理由は不遇っぽいから。
次はスキルを見た。
小火器、重火器、弓、近接、投擲、罠、隠密、電子技術、生存術、応急処置、料理、製作、運転、機械工作……全部で14個か。
それぞれの値は「□」のアイコンで表示されていて、特定の行動で経験値が溜まりこれが満たされるとSLEVが1つ上がるらしい。
最大で10SLEVまで上げられ、先ほど選んだ職業通りに投擲と重火器が1SLEVになってる。
『……んー? なんかもうサービス開始してないかこれ?』
スタートを押そうとした矢先、ヘッドセットから疑問形の声が流れてきた。
んなアホな、スタートはもうちょっと先だったはずだぞ。
『えっもう!? 早くないか!?』
『公式見たらちょっと早いけど開始しますって思いっきり書いてたぜ』
マジかよ……まだ開始まで三十分ぐらいあるんだぞ?
哀れな擲弾兵くんもろともG.U.E.S.Tを最小化、MGOのランチャーを起動。
ロゴが流れて、ムービーも流れ始めて、スキップするとログイン画面が表示。
自分のIDとパスワードを入れてみると……本当につながった。
『マジでやってるな……』
『わーお……めっちゃログインしてるそうだけど快適だぜ。さすが最新ゲーム』
『よし、今からキャラ作る。キャラ名はいつも通りだ』
『おうよ。んじゃ……あっちの世界で会おう、シューヤ』
『ああ、あっちの世界でな。タカアキ』
よーし、かわいいヒロインがおれたちを待っているぞ。
まずはキャラクリエイトに移動していつもの名前にして――あれ?
……キャラクター名の項目に名前入力できないんだが。
『って名前入力できないんですけどォォォォォォ!』
ほらアイツもそういってるしやっぱり間違いない。
やべえ、このゲーム速攻で転びやがった。
『なあ、人工知能がテストしてくれたんじゃなかったのか?』
『笑うわこんなん。サービス開始から伝説作っちゃったなぁ……』
いろいろ試したけど無反応、BGMも鳴らずアイツのあくびだけが聞こえる。
そしてこっちにも眠気がやってきたのか、つられてあくびが出た。
あれだけ意気込んでたのにとんだ肩透かしを食らったせいだろうか。
『……なんかすげぇ眠くなってきた。ちょっと仮眠するわ、おやすも』
アイツの声も相当眠そうだ。
『おれもなんか眠い。しかたない、今日はあきらめるか……おやすも』
こっちもしだいにまぶたすら開かなくなってきた。
ベッドに移動するのがだるいぐらいだ。頭が、全身が、眠い。
頭が重くなって机に突っ伏してしまった――いいや、このまま寝落ちしよう。
【次はあなたの番です。回収完了。オブジェクト生成開始。始めましょエラー不正な】
どこからか機械的な声が聞こえてきた。うるせえ、黙って寝かせてくれよ。
◇
結局あの贈り物はテーブルの上に置いてある。
その向こうで棚に設置された一つ目少女のフィギュアがこちらを凝視していた。
『……で、ノルテレイヤについて調べたわけだけどさぁ』
そこでヘッドセット越しの声がして、チャットにリンクが貼られた。
『ああ、どう考えてもこの会社だよな。っていうかこれしか出ないよな』
おれだって『ノルテレイヤってなんなんだ?』と調べはした。
でもこれしかヒットしない。つまりこの会社絡みなのは間違いないわけだが。
『ゲーム用AIの開発をしてる小さな会社らしいぜ。今どき珍しいホワイト気質、できて間もないけどいい感じに成長中、しかも地味に近所にある。以上説明終わり』
アイツの言うとおりにそれくらいの情報しか得られなかった。
とはいえ不審な点は見当たらず、むしろおれには十分ホワイト企業に見える。
……いや待て、よく見るとあった。
【女性型の人工知能とお話したりして学習させていくお仕事です。スキル、経験は一切不問とします。但し性別は男性、年齢は21歳、人種は日本人、髪色は地毛茶髪、目つきが鋭い方のみとさせていただきます】
採用情報のところにふざけた文章が堂々と掲載されていた。
こんなもん載せたやつの思考と心境が知りたい。
『この会社は求人と捜索願いの区別ができないのか?』
『うわーマジだ……しかもこれお前の外見と完全一致じゃん、奇跡かよ』
『ついでに毒親にひどいことされました、とか書いてたら完璧に俺だな』
確かにおれは二十一歳、れっきとした日本人だし、地毛で茶髪だ。
認めたくないけど目つきもアレだ。
でもそれさえ満たしてりゃいいよっていう職場ってどうなんだろうか。
仕事内容もイメージしづらいし、給料悪くないし週休二日だし……。
『……受けてみるか』
いろいろ考えた結果おれは開き直ってやってみることにした。
休みは撤回する、もう少しだけ頑張ってみよう。
『え、本気で言ってる? 俺焦るなって言ったよね???』
『どうせダメだったら蹴られるだけだ、さくっと書いてくる』
