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本編

人ではないもの②*ニールside*

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……夜は少し肌寒いですね。
そろそろ夏も終わりでしょうか。

頬を撫でる冷たい風に、私はそんな事をぼんやりと考えていた。こんな時だというのに。
今まで私は魔物ばかり退治してきた。小物からバジリスクやドラゴンまで、時には人間だって退治してきましたが…………

この生き物は何ですか?

私の目の前に居る、どう見ても普通の華奢な少女。少女の名は、ミシュリー・デラクール。デラクール伯爵家の娘で、特に目立ったところもない、普通の令嬢だ。少し前まで、私はそう思っていた。

しかし、この令嬢は普通じゃなかった。
あの日。アリスお嬢様が奇跡の雫ホーリーライトニングティアーズを唱えた、学園祭の日。
私は気付いた。この令嬢が、普通の人間とは違う何かを持っていた事に。

それはキラキラとした粒子を纏っていて、何かを捕らえようと蠢いていた。……マリアーノ嬢から弾き出された『何か』を、捕まえようとしていたのだ。その瞬間に分かった。この令嬢は人間ではない。
私の予想が正しければ―――


「時の精霊の眷属、運命を狂わせる者クレイジーギア


その声が聞こえた瞬間。私とデラクール伯爵令嬢の周囲に、暗闇が広がった。月も星も見えなくなった、真っ暗な闇の中。私の前に、黒髪黒目の少年が現れる。

この少年は……
アリスお嬢様と契約している、闇の精霊のクロか?

何故少年の姿なのか分からないが、どうやらクロの目的もこの伯爵令嬢らしい。


「クロ。貴方が今口にした、クレイジーギアとは何ですか?」


私の質問に、クロは振り返りもせず、デラクール伯爵令嬢を睨み付けながら答えた。


「運命を悪戯に狂わせる者の事だよ。時の精霊は世界の時間を守り続けるのが役目だけど、時々いるんだ。役目を放棄した、はみだし者が」

「はみだし者とは失礼ですね。というか、ニール先生と二人きりの時間の邪魔をしないでくれます?それに、クロはシナリオ通りにアリスをモテモテにしてきてよ!なんで魅了の魔法を使わないの?!」

「何……?」

「デラクール伯爵令嬢、それは一体どういう意味ですか?」

「せっかくこの世界の情報をあっちの世界に流して乙女ゲームを作らせたのに、ヒロインの設定が馬鹿みたいに最低だったんだもの。魅了の魔法でも使わせなくちゃ、シナリオ通りにはいかないでしょう?」


乙女ゲーム?
シナリオ?
デラクール伯爵令嬢は一体何を言っているんでしょうか?
しかし、クロは今の話を聞いて、驚いたように目を見開いた。そして、信じられないといった表情で、また私の知らない名を口にした。


「みーこ……?」


* * *

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