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本編
時の精霊の空間④*ミシュリーside*
しおりを挟む時の精霊の眷属である、私が作った空間の中で、私はアリスとマックスと戦っていた。
勿論、勝算はあった。もともと勝てない戦はしない主義だし、脳筋のマックスでは大した攻撃なんて出来ないと思ってた。
なのに―――
どうして私の結界が溶けているの?
【地獄の業火】なんて高位魔法を、まだ入学して1年目のマックスが使える筈ないのに。乙女ゲームの中では、1年生の時のマックスはほとんど戦闘では役に立たず、2年生後半で魔法剣を習得し、やっと使えるようになる筈なのに……!!
しかもファイスですって?
ファイスはフィーの契約精霊なのに、どうしてマックスに力を貸しているの?こんなの、想定外過ぎる。
「ファイス!!どうして声だけ……?それに、魔力が足りないって、どういう事?」
『ニールから頼まれたのだ。アリスに力を貸してやって欲しいと。だが、アリスは火属性を持っていないだろう?だから、手っ取り早くマクシミリアンの方に加勢しようと思ってな。……足りない魔力は俺が補ってやろう。存分に炎の剣を振るうがいい』
ファイスの念話が聞こえてくる。
私はマックスの炎の魔法剣を押し返そうと、光属性魔法を唱え、【光の剣】を出現させる。けれど…………
―――パキィン……!
「?!」
【光の剣】が、パキンと音を立てて割れてしまった。確かに火属性相手に光属性で対抗したのでは、効果が弱くあまり良い手とは言えない。それでも、まだ1年のマックス相手なら簡単に勝てると思った。現に一度は拘束出来たのだから。
しかし、マックスの【地獄の業火】を宿した魔法剣は、私の結界を溶かしながら確実に前へと進んでくる。こんな筈じゃなかったのに。耳障りなファイスの声が、空間中に響いている気がした。
『時の精霊の眷属よ、もう終わりにしよう。元々お前に攻撃系の魔法なんて無いだろう?その身体に元からあった光属性だけでは、今のマクシミリアンには太刀打ち出来まい』
「馬鹿にしないで!!ニール先生やクロとだって、私は渡り合えたんだから!!」
『弱った獣の攻撃なら、お前の結界で防げただろう。魔法攻撃も、【時間逆行】があれば食らう事はない。だが……』
「行くぞ!!ミシュリー嬢!!」
マックスの魔法剣が残っていた私の結界を全て溶かし、その鋭い切っ先を私の首筋へと突きつける。チリチリとした熱で、人間の身体に僅かな傷がついていく。このままザクッと斬るのかと思ったのに、マックスはそれ以上剣先を進めてこない。私は思わず笑ってしまった。
「あははははっ!!アリスは殺る気満々なのに、マックスは違うんだね?脳筋のくせに、騎士道ばっかり重んじて馬鹿みたい!!早く殺せばいいのに!!」
「なっ?!……貴様っ!!」
「待って、マックス!!」
「?!」
「アリス」
アリスがゆっくりと、結界を張ったまま私に近付いてきた。
真剣な恐い顔をしてる。どうしてそんな恐い顔をしているの?ゲームなんだから、グサッとやっちゃいなよ。
「私が、引導を渡す。……でもその前に、クロにかけている呪いを解いて」
「ああ、あの呪い?」
「そうよ!早く―――」
「……もうとっくに解けてるよ」
「え?」
そうして、アリスが目を見開いた瞬間。私はマックスの魔法剣を素手で掴み、そのまま私の胸に引き寄せて自らズブリと刺した。
アリスとマックスが、馬鹿みたいに驚いているのが可笑しくて、やっぱり私は声を上げて笑った。
だって、アリスは私に引導を渡すつもりだったんでしょ?だけど、アリスの手は私を助けてくれた綺麗な手だから、例えゲームであっても、汚すのは嫌なんだよね。
「……デラクール伯爵令嬢?……貴女、どうして……」
「ふふ。簡単な話だよ。今回は私の……負けってこと」
空間の維持に、防御結界と、【時間逆行】の使いすぎで魔力が足りなくなってきたところに、想定外の魔法剣。マックスもアリスも、乙女ゲームの中の1年目とは強さが全然違った。フィーのルート以外でファイスがヒロインに加勢した事も、全部全部。
アリスが、膝から崩折れる私を見て、何故だか泣きそうな顔をしている。
「……貴女は、『誰』なの?」
***
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