そんなわけで本当にさくっと書いて送信した。
この手のことも何度も繰り返しまくったせいですっかり慣れてしまった。
『なあ、何焦ってるか知らんけど無理すんなよマジで。だいたい昔と違って――』
また一仕事終えてタブを閉じると嫌な声が聞こえてきた。
タカアキのやつは「しまった」とでも思ったんだろう、すぐに黙り込んだ。
『……そうだったな。昔とは違ったな』
おかげで嫌な思い出がよみがえる。
今は少なくともベルトで叩かれたり深夜まで罵倒されることはないのだ。
だいたいの話、おれがこんなに苦労しているのもあのクソ親どもが――
『ま、あんまり自分を追い込むなよ? そんながんばる君にいいものをあげよう』
いやなものがこみ上げてきたが、悪だくみのこもった声が挟まってきた。
『……おい、前にサプライズとかいいながらみんなで祝ってくれた時はうれしかったけど、そのあと出した一つ目美少女バニーのエロフィギュアの件は二度と忘れないからな』
おかげで戻ってこれた。自己嫌悪いっぱいのため息を吐いた。
タカアキは「いいものをあげよう」といって妙なものを良く押し付けてくる。
そう、例えば棚の上でおれをじっと見ているバニー姿の単眼少女のように。
彼女は去年の春ごろからずっと、こだわり抜いた造形の太ももをちらつかせている。
『でも飾ってんだろ律儀に』
『ああ、あの日からずっと視線を感じる。熱いやつだ』
『俺の大好きなもちもち単眼美少女アイボルちゃんバニー衣装モードから? 魂でも入ったのか? よおし、次はろりぷに単眼少女アイズちゃん裸ニー……』
『オーケー、もうこの話はやめよう』
需要について考えさせられるフィギュアから視線をそらした。
画面に『アンドロイドの実用化』だの『ゲーム運営に人工知能を使うべき理由』だのニュースが回収されていた。
正式サービス開始時間はまだずっと先だ。
『ほおれ、お兄さんからプレゼントだぁ』
そこに人生の不安をぶち抜くような声が聞こえてきた。
【STEEL】というゲーム配信プラットフォームが『ギフトを受け取りました!』と通知。
『っておい! いきなりゲーム送り付けてくるなよ!?』
『今夜はフルスロットルだぜ! DLCもつけちゃうぞ!』
……どうやらアイツがまた購入したゲームを送り付けてきたらしい。
ぴこんぴこんと次々と通知が重なっていく。これがギフトテロである。
【タカテュ・アイメンマハ様からのギフトが届いています!】
そして送られてきたのは……G.U.E.S.Tという名前の洋ゲーだ。
『なんかお前って世紀末が似合うと思うからゲームを楽しんでね!』とある。
どさくさに紛れて『ヤンデレ一つ目少女と共依存生活♥(R18版)』とかいう修羅味を感じるヤバそうなのも送られてきた。
『G.U.E.S.T……サバイバルシミュレーター?』
『世紀末モノだよ。最終戦争後の世界で生き延びるゲームで自由度が高すぎてやりこみ要素も多すぎて人生泥棒っていわれてる。さあやりたまえ』
『どうしてお前はいつもやりごたえのあるゲームばっか送ってくるんだ?』
『さっき見たらセールやってて全DLC込みで半額だったからつい……』
とはいえちゃっかりダウンロード、DLC込みで200GBほどあったけどインストール込みで二十秒以内でケリがついた。
さあこれでいつでも遊べるわけだけど。
『インストール終わったし……ちょっとやってみるか』
どうせだしゲームをウィンドウモードで起動してみた。
よくわからないロゴムービーが流れたのでスキップ、メインメニューに到着。
メニューの背後で映像が流れだす。
茶色く、不毛な荒野のど真ん中に炎と煙が立ち上がっていた。
煙をたどると砲塔を吹き飛ばされた戦車らしきものがこんがり焼かれてる。
そして豪快な鉄の焚火の近くに誰かがいた。
ぼろぼろの銃を手に、壊されたものをむなしく眺めているだけだ。
その背中と共に『NEWGAME』の選択肢が浮かび上がって……。
『あ、DLCはCATALYSTってやつからやるといいよ。簡単だしなんと俺が出演してる』
……今なんていったコイツ。
『出演? どういうこった』
『ふっ……前にゲーム開発に出資しまくってたから特別に声優として出演させてもらったんだ。タカテュって名前でレイダーを惨殺する東洋人の殺人鬼だ!』
『……マジでなにやってんだお前』
あいつがゲームにも出てくるって悪夢かなんかか。
というかこれ絶対、自分が出てくるからって送り付けてきたやつだ。
『まあ分かった。そいつに会ったら跡形もなく吹っ飛ばしていいんだな?』
『やめろォ! その世界の俺、DLCクリア後も連れまわせる強い仲間なんだぞ! ただし一つ目の敵とエンカウントするたびに勃起するとか叫ぶ』
『いや仲間にしたくねーよそんな危ないの』
『ちゃんと仲間にしろよ! 面白いキャラだから! 海外でも大人気なんだぜ』
残念ながら面白いやつはこいつ一人で間に合ってる。
まあそれはさておきキャラメイク画面に進んだ。
最初にキャラの見た目を決めるようだ――面倒だからデフォルトのまま次へ。
次に名前を決めるらしいけどやっぱりめんどいので名前を『112』にした。
『なーなー、まさかキャラ名……また112にしてない?』
『ちっ、バレたか』
『あのさあ……ふつう自分の部屋の番号をキャラ名にしちゃう? ロボットじゃないんだからちゃんとした名前にしろよ、シューヤとかさあ』
『それおれのリアルネームだろ。名前ぐらいなんだっていいじゃんゲームだし』
『MGOでかわいい子たちから数字で呼ばれるんだぞ? 囚人かなんかかよ』
『別にいいだろ、この部屋の番号が気に入ってるんだ』
次に初期ステータスを選択する画面が出てきた。
筋力、耐久力、感覚、技量、知力、幸運。計六つだ。
それに対して振り分け可能なポイントが30点。自由に振れってことらしい。
1つのステに振り込める最大値は10か。でも今回はお試しだし。
【筋力6 耐久力4 感覚7 技量6 知力5 幸運2】
こんなもんでいいだろう。運などいらぬ、力で切り開け。
ステータス配分が終わると、次は役割とスキルの設定だ。
兵士、斥候、擲弾兵、医師、料理人、スカベンジャー、商人、科学者、運転手、殺人鬼といろいろな役割があるみたいだ。
いわゆる職業的なものか。
【ハーバー・シェルターの擲弾兵といえばかつてレイダーたちを恐怖に叩き込む精鋭のことでしたが、とても残念なことにベテランは次々死んでしまったので今やその名前ぐらいにしか価値がありません。投擲、重火器にスキルボーナスが入ります】
擲弾兵を選んだらものすごく切ない説明文が出てきた。
ほかの役割も【兵士ですが現場じゃクソも役に立たないでしょう】とか【シェルターの物資を横流ししている商人です】とか辛辣だ。
オーケー。擲弾兵、きみに決めた。理由は不遇っぽいから。
次はスキルを見た。
小火器、重火器、弓、近接、投擲、罠、隠密、電子技術、生存術、応急処置、料理、製作、運転、機械工作……全部で14個か。
それぞれの値は「□」のアイコンで表示されていて、特定の行動で経験値が溜まりこれが満たされるとSLEVが1つ上がるらしい。
最大で10SLEVまで上げられ、先ほど選んだ職業通りに投擲と重火器が1SLEVになってる。
『……んー? なんかもうサービス開始してないかこれ?』
スタートを押そうとした矢先、ヘッドセットから疑問形の声が流れてきた。
んなアホな、スタートはもうちょっと先だったはずだぞ。
『えっもう!? 早くないか!?』
『公式見たらちょっと早いけど開始しますって思いっきり書いてたぜ』
マジかよ……まだ開始まで三十分ぐらいあるんだぞ?
哀れな擲弾兵くんもろともG.U.E.S.Tを最小化、MGOのランチャーを起動。
ロゴが流れて、ムービーも流れ始めて、スキップするとログイン画面が表示。
自分のIDとパスワードを入れてみると……本当につながった。
『マジでやってるな……』
『わーお……めっちゃログインしてるそうだけど快適だぜ。さすが最新ゲーム』
『よし、今からキャラ作る。キャラ名はいつも通りだ』
『おうよ。んじゃ……あっちの世界で会おう、シューヤ』
『ああ、あっちの世界でな。タカアキ』
よーし、かわいいヒロインがおれたちを待っているぞ。
まずはキャラクリエイトに移動していつもの名前にして――あれ?
……キャラクター名の項目に名前入力できないんだが。
『って名前入力できないんですけどォォォォォォ!』
ほらアイツもそういってるしやっぱり間違いない。
やべえ、このゲーム速攻で転びやがった。
『なあ、人工知能がテストしてくれたんじゃなかったのか?』
『笑うわこんなん。サービス開始から伝説作っちゃったなぁ……』
いろいろ試したけど無反応、BGMも鳴らずアイツのあくびだけが聞こえる。
そしてこっちにも眠気がやってきたのか、つられてあくびが出た。
あれだけ意気込んでたのにとんだ肩透かしを食らったせいだろうか。
『……なんかすげぇ眠くなってきた。ちょっと仮眠するわ、おやすも』
アイツの声も相当眠そうだ。
『おれもなんか眠い。しかたない、今日はあきらめるか……おやすも』
こっちもしだいにまぶたすら開かなくなってきた。
ベッドに移動するのがだるいぐらいだ。頭が、全身が、眠い。
頭が重くなって机に突っ伏してしまった――いいや、このまま寝落ちしよう。
【次はあなたの番です。回収完了。オブジェクト生成開始。始めましょエラー不正な】
どこからか機械的な声が聞こえてきた。うるせえ、黙って寝かせてくれよ。
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